関東のファミリー釣り場に出没する“得体のしれない巨大魚”…3年かけて釣り上げた“100cm超え魚種”狙いの「リアル・海のぬし釣り」を徹底レポート!
文春オンライン / 2024年8月23日 17時10分
うみかぜ公園に隣接する岸壁から釣りができる
神奈川県横須賀市に位置するうみかぜ公園(横岸壁)は関東でも人気を誇るファミリー向けの釣り場で、一年を通してサビキや投げ、回遊魚狙いのルアー釣り客で賑わいを見せる。
そんな釣り初心者の方でも安心して楽しめる釣り場で、数年前に近隣釣具店から驚愕の釣果写真が公開された。その写真は人の背丈の半分はあろう巨大な魚で、顔は厳つく頭は大きなコブが張り出したまさにモンスターと言える形相。異色な魚の正体はコブダイだ。
関西や九州地方では、堤防や釣り公園からシンプルな仕掛けでビッグファイトが楽しめる「タンコブゲーム」としてコブダイ釣りが人気を博していたが、関東ではコブダイ自体の生息数が比較的少ない。だからこそ、平穏な釣り場に突如現れたモンスターの釣果写真に度肝を抜かれた。しかも釣れたのはなんと足元から……。海は底知れぬロマンに満ち溢れている。
その日から「関東の釣り公園でコブダイを釣り上げたい」という目標を掲げ、釣り場に通い続けた。しかし待ち受けていたのは苦難の連続であった……。ここからは数年にわたって、関東のファミリー向け釣り場に実在する巨大魚を追い求めたもようをレポートする。
地獄の始まり
初めての挑戦は、遡ること3年。2021年2月のことだった。
釣り場へ向かう前に、まずはコブダイを狙うための“釣り方”と“釣れる時期”をリサーチする。
歴史ある関西のタンコブゲームは、大物にも対応したショアジギングタックルを用い、仕掛けはオモリとハリ。そこへスーパーで売っているバナメイエビをエサにしたブッコミスタイルで狙うのがスタンダードとのことだった。
釣り方自体はシンプルそのものだ。まずはこの方法を採用しよう。時期については、コブダイが別名カンダイ(寒鯛)と呼ばれている=冬に釣れる魚だろうと考えたこと、さらに釣果情報が上がっていたのが3月だったことから、ひとまず2月に初めての釣行へ向かった。
現場に到着すると寒風吹きすさぶ極寒。バナメイエビを投入するも魚からの反応は皆無だ。それもそのはず、海水温は全国的に2~3月が最も低く、近隣の釣り場である海辺釣り公園で観測された水温は11℃。アジ、サバ、カワハギなどの大衆魚にとっても活動限界水温で、食い意地の張るフグですらエサを食べる元気がないような環境である。コブダイ自体は、それくらいの水温でも活動はできるそうだが、釣り人の精神をも蝕む寒さに耐えきれず、撤退を余儀なくされた。これは明らかにリサーチ不足がもたらした圧倒的敗北である。
コブダイの適水温と釣り方は…?
2023年4月。寒さも和らぎ、春の陽気が感じられる季節に、今年こそはとリベンジへやってきた。4月になると厳寒期に吹きすさんだ北西風から一変、南風が東京湾の水温を上昇させる。海水温は14~5℃まで回復し、少しずつ生物の活性も上がる。釣りシーズンの到来だ。
今回はファミリー釣り場のモンスターと対峙するにあたって、前年にコブダイ釣りを予習実践しておいた( 糸と針だけ!「かぶせ釣り」で50cmオーバーの“磯の王者”イシダイに挑んだ )。かぶせ釣りという釣法を地元の岡山で試し、70cmを越えるコブダイを釣り上げることに成功していたのだ。
経験不足で関東での千載一遇のチャンスを逃したくない。そんな思いで、アタリ方ややり取りの感覚を掴む訓練をしておいたのだ。そして、迎えたうみかぜ公園での実践。早速、広島から取り寄せた牡蠣をエサに釣りをスタートさせる。
竿をぶち曲げる得体のしれない巨大魚…!
仕掛けを準備している間、足元に殻ごと砕いた牡蠣を撒き、少しでもコブダイが寄ってくるよう場をつくる。牡蠣の匂いでコブダイの食欲を誘発させると同時に、上からエサが落ちてくる視覚効果で集魚を狙う。
2023年コブダイチャレンジの開幕……。すると、まさかの一投目で腕まで衝撃が伝わる大きなアタリがでた。
ドス! っとした感覚のあと、竿先が重たいものに引っ張られる。これはコブダイがエサを喰ったのだと確信した。すぐさまアワセを入れ、臨戦態勢をとる。しかし、魚は全く浮いてこない。さらに、道糸の角度が足元の岸壁内部に潜り込むという異変も発生していた。
そこで初めて岸壁の内側が空洞(消波構造)になっていることに気が付いた。しかし、抵抗する間もなくラインは切られてしまった…。撮影していた映像を見直してみると、アタリが出てからバラしてしまうまではわずか8秒間のできごとだった。体感ではもっと長く感じたが、まさに秒でやられてしまっていたのだ。
一投目でアタリがでたので、当日はまだチャンスがあるかと諦めず、夕方まで釣りを続ける。しかし、最初のアタリが最後のアタリであった。無念だ。
頭脳戦で敗北
地形を把握するため、うみかぜ公園横岸壁の水中映像を動画で確認すると、波を打ち消すためのトンネルのような空洞が一帯に続いていた。
これでは、どこで魚をかけても足元に潜られ、構造物に張り付いた貝類でラインが切られてしまう。
対策として考えたのは以下の2点だ。
・ラインを極太にする
ナイロン5号からフロロカーボンライン10号にラインを変更
・足元ではなく少し投げた先で釣る
手前に走られないよう沖で喰わせる
この対策は功を奏すか……。2023年4月に改めて挑んだ。
今回はラインを太くしたことで警戒心を高めてしまったのか、反応がないまま数時間が経過。
しかし出会いは突然……。ゴン! と強い衝撃が来た。コブダイのアタリだ。アワセを入れると……前回と同じく足元のトンネルに潜り込まれてしまった。しかし、摩耗に強いラインを採用したおかげでしばらく引っ張り合いができるまで耐えている。
しかしそれも束の間、またしてもラインは切れ、巨大魚を逃してしまった。10号でも駄目だったか……。以来、「足元ではなく少し投げた先で釣る」戦法も取り入れながら、釣行を続けるもアタリすらない日々が続いてしまう。
投げた先でも釣れたという情報こそ得ていたものの、コブダイが逃げ道を断たれることを理解しているのか、明らかに反応がない。結局2023年も巨大魚を釣り上げることはできなかった。頭のコブいっぱいに脳でも詰まっているのだろうか? またしても頭脳戦で完敗した。
同志に話を聞いてみると……
こうして釣行を続けていると、私のほかにもコブダイを狙っている地元の釣り師が数名いることがわかった。釣りの解像度を上げるべくお話を聞いてみると、地元の釣り師も足元に潜られてラインを切られてしまうケースがほとんどだそうだ。釣り上げるまでのハードルは皆同じで、そこを超えるのは運の要素が強いと言う。さらに興味深かったのが、60cm未満の魚体なら潜られても引っ張り出せることが多いが、ラインを切られてしまう場合は70、80cmの超大物ではないかということだ。
そうなると私が2023年の釣行でラインを切られた魚は80cmを超えるランカーコブダイだった可能性も出てくる。モンスターの輪郭がうっすらと見えてきたが同時に絶望すら感じる。いったいどうすれば釣り上げられるのか。やはり少しでも足元より先で喰わせるほかないのだろうか。2024年春の再チャレンジでは、竿を450cmの長尺に変えて挑むことにした。
ついにファミリー向け釣り場の“ぬし”を確保!
2024年4月。前年と同様にかぶせ釣りスタイルでモンスターを狙う。今年は竿の長さもあって足元から5mほど離した距離にエサを投入するかっこうだ。竿が長いので手前に走られても、ラインが切断されるまで少しは耐えることができるだろう。牡蠣を撒いて仕掛けを投入。この作業を繰り返してその時を待つ。
しかし、そうは問屋が卸さない。お昼を過ぎてもアタリはアカメフグばかり。気が付けば10匹も釣り上げていた……。
なんとなく駄目そうな雰囲気が漂うまま時間が過ぎていく。が、やはり大物は突然現れた。フグのようなコツコツした反応から始まり、急にエサを咥えて横に走り出したのだ。
アワセを入れ引き寄せようとするも、得体のしれない大物は全く浮き上がるそぶりを見せず、左側へ猛進する。しかし、今回は手前でなく岸と平行に泳いでいるため長尺竿作戦は現状成功している。
ここからどう動きを見せるのか……。魚の体力を弱らせるため、こちらも抵抗しながら走る方へついていく。すると急に向きを変え、内側に泳ぎだした! 竿が折れる覚悟で止めようとするものの、ブルドーザーと引き合っているのかと思うほど魚の勢いが止まらない。しかし頭が岸壁のトンネルに入ったかと思うところで何とか動きが弱まった。強引に引き寄せると信じられないほど大きな魚体が浮き上がってきた。
間違いなくコブダイだ。しかも地元の釣り師が話していたモンスターサイズである。
近くで釣りをしていた方がタモ入れをサポートしてくれた。網には入ったものの重すぎて柄が破損する恐れを感じつつ、なんとか無事釣り上げることに成功!
ついにファミリー釣り場のモンスターを捕獲できた。かつて釣果写真で見た巨大コブダイをようやく抱きかかえることができた。時間をかけたぶん魚体を重く感じる。普段はサビキ釣りや投げ釣りで賑わう釣り場に、人知れずこんな大物が回遊している。そう思うと海の深さに驚嘆するばかり。これこそが釣りロマンなのだろう。
巨大コブダイの目撃情報は続く
なお、近隣の釣具店情報だと今年は特にコブダイと接触された方が多いのだという。足元のトンネルで切られてしまう方もいれば、すぐ釣り上げられた方もいるそうだ。コブダイは90、100cmまで成長する魚。いつかその“ぬし”も釣り上げてみたい。
(ぬこまた釣査団(大西))
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