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「早田ひな選手のオーラはすごい。僕も怖くて話しかけられない」卓球金メダリスト・水谷隼が語った後輩たちの“実力”

文春オンライン / 2024年8月3日 22時10分

「早田ひな選手のオーラはすごい。僕も怖くて話しかけられない」卓球金メダリスト・水谷隼が語った後輩たちの“実力”

早田選手(右)ら後輩たちについて語った水谷氏 ©文藝春秋/時事通信社

“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。 今回のゲストは、元プロ卓球選手の水谷隼さんです 。女子シングルスで銅メダルを獲得した早田選手をはじめ、パリオリンピックで活躍する後輩たちへの評価は?

 有働 水谷さんが現役を引退されてから、もう3年になりますね。

 水谷 東京五輪から、そんなに時間が経ったんですね。

 有働 実は、実家に卓球台があったくらい卓球好きでして、対戦相手の嫌がるところを的確に突いていく水谷さんのプレースタイルが大好きだったんです。私、すっごく性格が悪いので試合を見ていて「気持ちいい!」って(笑)。

 水谷 さすが卓球の本質を分かっていますね。卓球は良いショットを打つことが、勝ちに近づくわけではないんです。相手をイライラさせてメンタルを崩壊させ、ミスを誘うのが一番大事なんですよ。

 有働 でも、いまは『ズームイン!!サタデー』(日テレ系)のスポーツキャスター、『ひるおび』(TBS系)のコメンテーターとして、爽やかなイメージでテレビに出ていますよね。コメントを聞いていても、「めっちゃいい人やん」と思うのですが、実際のところ、本当の性格ってどうなんでしょうか?

 水谷 それ、僕に言わせるんですか(笑)。確かに選手時代は二重人格みたいな感じでした。普段は温厚な性格なんですが、アスリートという仕事は、相手を倒さなければいけない。チャンピオンは世界で1人ですから。そのためには心を鬼にするしかないんです。

 有働 自分の勝利が相手の夢を打ち砕くということまで理解した上で、戦いに臨んでいたんですね。

親しい卓球選手はいません

 水谷 逆に相手は僕の夢を潰しに来るわけですから。卓球の難しいところは、シングルス、ダブルス、団体戦と複数の種目があること。シングルスで敵だった日本人選手が、ダブルスでは味方にもなる。複雑な心境ですよ。

 有働 まさに「昨日の敵は今日の友」になり得ると。

 水谷 だから僕はプライベートで親しい卓球選手はいないんです。仲良くなると「こいつになら負けてもいい」と思ってしまいそうで。選手として、そういう考えが少しでも浮かんだら終わりですから。

 有働 そこまで徹底していたからリオ五輪で、シングルスとしては日本人初となる銅メダルと団体の銀メダルを獲得。東京五輪では混合ダブルスで、伊藤美誠選手と組んで金メダルを掴み取れたわけですね。

 水谷 僕は基本的に海外でプレーしていたから、日本人特有の「みんなで力を合わせて頑張ろう」という感覚はないんです。卓球のような個人スポーツでは、その精神で世界で勝つのは難しいと思っています。

 有働 厳しい勝負の世界から、いまテレビという、それはそれで複雑怪奇な世界のお仕事を3年間してみて、いかがですか?

 水谷 僕は中学2年でドイツ留学していて、以来、学校でまともに勉強をしていないんです。コメンテーターをしていると、政治や社会情勢など知らない事ばかりで、自分の知識の無さを日々実感しています。

卓球をやめようかと思った

 有働 そもそも水谷さんは、選手時代から自分の意見をはっきり口にしていましたよね。2012年のロンドン五輪の後には、ラケットのラバーの補助剤問題を告発した。

 水谷 しましたね。「用具ドーピング」と言うのですが、ラケットに補助剤を塗って乾燥させるんです。するとラバーに反発力や摩擦力が出て、通常では考えられない威力や回転力のあるボールが打てる。

 有働 日本では禁止されているのに、中国など他国では補助剤が使われていた。国際卓球連盟が禁止を命じても、実質的に野放しだった。その現状を雑誌のインタビューで問題提起した。勇気のある告発ですよ。

 水谷 若かったこともあって、このドーピングさえなければ「自分が世界一になれる」という自信があったんです。だから、とにかくこの問題を解決しないといけないという気持ちで一杯でした。スポーツがフェアであるべきだという思いもありましたが、それより自分が世界一になることが意識の中では優先でした。

 有働 国際大会を一時期ボイコットまでしましたが、不正の明確な証拠をつかむことは出来ず、残念ながら用具ドーピングが横行する状況は変わらなかった。

 水谷 なかなか個人の力では難しかったですね。辛かったのは、周りの選手や日本卓球協会があまり関心を持ってくれなかったことです。

 有働 なぜでしょう? 他の選手にも関わる問題ですよね。

 水谷 みんな「なんか水谷が言ってるな。でもどうせ変わらないよ」という感じでした。

 有働 協会も、もっと水谷さんをバックアップしてもよかったのではないですか。当時23歳のトップ選手が孤軍奮闘しているのに……。

 水谷 協会は組織として日本卓球界全体のことを第一に考えるんです。だから余計なことを言わず静かにしてよ、という風潮があった。それに嫌気がさして、4カ月ぐらい練習もせず、もう卓球をやめようかと悩みました。

 でも、当時支援してくれていたスポンサーの社長の方に「逆に今、活躍したら全部お前の手柄になるよ」と励まされて、再びやる気が出てきた。それで元中国代表の邱建新さんを自費でコーチに雇い、2013年から戦いの舞台をロシア・プレミアリーグに移しました。

 有働 なぜロシアに行こうと思ったんですか?

 水谷 単純に収入が一番良かったのが一つ。それと、ドイツや中国のリーグと違って日本人選手がいないんです。そのほうが伸びるだろうなと考えたんです。

後輩たちは甘っちょろい

 有働 とはいえ、言葉や食事や環境など、大変ですよね。

 水谷 めちゃくちゃ大変でした。最初に所属したクラブはエカテリンブルグという、モスクワから飛行機で3時間ほどかかる街でそもそも遠い。言葉は全部英語で、毎日移動中に本を読んで勉強していました。

 有働 「何でこんな苦労せなあかんねん!」とは思いませんでした?

 水谷 逆にエネルギーになりました。振り返れば、それまでの自分は、少し肩が痛かったら「休もうかな」と思ったり、どこか甘えがありましたが、厳しい環境の中で払拭(ふっしょく)されました。

 有働 ロシアでの5年間で、何が一番プラスになりましたか?

 水谷 辛くても耐えられるメンタルを手に入れられたことでしょうか。当時はモチベーションも上がって、ロシアリーグだけでなく、マレーシアリーグも掛け持ちして戦っていました。日本に帰国したときも成田に着いたら、すぐにナショナルトレーニングセンターに直行。やる気に満ち溢れていた。他の選手には同じことは出来ないと思うほど、やり切った自信はあります。

 有働 競技生活を終えた今、それは何か役に立っていますか?

 水谷 日本語が喋れて、日本食が食べられて、お風呂にも普通に入れる。そんな何でもない日常が幸せに感じられるようになりました。

 有働 仙人みたいに悟ってる(笑)。そんな水谷さんから見て、いまの後輩たちはいかがですか?

 水谷 本人は厳しい練習をしているつもりでも、世界的に見たら覚悟が足りない選手が多い気がします。

 プレーの技術の拙さはもちろんなのですが、コートで対峙した時、たとえば中国の超一流選手はオーラがあるんです。「修羅場をくぐっているな」と感じる。他の競技でも、体操の内村航平さんは、圧倒的なオーラがありました。日本人選手はそれに比べ、オーラが無い。

 有働 それは東京五輪で一緒に男子団体でメダルを獲得した張本智和選手や、ダブルスの世界ランキングで1位になったこともある戸上隼輔選手であってもそうですか。

 水谷 甘っちょろいです(笑)。でも、世界選手権で毎年メダルを獲得している、女子の早田ひな選手はすごいオーラがあります。試合会場でふと会った時も、僕も怖くて話しかけられない。触れちゃ駄目だと。

 有働 それは相当ですね!

 水谷 例えば試合会場で、20〜30メートル先に早田選手がいたとしても「あ、大丈夫です。挨拶しないで、そのまま帰ります」みたいな(笑)。

 有働 自分を追い込んできた水谷さんなら、むしろ話が合うんじゃないですか。

 水谷 引退して時間が経ってますからね。早田選手から見たら、僕なんてアスリートの牙は無くなっていて、ふんわりしていると感じると思うんですよね。

本記事の全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています( 水谷隼×有働由美子「早田ひな選手のオーラはすごい。僕も怖くて……」 )。

 

全文 では、水谷隼氏が、パリオリンピックで活躍する卓球選手の分析から、自身の株式投資での失敗談まで語っている。

(水谷 隼,有働 由美子/文藝春秋 2024年8月号)

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