ベンチに戻った大谷翔平をチーム全員が無視…“世界のオオタニ”がメジャー初ホームラン後に受けた“洗礼”――2024年上半期 読まれた記事
文春オンライン / 2024年8月13日 17時0分
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大谷翔平 ©文藝春秋
2024年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ部門の第1位は、こちら!(初公開日 2024/03/21)。
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今シーズンから新天地・ドジャースでの活躍が期待される、メジャーリーガーの大谷翔平(29)。彼の一挙手一投足に、日本だけでなく、世界中のファンが注目をしている。そんな大谷を日本ハム時代から10年以上追い続けているのが、スポーツニッポン新聞社MLB担当の柳原直之記者だ。
ここでは、柳原氏が、番記者としての日々を綴ったノンフィクション『 大谷翔平を追いかけて - 番記者10年魂のノート 』(ワニブックス)より一部を抜粋。大谷翔平がメジャー移籍後にうけた“洗礼”とは——。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)
◆◆◆
あわや完全試合の快投
メジャー初安打から3日後の2018年4月1日。「今日は本当にただただ楽しく投げられた。マウンドに行く時も、一番最初に野球を始めてグラウンドに行く時の気持ちで投げられた」。初回2死、マット・オルソン(現ブレーブス)の初球に球場表示でこの日最速99.6マイル(約160.4キロ)を計測。テレビ表示は100マイル(約161キロ)だった。2ー0の2回に連打からチャプマンに逆転3ランを被弾した。甘く入ったスライダーで「少しひきずった」と言う。ベンチに戻ると、マイク・ソーシア監督に言われた。
「ここから抑えれば何も問題ないから」。切り替えた。2回以外は安打を許さず、逆転勝ちにつなげた。メジャー移籍後初となる100マイルを3度も計測し、力でねじ伏せた。花巻東時代に一度は志した最高峰のマウンド。「全体的にすごい楽しめた。そっちの気持ちのほうが緊張感を上回っていた。入りから最後までそういう気持ちだった」とはにかんだ。
5度の実戦全てに失点した開幕前のイメージを払しょくした。好投の理由は「本当に、そこ次第かなという部分はあった」。“そこ”とは宝刀スプリット。渡米後最多の全92球中、24球を投げ込み、6三振のうち5三振はスプリットで奪った。
「ここで勝つ大谷はさすがだよ」
試合後は日米報道陣が大挙して押し寄せたため、レイダースのロッカールームを急きょ借りて囲み取材を開催。初勝利のボールを手に安どした表情を浮かべる大谷の姿を見て、報道陣もみんな笑顔になった。ここ一番で結果を残す修正能力の高さと勝負強さには感銘さえ受けた。原稿の打ち合わせのために電話したその日のデスクも「大谷はさすがだ。ここで勝つのはさすがだよ」と興奮気味でなかなか電話を切ってくれなかった。
時効なのか時効でないのか判断がつかないが、私は実はこの前日、発熱でダウンしていた。日本から持参した風邪薬を飲んで、ホテルの部屋で10時間以上は寝て、起きた時は体中が汗でびっしょりで、熱は引いていた。いや、正式には体温計を持っていなかったため、発熱していたか熱が引いたかも定かではない。それでも、体感で38度以上はあった。
後に聞いた話では、米メディア2人と懇親会を兼ねて寿司を食べに行った私を含め日本メディア全員が体調を崩していたという。一方で、米メディア2人の体調は問題なかったと聞いた。慣れない環境、慣れない食事で免疫力が落ちていたのかもしれない。コロナ禍前だが、この時はそれぞれが体調を崩すほどの目まぐるしい忙しさだった。
本拠地での「初試合初打席でメジャー初本塁打」と“洗礼”
大谷の勢いは止まらない。本拠地エンゼルスタジアムでのデビュー戦となった4月3日のインディアンス(現ガーディアンズ)戦に「8番・DH」で出場し、初回に1号3ランを放った。本拠地エンゼルスタジアムでの初試合初打席でメジャー初本塁打。初マルチとなる3安打で、打点も初となった。
同点の初回、第1打席だった。2死満塁から暴投で勝ち越した直後、2年連続2桁勝利を挙げている右腕ジョシュ・トムリン(ブレーブスFA)から3ランを右中間に叩き込んだ。2ー2から6球目のカーブ。3球目に空振りしたが、暴投になっていた球種だ。「ワイルドピッチで点も入って楽になった。そのおかげでカーブがちょっと浮いてくれたのかなと思う」。投手心理を読み切った、二刀流の大谷ならではの一撃だった。
記念すべきメジャー初アーチを放った後、待っていたのは「メジャーの洗礼」だった。ベンチに戻った大谷は誰からも見向きもされず、両手を広げてアピールする。無視が続き、たまらずイアン・キンズラーに抱きつくと、ナインが一斉に集結。手荒い祝福に最高の笑顔だ。
「何かよく分からなかった。ちょっとたって気づいた。うれしかった」。選手を祝福する「サイレント・トリートメント」と呼ばれる儀式で、主砲のトラウトとプホルスの発案。スタンディングオベーションにはヘルメットを掲げて応え「最高でした」と喜んだ。
大谷のメジャー初アーチの記念球をゲットしたのは?
ちなみに、大谷のメジャー初アーチの記念球をゲットしたのは、当時9歳の地元オレンジカウンティ在住のマシュー・グティエレス君。同33歳のインディアンスファンのクリス・インコーバイアさんが手にし、後ろに座っていたエンゼルスファンのマシュー君にプレゼント。
好きな選手に大谷、プホルス、トラウトを挙げたマシュー君は「将来はメジャーリーガーになりたい」と目を輝かせていた。地元の少年野球チームでは投手、捕手、内外野もこなし、大谷も顔負けのマルチプレーヤーである。記念球は球団を通じて返したが、試合後に憧れの二刀流と記念撮影。サイン入りのバットとボールを直接手渡され、とてもうれしそうだった。
翌4日のインディアンス戦でも2点を追う5回に2試合連発となる中越え2号同点2ランを放った。前年に2度目のサイ・ヤング賞を獲得したコリー・クルバーを攻略。本拠地デビューから2戦連発は球団史上6人目で新人では初。また歴史の扉を開いた。
2点を追う5回2死二塁。大谷がクルバーのマイル(約148キロ)外角直球を捉えた。打球は中堅後方へ伸び、エンゼルスタジアム名物の「ロックパイル」と呼ばれる岩山の麓に飛び込んだ。
「今日も確信はなかった。二塁に走者がいて、安打でいいと思ってしっかりコンパクトに打ったつもりだった。なんとか越えてくれて良かった」
現地テレビの実況も「うそだろ? 現実離れしている」と…
クルバーと初対戦となった3月14日のオープン戦では徹底的に内角攻めを受け、バットも折られた。何度も映像で球筋を確認し、リベンジの時を待った。「今日も内角がしっかりきていた。レベルの高い投手。投げミスが極端に少ない」。頭と体に内角球の残像を刻みつつ、外角球にしっかり踏み込んだ。過去の対戦、そしてこの日の1打席目の攻め方を受けての対応力が、2試合連発を生んだ。
こうなるともう訳が分からない。試合のないオフを挟み6日の本拠地アスレチックス戦では3戦連発となる中越え3号ソロを放った。0ー6の2回、大谷が94マイル(約151キロ)のツーシームを強振すると、打球は中堅をはるかに越え「ロックパイル」と呼ばれる岩山の水場に着弾。水しぶきが舞った。
「芯でも捉えていたし、しっかりと自分のスイングが形良くできていたんじゃないかな」。メジャー初登板初勝利した際、投げ勝ったアスレチックスのダニエル・ゴセットを今度はバットで粉砕する3戦連発。現地テレビの実況も「うそだろ? 現実離れしている」と叫ぶほどだった。
この一撃が口火を切り、6点差を逆転勝ち。大谷が打席に立つたびに観客は総立ちになった。当時、テレビ、新聞、通信社を含め総勢30人を超える日本メディアの多くは右翼ポール際の記者席で観戦していた。私もその1人で観客と共用のトイレに向かうと、「大谷がまた打ったぞ!」「3試合連続本塁打だ!」と現地のファンが興奮気味に語り合っていた。
ピンチを切り抜け、吠える大谷翔平
さらに8日のアスレチックス戦では本拠地で初先発し、7回1安打無失点、12奪三振の快投で自身2連勝。7回1死から左前打を浴びるまで完全投球を披露した。大記録達成はならなかったが、4万4742人は一斉に立ち上がった。エンゼルスタジアムが改修した1998年以降、デーゲーム最多の観衆は大谷に温かい拍手を送った。完全投球で迎えた7回1死、マーカス・セミエンに96マイル(約154キロ)を左前に運ばれた直後だった。
「(完全投球は)5回くらいから気づいていた。“来る時が来た”というか、そこに準備して初回からずっと抑えていた」
冷静だった。続くジェド・ローリーに四球を与え、マウンドに集まったナインに「ゲッツー取ってください」と笑った。だが、その必要はなかった。クリス・デービスを投ゴロ、マット・オルソンをスプリットで空振り三振。ピンチを切り抜け、吠えた。7回1安打無失点。12奪三振と圧倒しての2連勝だった。
読者を惹きつける紙面づくりの難しさ
メジャーリーグの原稿は日本のプロ野球の試合と違い、試合終了から24時間近く、時にはそれ以上経過して、テレビやネットニュースで一通り報道されてから紙面化され、そのためデスクからは「見たままの“戦評原稿”ではなく、自分なりの切り口とテーマをもって原稿を書くように」とよく指示を受けた。
今回、大谷が2勝目を挙げた翌日のスポニチ東京版の記事で「スタンドから視察した他球団の西海岸担当スカウトは『15勝、20本塁打もいける』と断言」と紹介したことが切り取られ、「2勝&3発」より大きなフォントで「15勝20発視察スカウト断言」という見出しが躍った。
だが、のちに社内で「読者に誤解を生む見出しだった。シンプルに7回1安打無失点、奪三振を強調したほうが良かったのではないか」という声があったと聞いた。ストレートな見出しをとるか、翌日以降に発行される紙面を意識した見出しをとるか。万人が納得する紙面をつくるのは難しいと改めて感じる試合だった。
2024年上半期 読まれた記事「スポーツ部門」結果一覧
1位:ベンチに戻った大谷翔平をチーム全員が無視…“世界のオオタニ”がメジャー初ホームラン後に受けた“洗礼”
https://bunshun.jp/articles/-/72605
2位:《契約更改で大モメ中》ロッテ・佐々木朗希(22)がプロ野球選手会を脱退していた!《関係者は「若手で加入していないのは彼だけ」》
https://bunshun.jp/articles/-/72604
3位:「分かっていますよ!」「できないんですよ!」大谷翔平がブルペンで声を荒げて怒り…“大谷担当記者”が明かす日ハム時代の秘話
https://bunshun.jp/articles/-/72603
4位:《遺族が告白》「息子を返して」“石川遼ゴルフ場”で19歳研修生が自殺していた
https://bunshun.jp/articles/-/72602
5位:「オオタニが知らないなんてあり得るだろうか?」大谷翔平(29)の窃盗トラブルが全米の注目を集めた“ニッポン人が知らない理由”
https://bunshun.jp/articles/-/72601
(柳原 直之/Webオリジナル(外部転載))
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