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「実際の障害者を起用する方がいいのでは」障害当事者が抱える“健常者俳優”が“障害者”を演じることへの正直な気持ち

文春オンライン / 2024年8月27日 11時0分

「実際の障害者を起用する方がいいのでは」障害当事者が抱える“健常者俳優”が“障害者”を演じることへの正直な気持ち

〈 「こんな症例は経験したことがない」右目と左目で視ている世界が異なる男性(32)が振り返る“過酷すぎた闘病生活”のリアル〈手術回数は計11回〉 〉から続く

 右目と左目で視ている世界がまったく別々。左の視界は一部が欠けている。世にも珍しい視覚障害を抱えながらも、俳優として着実に歩みを進める男性がいる。古川時男、32歳。

 日常生活にも困難を抱える彼は、ただでさえ厳しい世界である俳優の道をなぜ目指そうと考えたのか。そして、障害者がどのようにドラマ、映画界に関わっていくべきだと考えているのか。同氏の思いを聞く。

◆◆◆

視覚の一部を失ったことによって音に敏感になってしまった

――視覚障害は現在も残っているとのことですが、生活においてどのような不便さがあるのでしょうか?

古川 右目の映像と左目の映像が別々に映し出されていて、ある部分で合わさっているような絵を視ているんですよね。

――なかなか想像しづらい世界ですね。

古川 たとえば、目の前の男の人の頭を車が通り抜けていったり、すぐそこにいる女性のお腹あたりに右にいる子どもの顔の残像が見えたり、現実にはあり得ないものが見えているんですよね。

――それでも、今は地元を離れて俳優という夢を追いかけ続けていらっしゃる。ご両親は心配されたのではないでしょうか?

古川 まさしく、その通りとても心配されました。東京は人の往来が盛んじゃないですか。「そんな環境で生活していけるのか?」と何度も言われました。実際、上京した当初は、あまりの人の多さと、それによる視界の気持ち悪さで目眩を起こしてしまって。

――他にも生活における不便はあるのでしょうか。

古川 視覚の一部を失ったことも不便ですが、それによって音に敏感になってしまったこともまた、弊害かもしれません。

 その人がどんな気持ちで発した声なのかを過剰に感じ取れてしまうんです。

 ある食事の席で飲み物をこぼしてしまって、同席者に「見えてないんじゃないですか」と言われたとき、動悸がするほど動揺しました。声の響きから、こちらを心配してくれているのではなく、蔑みで言っているように感じられたんです。考えすぎだと思われてしまうかもしれないのですが、自分にとって、他人から「変だ」「おかしい」と思われることは耐え難い苦痛なんですよね。

あるハリウッド俳優との奇遇な縁

――大病の経験から、他人が自分をどのように思うかについて過敏になってしまうとのお話、わかるような気がします。翻って、古川さんは人から注目される職業である俳優を志し、現在も活躍しておられます。どのような経緯で俳優を目指されたのでしょうか。

古川 小さい頃から比較的活発な方で、高校で盲学校に入学してからも複数の障害スポーツで福井県代表に選出されるなど、体を動かすことが好きなんです。ただ、闘病中にはスポーツはできず、自ずと気分が落ち込みがちになっていたんです。

 そんなとき、あるハリウッド俳優の作品をみて衝撃を受けたんです。偶然にもその人と共通の知り合いがいまして、私の状況を知った本人からメッセージをもらう機会があったんです。それが一番のきっかけですね。「こんな風に他者の人生にポジティブな影響を与えたい」と考えるようになりました。

――奇遇な縁があったんですね。

古川 はい、本当にたまたまなんですが……。今でもそのときにもらったメッセージは写真で残しています。

――他人が自分をどのように思うかについて過敏なところがあるとのことでしたが、メッセージを受け取った経験をきっかけに考えを変えることができたということでしょうか。

古川 どうでしょうか。正直、障害があることで他人からどう思われるのか、恐れる気持ちは今でもあります。けれどもそれ以上に、人生を諦めなければ、何かいいことが待っているかもしれないということを多くの人に伝えたいんです。

 珍しい病気をしなくたって、生きていれば悩むことは誰にでもあると思いますし、その中には自死を選択せざるを得ないほど追い込まれる人もいるじゃないですか。病気を経験して、かつて絶望した時期があるからこそ、近しい状況にある人を励ませるのなら、力を尽くしたいというのが正直な思いですね。

 せっかく生まれてきたのに、死にたくなってしまう。そんな人がいないように、世界を変えたいと本気で思っているんです。

リアリティを反映したいなら障害者の起用を

――ドラマや映画のなかには障害者が登場する作品が多くありますが、その大部分は健常者の俳優が演じていますよね。それについて、障害の当事者であり俳優という立場からどのようなことを考えますか?

古川 プロの俳優が障害のある人たちに寄り添って声を聞き、自分のなかでイメージを掴んで本気で取り組んだ作品も存在すると思います。

 ただ残念ながら、全体的には、やはり障害を負った人の人生の一部を切り取って演技をしているだけで、その前後にある当事者の人生全体を俯瞰したような演技にはなっていない場合が多いと感じますね。

 悲劇的な出来事があったら大げさに感情を表現する、という紋切り型の反応にならない場合も実際には多く、その人の歩んできた道程によってもさまざまな感情が入り乱れるのは当然です。

――障害を持つキャラクターは、障害者が演じた方がベターというお考えでしょうか。

古川 単純に視覚障害者だけについて言えば、健常者が演じるとどうしても「見えている」のはわかります。実際の視覚障害者は、目の前に居るのにその人を「見ていない」かのような雰囲気を醸し出すんです。そうしたリアリティを作品に反映したい場合は、実際の障害者を起用する方がいいのではないかと私は考えています。

いつか自分も誰かを励ます立場になれたら

――最後に古川さんがこれから俳優として叶えたい夢について聞かせてください。

古川 将来的に“自分の体験”を他の誰でもなく、“自分が演じる”ことで世界に伝えたいという夢があります。これを演じられるのは自分だけだという自負があります。そして、いつか海外の作品に出演して、自分を励ましてくれた尊敬するハリウッド俳優と共演したいですね。今はまだまだですが、いつか自分も誰かを励ます立場になれたらと思って毎日を生きています。

 今、社会で辛酸を舐めている多くの人々の活力になれるような俳優になり、「時男も頑張って生きてきたんだから、自分も希望を捨てない」と思わせる説得力のある演技で魅了できる日を願っています。

◆◆◆

 取材中、古川氏が涙をにじませるシーンが何度もあった。決して癒えないトラウマを抱えながらも突き進む氏の人生には摩擦が多く、生傷が絶えないことを予想させる。けれども彼は、偽りのないその真っ直ぐな視線で世界を捉え、同じく苦境に立つ者たちの道標となるべく行動を起こす。

「時男の演技には嘘がない」――芝居仲間たちからそう評される青年の、世界を変えたいと願う本気の声色は澄んでいて、確かにすとんと胸に落ちた。

(黒島 暁生,古川 時男)

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