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「ドクターイエローはもう作らない」“幸せの黄色い新幹線”はなぜ引退するか 「明日走ります」という異例の事前通知に駆けつけると…

文春オンライン / 2024年8月14日 11時10分

「ドクターイエローはもう作らない」“幸せの黄色い新幹線”はなぜ引退するか 「明日走ります」という異例の事前通知に駆けつけると…

ドクターイエローはお客さんを乗せないから回送列車扱い

 2024年6月13日、JR東海とJR西日本はドクターイエローの引退を発表した。今すぐというわけではない。ドクターイエローは2編成あり、JR東海が保有するT4編成は「2025年1月に引退」と明示。JR西日本が保有するT5編成は「2027年以降を目途に」と、もう少し先になっている。

 東海道新幹線・山陽新幹線で活躍するドクターイエローこと「新幹線電気軌道総合試験車923形」は、「幸せの黄色い新幹線」として親しまれており、子どもたちにも大人気だ。グッズもたくさん販売されている。それだけに引退発表のインパクトは大きい。この日、NHKや民放各局が主要ニュースのひとつとして報道した。

 さすがテレビ局だ。運行日が告知されない列車にも拘わらず、動画素材をたくさん持っている。しかし僕らフリーランスがドクターイエローを見る機会はほとんどない。ネットメディアも同様だろう。JR東海に広報用写真をお借りしたり、レンタルフォトを使ったりしてなんとか記事を仕上げることになる。

「ドクターイエローが明日走ります」という異例の事前通知

 この連載の2022年10月23日付「 一度は見てみたい! あの黄色い新幹線「ドクターイエロー」の“時刻表”があった 」もJR東海の広報部からお借りした写真を使わせていただいた。でも、一度はきちんと、自分のカメラで撮りたかったな。そんな思いで夕方のテレビニュースを見ていた。

 そのとき、JR東海の広報担当者からメール着信、重ねて電話がかかってきた。

「明日走ります。東京駅で報道撮影の機会を設けます。いらっしゃいませんか」

 急な話ですが、というけれども、ドクターイエローの事前通知は異例だ。万が一情報が拡散しては困るから、あえて前日に通知したのかもしれない。もちろん行きますと即答した。

 翌日、11時15分に東京駅で集合。20人ほどの報道関係者がいた。やっぱり自社で撮影した写真がほしいよね。だれも思いは同じだ。駅構内撮影のため、一般客の迷惑にならないようにと厳命されて18番ホームに上がる。発車案内板に「回送 983 回送列車です。この列車にはご乗車いただけません」と表示されていた。これがドクターイエローを示している。

 乗客や清掃員などを邪魔しないように、撮影区域が指定されていた。しかし、18番ホームに到着する列車を18番ホームで撮ったら、先頭車の「顔」の部分しか撮れない。編成全体の写真を撮るために向かい側17番ホームに行きたい。それもお願いしたら許可してくれた。厳しいけれど許してくれる。こうして無事に撮影会が終了した。

 ファンが作った「ドクターイエロー」の運行予想サイトに6月14日の運行は無かった。定期的な計測試験ではなく、試運転だったようだ。もしかしたら、報道撮影用に仕立てたダイヤで、沿線各地の報道機関に撮影の機会を提供したのかもしれない。東京駅の発着時刻はほぼ予想サイト通りだった。さすがだなあ、と感心した。

ダンゴ鼻の顔のT1編成は1975年に廃車

 前出の通り、ドクターイエローにはJR東海保有の「T4編成」とJR西日本保有の「T5」編成がある。T4ってことはT3もある。T2、T1もある。

「T1編成」こと922形は東海道新幹線の開業と同時に稼働した。新幹線試作車両の1000形を1964年に電気試験車に改造した。試作車時代の知見が営業車両の0系になる。いわゆるダンゴ鼻の顔だ。老朽化のため1975年に廃車された。

「T2編成」も0系がベースとなった。922形で製造番号は10番代。こちらは新製車両だ。「T1編成」を交代させるため1974年に製造された。2001年に引退。

「T3編成」もダンゴ鼻の0系ベース、922形20番代だ。1979年に製造された。1975年に山陽新幹線が博多まで延伸し、検査距離が長くなった。さらに「T2編成」が定期点検に入ると検査業務ができなくなる。そこで追加された車両だ。ドクターイエローはここから2編成運用になった。2005年に引退し、先頭車両は名古屋市の「リニア・鉄道館」で展示されている。

 そして「T4編成」と「T5編成」が現在のドクターイエローだ。ベースとなった車両は「カモノハシ」の愛称で知られる700系だった。「T4編成」こと923形は2000年、「T5編成」こと923形3000番代は2005年に稼働開始した。

「もうドクターイエローは作らない」という巨大な決断

 ドクターイエローが交代する理由は老朽化だけではない。営業車両が新型に変わりスピードアップすると、旧型をベースとしたドクターイエローは日中ののぞみ12本ダイヤについて行けない。IT技術の進化も理由の1つ。検査機器を更新し、より正確に、より多くの情報を収集したい。

 この法則が続くと、次のドクターイエローはN700Sをベースにした「T6編成」「T7編成」になるわけだが、もうドクターイエローは作らない。

 そのかわり、N700Sの営業車両に検査機器を搭載する。すでに2019年からN700Sの6編成に線路検査システムを搭載している。2021年から架線と保安信号の検査システムも追加された。ドクターイエローで10日に1度だった検査は、営業車両を使って1日数回の頻度になった。

 今後、2026年度から2028年度にかけて、さらに新たな検査機能を搭載するN700Sを17編成製造する。搭載機器の小型化だけではなく、点群データを使った画像解析技術やAIを活用した判定、高速通信機能を搭載し、リアルタイムで状況を指令所に報告する。

 そのデータが夜間の保守点検に使われる。先日、東海道新幹線で夜間に保守車両が衝突脱線するという残念な事故が起きてしまった。原因はまだ明らかになっていないけれども、リアルタイムで適格な検査データがあれば、保守作業も分散化でき、安全にもつながるはずだ。

 幸せの黄色い新幹線は去ってしまうけれども、その役割はN700Sに移る。これからはN700Sを見て幸せを感じよう……と、これはちょっと無理があるか。

 なお、JR東海は東海道新幹線60周年を記念して、2024年10月12日に「T5編成」の体験乗車イベントを実施する。募集定員は50名、抽選申込期間は2024年8月8日から2024年8月15日まで。ほかに2024年8月2日から2024年9月23日(923形の日?)まで、「鉄推し!~ハピネス・イエローキャンペーン~」を実施中だ。新幹線に乗車するなどでポイントを集めると、「T4編成」の体験乗車イベントの抽選に応募できるという。

(杉山 淳一)

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