1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「親の所得で教育格差が拡がり…」「公立の生徒は学力がいまひとつに」なぜ“中学受験”はこんなに過熱してしまったのか?

文春オンライン / 2024年8月19日 6時0分

「親の所得で教育格差が拡がり…」「公立の生徒は学力がいまひとつに」なぜ“中学受験”はこんなに過熱してしまったのか?

写真はイメージ ©RYH/イメージマート

〈 「保護者からの個人的な電話に悩まされている」“うつ病”で休職する教師が激増…日本で“教員不足”が深刻化する本当の理由 〉から続く

 社会の変化のスピードが速い時代。今から16年後の2040年の日本はどうなっているのか、あなたは想像したことがあるだろうか。そしてあなた自身は、何をしているだろう?

 ここでは、池上彰氏が世界、そして日本社会の未来を予測した『 池上彰の未来予測 After 2040 』(主婦の友社)より一部を抜粋。日本の教育はこれからどうなっていくのか――。池上氏の視点を紹介する。(全2回の2回目/ 1回目から続く )

◆◆◆

地方では私立の人気がない

 ゆとり教育で、円周率を「3.14」ではなく「3」と教えることになった、というニュースがセンセーショナルに流れたときがありました。

 このとき、大手進学塾が「円周率よさようなら」というコピーでキャンペーンを行い、公立校では子どもたちの学力が低下するかのように不安をあおりました。実際は学習指導要領の円周率は3.14のままで、指導要領の中にあった「目的に応じてを用いる」という文言が切り取られてひとり歩きをしただけだったのですが、この頃を境に私立中学を受験する人が増えていきました。

 ただ私立中学の受験が過熱しているのは、今でも首都圏や関西圏、および広島県くらいです。それ以外の地域では、基本的に公立志向です。

 地方では、高給の仕事が都市部ほどにはないため、私立の高い学費を払うことに抵抗があるのです。また子どもの数も母数自体が少ないため、地方だとそもそも私立の学校は生徒が集まらず、経営的にやっていけません。

 さらに東京にいるとあまり考えられないでしょうが、地方にはまだまだ「国立や公立の『おかみ』が上で、私立などの民間は下」という意識もあります。そのため就職も公務員が一番人気だったりします。そもそも、私立の人気がないのです。

都市部では中学受験が過熱する悪循環

 たとえば鹿児島県では、私立中高一貫男子校のラ・サール学園が有名で、寮があるため西日本の各地から入学希望者が集まります。

 しかし地元鹿児島県の成績優秀者は、県立鶴丸高校に行きたいと考えるし、実際に行きます。ラ・サール学園を見て「全国的にも私立が人気だ」と思うのは間違いで、私立中学受験が盛んなのはあくまで都市部での現象です。

 その都市部では、中学受験が過熱する悪循環が起きています。

 都市部においては、成績優秀者やリーダーシップをとれるような子が中学受験をして中高一貫校に行ってしまうことで、公立中学の生徒は学力面や意欲の面で、いまひとつという子が多くなりがちです。受け身の子どもたちが多くなってしまっているのです。

 こうした現象に対する危機意識が強いのが東京都で、都立の中高一貫校を増やしました。つまり「青田買い」と言ってはなんですが、優秀な子を中学入学の段階で中高一貫校に集めて、私立に逃げられないようにしようとしたわけです。

東京都では親の所得による教育格差が拡大中

 しかしそれによって、ただでさえ私立は中高一貫校が多く高校から入れるところが少なかったのに、都立も高校から入れるところが少なくなってしまいました。私の母校の都立大泉高校も、今では中高一貫校になり、高校からの入学はできなくなりました。

 結果的に、私立でも公立でもとにかく中学受験をしないと、高校受験で入れる進学校は定員が少なくて大変だということで、ますます中学受験が過熱しているのです。

 都立中高一貫校の入学試験は、読解力や作文力、論理的思考力が必要とされる独特な問題形式のため、塾に通って入試対策をする人も増えています。東京都ではますます、親の所得による教育格差が拡がりつつあります。

(池上 彰/Webオリジナル(外部転載))

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください