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〈ドラマで話題〉なぜ“地面師”は偽造パスポートまで作って「架空の引っ越し」を演出したか 新橋で起きた「女性地主白骨遺体事件」の驚くべき裏側

文春オンライン / 2024年8月10日 10時50分

〈ドラマで話題〉なぜ“地面師”は偽造パスポートまで作って「架空の引っ越し」を演出したか 新橋で起きた「女性地主白骨遺体事件」の驚くべき裏側

イメージ ©アフロ

〈 ドラマより恐ろしい、本当にあった“地面師事件” 資産16億円超の女性地主が白骨遺体で発見された“まさかの場所”とは「隣家との間の45センチの隙間に…」 〉から続く

 7月25日(木)に配信がスタートしたNetflixシリーズのドラマ『地面師たち』。2017年に実際に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」などをもとに、リアリティのある物語が紡がれていく。

 原作小説の『地面師たち』(新庄耕・集英社)と合わせて、その主要な参考文献として話題になっているのがノンフィクション作家・森功氏による『地面師』(講談社)だ。筆者の徹底取材によって「地面師」の実態が明らかになるスリリングな1冊だ。

 その中から、不動産業界に激震が走った「新橋白骨死体事件」の一部始終を紹介する。(全2回の2回目/ 最初から読む )

◆◆◆

3倍になる借地権

「地面師と一口に言うけど、彼らのほとんどは不動産ブローカーあがりで、現実の土地取引もしています。なかには地主に対して買う約束をして手付けだけを払い、転売して儲けるパターンもある。性質(タチ)の悪いブローカーは、手付け分の借用書を書いて相手に渡しておく。すると、あとから訴えられても、少しずつ返済すれば事件にならない。そういうやり方などは何度も見てきています。それもある種、地面師に近い手口ですが、地主はもちろんわれわれ普通の業者も騙されて、その物件を彼らから買わされることもある」

 新橋の土地取引にかかわった別の不動産業者、初村道太郎(仮名)はそう語った。

「奴らは、むしろ最初はふつうに地上げをしようとします。だから見分けがつきにくいわけです。それがうまくいかなくなると、地面師仕事に切り替える。そういうパターンが多いようです」

 不動産取引の世界では、地面師という詐欺師に限らず、開発業者やブローカーがひと儲けしようと権謀術数をめぐらす。わけても地上げ業者同士が競合しているような曰く付きの土地だと、二束三文の建物を地主から購入し、借地権を主張してひと儲けするパターンもある。

 実際、新橋4丁目の件でも、そうした借地権が横行し、話を複雑にしてきた面がある、と初村が解説してくれた。

「たとえば高橋礼子名義の二つの土地に挟まれた場所には、木造の三階建てテナントビルがあります。ここの建物の所有権を買い取ったのが、ウエストという不動産会社でした。ここはかつて新橋の地上げで名を馳せたマンションデベ、菱和ライフクリエイトの西岡進が経営している。西岡の狙いは、土地がまとまったあと、NTTグループに借地権を高く売りつけることだったのでしょう」

 ウエスト社がこのビルの所有権を買ったのが2016年1月だ。高橋礼子が白骨死体として発見される10ヵ月ほど前の出来事だけに、業界では何らかの関与があるのではないか、と噂されたが、関係性は不明である。

業者のあいだで飛び交った、白骨死体との関係への見立て

 事情を知る業者のあいだでは、ウエストはむしろこの一等地の再開発をめぐって借地権で儲けようとして建物を買っただけ、という見方が強いようだ。

「西岡といっしょに地上げしている不動産業者からは、彼が建物を買うために使ったのは2億から3億だと聞きました。高橋礼子さんの隣のビルだけでなく、この一帯の小さなビルや家屋を五軒も買い取ったそうです」

 この土地に関与した多くの同業者と折衝してきたという初村は、こう言葉を足した。

「仮に3億円突っ込んだとしても、開発がうまく動き出せば、その2~3倍のリターンになると思います。そういう目論見でこの土地に近づいて来た地上げ業者は、数限りなくいます。そのなかには、地面師連中と組んでいる輩もいますが、事件には手を染めていない第三者もいる。あるいは限りなくグレーの業者が、第三者だと言い張るためのアリバイをつくっている」

 マッカーサー道路に面したこの一角に関しては、多くの不動産業者が周囲のビルの所有者への説得に走り回ってきた。実際、ウエスト社のように開発地域で上物の建物だけを買い取ったケースもあれば、底地を買い取る約束を取り付けてその権利を他に売ろうとしていたところもある。

地主の彼女は「路上でワンカップ酒」「銀行窓口で警察沙汰」の放蕩ぶり

 そうして一帯の土地が地上げされていった。そのなかで彼女の所有地だけが、膠着状態に陥っていたのである。初村がつぶやいた。

「地上げ業者にとってはもう一歩のところ。だけど、彼女の放蕩ぶりはエスカレートするばかりでした。ホテル暮らしの手持ち資金が尽きてしまったのか、ワンカップ酒を買って路上で飲んでいたり、近所の知り合いに金を借りようとしたり……。銀行窓口に居座って110番されたことまであったといいます」

 かつての素封家(そほうか)の娘は、ホームレスのようになっていく。しまいにアルコール依存症のような状態になり、16年の3月12日には、愛宕署に保護される始末だった。さすがに警察に保護された彼女は、いったん家に戻ったようだ。だが、それから間もなく、地元新橋の住人も姿を見かけなくなる。心配した隣人が愛宕署に捜索願を出した。実は地主不在のその裏で、事態が動いていたのである。

彼女の放蕩ぶりに、地面師たちが動いた

 おそらく地面師たちは、彼女の変化を知り、そこに目を付けたのだろう。詐欺師たちはいったん動きだすと素早い。

 くだんの土地は、すでに14年4月18日と8月12日付で、住民税の滞納のため東京都の港都税事務所から差し押さえを食らっていた。不動産業者が地上げに手を焼いていたマッカーサー道路西側の一角で大きな変化が見られたのは、その翌一五年の春先のことだ。

 土地登記によると、4月10日、とつぜん新橋5丁目に住んでいたはずの所有者、高橋礼子が大田区大森南3丁目のワンルームマンションに引っ越したことになっていた。

地主になりすまし、わざわざ大田区に住所移転したワケ

 それは、地面師たちの下準備だった。ちなみに住民票の移動には、届け出る大田区役所に対し、本人確認のための身分証明が必要になる。そこをクリアーするため、地面師たちは得意の偽造パスポートを使った。なぜ、そんな面倒なことをするのか、先の初村が謎解きをしてくれた。

「高橋礼子さんになりすますためにパスポートを偽造して大田区に住所移転するぐらいだったら、新橋の住所で印鑑証明をつくりなおしたほうが早いように思えるでしょう。けど、地面師たちはしばしばこういう手順を踏みます。その理由は別のところにある。住民票を大森に移したのは、住民登録と土地取引の自治体を別々にしたかったから。新橋の住所のままだと、どちらも港区内の処理になる。滞納している住民税の問題や近所の目があり、どこかで足がつくのを恐れた。地面師たちの常套手段で、そのためにわざわざ住所を港区ではなく、大田区に移したのではないかな」

 高橋礼子は、住民票が移ったあとにも、新橋5丁目の自宅付近で近所の住人に目撃されている。住所移転は明らかな詐欺工作の一環だった。

(森 功/Webオリジナル(外部転載))

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