「感情をコントロールできない人ほど損をする」“資産3億円の億り人”が教える「大暴落に負ける人・勝つ人の差」
文春オンライン / 2024年8月7日 14時45分
大暴落時に「億り人」は何をしているのか? ©getty
日経平均株価は、過去最大の下げ幅を記録…。空前の株価下落にどよめく投資家たち。なぜ株価は急落したのか? それでも大きな損をせず、資産を保ち続ける方法とは? 投資歴36年、個人投資家ながら「3億円」もの資産を築き上げた、コンサルタントの日沖健氏が「暴落時の心構え」を解説する。
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8月5日の東京市場で日経平均は、4451円安(△12.4%)という過去最大の下げ幅を記録しました。今回のような株式市場の暴落に対し、個人投資家はどう対処すればよいのでしょうか。投資歴36年の兼業個人投資家の筆者と一緒に考えてみましょう。
「3億円の億り人」になるまでにやったこと
筆者は新入社員だった1988年に株式投資を始めました。これまでバブル崩壊・ITバブル崩壊・東日本大震災・コロナショックなど多くの暴落を経験し、生き延びて、現在、約3億円の資産を保有しています(借金0円)。
保有資産3億円というと「おっ、カリスマ投資家!」と思われるかもしれませんが、そうでもありません。いまだに勝ったり負けたりのシロウト投資家です。
それにもかかわらず3億円の資産を築けたのは、必勝の投資法を編み出したわけでも、運よく一発当てたわけでもありません。「投資を早く始めて、致命的なミスを避けて相場に居続けた」からです。
株式投資は、短期的にはゼロサムゲームですが、長期的にはプラスサムゲームです。企業が売上高・利益を増やして株価を上げようと懸命に努力するからです。個人投資家でも、銘柄選びで大きな間違いをせず、相場に居続ければ、長期的には資産を増やすことができます。
ただ、この「相場に居続ける」というのは、容易なことではありません。今回のように、市場ではたまに予告なしに暴風が吹き荒れるからです。
筆者が投資デビューした直後にバブルが崩壊し、最初に買った紙パルプ株が5分の1になりました。ITバブルの時にはIT株が、コロナショックでは飲食チェーン株が、半値になりました。若い頃は暴落のたびに「株なんて懲り懲り。もうやめよう…」と思いました。
しかし、株が大好きだったこともあって、何とか粘って相場に居続けました。こうして、そんなに派手な勝利はありませんが、36年経ったら資産がかなり増えていました。
「損切り」は必要なのか?
こうした経験をしてきた筆者から見て疑問に思うのが、リスク管理のための「損切り」です。今回の暴落を受けて多くの専門家が、「いったん損切りして底値を確認してから入り直せ」とアドバイスしています。このアドバイスは、正しいのでしょうか。
たしかに、「買い値から2割下がったらいったん損切りする」といったルールを作り、逆指値の売り注文を出しておけば、資産が大きく減るリスクを避けることができます。大手運用機関には必ず損切りルールがあり、ファンドマネジャーは厳格に順守しています。
個人投資家でも、短期投資をしているなら、損切りルールを設定し、守るべきです。とくに信用取引をしている場合、損切りルールを徹底しないと、今回のような暴落相場で大きな損失が出て、一発退場に追い込まれてしまいます。
損切りしてはいけない人の特徴
では、投資信託の積立投資や個別株の長期投資をしている大多数の個人投資家は、どうでしょうか。
まず、積立投資の場合、絶対に損切りをしてはいけません。「資産残高=保有株数×株価」。株価が下落したときは、むしろ保有株数を大きく増やすチャンスです。相場の変動に関係なく定額を積み立てるか、逆に投資額を増やしたいところです。
個別株の長期投資の場合も、基本は損切りをしません。損切り自体は問題ありませんが、その後の「底値を確認してから入り直す」というのが至難の業だからです。
1000円で買った株が2割下がって800円になったとします。「買い値から2割下がったら損切りする」という自分ルールがあったら、ここで損切りします。その後、どこまで下がっても、損失は200円(=売り値800円-買い値1000円)です。リスク管理としては大正解です。
ただし、「底値を確認して」といっても、どこが底値だったかは後になってわかることで、渦中ではプロでもわかりません。仮に600円になり、「そろそろ底値かな」と思っても、「さらに下げるのでは?」という恐怖感があり、なかなか売り値より低い価格で買うことができません。
そうこうしている内に、株価が回復し、損切りした800円を上回り、仮に1000円まで戻したとします。すると今度は「800円で損切りしてしまった…」と、損切りが結果的に判断ミスだったことを認めたくないという心理が働きます。そのため、1000円で買うことを躊躇します。
つまり、いったん損切りすることはできますが、その後下がっても上がってもなかなか市場に「入り直す」ことはできません。結果的に多くの個人投資家が、暴落をきっかけに相場から離れて、戻ってこないのです。相場から離れてしまったら、絶対に大きな資産を築くことはできません。
日本で起きたのは「パニック売り」
今回の暴落は、日銀の利上げもさることながら、アメリカの景気後退懸念が強く意識されました。ところが、日経平均が12.4%の下落を記録したのに、震源地アメリカのダウは同じ日2.6%の下落にとどまりました。
日本で起きたのは、典型的な「パニック売り(投げ売り)」です。7月11日に史上最高値を付けた日経平均が下落に転じ、投資家が売りに回り、日米の悪材料で慌てふためいて「逃げ遅れるな」と売りが売りを呼び、歴史的な下げになりました。そして暴落の翌日(8月6日)には3217円高と、今度は一転して史上最大の上げ幅を記録しました。
経済の実態や企業の業績予想が2日間でそんなに大きく変わるはずがありません。この2日間の記録に残る乱高下は、多くの投資家がすっかり冷静さを失っていたことを意味します。
株式市場では、よく「強欲と恐怖」と言われます。強欲とは、たとえば年初のように相場が勢いよく上がっているとき、「自分だけ儲けていないのは納得できない」「バスに乗り遅れるな」と慌てて買うことです。恐怖とは、今回のようなパニック売りです。
他人が買うのを見て「強欲」で買うと、高値で掴んでしまいます。他人が売るのを見て「恐怖」で売ると、安値で手放すことになります。株は安く買って高く売れば儲かりますが、「強欲と恐怖」でその逆をやってしまうわけです。これでは、資産が増えるはずがありません。
株式投資で大きな資産を築きたかったら、「強欲と恐怖」に支配されてはいけません。相場が上がっているときも今回のように下がっているときも、自分なりの分析と方針に従って淡々と売買するべきです。
「自分の感情をコントロールする自信がない」という個人投資家はどうすればいいでしょうか。そういう人は個別株投資をあきらめて、投資信託の積立投資に注力するのが得策です。積立投資でも若い頃から長く続ければ、億り人になるのは難しくありません。
新NISAを機に投資家デビューした初心者にとって、今回の暴落は、初めての本格的な試練でしょう。ただ、打ちひしがれるのではなく、自分の投資スタイルを見つめ直すきっかけにし、長期的に資産を築いて欲しいものです。
(日沖 健)
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