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《東京女子医大“理事長解任”を決定》封印された内部告発「カネに強い執着心」「異論に報復人事」第三者委員会が暴いた女帝の正体「破壊された医療現場を死守する医師の矜持」

文春オンライン / 2024年8月8日 17時5分

《東京女子医大“理事長解任”を決定》封印された内部告発「カネに強い執着心」「異論に報復人事」第三者委員会が暴いた女帝の正体「破壊された医療現場を死守する医師の矜持」

第三者委員会の記者会見(8月2日、東京女子医大・弥生記念講堂)

〈 「解体的出直しをはかる」“東京女子医大の闇”女帝・岩本絹子氏の理事長退任が確定的に!「7日に臨時理事会が開催され、理事長辞職を勧告予定」 〉から続く

 7日に開かれた東京女子医科大学の臨時理事会で、岩本絹子氏(77)が理事長を解任された。最後まで辞任を拒否した女帝は、約5億円かけて改装した理事長室の立ち入りを禁じられ、“赤い巨塔”から追放されたのである。

 関係者によると、一連の不正行為で巨額の損失を受けた女子医大は、損害賠償請求と被害届を出す検討に入るという。

「ターニングポイントは文春報道。不正なカネの具体的な疑義を示しているのに客観的な調査をせず、疑いの当事者である理事長・岩本絹子氏らの主張を、大学の言い分として教職員、保護者、文科省に説明した。これはとんでもないこと」

 一連の疑惑やガバナンスの調査を行った、第三者委員会の竹内朗弁護士はこう指摘した。高度医療に定評があった女子医大病院を、徹底的に破壊した女帝とは、何者だったのか?

 そして、不正の内部告発を生かさなかった人物の告白とは──。

 ◆◆◆

女帝を退任に追い込んだ第三者委員会の報告書

 現在77歳の岩本氏は、1973年に東京女子医大を卒業。8年後、東京・江戸川区で同級生A氏と共同で産婦人科医院を開業した。

 今年3月29日、警視庁捜査二課が特別背任容疑で、岩本氏の自宅など関係先に一斉家宅捜索を行なった。家宅捜索が続く午後6時30分頃、黒のワゴン車に小柄な女性が乗り込んだ。フードを目深に下ろして顔は見えない。

 待機していた報道カメラマンたちが、一斉にワゴン車に駆け寄って取り囲む。女性はフードを少し上げ、窓ガラスに並んだカメラのレンズを見回した。メガネの奥に光る、ギョロリとした大きな目。東京女子医大の女帝といわれる、岩本氏だった。

 文部科学省はこの家宅捜索を重視して、一連の不正行為やガバナンスについて、独立した調査を行う第三者委員会の設置を東京女子医大に指導する。

 第三者委員会には、去年まで検察ナンバー2だった山上秀明弁護士ら4人が選任された。これに合計20人の弁護士と、58人の公認会計士などが加わり、4月10日から女子医大関係者や取引先などの調査を開始。岩本氏のヒヤリングは延べ5回にわたったという。

 そして8月2日、全247ページの調査報告書を公表、岩本氏を中心にした、不正な資金の流れを解明して、その責任を厳しく指摘した。

「岩本氏は、副理事長となって経営統括理事となったその瞬間から、資金の不正支出・利益相反行為の疑義を生ぜしめる行為に手を染めていたことになる。(中略)金銭に対する強い執着心と、本法人に対する忠実性の欠如を見て取ることができる」(調査報告書P236)

「不正に資金を還流させた」と認定

 週刊文春が岩本氏らの“疑惑のカネ”を報道したのは、2022年4月。同年7月からは文春オンラインで、側近らを交えた不透明なカネの流れを追及してきた。( #1 、 #2 、 #3 、 #18 、 週刊文春電子版「疑惑のダミー会社と女帝をつなぐ『第三の女』と白ベンツ」など ) 

 岩本氏らは文春報道について“フェイクニュースである”と強弁。形ばかりの調査を行い、教職員に配布した文書で、このように主張していた。

「記事で指摘された点は違法・不当なものではないとのことであり、既に執筆した記者等に対して厳重に抗議しておりますが、今後然るべき法的措置を講じる所存です」(令和4年6月10日付)

 疑惑の一つは、岩本氏が会長を兼任する同窓会の至誠会から、女子医大に職員を出向させたとして給与を架空請求していた疑いである。

 岩本氏は、女子医大の副理事長に就任した翌2015年、人事課、経理課、購買・管財課、建築設計室を管理する「経営統括部」を新設して、自ら担当理事に就き経営の実権を握る。その経営統括部に至誠会から職員を出向させ、女子医大が給与を負担していた。だが、業務実態はほとんどなかった。

 第三者委員会の調査によると、総額約2.5億円(2015年1月~2020年6月)の給与は、専用の管理口座にプールされて、2021年3月には岩本氏の側近X(報告書ではE)や、側近Y(同F)らに各1000万円が支給されていた。この疑惑について、第三者委員会では次のように認定している。

「岩本氏は、本法人の理事長(副理事長)と至誠会の代表理事を兼任するという立場を利用し、本法人経営統括部で勤務していた者に対して、 至誠会という自身が大きな影響力を及ぼしていた存在を道具として不正に資金を還流させたものと認められる」(調査報告書P54)

封印された内部告発

 私立学校法では、「監事」に学校法人のガバナンスを監視する責任を定めている。実は2019年に、当時の評議員だった女子医大OGが、前述した出向職員の架空請求疑惑について、監事の一人に内部告発をしていたことが、取材で新たに判明した。

「至誠会の職員から『出向職員として自分の名前が使われている』という相談を受けました。それで2019年7月25日に、新宿のホテルのラウンジで監事の1人と会い、架空請求が行われている可能性が高いと話して、調査を依頼しました。

 しかし何も調査はされず、監事からは『私たちがすべきことは冷静に岩本先生を支えることです。メールはこれを最後にさせていただきます』というメッセージが届きました。その時に内部告発は揉み消された、と思いました」(元評議員の医師)

 この監事は、岩本氏と女子医大の同級生で、現在は同大の名誉教授の肩書を持つ。

 2019年に内部告発を受けた時、どのように対応したのか、話を聞いた。

「その頃、新宿のバーで会ってお話しはしました。ただ、内部告発と言える内容だったか……。申し訳ありませんが、はっきり覚えていません」

───その頃は、岩本氏を信じていた?

「私は同級生として、彼女を守るつもりでいたので、絶対的に信頼していたんです。吉岡家(創立者一族)でもあるし。岩本さんの悪口を聞くと、『いや、彼女はそんな人じゃないから。本当はいい人だよ、優しい人だよ』と庇っていました」

――創立者一族だから特別扱い?

「そうです。彼女は学生の頃から、自分は吉岡家だというプライドがあって、『私は吉岡家だから、この大学を守っていく義務がある』みたいな感じで言っていました」

──他に内部告発は?

「文書が届きましたが、信じられなかったんです。まさかと思って。それをY(岩本氏の側近)に『書いてあることは本当?』と言って渡したら、調べてみますと。そして『全部嘘でした』という返事をくれました。今思うと、犯人に証拠を渡したようなものです」

――調査報告書を読んでどう感じた?

「監事として責任を非常に感じています。ただ、知る術がないわけです。彼女は裏で全部やっていたわけだし、もちろん理事会にも出さない。(疑惑のカネは)文春の記事で分かったくらいです。本当にびっくりしましたけど」

 岩本氏に対する内部告発を側近に渡せば、どのような結果になるのか、予想はつくはずだ。同級生や創立者一族という理由で「守る」というのであれば、監事としての職責を放棄していたことに等しい。

「給与の二重払い」と特別背任容疑

 至誠会の出向契約は、2020年1月に元宝塚トップスター・彩輝なお氏の親族が経営するケネス&セルジオ社との業務委託契約に切り替えられた。岩本氏は無名時代から彩輝氏の大ファンで、理事長就任のパーティでは花束の贈呈を受けている間柄である。

 女子医大との業務委託契約は月額350万円。そのうち側近Xは月額給与200万円、側近Yは50万円、その他にXらの飲食等にケネス社名義のクレジットカードで月額70万円が用意された。マージンとしてケネス社に支払われたのは、月額30万円のみ。

 その後、岩本氏の専属運転手である甥の人件費として、女子医大は月額60万円を同社に追加で支払っていた。費用総額は3年間で1億円超。週刊文春が「利益相反の疑いがある」として報道すると、ケネス社の意向で業務委託契約はすぐに解除された。(※すべて税別の金額)

 文春報道を受けて、女子医大は文科省に対し、「助言を受けた実績があることを踏まえ、ケネス社を選定した」などと報告していた。しかし、同社と女子医大にそれまで取引実績はなく、“虚偽報告”だったと第三者委員会は指摘、側近XとYが、同社と至誠会から同時に給与を得ていたことは、「給与の二重払い」だと認定した。警視庁が捜査している、特別背任容疑が成立する可能性が高い。

 また、岩本氏が経営していた産婦人科病院の女性従業員Z(報告書ではO)が、業務実態のないダミー会社の社長を務め、女子医大の受注業者からキックバックを受けた疑惑もある。( 週刊文春電子版オリジナル「疑惑のダミー会社と女帝をつなぐ『第三の女』と白ベンツ」 )

 岩本氏が女子医大の実権を握った2015年から、大型施設のスクラップ&ビルドが相次いだ。

 その際、側近Xが解体業者や不動産会社、設計事務所などに働きかけ、Zのダミー会社と多額のコンサルタント契約を結ばせていた。解体業者との契約だけでも1億円を超す。

 この疑惑について、第三者委員会は厳しく批判した。

「E氏(側近X)の行為は、職務上の地位を悪用して狡猾。 岩本氏はヒアリングにおいて『知らなかった』旨を述べたが、一連の還流に岩本氏が全く関与していなかったとは認めがたく、仮に岩本氏が知らなかったとしても、経営統括理事であった岩本氏には重大な管理責任が認められる」(調査報告書P76より要約)

経営危機を招いた「高度医療に対する関心の薄さ」

 現在、女子医大病院は病床稼働率が約5割と、危機的な経営が続く。

 海外から専門医を招聘するなど、苦労の末に立ち上げた小児集中治療室(PICU)について、岩本氏は収益性や専門医の給与額を理由に、わずか半年で解体した。これが引き金となって、成人の集中治療室も機能停止となり、臓器移植がストップ。医療ミスによる死亡事故も発生するなど、医療安全の体制が崩壊してしまった。

 第三者委員会は、岩本氏について「大学病院という高度医療機関において臨床に携わった経験も実績も乏しく、本病院がPICUなど高度医療施設を備えて、患者や地域医療に貢献しようとすることに対する理解も関心も薄かった」と指摘。

 5日に行われた、女子医大の教職員に向けた説明会で、副委員長の竹内弁護士は次のように補足した。

「PICU について、医療安全の確立とか、中長期的な業績の向上、医療現場の士気向上よりも、目先の儲かる、儲からないという話に経営判断が間違ってしまった。

 岩本氏がやってきた経営は、一言で言うと人件費のカット。それによって、現場が大きく疲弊した。人的資源を破壊し、組織の持続可能性を危機にさらす財務施策が、現在のような窮状に追い込んだものであり、経営責任は極めて重い」

多くの教職員の前で失脚した女帝

「この度は世間をお騒がせしてしまい、大変申し訳なく思い、本日は理事一同のお詫びということで参集いたしました。誠に申し訳ありませんでした」

 ステージの上に立った理事長の岩本氏は、一応の謝罪を述べると頭を下げた。一人を除き勢揃いした理事と監事もそれに続く。

 8月5日午後6時過ぎ、850人収容の東京女子医大・弥生記念講堂は、集まった教職員でほぼ満席。第三者委員会の調査報告書を受けて、岩本氏ら経営陣の進退に関心が集まっていた。

「厳しい内容でございますが、真摯に受け止めて改善していくことをお約束いたします。しかしながら弁護士に伺いましたところ、(調査報告書には)事実と多少違うところもあるし、このまま全てを(受け入れるのは)女子医大のイメージが非常に悪い。学生や職員のために、内容を一旦検証、精査して、私や理事監事の辞任も含めて検討させていただきたい」

 会場がどよめいた。第三者委員会の指摘を受けても岩本氏は何も反省せず、理事長の座に残る意向を示したのである。だが、この発言を受けてすぐにマイクを握った人がいた。

「すみません、理事の石黒からですが、理事長先生がおっしゃった内容は、理事・監事全員の総意ではございません」

 続いて立った肥塚直美常務理事(病院長を兼務)は、第三者委員会の調査報告書が公開された翌3日、岩本氏を除き、理事と監事が集まったことを明かした。協議の結果、岩本氏には理事長を辞職してもらうことが妥当、理事たちも経営責任を明確にするため、全員辞職することになったという。

 そして、石黒直子理事が岩本氏の発言を改めて否定した。

「調査報告書に更なる検討を立ち上げることは、いたしません。しっかり第三者委員会に検討を行っていただきましたので、これに則って我々はやっていく。ご賛同の理事・監事の先生は、立っていただけますか」

 促されて、ステージ上にいた理事と監事の全員が立ち上がった。女子医大を支配してきた岩本氏に、役員たちが反旗を翻した瞬間である。

 この時、岩本氏は憮然とした表情を浮かべた。側近中の側近として、これまで最も積極的に岩本氏を擁護してきた石黒理事に裏切られ、命運は尽きた。  

 たとえ自ら辞任しなくても、女子医大の規約では、役員の過半数の同意で理事長職を解任することは可能なので、岩本氏の失脚はこの時に確定したのである。

患者を守る若き女医の静かな怒り

 質疑応答では、一人の女子医大OGの医師が、こんな問いを投げかけた。

「私は循環器内科で 10 年目のスタッフです。赤ちゃんの頃に女子医大で先天性の心臓疾患手術を受けて、ずっとここに通って死ぬ時もここがいいという患者さんの主治医をしています。だから、あなた方に責任を問う必要がある。

 理事長のお金の問題だけじゃなく、この数年に女子医大の内部で起きたことについて、説明があまりに足らないというのが今の感想です」

 これに岩本氏は相変わらずの持論を述べた。

「調査報告書では全部、ダメダメダメって書いてあるわけですよね。しかも推測で書いてあるとこもありまして。これを受け入れたら、特に学生さんたちが可哀想だ、という声も上がっております。(報告書を)全部のんだら、本当に女子医大ってどういう学校だって話になります」

「この数年、理事長と学長が代わってから、ポリクリ(医学生の臨床実習)に回ってくる学生は、『学校が楽しくない』と言っています。 学生が可哀想というのは、こっちの台詞ですよ。こんな混乱を招いて、学生に面と向かって説明したことはありますか」(前出・循環器内科の女医)

「学生に関して、私はよく分かりませんが……」(岩本氏)

 他人事のような回答に、会場からは失笑がもれる。この日も岩本氏は最後まで、辞任するとは明言しなかった。

イバラの道の先にある東京女子医大の未来

 第三者委員会の報告書の中には、呆れるようなことも記載されていた。

 岩本氏は、至誠会の会長を去年解任されるまで、自らに対して至誠会から中元と歳暮として3万円分の商品券を贈らせていたのである。

 コロナ禍だった2020年の夏、女子医大は職員のボーナスカットを宣言して、社会の大きな批判を浴びた。その後、ボーナス支給に方針を転換したが、前年のほぼ半分の1ヶ月分でしかない。

 女子医大の教職員は、この10年ほど給与のベースアップはほとんどない。しかし、今回の調査で岩本氏の報酬だけは、2015年当時の約1800万円から、2023年に約3200万円と72%も増加させていたことが分かった。岩本氏の報酬額を上げたのは「本人の判断」と関係者は証言している。

 また、報告書にはこんな記述もある。

「(岩本氏は)自身の考えとは異なる意見を述べる者に対しては、自身の権力基盤を脅かす存在として敵視し、組織から排除することを繰り返し行った。それまでどんなに気心が知れている間柄であっても、一度異論を述べた者を突如として敵視し、(中略)報復と疑われる不適切な人事措置を講じてまで、組織から排除した」(調査報告書P236)

 週刊文春が2022年に報道した“疑惑のカネ”をめぐって、取材に協力したとして2人の事務職員が、この報復的な人事措置によって懲戒解雇の処分を受けた。同様に合理性を欠いた理由で懲戒処分を連発することで、岩本氏は恐怖政治による支配を続けてきたのである。

 私たちが長期間にわたって「東京女子医大の闇」の連載を続け、女帝らの問題を追及してきたのは、この大学病院を必要とする患者が数多く存在するからだ。高度医療は一朝一夕に実現しない。

 そして惨憺たる診療現場に踏みとどまり、患者を守り続けている医療スタッフがいる以上、スラップ訴訟を受けても引き下がるつもりはなかった。

 女帝が退場しても、医療スタッフの確保や財政の立て直しなど、女子医大にはイバラの道が続く。

 これから先も、私たちはしっかり見守り続けるつもりだ。

(岩澤 倫彦,「週刊文春」編集部/週刊文春Webオリジナル)

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