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《真珠湾攻撃》立案者が語った意義…「真珠湾作戦をやらなくても、結局アメリカ国民は結束した」「やらなければ、1月中旬には日本本土が空襲されていた」

文春オンライン / 2024年8月14日 6時0分

《真珠湾攻撃》立案者が語った意義…「真珠湾作戦をやらなくても、結局アメリカ国民は結束した」「やらなければ、1月中旬には日本本土が空襲されていた」

©️iStock.com

〈 《真珠湾攻撃》元参謀が語った12月8日の朝。「ちょっと行ってくるよ」…総指揮官は隣りにタバコか酒でも買いに行くように、出撃していった 〉から続く

 1941年12月8日、太平洋戦争のきっかけとなった「真珠湾攻撃」。山本五十六・連合艦隊司令長官の密命を帯びて、作戦実施計画立案の中心的役割を担ったのが、第一航空艦隊参謀だった源田実氏である。

 源田氏は戦後『 真珠湾作戦回顧録 』を著し、世界戦争史でもまれに見る大奇襲作戦の全貌を後世に遺した。本書から一部抜粋して、真珠湾攻撃の政治的、戦略的評価を紹介した記事を配信する。(全2回の2回目/前編を読む)

 ◆◆◆​​

日本側の機械暗号が既に解読されていた

 一般的に真珠湾攻撃は、戦術的には大成功であったが、政治的、戦略的にはむしろ大きな失敗であったという評価がなされている。結果から直線的な、単次元的な批判を行なうとすれば、そういうこともいえるであろう。まず政治的な評価であるが、最後通牒が攻撃後に手渡されたことは、何としても大きな失敗であった。しかもこれが、わが方の暗号翻訳に手間取ったためとあっては、何をか言わんやというところである。ともかくも、あの切迫した時局を迎え、いかなる暗号も一分一秒を争って、翻訳を完了するだけの態勢を整えておかなければならない。そうでなくても、アメリカ側で意地悪く取り計らうならば、開戦後に最後通牒を受け取るような手はずは十分にできたはずである。日本側の機械暗号が既に解読されていて、こちらはそれを知らなかったのであるから、これらはまことにうかつ千万であったといわなければならない。

 暗号解読のみならず、牒報組織やその技術において、日本はアメリカよりはるかに遅れていた。ワシントン会議においても、わが方は煮え湯を飲まされたし、山本連合艦隊司令長官が、18年4月18日、ソロモン群島上空で敵戦闘機の待伏せをくって戦死したのも、暗号をいち早く解読されたからである。この時、筆者は軍令部第一課に勤務していたが、敵がP‒38戦闘機24機も使用し、しかもそれが、山本長官搭乗機の予定航路上に占位していたことから、暗号が破れているのではないかという疑問をもち海軍の関係当局にただしたのであるが、

「絶対に破れていない」

 という返事であった。

 ともかく、暗号が既に破られているのを気付かないでいるくらい危険なことはない。

 日本の最後通牒の手交が遅れたことは、アメリカの国論をルーズベルトの戦争指導方針に合致させるために、大いに役立ったことは事実であろう。しかし、最後通牒の手交が遅れなかったならば、アメリカの国論が統一されなかったかというと、決してそうはいくまい。若干の時間的ずれはあったかもしれないが、いずれは統一されて、膨大な国力を総動員するに至ったであろうことは、少しも疑う余地はない。

軍と国民の戦意を喪失せしむるという企図

 山本長官の企図は、当初の痛撃によってアメリカ軍隊のみならず、その国民の戦意を喪失せしむるにあったことは、山本長官から嶋田海軍大臣あての手紙にもそれとうかがわれることが記載してある。しかしこの点に関する限り、山本元帥ほどの人も、アメリカの底力を下算していたのではないかと思われる。4年間の戦争を通じて、アメリカが発揮した力には驚くべきものがあった。アメリカの戦力を最も高く評価した山本元帥にして然りである。そのほかの人々の評価は推して知るべしである。

 要するに政治的には、真珠湾攻撃の効果は、戦局の大勢を支配するほどのものではなかったということができるであろう。

 日本海軍軍令部の作戦当事者、第一航空艦隊司令長官その他幕僚の大部は、ハワイ作戦に反対であったことは既述したとおりである。その他、この作戦企図に 双手を挙げて賛意を表わした人は、幕僚級には数人いたと思うが、将官級では山口多聞少将くらいのものではなかったであろうか。

ハワイ攻撃をやらなかったならば

 では、もしこの作戦をやらなかったとして、南方資源地帯の攻略作戦が順当に運んだかどうか、これは非常に疑問である。あれほどの打撃をこうむりながら、昭和17年2月1日には、アメリカの機動部隊はマーシャル、ギルバート群島に来襲し、同月24日にはウェーキ島に来襲している。アメリカ艦隊の主力がハワイ方面に位置することは、戦略的には立ち上がりの姿勢にあることである。猛獣にたとえるならば、跳躍直前の姿勢である。

 もし、ハワイ攻撃をやらなかったならば、アメリカは当時国論が分裂していたのであるから、その統一に時間を要し、作戦行動もてまどったであろうという論もあるが、たとえハワイ攻撃はやらなくても、フィリピンやグアム島の攻略作戦をやらないわけにはいかないであろう。アメリカやイギリスの門前を素通りして、宝庫たる蘭印だけを手に入れるなどという虫のいい戦争はできないのである。フィリピンやグアム島の攻撃は、やはりアメリカ国民を結束させることになるのである。

 そうすれば、2月1日に南洋群島の東端に来襲した敵機動部隊とは比較にならない強力な艦隊が、12月中、おそくも1月中旬までには、わが南洋群島はもちろん本土に対する空襲を行なったであろう。このことはわが連合艦隊の大部は、南方作戦の支援を打ち切り、アメリカ艦隊の邀撃配備につかなければならないことを意味するのであって、南方資源地帯を占領することすらできなかったであろう。

 やはりハワイ作戦は、戦略的には不可欠のものであったということができよう。

 この作戦は、戦術的には一応成功であった。ただ、航空母艦2隻 (エンタープライズ、レキシントン) を討ちもらしたことは、アメリカにとっては幸運であったが、わが方にとっては全くの不運であった。死児の齢を数えるようなものであるが、この2隻が在泊していたか、そうでなくてもわが索敵圏内にいたならば、防御力の薄弱な空母であるから、再起できないほどの打撃を与えることができたであろう。その後の戦局には大きく影響し、ミッドウェー攻略も成功したかもしれない。

 では戦争の勝敗に影響したかというと、そうはいかなかったであろう。戦争の中期以降、出現した敵の大兵力は、ここで空母の1隻や2隻を失ったところで、どうにもなるものではなかった。

二次攻撃の意見具申はなかった

 第二撃をやらなかった件について、アメリカ側でも日本側でも大きな批判がある。あれほどの戦果を挙げたのであるから、第二撃を行なって戦果を拡充するのは、兵術家ならばだれでも考えるところである。では、果たして第二撃はできたであろうか。

 当日、第二次攻撃隊の最後の飛行機が着艦したのは、午前10時近くであって、日没前3時間である。第一次、第二次攻撃隊は、着艦する順序に対艦船攻撃に備え、攻撃機は全機雷装、爆撃機は通常爆弾を装備していた。これらを陸上攻撃用に兵装を転換し、集団攻撃を行なうとすれば、発艦時刻は早くて12時ごろになり、夜間攻撃、夜間収容となることは必定であった。作戦海面の天候は、風速13~15メートル、うねりは大きく、雲量は5~7、母艦は最大15度のローリングをしていた。この天候は平時ならば、演習中止になるところである。

 この状況で、十分な成果を期待し得る攻撃を行なうためには、大攻撃隊を使用しなけばならない。あの海面で、大攻撃隊の夜間収容を行なったとすれば、練度の高い部隊ではあったが、その混乱は想像に余るものがあり、相当の損失を覚悟しなければならなかった。

 敵の航空母艦が少なくとも2隻、ハワイ近海にいることはわかっていたが、その所在はつかめないままに二次攻撃を行ない、夜間収容のために飛行甲板に点灯しているとき、敵母艦機の攻撃でも受けたならば、南雲長官は兵術を知らざるものとして、一世の笑い者にされたことであろう。

 以上の見地から、いったん北上し、敵の基地飛行機の威力圏外から敵空母を捜索し、もし発見したならば、これを攻撃しようと決心した南雲中将の判断は正しかったといえよう。(翌日、広範囲の索敵を行なったが、敵空母を発見することはできなかった)

 もし第二撃を行なうとなれば、9日の早朝であるが、これも敵空母の所在を確認しないままに行なうことはできなかった。

 なお、プランゲ博士著『トラトラトラ』その他に、赤城艦橋における二次攻撃に関する意見具申が取り上げられ、激烈な論議が交わされたようになっているが、筆者は開戦8時間前から4日間、不眠不休で艦橋につめていたのであるが、そんな事実は全然なかったことを付記しておく。もちろん筆者は意見具申は全然やっていない。攻撃前日まで長官に、二次攻撃の必要性を具申し、命令には「戦果が大いに挙がったとき、戦果が足らないとき」ともに二次攻撃を行なうようになっていたが、それはただそれだけのことで、長官には二次攻撃の意志はなかったようである。

 後日、草鹿参謀長から聞いたところでは、長官と参謀長は、初めから「二次攻撃はやらない」と決めていたとのことである。

(源田 實/文春文庫)

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