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「撮影のときだけスタッフをかき集めている」“手厚い介護”も“豪華な食事”もすべてウソ…人手不足をごまかす「兵庫県の高級老人ホーム」の悪質実態

文春オンライン / 2024年8月15日 7時0分

「撮影のときだけスタッフをかき集めている」“手厚い介護”も“豪華な食事”もすべてウソ…人手不足をごまかす「兵庫県の高級老人ホーム」の悪質実態

人手不足をごまかす「兵庫県の高級老人ホーム」の悪質実態とは? 写真はイメージ ©getty

 関西の富裕層をターゲットとした、テレビでも施設の“高級感”を押し出して度々取り上げられている老人ホーム「真理の丘」(仮名)。著名な料理人が監修しているレストランや、多彩なアクティビティを“売り”にしているが、関係者に話を聞くとその裏では「多くの嘘や不正」が横行していた…。「監査前にシフト表を改ざん」などの悪質実態を、ノンフィクションライターの甚野博則氏の最新刊 『ルポ 超高級老人ホーム』 (ダイヤモンド社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編を読む )

◆◆◆

反発したスタッフを激詰め

 真理の丘は約80室の規模がある入居型の老人ホームだ。ケアハウスとも呼ばれている。この建物と隣接するかたちで別棟があり、同じく約80床あるユニット型の特別養護老人ホームやデイサービスも運営している。ユニット型とは、ダイニングなどの大きな共用スペースの周りを取り囲むように居室が配置されている構造のこと。真理の丘の居室は全て個室で、室内にはベッドと洗面台、トイレが設置されているという。

 外観は西洋風の建物で、海と山に囲まれ、自然に恵まれた立地だ。パンフレットを見ると、「手厚い人員配置」と記されていた。通常3名の入居者に対して介護職員が1名という、介護保険法で定められた基準を上回り、入居者2名に対して介護職員1名が付く手厚い体制だということをアピールしている。

 ところが現役スタッフの赤山照子さん(仮名)は「それはウソやね」と一蹴する。

「以前、テレビで取り上げられたときは、入居者さん一人に何人もスタッフが付いているかのように映っていました。撮影のときだけスタッフをかき集めているんですよ。現実は、人が全然足りてません。ある女性スタッフが、身体の大きな入居者さんの入浴介助をしたときのこと。一人だと事故が起きたら大変なので、別のスタッフに介助を手伝ってもらったそうです。すると、それを知った上司が、その女性スタッフを怒鳴りつけていましたよ。人が足らんのやから一人でやれって」

 その上司は、「今後入居者がさらに増えたら、業務量も増えていくのにあなたは一人で入浴介助もできないってことですね」と、このスタッフに詰め寄ったという。

 入居者のことより、自分たちの仕事の効率が優先され、まともな職員はどんどん辞めていく。そして、いつも人が足りていないのだと赤山さんは嘆く。

 彼女の話では、介護スタッフだけでなく一時は清掃スタッフが全員辞めてしまい、清掃作業が行われない状態が続いたこともあるそうだ。

 もっとも、テレビクルーが撮影している間、他の入居者に手が回っていないことを考えれば、施設は入居者よりも宣伝活動を優先しているとも言えるのである。

監査前にシフト表を改ざん

 人手不足を嘆くのは、赤山さんだけではない。真理の丘元スタッフの小泉陽子さん(仮名)は、当時のことをこう回想する。

「『ここは人が少ないわね』って入居者さんに言われたこともあります。ただでさえ介護士が足りないのに、時間を厳守するようよく言われます。例えばお風呂。早めにお風呂に入れるんやったら入れてあげたほうがええのに、上層部は、それだと人間の生活リズムがおかしくなるって言うんです。だから入浴介助の時間が集中して、めちゃくちゃ忙しくなってくるんです。あるとき、人を増やさないのかと上司に聞いてみると、『数字上は合ってるの!』と言い返されたことがありました」

 数字上は合っているとは、前出の介護保険法で定められた介護職員の人員配置基準を満たしていることを意味するという。ところが、実際には満たすどころか、帳尻を合わせただけの“偽装工作”をしていると小泉さんは説明する。

「私の上司が、『こんなんさせられてんねん』とぼやいていたことがありました。近く市の監査が入るために、昔のシフト表を書き換える作業をしていたのです。書類上の人数を増やして人員配置基準を満たしてるとウソの書類を作っていたんですね。真理の丘は、表面だけよく見せようとして、中身は空っぽです。ある日、認知症の方が汚らしい服装をしてたとき、上司が『〇〇さん、今日家族の面会予約入ってるから、急いで服着替えさせて!』と声を張り上げていた。そういうことは、しょっちゅうです。ご家族にも、施設の実態を気付かれないようにしているんです」

 さらに小泉さんも、赤山さん同様、清掃スタッフについてこう証言した。

「清掃の人、半月くらい誰も来なかったですね。『最近掃除来ないね』って言う入居者さんもいて、気付く人は気付いてるんですけどね」

 実は、介護職員の人員配置基準の数をごまかしている施設は他にも例がある。以前取材をした別の施設では、清掃スタッフを介護職員としてカウントしており、書類上の帳尻を合わせることを日常的に行っていた。

 行政の監査といっても書類にしか目を通さない場合が多いため、容易に数字をごまかせるという。内部告発でもなければ行政は不正に気付けないのが実態なのである。

「自由なんてどこにあるんや」

 では、充実しているとされるアクティビティーはどうか。私の手元には2023年の「アクティビティー予定表」がある。それによると、毎日何かしらのアクティビティーやイベントが行われていると記載されていた。

 例えば「座ってジャズダンス」「ビンゴ大会」「ドミノ倒しチャレンジ」「もの遊びリレー」など内容も多岐にわたっている。だが、小泉さんはこう話す。

「真理の丘は“自由”なホームだと宣伝していますが、自由なんてどこにあるんやという感じです。アクティビティーに行きたくない入居者さんがいたとします。好きな内容じゃなければ参加したくないのは当たり前ですよね。行きたくないと言う入居者さんでも、私たちが強引に連れてこないと怒られるんです。それから上司は、参加している入居者さんの様子を、とにかく写真に撮れとうるさいんです。ネットに写真を載せて、やってますアピールをするためでしょう。ある入居者さんは、アクティビティーがつまらないから『部屋でテレビ見てたほうがましや』と、よく言ってましたよ」

 入居者の自由意志が尊重されているとは言い難い真理の丘。実は他にも、隠された問題が多く存在しているという。

〈 「調味料はカビだらけ」「デザートはみかん1房」さらにそれすらも“上回る問題”が…月額50万円「兵庫県の高級老人ホーム」の闇 〉へ続く

(甚野 博則/Webオリジナル(外部転載))

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