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ユニクロや無印なら2000円台なのに…なぜ、1万5000円超の“高級ポロシャツ”が売れるのか?

文春オンライン / 2024年8月23日 11時0分

ユニクロや無印なら2000円台なのに…なぜ、1万5000円超の“高級ポロシャツ”が売れるのか?

「クールビズ」という言葉はどこかへ行ってしまったが、ビジネススタイルのカジュアル化は依然として進んでいる。そんな中、どんどん需要が高まっている服が「ポロシャツ」だ。襟のついたニット素材のトップスは、Tシャツだとちょっとカジュアル過ぎ、かといってワイシャツだと堅いかも……といったときにちょうどよく、休日はもちろん、ビジネスウェアとしても重宝されている。

 では、数あるポロシャツの中で、高くてもどれがもっとも買う価値があるのか? 50年近くポロシャツを着続けてきた原宿キャシディのレジェンド店長、八木沢博幸さんに聞いた。(取材・構成/押条良太)

◆ ◆ ◆

ポロシャツのルーツはテニスウェア

――そもそもポロシャツってどんな服なのですか? 

八木沢博幸氏(以下、八木沢) 簡単にいうと、半袖の襟付きで、首元の前立てをボタンで留めるタイプのシャツのことです。英語での表記は「Polo Shirts」。その名前は英国の馬術競技に由来しますが、もともとは1927年にプロテニスプレイヤーのルネ・ラコステさんが考案したニット素材のウェアがルーツといわれています。

ポロシャツのオリジンといわれるラコステ

――実際にテニスの試合で使われていたのですか?

八木沢 1920年代のテニスプレイヤーは、ダブダブのワイシャツのような動きにくい服でプレーしていたそう。そこでルネ・ラコステさんはポロ競技のユニフォームに使われていたシャツをヒントにして、襟付きのポロシャツを作りました。ストレッチのきいたニット素材で、着丈も短くシルエットもすっきり。動きやすいウェアはすぐに話題になりました。

 ただ、当時のテニス界は服装に対する考え方が保守的で、「そんなにボディラインがはっきり出る服などけしからん!」と言われたそうですが、ルネ・ラコステさんは屈することなく、試合で着続けました。すると徐々にテニスプレイヤーたちの間に浸透していきました。

 ちなみにラコステといえば、左胸のワニマークのロゴが有名ですが、現在のポロシャツに多く見られるワンポイントのデザインはラコステが発祥といわれています。

日本ではアイビーブームをきっかけにブレイク

――優等生なイメージでしたが、もともとは反骨精神のある服だったんですね。でも、なぜテニスのユニフォームがカジュアルウェアに?

八木沢 アメリカのアイビーリーグやプレップスクールに通う学生たちがポロシャツを着始めたことがきっかけです。日本で広まったのは1950~60年代のアイビーブームの時。「メンズクラブ」などの雑誌で紹介されて、イケてるカジュアルウェアとして広まっていきました。

 私が初めてラコステのポロシャツを着たのは、たしか1970年代の終わり頃でした。ミドリヤ(原宿キャシディの親会社で、大井町にお店があった)に就職した頃で、当時はよくフレンチ・ラコステと呼ばれたフランス製のものをよく着ていました。

――ほかのブランドはなかったんですか?

八木沢 マンシングウェアやVANなんかも人気がありました。ただ、ラコステには何かこう、特別なオーラがあったんですよ。実際、値段も他のブランドより高かったですし。

――その「特別なオーラ」の正体が知りたいんです!

八木沢 では、原宿キャシディで扱っている「L.12.12」で説明しましょう。ラコステの代表作であるL.12.12は、ポロシャツのお手本であり、そして祖先でもあるモデルです。

 日本では「エル・イチニ・イチニ」と呼ばれていますが、正式な読み方は「エル・トゥウェルブ・トゥウェルブ」。LはラコステのLで、最初の1は鹿の子素材、次の2は半袖を指し、最後の12は試作品の番号を指しているとか。

サラッとした肌触りや伸縮性が特長

――一体、何がいいのですか?

八木沢 何といっても着心地がいい。ボディは「鹿の子」と呼ばれるコットン100%のニット生地でできています。サラッとした肌触りや伸縮性が特長です。

 特にL.12.12には自社製の鹿の子が使われていて、編み機の針の懐が深く、カーブが強いため、表面にくっきりとした凹凸が生まれます。これによって肌への接触が減ることで、汗をかいてもサラサラとした肌触りが持続するんです。

――原料となるコットン自体も特別なのですか?

八木沢 スーピマコットンという超長綿が使われています。コットンは繊維の長さが長いほど質が高くなるため、繊維長が35mmを超えるものをこう呼びます。世界に流通するコットンに占める割合はたったの1%ほどですから、いかに貴重なものかがわかるでしょう。

 さらにスーピマコットンの中でも、質によって等級があり、ラコステは最高ランクのものを使用しています。

キレイな状態が長続きするさまざまな工夫

――ただ、着心地が良くて、高級感のあるポロシャツなら、ほかにも探せばあると思うのですが。

八木沢 そうなんですよ。ただ、L.12.12が他の高級ポロシャツと違うのは、キレイな状態が長続きする点にあると思います。

 このL.12.12の鹿の子には、2本の糸を撚り合わせて1本にした双糸が使用されています。双糸を使用することで、単糸で編んだ鹿の子よりも強度や耐久性が向上するんです。 

 ほかにも、肩の裏側をオリジナルのテープで補強したり、独自の縫製で襟の立体感をキープしたり、さまざまな工夫が凝らされています。

 昔のモデルも、特殊な染料で染められた糸や形態安定加工によって、色褪せや型崩れがしにくいように作られていました。

 ちなみに私が持っている1980年代のL.12.12も、目立った色褪せや型崩れが見られません。

――ディテールにも特別な点はありますか?

八木沢 前立てのボタンです。L.12.12には高級ドレスシャツに使われる天然の貝ボタンが採用されています。また、ボディの色みによって、白蝶貝と黒蝶貝を使い分けているのもラコステのこだわり。

 細かい話ですが、上の前立ては、身頃から2mm程度横に出るように設計されているんです。こうすることで、一番上までボタンを閉めた際に体を動かしても、下の前立てが見えないんです。

フランスのレシピを受け継ぎ、日本の専門工場で生産

――生産国は日本なんですね。

八木沢 現行品はジャパンメイドで、秋田県にあるラコステの専門工場で生産されています。この工場には、ルネ・ラコステさんが作った本国フランス・トロワの工場のレシピが受け継がれていて、30もの工程がほとんど手作業で行われています。品質、雰囲気ともにフランス製に引けをとりません。

――おすすめの着こなし方はありますか?

八木沢 カーディガンやジャケットを羽織ってもいいですが、普通に着るだけでも十分カッコいいと思います。襟とボタン、そして胸のワニがアクセントになるので、一枚で着ても味気なくならないんです。

 また、一般的なポロシャツより格段に上品に見えるので、ビジネスウェアとしてもおすすめです。

 L.12.12さえあれば、朝、服装をあれこれ迷わなくていい。これがワニ・オーナーの特権だと思います。

英国王室御用達ブランドが作るニットポロ

――ほかにもうひとつ、原宿キャシディで長年取り扱っているポロシャツがあるとか。

八木沢 ジョン スメドレーのニットポロシャツです。1784年の創業以来、素材はもちろん、糸や編み方、仕上げに用いる水にまでこだわってきた英国を代表するニットブランドのひとつ。2013年には英国の女王陛下から、2021年には皇太子殿下(現国王チャールズ3世)から、ロイヤル・ワラント(王室御用達)の称号が授与されています。

――ニットブランドなのにポロシャツが有名なんですか?

八木沢 1930年代から現在まで作り続けられている定番の「ISIS」です。ボディはコットン100%のニット素材。「半袖ポロなのにニット素材?」と思われるかもしれませんが、夏場でも極上の着心地を味わうことができます。

繊維の宝石と呼ばれる希少なコットンを使用

――3万円台後半と値が張りますが、やはり特別な素材が使われているんですか?

八木沢 シーアイランドコットンです。もともとカリブ海の島々で栽培されていたコットンで、その量は全世界の綿供給量のほんの0.0004%ほど。

 一般的なコットンの繊維の長さが2cm程度であるのに対し、シーアイランドコットンは5cm以上もあります。そのため、肌触りがカシミアのようにしっとりとしていて軽く、さらに吸湿性や放湿性も兼ねそなえています。

 30ゲージのニットもジョン スメドレーの名物です。編み目の細かさを示す単位をゲージといい、数値が大きいほど目の詰まったニットになります。かなりの高密度に編み上げられたニットの肌触りはまるでシルクのようにしなやかです。

 軽くて肌触りが気持ちいいので、夏場でもヘビロテで着ています。高級なニットにもかかわらず、自宅で洗濯できるのもうれしいところ。

――シンプルなので、着こなしも簡単そうです。

八木沢 デザインはシンプルですが、やや襟先が長くて、襟の面積が大きい英国風の襟が上品なアクセントに。わかる人には、“ジョンスメ”だとわかるでしょう。

 ジャケットのインナーにしたり、同じニット素材のカーディガンを羽織ったりするのもおすすめ。ほどよくゆったりとしたイージーフィットも今の気分にぴったりです。

結論:高級ポロシャツを買う価値はあるか?

――では、高くても、高級ポロシャツを買う価値はありますか?

八木沢 画家であり、エッセイストでもある小林泰彦さんの本の中にこんな一節があります。

「ポロシャツが気持ちよい季節である。動きやすく、肌ざわりがよく、シンプルなデザインのポロシャツは、さわやかな季節にふさわしい。さわやかシャツのチャンピオンだと思う」(『正しいおしゃれ 男の定番図鑑:コート、ジャケットの着こなしから靴選びまで』主婦と生活社刊)

 私もそう思います。中でもL.12.12やISISは、とびきり上品で、着心地も最高なチャンピオンの中のチャンピオン。

 決して安くはありませんが、ずっと使えて、着回しもきくので、きっと元が取れると思います。

やぎさわ・ひろゆき/『原宿キャシディ』店長。アイビー&プレッピーファッションの生き字引。豊富な服飾知識を生かして、接客からバイイング、オリジナルブランドのデザインまでを手がける。誠実な接客を慕うファッション業界人も数知れず。お店の定休日と木曜日以外は店頭に立ち続ける。

http://www.cassidy.shop/

(押条 良太)

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