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「いい年かもしれませんが、まだ怒りの感情は忘れていない」息苦しい社会に染まらず、抗議の一石を投じる大人の映画館

文春オンライン / 2024年8月13日 6時0分

「いい年かもしれませんが、まだ怒りの感情は忘れていない」息苦しい社会に染まらず、抗議の一石を投じる大人の映画館

清潔で落ち着いたホール。 ©熊崎敬

〈 築50年風呂なし共同トイレのアパートの一室が映画館に…狭すぎる空間が産んだ他ではゼッタイ味わえない“圧倒的没入感” 〉から続く

 映画の上映を中心に、詩の朗読、講演会など多様な活動が行なわれるシネマハウス大塚。“自由な表現の場”を標榜する同館は、高校時代の同級生が集まった飲み会でのひと言から生まれた。

「還暦をすぎて時間ができたから、みんなで映画館をやりたいね」

 設立メンバー6人は、50年前の高校時代、大学紛争に影響を受けて自主映画製作グループを結成し、お仕着せの教育に反発した“同志”たち。そのひとり、テレビディレクターとして「報道ステーション」などの製作に携わった後藤和夫館長が設立の思いを語る。

「昨今は社会への不満を表現できる場が少なくなっていて、作品を作っても表現できる機会を持てない人もいる。そんな作り手に、自由な表現の場を提供したくて、シネマハウスを作ったんです」

 後藤さんたちはオープン記念に、学生時代もっとも刺激を受けた大島渚監督の作品を上映した。そのひとつ『東京战争戦後秘話』は、後藤さんなど同館の設立メンバーが高校時代に出演した作品だ。

「窮屈で無関心な社会を作ってしまった自分自身と同世代への悔恨、それがテーマです」

 後藤さんによると、開館当時に抱いた危機感は、より強まっているという。

「日本では格差が広がり、軍拡も進み、私がテレビ時代に関わったパレスチナでは虐殺が起きているのに多くの人が無関心でいる。こうした現実には絶望感さえ抱いています」

 しかし、後藤さんたちメンバーに歩みを止める気はない。

 20年にはパレスチナと関わった館長自らの個人史を映画化し、ゲストを招いて連日上映。評論家、四方田犬彦氏の講座など、独自の企画も徐々に固定客を増やしている。

「自分が撮った映画を自分の映画館で流すというのは、作り手冥利に尽きます」

 そう語る後藤さんは、次なる作品の具体化に向けて動き出そうとしている。

「窮屈で無関心な社会を作ってしまった自分自身と同世代への悔恨、それがテーマです。私ももう家にこもってハーブでも育てていればいい年齢かもしれませんが、まだ怒りの感情は忘れていませんから」

 息苦しい社会に染まることなく、抗議の一石を投じる。シネマハウスには、そんな頼もしい大人たちの背中がある。

《映画の後で》上映後、映画の作り手と観客の交流の場にもなる大塚駅前「大衆割烹 豊川」は、豊富なメニューと手ごろな価格が評判。

INFORMATIONアイコン

シネマハウス大塚
東京都豊島区巣鴨4-7-4-101
☎:03-5972-4130
HP: https://cinemahouseotsuka.com/
座席数:56席(車イス可)
オープン:2018年4月7日

〈 「コロナ禍もあって『もう閉めようか』と…」老舗百貨店の小さな劇場が文化発信基地的な賑わいを取り戻すまで 〉へ続く

(熊崎 敬/週刊文春CINEMA 2024夏号)

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