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「片付け費用は最低40万円」仏壇だけでも10万円…昭和の遺物あふれかえる“実家じまい”が大変すぎてつらい

文春オンライン / 2024年8月16日 11時0分

「片付け費用は最低40万円」仏壇だけでも10万円…昭和の遺物あふれかえる“実家じまい”が大変すぎてつらい

写真はイメージ ©AFLO

〈 「問題なのはお隣の家です」あまりの絶望感に叔父は寝込み、父はさじをなげ…築75年の祖父の家が売れない“衝撃の理由” 〉から続く

 作家の高殿円さんの祖父が遺したのは、築75年のボロい一戸建てだった……。祖父の死後、その家に住んでいた叔父も他界すると、高殿さんは相続した父ともう一人の叔父に代わって“負動産”を売りに出すことに。

 しかし、まさかの再建築不可物件であることが発覚する。過去に道路の拡張工事をしたかった市と隣家が取引をして、祖父の家に接している道路がすべて私有地になっていたというのだ。これでは、接道義務を満たしていないことになってしまう。

 ここでは、高殿さんの実家じまいの一部始終をまとめた『 私の実家が売れません! 』(エクスナレッジ)から一部を抜粋して紹介。「売れない」家を前に、高殿さんが下した選択とは——。(全4回の3回目/ 続き を読む)

寄付も断られた地獄の負動産

 ただでいいからもらってほしい。人は “負動産”を前にして必ずこう考えることでしょう。

 例に漏れず我々もそう思いました。

「そうだ、市に寄付しよう」

 市の暴挙によって無価値になった祖父の家を市に寄付するなんて、孔明の罠としか思えません。が、しかしそうするしかない。我々は、もう、この家を一刻も早く手放したいのだ‼

 この接道義務を満たしていない再建地不可物件、地獄の “負動産”を。

 もともとこの家に一番愛着があり、ただで手放すことに難色を示していた叔父は、それ以降も市に接道義務に違反しているのは市のせいなのだからどうにかしてほしいと何度も掛け合ったようです。が、

「無理ですね」

「そんな……」 

 絶望する叔父。いや、叔父も父も何も悪いことしていないのに。

 じゃあせめて市に寄付するので無料で引き取ってほしいと訴えても、「寄付は受け付けていません」

 日本よ、これが日本の公的機関だよ。私がもしありあまる財力を有し(以下略)、時間さえあれば議員さんを紹介してもらい、あらゆる権力のコネで外堀を埋めてから交渉ぐらいしただろうがここはなにせ地の利がない知らん土地!

 私自身にもなんの愛着もない。(実際息子である父もそうらしい)。そこまで自分の信用リソースを割いてまでやりたくない。

 というわけで、寄付も断られた地獄の負動産。 

 どうするどうなる。どうしよう。

「そうだ。売れないなら、貸せばいいじゃん」

賃貸に出すにも、家の中は昭和の遺物であふれかえり…

 安易な人間の安易な考えのように思えますが、実際どうやっても手放せないならせめて運用するしかありません。

 運用!

 すなわち賃貸に出すこと。1ヶ月1万でも2万でもいい。固定資産税ぶんだけでも入ってくれば、売れない地獄の再建築不可物件でもどうにかなる。……かもしれない。そうだ運用しよう。いまはやりの負動産投資だ。この家が売れないのはもう事実なんだから。

 しかし賃貸に出すには、まず残置物の撤去が必須です。なにせ家の中は15年前で時を止めており、父と叔父の家なのに真ん中の叔父の遺物であふれかえっています。

 また、真ん中の叔父は救急搬送されてそのまま入院し亡くなったため、家の中は生活していたときのまま。簡単にいうと灰皿はそのまま、流しの排水溝の中は腐った生ゴミが乾いてプラスチックごと変形していたし(おええ)、エアコンは茶色い昭和のクーラー。ホームセンターで売っているような2段のハンガーラックにはクリーニングから戻ってきたままのシャツやスーツがずらり。もちろん奥行きのある巨大な箪笥にも服がぎっしり。寒冷地でもないのに引き出しにはセーターがぎゅうぎゅうのパンパンに詰められていて、樟脳の臭いまで乾いてる。

 兄ちゃん、なんで昭和の家は、服が多いのん?

 なんでなんでしょうねあれ。服は高いから、大事に長く着るのが習慣だった?

 それとも無駄に箪笥があるから保管してしまえた?

 おそらく祖母の婚礼箪笥の中もだれのものかわからない衣類で気が遠くなるありさまです。

 とにかく残置物の4分の3は叔父と顔も知らない叔母(?)の服でした。私に気力があればメルでカリして小銭を稼ぐぐらいのことはできたかもしれません。なにしろデザインが昭和。クラブの支配人をしていたらしい叔父の服はなんかもう見るからにバブリーで、演劇関係者や音楽関係の友人に声をかければもしかしたら欲しい人がいたかも。叔母の服も同様でした。

かくなる上はアウトソーシング…しかし仏壇の処分に10万円!

 しかし、そんな時間はない!

 かくなる上はアウトソーシング。

 出でよ令和の光スマートフォン。ぐぐれば一発、いくつも出てくる便利屋案内。たすけてだれか。こうなったらすぐにメル凸だ。

 それからなんとか時間を作って、片付け屋さんに見積もりに来てもらいました。まあこのとおりのゴミ屋敷。足の踏み場もないありさまですから、それなりにするとは覚悟していた。しかし……。

「仏壇がありますね」

「そうですね、でかいのが」

 ウワサには聞いて知っていたが、仏壇を処分するためには “仏壇じまい”が必要、つまり仏壇屋さんに来て貰わねばならず、お値段は10万からだという。

「じゅ、10万!?」

「仏壇処理だけに10万!?」

 いっそ、とち狂った私が般若心経唱えながらマキタのチェーンソーで破壊してやろうかと動転するぐらいにお高い。

「仏壇が大きいんで」

「ああ、そうですよね。うう、仏壇がでかいつらい。実家の仏壇って何でこんなにでかいんだ」

あまりに多い「昭和な」家具、家電の処理費用は…

 でかいのは仏壇だけではない。なんせ平成初期から時を止めている家。もっといえば、真ん中の叔父は家がないくらい貧乏だったので、生活用品は祖父が使っていたものをそのまま利用していたらしく、家電もぜんぶ昭和。冷蔵庫はナショナル。でかい。洗濯機はサンヨー、二層式。電気代をもりもり食う給湯ポットは象印。なんで三つもあるんだ。いや象印はすばらしいメーカーでいまもご健在ですが。

 窓に乱暴に打ち付けられた柱にとってつけた死んだ給湯器。茶色くて巨大なエアコン。四方八方ヤニをすいまくっている人の肺の色みたいな土壁。ふよふよしている畳の間。独特の昭和の臭いを放つ謎のビニール製キッチンの床。なんでオレンジ色が基調なの?

 昭和なの?(昭和です)。死に絶えた習慣おばあちゃんの三面鏡。暴力的な奥行きの和箪笥!

 それらすべて片付けるための費用は、「80万です」

 ご丁寧にお帰りいただいた。はい次の業者。

「うーん、50万ですかね」

 ここから数社と話し合ってみたのだが、どんなに頑張っても40万円以下にはならなかった。というのも、あまりにもゴミの数が多すぎること。二階の和箪笥を階段で下ろすのが難しいため破砕しなければならないこと。家電はリサイクルセンターに持っていけないくらい昭和なので、完全に処理費が別途かかること。そしてゴミの量が多すぎて1日では終わらないため。

 40万。なかなかの金額である。ゼロ円でも売れないし寄付もできないボロ屋に40万かける意味があるのか。それくらいなら、これから固定資産税を払って放置したほうがましではないのか。

「もうだめだ」

地獄の負動産の相続…ここで断ち切らねば

 ここにきて完全に叔父はやる気を失っていた。おそらく40万円の処分費の半額を出してくれと言ってもなんだかんだとはぐらかされて逃げられる雰囲気だった。まあ気持ちはわかる。だって賃貸に出そうとすると、それだけでは済まない。水道も直さないといけないし、ガスは新しい給湯器設置だけで20万。風呂や排水の見直しや電気工事。もちろん雨漏りがないかどうかの点検などなど、100万近くかかるかも。そうなってくると、もうこのままなかったことにしたい、そう考えても仕方のないことだ。

 だが、叔父はそれでいい。ひどい言いようだが父も叔父も死ねば終わりだ。しかし地獄には終わりはない。負動産は相続される。うちの場合は母が、そして叔父の家は叔母が相続することになる。そして叔母も母も同年代だから、コロナでぽっくりいってしまうかもしれない。そのとき地獄の負動産を相続するのは私と妹、そしていとこだ。

 ここで断ち切らねばならないのだ。なんとしても……などというかっこつけても一円にもならないので、私はもてる労働力を投資することにした。すなわちうちの家人と息子である。出でよ若者、労働力様。

「祖父の家を片付けます。協力してください」

〈 「無料でいいから誰か持っていってくれ!」築75年の実家を賃貸に出したい…家中のゴミの山を処分した「これぞ令和」な方法とは 〉へ続く

(高殿 円/Webオリジナル(外部転載))

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