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「日本、アメリカ、韓国との交流は固く禁止されている」“敵国の選手と自撮り”した北朝鮮の選手は大丈夫なのか「見せしめ的な処罰は…」

文春オンライン / 2024年8月11日 11時0分

「日本、アメリカ、韓国との交流は固く禁止されている」“敵国の選手と自撮り”した北朝鮮の選手は大丈夫なのか「見せしめ的な処罰は…」

金正恩総書記 ©EPA=時事

「敵は変わり得ない敵だ」。オリンピックがすでに始まっていた8月2日、北朝鮮の金正恩総書記は韓国に対する敵意をむき出しにした。

 韓国メディアを「敵のくずメディア」と非難するなど、北朝鮮の人々の韓国に対する憎悪を掻き立て、韓国文化に触れさせたくない思惑がありありと見て取れる。しかし、遠く離れたフランスで開かれているパリ五輪では、そんな最高指導者の計算を狂わせる事態が起きていた。

 最初の“事件”は7月30日(現地時間)に行われた卓球混合ダブルスの表彰式で起きた。北朝鮮のリ・ジョンシク、キム・グンヨンペアは初戦で日本の張本智和、早田ひなペアを破るとその後も勝ち上がり、銀メダルを獲得した。

 パリ五輪では、表彰台に上がった選手たちは、自分たちの写真を撮る「ビクトリー・セルフィ」の機会が与えられる。そこで銅メダルの韓国の男子選手がメダリスト全員での撮影をしようとした時に、北朝鮮のペアが拒まなかったのだ。男子のリ選手は硬い表情を崩さなかったが、女子のキム選手は笑顔も浮かべていた。

 2011年7月に脱北した韓国・北朝鮮研究所の金日奕(キムイルヒョク研究員(29)は、こうした北朝鮮選手団の振る舞いについて「北朝鮮は最低限度の他国選手との交流を認めているものの、韓国選手とは絶対に交わるなと指示しているようです」と語る。

 たしかに北朝鮮の選手は韓国の選手だけでなく、韓国記者団の質問への回答を拒否したり、選手とメディアのミックスゾーンでの韓国記者の問いかけを無視したりしている。

他国選手とともに自撮り

 とはいえ、今回の五輪では、本来最低限しか認められていない、他国選手との交流も目立った。6日の女子10メートル高飛び込み決勝では、北朝鮮のキム・ミレ選手が銅メダルを獲得。表彰式の「ビクトリー・セルフィ」で、韓国サムスン製のスマホを渡されたキム選手はさすがに困惑した表情になったが、スマホを中国人選手に渡すと、最後は一緒の自撮りに収まった。

 金日成主席のフランス語通訳を務めた元韓国国家安保戦略研究院副院長によれば、北朝鮮の人々が国際試合や外交協議などで国外に出る場合、必ず行動の対処方針が決められ、不必要な交流や資本主義に染まるような行動は糾弾される。

 特に、北朝鮮が激しく対立している日本、米国、韓国との接触は非常にデリケートな問題になる。

“敵国”に対する北朝鮮選手の信じられないラフプレー

 昨年秋、中国・杭州で開かれたアジア大会で、北朝鮮選手団の日韓両国に対する敵対的な行動が目立った。

 10月1日の男子サッカー準々決勝の対日本戦では、北朝鮮選手がラフプレーを繰り返し、イエローカードは6枚を数えた。

 9月25日に行われた射撃競技の男子団体種目表彰式では、優勝した韓国代表と3位のインドネシア代表が国旗掲揚を見守るなか、2位の北朝鮮選手団は顔を背け、韓国代表と一緒の写真撮影を拒否した。朝鮮中央通信も、女子サッカー準々決勝で対戦した韓国代表を「傀儡チーム」とあざけった。

 代表団には外交官や新聞記者などに身分を偽装した国家保衛省(秘密警察)の要員が必ず同行している。今回のパリ五輪でも、北朝鮮の朝鮮中央テレビが五輪の試合を録画放送しているが、米国の星条旗をモザイク処理した画面が確認されている。

 だからパリ五輪でも、北朝鮮選手はできる限り、韓国人を避けるように教育されているはずである。韓国人との不必要な接触は、「敵は変わり得ない敵だ」と決めつける最高指導者の怒りを買いかねないことは選手もわかっているからだ。

これまで決して起きなかったであろう南北選手の交流

 北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部は「国際大会に出る選手はエリートであり思想的な背景に合格した人たち。彼らは国内での地位を維持することが最大の目標で、あとは当局に言われた通りに行動する」と話す。「当局が南北合同チームを作れと言えば、韓国選手と親しくするし、敵だと言われれば無視する。それだけだ」という。

 ただパリ五輪では、これまででは決して起きなかったであろう北朝鮮選手と韓国選手の交流が生まれているのも事実だ。

 パリ五輪のボクシング女子54キロ級に出場した韓国のイム・エジ選手は、銅メダルが確定した後、同じく銅メダルを獲得した北朝鮮のパン・チョルミ選手との交流について明かした。

 パン選手が選手村で、イム選手に「(日本で使うファイトと同じ意味の)ファイティング」と声をかけたという。2人は昨秋の杭州アジア大会でも対決したライバルでイム選手もパン選手に「がんばって、決勝で会おう」と伝えたという。

「韓国語を使ったパン選手は大丈夫か」韓国メディアから心配の声

 韓国メディアは「ファイティングは韓国語だから、それを使ったパン選手は大丈夫か」と心配しつつも、国境を超えた友情を称えている。現地時間8日には、両選手はボクシング女子54キロ級の表彰台でともに「ビクトリー・セルフィ」に収まった。

 同じように、敵である米国選手に拍手を送った体操女子のアン・チャンオク選手も責任を問われるかもしれない。

 韓国の文化との接触に厳しい北朝鮮だが、実は、韓国製の食品や化粧品などは質の良さから北朝鮮国内で人気がある。かならずハングルなどを削り取ってから使う。

 米政府系放送局「ラジオフリーアジア(RFA)」は8日、北朝鮮代表団が、国際オリンピック委員会(IOC)が各国に割り当てたサムスン製のスマホを一括して受け取ったと報道した。選手に分配するわけもなく、人の目を気にしない金正恩氏らロイヤルファミリーに献上するか、転売して外貨稼ぎをするか、はたまた電子部品を軍事的に利用するか、といったところだろう。

「行動を苦々しく感じているのは間違いない」

 元労働党幹部は「当局はパン選手やアン選手に、見せしめ的な処罰は下さないだろう」と語る。「韓国敵視政策を巡って、北朝鮮内は若い人を中心に動揺が広がっている。やりすぎると、逆に反発を買いかねないからだ」と語る。「もちろん、当局が2人の行動を苦々しく感じているのは間違いない。場合によっては、内部で他にわからないように処罰するかもしれない」という。

 特に、金日奕(キムイルヒョク)氏が語ったように、最近の北朝鮮は韓国による「文化・情報侵略」を極度に恐れている。2020年以降、反動思想文化排撃法、青年教養保障法、平壌文化語保護法などを立て続けに制定した。いずれも、中身は、韓国などの西側文化に親しみ、真似をしたり、取り入れたりしようとする行為を厳罰で取り締まる内容だ。

 金日奕(キムイルヒョク)氏は自身も脱北するまで、韓国の流行歌を毎日のように歌っていた。周囲がみな、堂々と歌うので、脱北するまで北朝鮮の歌だと思っていたほどだという。金氏は「北の政権が最も恐れるのが韓国文化です。韓国文化の流入はすなわち、北政権の崩壊だと言っても過言ではありません」とまで語る。

 労働新聞は2日、卓球混合ダブルスで銀メダルを獲得したことは伝えた。一部の選手はパリから帰国の途に就いた。その後、選手たちがどう扱われるのかはまだわからない。

(牧野 愛博)

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