「2人ってもしかして愛し合ってる?」柴田恭兵(73)・ユージの“答え”がカッコよすぎた! 令和の『あぶない刑事』にかつてない衝撃を受けたワケ
文春オンライン / 2024年8月18日 6時0分
『あぶない刑事』シリーズ「タカ」こと鷹山敏樹役の舘ひろしと、「ユージ」こと大下勇次役の柴田恭兵 ©文藝春秋
映画『帰ってきた あぶない刑事』が大ヒットしている。観客動員数は119万人を超え、興行収入は16.27億円を突破。2016年公開の前作『さらば あぶない刑事』の最終興行収入(16.25億円)を上回った(2024年8月時点)。
テレビシリーズ放送開始から38年。変わらず主演を飾るのは74歳の舘ひろしと、本日8月18日に73歳の誕生日を迎えた柴田恭兵だ。本作をふらっと鑑賞した筆者は、衝撃を受けた。なんと、タカとユージが2人暮らしをしていたのである!
たとえば同年代の女友達と話していると、定期的に「もし結婚しなかったら友達と暮らすのもアリじゃないか」という話題になる。昔の阿佐ヶ谷姉妹みたいにマンションの隣同士に住むのがいいんじゃないか。いっそのこと、既婚の友達も集めて、みんな近くのエリアに住めば最高じゃないか、とその妄想は尽きない。
しかし、なぜか独身の男友達と話すときには、一向に、その手の話題にならないのである(筆者の交友関係が極端なだけではといわれたらそうかもしれないが)。男性からそんな声が上がらない理由の一つは、そういう男性たちを描いた物語が少ないからではないだろうか。
“男性同士の暮らし”はなかなか描かれてこなかった
女性同士の連帯を意味する「シスターフッド」という言葉が、日本のエンタメ界に浸透して久しい。昨年大ヒットした『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)や現在最も熱いまなざしが注がれているだろう朝の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合)も、その根底には、理不尽な時代に手を取り合った女性たちの連帯がある。
一方、男性主人公のドラマの主流は、依然として『半沢直樹』(TBS系)のようなビジネスドラマ、もしくは『孤独のグルメ』(テレビ東京系)のような特定の趣味を極めたプロフェッショナルたちの物語である。現代で男性同士の暮らしを描くとしたら、たいていはBL(ボーイズ・ラブ)になるだろう。都会の生活に疲れた反町隆史と竹野内豊が海辺の民宿で暮らす『ビーチボーイズ』(フジテレビ系)みたいな作品は、意外にも少ない。
ビジネスや性愛が絡まない男性同士の連帯や、「結婚」という生き方を選び取らなかった男性たちは、令和の物語においても、あまり可視化されていない現状にあると思う。
『帰ってきた あぶない刑事』を観たのはそんなふうに考えていた矢先のことで、まさに“そういう男性たち”の物語になっていたことに、驚いたのだ。
1986年のテレビドラマから始まった
1986年から放送開始となった『あぶない刑事』(日本テレビ系)シリーズが、その長い歴史に幕を下ろしたのは2016年のこと。定年を迎えたタカとユージと共にシリーズも終わった……はずだったのだが、またまた、もっと、まだまだ、といわんばかりに、2人は再びスクリーンにカムバックした。
本来ならばここで幕を下ろすはずだった前作『さらば あぶない刑事』は、シリーズを牽引した亡き黒澤満プロデューサーによる最後の『あぶ刑事』だ。男たちの美学が凝縮された従来の『あぶ刑事』らしい、まさに集大成といえる一作だった。
タカとユージの定年退職が5日後に迫った『さらば』では、最後の1秒まで“現役”の刑事として輝く、2人の生き生きとした姿を描いていた。マドンナ役の夏海は当時20代の菜々緒が演じており、第二の人生を迎えるタカのパートナーとされていた。最終的に事件に巻き込まれた夏海は非業の死を遂げてしまうのだが、若い恋人の傍でタカが涙するという、まさに“男のロマン”を思わせるような描写が印象的だった。
そして今回、『あぶ刑事』放送開始の翌年である1987年生まれの原廣利監督がメガホンを取った『帰ってきた あぶない刑事』は、シリーズへのリスペクトを感じつつも、その形相は大きく異なっていた。
探偵事務所を立ち上げたタカとユージ
物語自体は前作『さらば』と地続きになっており、ニュージーランドに移住したはずのタカとユージが、8年ぶりに帰国し、横浜で「T&Y探偵事務所」を立ち上げる。
2人の帰国を待ち侘びていたかのように発生する殺人事件、昔の恋人の面影を感じる謎の美女など“刑事ドラマのお約束”はもちろん、ハーレーに乗りながらショットガンをぶっ放すタカ、横浜を駆け回るユージ、そして薫(浅野温子)や透(仲村トオル)といった『あぶ刑事』メンバーも健在だ。
(※この先、最新作の具体的な内容について触れています。)
なんといっても新しいのは、タカとユージのプライベートが描かれていること! 探偵事務所兼自宅を拠点とする今作では、スーツを脱いだ私服姿の2人や、鼻歌を歌いながら屋上で洗濯物を干すユージなど、そのルームシェア生活を垣間見ることができる。「タカとユージが一緒に暮らしているから」ではなく、パートナーの女性やお手伝いさんといった他者を介さない男性の2人暮らしそのものが、新鮮な光景だった。
さらに『帰ってきた あぶない刑事』の特筆すべき点は、今作が“疑似家族”をテーマにしていることだ。その鍵を握るのは、土屋太鳳演じるヒロイン・彩夏。
数年前ならば、どちらかの恋人としてキャスティングされていたかもしれない……とも思うのだが、彼女は自分の母親・夏子を探してほしいと「T&Y探偵事務所」を訪れる。実はその夏子こそ、タカとユージがかつて愛した女性で、それならば彩夏は……と、急にどちらかの娘疑惑が浮上。そして娘と2人の父による“疑似家族生活”が始まるのだ。
「2人ってもしかして……愛し合ってる?」
一番印象に残っているのは、3人で食卓を囲んだ際に彩夏が2人の関係についてぶっ込むシーンだ。
〈「2人ってずっと独身? もしかして……愛し合ってる?」
「俺はタカのためならいつだって命をかけられる。それを愛というなら愛なのかも」〉
あまりにも鮮やかなユージの回答に「愛とか超えてない?」と返す彩夏まで含めたすべてが良いシーンなのだが、まさか令和の『あぶ刑事』がこのような展開になるとは誰も思っていなかっただろう。
シリーズ最終作といわれた『さらば』の中で、若い恋人と海外移住をするはずだったタカだけではなく、ユージも「結婚して子どもを作る。で、その子どもをダンディーな刑事に育てる。それが俺の夢」と語っていたからだ。
結局どちらの娘なのか? “時代の先端”にあったタカとユージの姿
一度幕を閉じたタカとユージの物語を再び開けた際、その関係を表す言葉が“家族”だったということにグッときた。きっとそれは“娘“である彩夏を通したからこそ辿り着いた答えなのだろう。
2人のダンディズムを際立たせる『さらば』のハードボイルドな画面作りとは対照的に、今作がどこか温かみのある雰囲気になっていたのも“疑似家族”というテーマが大きく作用しているのかもしれない。
結局彩夏はどちらの娘なのか。その結果は、2枚のDNA鑑定書を見比べて「え~!??」と叫ぶ透のリアクションで明らかだ。けれど、彩夏と同じで「どっちでもいいな、お父さん」と思える。大切なのは誰と血が繋がっているかではなく、今そこにある関係性なのだから。
70代を迎えた舘ひろしと柴田恭兵が、同じように年を重ねたファン待望の最新作で、ナチュラルに新しい価値観を提示していたことが、とてつもなく格好良かった。それは「こんな時代だから」と時代に強いられたからではない。令和に生きるタカとユージがいた場所が、たまたま“時代の先端”だったのだ。
これからもずっとタカとユージは時代の先を走りつづける。その姿はいつまでもダンディーで、最高にセクシーなのだ。
(明日菜子)
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