「この映画は絶対映画館で観てもらいたい」『スラムダンク』の382館復活上映を決めた制作スタッフの“知られざる願い”
文春オンライン / 2024年8月21日 6時0分
2023年国内興行収入1位となる約158億円を記録し、社会現象になった映画『THE FIRST SLAM DUNK』が “復活上映”と銘打って8月13日より再びスクリーンに帰ってきた。2022年の公開時を上回る全国382館での上映に至るまでの道のりを、製作スタッフのひとり小池隆太氏に尋ねた。(全3回の1回目/ #2 、 #3 を読む)
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音楽回りにも参加して「“音”に深くコミットできた」
――本作の復活上映についていろいろと伺う前に、まずは小池さんのスタンスから確認させてください。小池さんは東映アニメーション所属のプロデューサーで、本作のエンドロールでは“音楽プロデューサー”としてクレジットされていますね。
小池 当初からAP(アシスタントプロデューサー)として参加していました。前職が音楽レーベルで制作部門にいたこともあって、音楽回りにも参加することになり、最終的には音楽プロデューサーとしても関わらせていただくことになったという順番です。
一般的に“音楽制作”というと、ポストプロダクション(※仕上げ作業の総称)に属していて、アニメ制作より参加が後発だったり、やや距離がある事が多いのですが、私はAPとして制作現場にいられたこともあって、今作では音楽制作がアニメ制作と伴走することができました。監督をはじめとする制作スタッフと長い時間を共有できたことで、制作過程の中で音楽の話や音のイメージの話をする機会がありましたし、今作の“音”に、とても自然に、深くコミットできたと思います。
音響制作や宣伝、映画公開後のDVD/Blu-ray、配信企画にも関与はしていますが、もう「何でもやる」という意味で、正直あまり肩書きを気にしていません。
僕は転職組でしたが、やりたいことに挑戦させていただけるチームだったという事も幸いして、役割が増えたという側面もあったかもしれません。
この作品に関わりたい人はきっとたくさんいたのに、いろいろな形で関わらせていただいて、とても幸せを感じています。
382館からのニーズ、全国47都道府県での上映へ
――今回の復活上映の上映館数は382館。大ヒット作品とはいえ異例の数だし、興行として「強気」と見る向きもあると思います。どのような経緯で決まったのでしょうか?
小池 復活上映のプランは昨年の夏から進めてきました。ただ、決して僕ら側が「300館超えでやるぞ!」と、最初から戦略のように掲げていたわけではなかった。東映の営業はじめ関係者の皆さんが各劇場にオファーをした結果として、この数に着地したというのが正しくて。
――つまり、純粋に、この数の劇場からニーズがあった?
小池 はい。こちらからは一つだけ、「日本全国の都市をカバーしたい」というリクエストはしました。おかげさまで、最初のロードショーは372館でしたが、今回の復活上映は382館となり、47全ての都道府県での上映が叶いました。
これは「映画館を通じて届けたい作品」
――そもそも復活上映というのは、どういった動機から生まれたプランなのでしょうか?
小池 前提にあったのは、井上雄彦監督以下、制作陣一同がずっと抱いてきた「これは普通の映画じゃないんだ」という強い思いです。要は、ロードショーが終わって、パッケージのリリースや配信があって、それでハイこれで一通りお仕舞いです、という道を辿らせる作品ではなかったというか。ともかく、「劇場で観ていただくこと」に、徹底的に拘っていました。パッケージも配信も、改めて劇場に足を運びたくなってもらうための導線という考え方で進めました。そう感じていただけているかは分かりませんが、自分たちが「そう思って届けている」ということが大切だと思っていて。
常に劇場で観ていただける環境をどう作り、それを維持するのか。それが本作のチームの一番の命題です。なるべく劇場で観ていただけるような挑戦を続けていきたい。つまり、来年も、再来年もあるかもしれない。今回は結果的に382館でしたが、今後、仮に実現したとしても、来年はもしかすると2、3館かもしれない。もし来年も上映していたとして、「いつまでこするんだ?」とか「いつまで続けようとしているのか?」みたいな見方をされるのは全く本意ではないと言うか。
――では、本意はどこにあるのでしょうか?
小池 例えば公開年の2022年当時に3歳だったお子さんはいま5歳だし、いま5歳のお子さんは、5年後には10歳を迎えますよね。そのとき、お子さんが足を運べる環境の映画館でこの作品がかかっていることが僕らの本意であり理想です。リアルタイムでの上映を体験することの出来なかった未来の観客に、やはり映画館を通じてこの作品を届けたい。それがまずひとつです。
――なるほど。そのほかには?
小池 当たり前の話ですが、まだご覧になっていない今現在の観客、特に若いみなさんに一人でも多く届けたいという思いです。例えば、去年受験生だった学生さんは、今年なら観られるかもしれない。人によっては、もしかしたら夏休みや正月休みがベストなタイミングではない可能性だってある。劇場が閑散期と言われるような時期に公開したほうが、足を運び易いかたもいるかもしれない。
今回の復活上映では、新グッズとしてTシャツ、ジャージ、ユニフォームのキッズサイズを販売します。近年、子どもたちがバスケに触れる機会やチャンスが増えているような気がします。子どもたちが公園でバスケをやっている風景もよく見かけます。本作は、そんな子どもたちの間で、「何か面白いらしいから観に行こうぜ」という広がり方をしてくれるのが作品にとって一番幸せだと思っています。
グッズの売上云々も大事ですが、それよりも、例えば子どもたちがTシャツを着てくれて、「それ、観たよ。面白かったよね」みたいな会話が生まれてくれることを期待した或る種の「願い」を込めて作られたグッズなんです。それが次の世代の観客にバトンを渡すことにも繋がるはずだという。
多くのバスケット選手に影響を与えてきた『スラムダンク』
――本作は2014年に制作が決定し、コロナ禍を挟んで公開まで漕ぎ着けました。その間、世間におけるバスケットシーンの温度も大きく変わった気がします。
小池 その通りだと思います。Bリーグの盛り上がり、スター選手の登場、ワールドカップやオリンピックにおける日本代表チームの活躍、いろいろなことがその温度を作り上げていると感じています。
そもそも、『スラムダンク』という作品は、後の多くのバスケット選手に影響を与えてきたと言われていますし、実際に井上監督ご自身も、『スラムダンク奨学金』を創設するなど、日本のバスケの普及やレベルアップに貢献されてきた。そういった長い時間をかけてバスケシーンに熱を入れてきた方々の想いが集まって本作の人気の追い風になったと思っています。
――本作は日本のみならず、これまでに122の国と地域で上映されました(※2024年8月現在)。特に反響が大きかった土地は?
小池 強いて挙げるなら、やはり中国と韓国でしょうか。特に中国は興収金額も突出していまして。
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なぜ中国、そして韓国で人気を博すことができたのか……。 #2の「《中国の興収130億円超》「韓国も台湾もファンの熱量がすごい」世界が見た映画『スラムダンク』の魅力」 へ続く
〈 《中国の興収130億円超》「韓国も台湾もファンの熱量がすごい」世界が見た映画『スラムダンク』の魅力 〉へ続く
(内田 正樹/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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