《中国の興収130億円超》「韓国も台湾もファンの熱量がすごい」世界が見た映画『スラムダンク』の魅力
文春オンライン / 2024年8月21日 6時0分
〈 「この映画は絶対映画館で観てもらいたい」『スラムダンク』の382館復活上映を決めた制作スタッフの“知られざる願い” 〉から続く
8月13日に全国382館で復活上映した映画『THE FIRST SLAM DUNK』。その人気は日本のみならず海外でも留まるところを知らない。幅広い世代の心をつかんだ施策を制作スタッフに尋ねた。(全3回の2回目/ #1 、 #3 を読む)
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『THE FIRST SLAM DUNK』海外での反響と宣伝
――本作はこれまでに122の国と地域で上映(※2024年8月現在)されましたが、海外における宣伝は、どのようなベクトルで行ったのでしょうか?
小池 本作は、それぞれの国や地域ごとに異なる宣伝プランと素材を用意しました。例えばイギリスでは、すでに原作の知名度が高いアジアの国や地域に比べて、『SLAM DUNK』という作品自体の認知が低かった。ですので、そういう国や地域の人たちにこの作品を届けるには、原作の読者なら大きく反応する「山王戦」(※湘北高校 VS 山王工業戦)という要素は小さく見せて、むしろ「バスケットを通した男の子の成長物語」といった要素を押し出し、それに合わせた予告や宣材素材を用意しました。
――特に反響が大きかった国や地域は?
小池 強いて挙げるなら中国と韓国でしょうか。人口は異なりますが、特に中国は短期間に多くの上映作品がひしめき合うという興行環境のなか、現時点でおよそ興収130億を上げていて、金額としても突出しています。一方、韓国は、個々のファンの熱量がすごく熱い。昨年の1月から公開を始めて、いまも上映中です。まだ延々と続くんじゃないか?と思うような熱量です。あとは台湾も非常に盛り上がりましたね。中国と台湾では復活上映も決まりました。いずれの国と地域も、原作の人気が下地にあったと感じています。
――話題を日本に戻しますが、2022年12月のロードショー以降、制作サイドが「これはヒットするのでは?」という手応えを感じたのは、公開後、どの辺りのタイミングだったのでしょうか?
小池 実はこの作品って、おそらくいま世間の皆さんが思っているよりも、初週の成績はそこまでじゃなかったんですよ。データを見れば一目瞭然ですが、結果的に158億の興収を上げた映画としては、ものすごくスロースターターだった。ところが、2023年の3月の春休みに入った辺りでも、まだ興収が落ちなかった。いま思うと、そこで「満足してはいけない」と何度も言い聞かせたスタッフのみんなの信念みたいなものがまず重要だったような気がします。
変化を続けた観客層
――観客層についてはどうでしょうか?
小池 2022年12月の公開当初から翌年の2月頃までは、30代から40代の男性が大半を占めていました。ご存知の通り、原作の『スラムダンク』はすでに完結していて、今も連載が続いている作品のように、新しいファンに日々広がっていくというよりも、昔から応援してくださる読者やアニメのファンが先行するのは、ある程度想定の通りでした。
それが3月になると学生を中心とした若者が増え、それ以降は明らかに20代の女性が当初の男性層を逆転し始めて、7月から8月はほぼ女性に入れ替わりました。今の時代、男女別や年齢のカテゴライズで客層を語るのはもう古い考え方なのかもしれませんが、明確に変わったことは確かでした。数カ月毎に、違うお客様と向き合っていたような感覚でしたね。
――客層が変わった要因は何だったのでしょうか?
小池 様々な理由があると思うので、「これ」と絞って断言するのは難しいのですが、最初の3、40代男性は、リアルタイムで原作ファンだったかたがた、女性のみなさんはSNSなどの口コミで興味を持ってくださったかたがた、10代は春休み、夏休みというタイミングで足を運んでくれた学生さんだったと捉えています。
2023年3月からは、別の楽しみ方としての「応援上映」、お子さんがまだ小さくて映画館に行きづらい親に向けた「声出しOK!キッズ上映」、学生さん向けのワンコイン(500円)による「応援学割」、外国人観客のための「英語字幕版」の上映などさまざまな施策を行ってきましたが、とにかく「映画館で観てもらいたい」の一心でしかなかった。その結果、客層が変わっていった。本当にそれだけだと思います。
SNSの声を拾い上げリクエストに対応
――そうした施策は、どのように発案されたのですか?
小池 劇場における客層の集計や、東映の宣伝プロデューサーの丸山(智史)さんと一緒にはじめたYouTubeのライブ配信(※『TAB Channel/タブ【Toei Animation Beyond】』)に寄せられたコメント、SNSの声などを、なるべくつぶさに拾い上げ、それをヒントに考えていきました。もちろん、全てのリクエストに応えることはできませんが、こちらがそうした発案に至った経緯や思いなどをお客さんと共有することで、次の案、次のリクエストに繋がっていったという感覚があります。
本作は2022年12月から、いわゆる「ロングラン上映」を続けてきましたが、2023年の夏に入ると、流石にもう深夜帯で1回しかかからなくなってきた。でも、まだ観ていない学生さんは、深夜じゃ観られませんよね。そこで劇場と交渉して、「朝練(※8時~11時)」、「昼練(※11時~15時)」、「夜練(※18時~22時)」といった形で、1日1回しかない上映チャンスを、週ごとに時間帯を固めて、「この週は朝」「この週は昼」と事前に発表するようにしたんです。
上映スケジュールが事前に発表されていれば学生さんも事前に予定が組み易くなるし、効果的な施策になりました。そんなふうに、皆さんの「〇×だから観られない」という理由と愚直なまでに向き合い、その解決作をひたすら追求し続けました。
“劇場で映画を観てもらう価値”そのものも高めたい
――本作の宣伝活動からは、「劇場で観てほしい」という制作のこだわりと共に、劇場という存在そのものに対するチームの思い入れも強く感じられます。
小池 プロデューサーの松井(俊之)さんも映画一筋のプロデューサーですし、この作品に限らず、映画館で観てもらうという体験の大切さについては、当初からずっとチームの話題に上っていました。コロナ禍を機にサブスクリプションが成熟した一方、劇場で映画を観てもらうという体験の価値をどう最大限に高めるか。このテーマは、「映画業界の復興」とか大上段に構えた目線ではなかったものの、自ずと映画業界全体が抱える課題と向き合う行為に繋がったのかもしれません。
――やはり井上監督ご自身も、劇場という存在に強い執着なり愛情を持たれているかたなのでしょうか?
小池 『THE FIRST SLAM DUNK』は、あくまで「劇場で観ていただくために作った作品」なのだから、「劇場でかかることこそがあるべき姿」という率直な考えでした。
この考え方は、本作の宣伝についても全く同じです。宣伝にあたっても「この宣伝用映像はここでかけるために作ったもの」、もしくは、「この宣伝画像はこの使われ方を想定して作ったものじゃない」という会話はよくしていました。宣伝の立場からすれば、つい「流用」をしたくなる時もありますが、本作では、監督ともこういった話を交わしながら、丁寧に進めてきました。時には、たとえ手間がかかっても「そのためのものを新たにちゃんと作ればいい」ということにもなるんですね。
今年2月にリリースされたDVD/Blu-rayには、井上監督が自ら劇中のスターティングメンバーについて語ったインタビュー映像が入っているのですが、この映像は、作品自体の認知が行き渡っていない国や、細かく取材対応ができないようなヨーロッパの国々でのプロモーション用素材として撮ったものでした。日本でも公開しても良いような素晴らしいインタビューでしたが、それ用に撮影したものではなかったため、いまだに日本のPRでは公開していません。
――本作は2022年の公開前、物語についての前情報もほとんど解禁されず、関係者向け試写会も行われませんでしたが、何故だったのでしょうか?
小池 それは極めてシンプルな理由からでした。
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なぜ事前情報を明かすことをしなかったのか……。 #3「この映画はサプライズプレゼントでした」映画『スラムダンク』が事前情報を明かさずに公開した井上雄彦監督の“強い思い” へ続く
〈 「この映画はサプライズプレゼントでした」映画『スラムダンク』が事前情報を明かさずに公開した井上雄彦監督の“強い思い” 〉へ続く
(内田 正樹/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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