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「光に集まるなら、昼間は全部太陽に向かうはずでしょ」昔から解明されないナゾ…夜の灯りに虫が集まるのはなぜ?

文春オンライン / 2024年8月21日 11時0分

「光に集まるなら、昼間は全部太陽に向かうはずでしょ」昔から解明されないナゾ…夜の灯りに虫が集まるのはなぜ?

養老山荘のテラスにて菊池愛騎さんと養老孟司さん ©野澤亘伸

 虫好きで知られる養老孟司(86)さんと、最強のクワガタ・ハンター菊池愛騎(39)さんとの対談が実現した。養老さんはゾウムシを求めて、80代の今も海外まで採集に行くほどエネルギッシュだ。

 一方の菊池さんは、最強の採集家集団“インフィニティー・ブラック”の二代目リーダー。彼らが探し求めるのは日本昆虫界のスーパースター・オオクワガタだ。採集難易度が極めて高いにもかかわらず、メンバーは新規生息地発見に挑む。断崖絶壁や雪山、真夜中の森での熊や心霊現象にも怯まない。好きな虫がゾウムシとオオクワガタであっても、ともに自然界のロマンに引き寄せられているのは同じだ。

 菊池さんの属するインフィニティー・ブラックの活動を3年にわたって追った『 オオクワガタに人生を懸けた男たち 』(野澤亘伸著・双葉社刊)より、二人の熱血対談を紹介する。(全3回の1回目/ 続きを読む )

わからないから面白い

養老孟司(以下、養老) 僕はラオスやブータン、マレーシアによく採集に行くんですけど、「何が採れるんですか?」って聞かれる。採れるものがわかっていたら行かないよ。今の人はなんでも計画通りじゃないと気が済まない。

菊池愛騎(以下、キクリン) オオクワガタの採集でも、それと近い部分があります。いるってわかっている場所には特に興味がないですね。いるかどうかわからないから、探すのが楽しい。

養老 僕はゾウムシ屋なんだけど、場所によって個体に変異があることが多い。だから同じ種類でも丁寧に採るので、標本の数が増えてどうしようもない(笑)。 

キクリン 自分はオオクワガタも地域ごとの違いを感じています。それは虫の動きとか生態的な部分で形になって現れている部分がありますね。

養老 僕はオオクワガタを採ったことがないんです。生きた姿にお会いしたことがない(笑)。

キクリン 場所によって昆虫の個体や生態に少しずつ違いが現れてくるのは、地形の成り立ちの歴史に関係あるんでしょうか?

養老 完全に歴史でしょう。孤立した集団はひとりでに遺伝子が特定のタイプに固定していきます。1個の遺伝子じゃなくて全体ですね。

キクリン 自分が気になっていることがありまして、雪国のオオクワガタは雪が積もるような低い場所には滅多に(卵を)産まないんです。でも山梨とか平地の里山にいる個体は関係なく産む。雪国で産まなくなったのは、低いところに産まれた子たちが絶えてしまったからでしょうか? 学習するってことはないと思うんですけど。

養老 学習はしないでしょう。ただ、本当かどうか昔から言いますよね。雪の多いところはカマキリの卵が高いところにある、と。

キクリン 夏にはその場所に雪が降るなんてわかりませんから、たぶん湿度に反応してるんだと思います。雪はけがいい場所では、低いところでも生んでいたりするんです。ここには雪が積もらないことを想像できないだろうから、そうなると湿度を感知しているとしか思えない。

養老 他に彼らが何かを察知する要素としては、例えば我々には菌類が見えてない。菌類の生態系が違っている可能性もある。菌は見えないので、研究が遅れてるんですよ。 

キクリン 虫は感知してますよね。

養老 もちろん。ゾウムシはずいぶん菌食いのやつが多い。キノコを食うやつはもうヒゲナガゾウムシに特殊化してますからね。僕が学生の頃と比べて一番変わったのは生物を3つに分けることです。動物、植物、菌類という。今、虫が減ってるのには、菌類の構成が変わっている可能性がある。

キクリン その要因は、どんなことが考えられるのでしょうか?

養老 人が土をいじるからでしょう。農耕の歴史が1万年ある。一昨年(2022年)、ゲイブ・ブラウンっていう人の本が出たんです。『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』(NHK出版)。これはアメリカの農家の話です。化学肥料をやらない、除草剤をまかない、殺虫剤をまかない。いわゆる有機農業ですね。プラス、耕さない。ジャガイモを作るなら、自分の畑に種イモを置いて。上に枯れ草をかけて終わり。普通は掘るでしょ。

 そうすると菌が網の目のように土に構造を作ってるのを壊してしまう。ほとんど目に見えないから、そういう構造に注意してこなかった。それからもう一つは人間の癖でね、やっぱり、種イモを置いただけでジャガイモができたっていうと気に入らないんじゃないですか。額に汗してその成果が得られたっていう気持ちをもちたいから。でも、自然に関してはほっとけばいいんです。雑草も何もかも生やしておいて、その中に作物を置いていく。それでダメなものはダメだと諦めるしかない。

日本の土壌が豊かな理由 

キクリン 山に入っていて、虫が減ったなと感じる地域はありますか?

養老 どこも減っているでしょう。

キクリン 一方で、見たことがない虫が増えていたりすることがあります。外来種だったりとか......。山林自体が減れば虫も減るのは当然だと思いますが、国土がこれだけ緑に覆われている国は世界的にも少ないんですよね?

養老 数字で計算すると、日本の山林の割合は北欧に匹敵している。北欧は木を切れないんですよ。下が永久凍土で、森を切ると湖に変わっちゃうから。でも、日本の場合は切りまくっているのに残っているんだよね。 

キクリン なぜでしょう?

養老 やっぱり東南アジアモンスーン地帯というのがあるでしょう。しかも温帯でしょ。熱帯はすぐに熱帯雨林になってしまうので、表土が薄いんです。でも日本は厚い。

キクリン 黒土がこれだけある国も少ないそうですね。 

養老 一つは火山があるから。長年の間に火山灰が積もる。もう一つは中国から黄砂が飛んでくる(笑)。毎年空が曇るくらい飛んでくるんだから、それが1000年経ったら大変なものです。実は、火山というのは恵みなんです。ジャレド・ダイアモンド(進化生物学者)が太平洋の島々を調べて、文明が続く島と続かない島があるという。島は資源が少ないから森を切り尽くしてしまって終わる。その中で島に森が残る条件をいろいろ挙げていますが、一つに火山が入っている。もう一つが黄砂です。

キクリン 黄砂は意外でした。 

人間には見えない虫の道

養老 人間には見えないものとして菌類が一つと、もう一つは気象、空気の流れです。僕らはよく吹き上げといって、尾根で待っていると虫が結構上がってくる。その近辺で採集しているといろんなものが採れます。

キクリン 山頂には蝶もよく上がってきます。

養老 蝶は尾根で連れ合いを探すという人もいますね。前にカミキリを採っている人と山梨の下部温泉に、スネケブカヒロコバネカミキリが採れるというので行ったことがある。

 アカメガシワに飛んでくるというのでみんなで探したら、満開の木があった。反対側がスギ林になっていて、こんもりとした空間に、5分に1回飛んでくるんですよ。あの場所が好きなんだな。アカメガシワの花が好きなのではなくてね。

キクリン 自分はクワガタしかわからないですけど、虫が飛ぶ場所には絶対何か理由があると思っているんです。

養老 よくフェロモンというでしょう? (アンリ・)ファーブル(昆虫学者)が計算していますけどね。虫がフェロモンを四方八方に立体的に拡散すると、ものすごく薄くなる。そんなものを感じるわけがないだろうと。感じるとしても匂いの元がどこかわからないから、反対の方に行ってしまうかもしれない。そうじゃなくて、たぶん筋状に流れていると思うんですよ。

キクリン 垂れ流しになっているような感じですね。

養老 そうです。その筋にぶつかると反応して、また次の筋に飛んでいく。筋状に出ていれば、ひっかかる頻度が上がるように飛んでいけるわけです。出すのに効果的な環境も知っている。そこら中に飛んでいってしまうところでは意味がないから。

キクリン それですね。

養老 そういう微小な環境は、枝を1本切っただけでも壊れるでしょ。風の流れが変わってくる。虫サイズで考えると、ものすごく環境って微妙なんですよ。

キクリン 林道を1本切り拓いただけでも......。

養老 虫にしてみたら大きな変化です。まさに蝶道がそうですね、決まった道を通るでしょ。あれは日高敏隆さん(動物行動学者)が戦後に一生懸命に苦労して調べたもので、日向と日陰のちょうど間を飛ぶんです。蝶も日向ばかり飛んでいたら体が暑くなってしまうから、すぐ日陰に入れるようにその間を飛んでる。ライトをつけていると虫が集まるからといって、それで光源を広げるために白い布を張るというのも、違うと思っていて。光に集まるんだったら、昼間は全部太陽に向かって飛んでいくはずでしょ。そうならないからやっぱり、光と陰の間を飛ぶんだよね。 

キクリン 昔から虫が光に集まる理由というのが解明されない謎だと言われていますね。

養老 僕が昔読んだ説明では、光源に対して常に一定の角度で飛んでいると。右の目に光が入ったら左の筋肉が動くように。でもたぶん灯りがあると、当然暗いところもあるわけで、その境目に対して垂直に飛んでくるんだと思うんです。

キクリン 太古の夜は月の明かりしかなく、その光は地球に対してほとんど垂直なんですよね。

養老 無限遠ですから。 

キクリン だから、どう飛んでも同じ角度になる。

養老 月を頼りにしていたのが、現代ではやたら“月”だらけになっちゃった(笑)。

〈 「子どもの虫離れ」が進む一方、虫好きな女性は増えている? 日本人が“虫に親しみを感じる”理由とは 〉へ続く

(養老 孟司,菊池 愛騎/Webオリジナル(外部転載))

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