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「子どもの虫離れ」が進む一方、虫好きな女性は増えている? 日本人が“虫に親しみを感じる”理由とは

文春オンライン / 2024年8月21日 11時0分

「子どもの虫離れ」が進む一方、虫好きな女性は増えている? 日本人が“虫に親しみを感じる”理由とは

菊池愛騎さんと養老孟司さん 養老山荘の一階には国内外から集めた標本が置かれている ©野澤亘伸

〈 「光に集まるなら、昼間は全部太陽に向かうはずでしょ」昔から解明されないナゾ…夜の灯りに虫が集まるのはなぜ? 〉から続く

 虫好きで知られる養老孟司(86)さんと、最強のクワガタ・ハンター菊池愛騎(39)さんとの対談が実現した。養老さんはゾウムシを求めて、80代の今も海外まで採集に行くほどエネルギッシュだ。

 一方の菊池さんは、最強の採集家集団“インフィニティー・ブラック”の二代目リーダー。彼らが探し求めるのは日本昆虫界のスーパースター・オオクワガタだ。採集難易度が極めて高いにもかかわらず、メンバーは新規生息地発見に挑む。断崖絶壁や雪山、真夜中の森での熊や心霊現象にも怯まない。好きな虫がゾウムシとオオクワガタであっても、ともに自然界のロマンに引き寄せられているのは同じだ。

 菊池さんの属するインフィニティー・ブラックの活動を3年にわたって追った『 オオクワガタに人生を懸けた男たち 』(野澤亘伸著・双葉社刊)より、二人の熱血対談を紹介する。(全3回の2回目/ 最初から読む )

◆◆◆

環境要求性の高い虫

菊池愛騎(以下、キクリン) オオクワガタの成虫は、棲家をとても選びます。しかし、オスとメスが潜める樹液の出ているウロやめくれは、一つの山で数カ所しかない。入れなかった成虫たちは、他のクワガタみたいに土に潜ることは基本的にしないので、外敵に食べられたりします。

養老孟司(以下、養老) 環境要求性が高い。それは、いろんな虫でよく感じます。ちょっとでも変わったら嫌だって、何か直感的に知っている。僕らは、この虫ならこの木にいるはずだって考えるんだけど、1種類の木に限っても、いない木にはいない。

キクリン まさにオオクワガタがそうです。複数の条件が全部重なった木には基本的には絶対いると思うんですけど、条件が少しでも外れると、もういない。

養老 必ずいるのは“御神木”です。

キクリン そうです。御神木は一つの山に1本ぐらいしかない。それを探すのはすごく大変なんですけど、その木さえ見つけてしまえば、行ったら絶対ついている感じです。 

養老 僕は御神木を探すのが苦手。だから、どこにでもいる虫を探している。でも、中には御神木を探すのが、非常に得意な人がいてね。生物の生存本能みたいなものを内に残していて、風向きとか湿気とか匂いとか、いろんなものを総合して判断してるんだと思う。

 僕はそれが鈍いんですけど、乾季のタイで虫採りをしたときに、ここには虫がいるって感じたことはある。乾季に虫が採れるところといったら、枯れたバナナの葉っぱなんですよ。湿度を含んで中に菌が入ってる。キノコが生えて、大きな虫が入っていたり。なんでこんなにいるんだってくらいに、いろんな虫が入ってます。 

採集圧で虫は減るのか 

キクリン 人間が虫を採ることで一つの種が非常に減少したり、絶滅したりすることはあるでしょうか?

養老 ありえない。砂漠のオアシスのように、非常に限られた場所なら確かに採集圧がかかると思いますが、やっぱり環境破壊が一番大きい。 

キクリン オオクワガタは知名度が高い種類というか、数が少ないことも広く認知されているので、人間が採るから減るんだ、みたいなことを言われたりします。

養老 採った分だけは確かに減りますね。

キクリン でも、自分が山に入って見ている限りは、回復するんです。例えば決まった木にオスは1頭しか入れない。メスは産卵に行くから入れ替わる。そこでオスを採ったら、違うオスが入るんですよ。もし最初のオスを採らなかったら、次のオスは入れなくて捕食されると思うのですが。

養老 どのくらい産卵するんですか?

キクリン オオクワガタは産み分けをしています。1回産卵してから一度樹液に帰ってきて、また産卵に行って、というふうにしています。飼育下では1回に30個は産んでいたりします。

養老 30のうち1匹残ればいいわけですよね。だから残りの29匹は採っていいんですよ。

キクリン 本当にそのくらいの感じがします。採ろうと思っても、全く採りきれないというのが実感ですね。通常では、採集圧で虫は減らないと自分は思っています。 

虫に親しむ土壌 

キクリン 日本には虫に親しむ土壌があるように思うのですが。

養老 去年、イギリス人の女性が調べに来ていた。カルチャー・エントモロジストって言ってたな。つまり、文化人類学っていうのがあるように、文化昆虫学ということでしょう。やっぱり身近にたくさんの虫がいて、親しいからじゃないですか。僕はオーストラリアにいた時期があるけど、あそこは虫が身近にいませんからね。採っていると、とんでもないものが見つかることもあるけど、普通にいる種類は日本と全然違うんです。クワガタは変なのばっかりですよ。

キクリン 最近では日本でも子どもたちの虫離れがすごく言われるんですけど、小さいときに虫と触れ合うことが育んでくれるものって何でしょうか? 

養老 言ってみれば虫は自然の象徴ですからね。触れ合うことで、背景に大自然があるっていうことにだんだん気がつく。やっぱり親しむ方がいいんじゃないですかね。だいたい小学校以降がダメなんですよ。僕、保育園の理事長を30年やってたけど、保育園の子どもは虫を好き嫌いしません。なんでも平気で捕まえるから、危なっかしいくらいです。 

キクリン 子どものときってそうです。危険かどうかを、自分の目を通して学ぶんですよね。

養老 そうなんです。オーストラリアにいたときに、ドイツ人の医者の夫婦がいたんだけど、子連れで家に呼んだら、2歳の子どもが床這いしてなんでも口に入れる。向こうの家は靴で入るでしょ。「汚いよ」って言ったら、「大丈夫、食べられないものは吐き出すから」と。そういう育て方してました。虫に馴染めない子は、大抵はお母さんが嫌いなんじゃないですか。

キクリン うちは子どもが4人いるんですけど妻が虫嫌いなので、長男は最初から母親の反応を見て虫が怖いという概念をもっちゃったんです。でも次男は自分と一緒に遊んできて、そうすると毛虫でもなんでも触れる。それはダメだってやつも関係なくつかんじゃう。本当に親を見てるんだなあって思います。先生の奥さんはどうなんですか? 

養老 無関心。ただうちの奥さんは目がいいんでね、一緒に行くとよく見つけます。最近は虫好きな女性も多いですけどね。

キクリン 結構ジャンルが固定されている気がします。

養老 毛虫、芋虫だね。

キクリン 男の方が虫が好きだって自己表現してるだけなのかもしれないですね。女性でも虫が好きな人はいっぱいいます。山に行っていると、自然が好きで登ってくる女性の方がたくさんいるんですよ。たぶん、そういう人は生き物が好きだから、虫好きな人も結構いると思います。 

とにかく虫のことを知りたい 

キクリン 先ほど土壌の歴史の話をうかがいましたけども、氷河期に生き残った虫は、どんなものが多かったのでしょうか? また、それが現在に繋がっている部分としては?

養老 ラオスあたりに行くと面白いんですよ。あそこは今では熱帯と亜熱帯でしょ。だけど氷河期の頃の虫が生き残っているんです。そういう寒い系統の虫が採れるのは日本に似ているなと思う。普通は暑いと、そういう虫は標高の高いところにしかいられない。日本はそうでしょ。西日本は高い山がないので、寒い系統のやつはみんないなくなった。

 ただ変なのは紀伊半島で、それが逆転する、(低地に寒い系統の)虫がいる。なぜかというと紀伊半島は渓流と谷が深い。崖面は鹿が食わないし、そういうところに生えている植物についてる蝶なんかは、むしろ渓流の下の方に残ってるんですね。そこは、言ってみれば寒いところだから。 

キクリン 紀伊半島にはそういう場所があるわけですね。

養老 そういうことを調べて本を書いた人がいますよ。高校の先生だったかな? はじめは学会であまり信用してもらえなくて。紀伊半島にそんなものがいるか、ってね。

キクリン 高校の先生が書いたっていう話ですけど日本の昆虫学って基本的にアマチュアの方が進化させてきたことだと思うんですけど。

養老 だいたいその「学」っていうのは、人間が勝手に決めてる。「お前のやってるのは学じゃねえ」って言われます。僕は学会っていうのを「業界」って呼んでいるんですよ。何らかの意味で商売つながりでしょ。 

キクリン なるほど、そういう話になっちゃうわけですね。

養老 僕らがやっているのは、商売じゃないもん。

キクリン だから楽しいっていうのがありますよね。商売にはできそうもない。自分の好きなことですから。 

養老 面白いからやってる。それが十分な見返りですよ。

キクリン 一緒です。あと自分は知りたいっていうことだけですね。どうなっているのかを知りたい、どこにいるのかを知りたい、この時間は何やってるんだろうとか。とにかく自分がフォーカスしている虫のことを知りたいっていう一心ですね。それを見つけたときはやっぱり嬉しい。

〈 「人間って相当にアホだと思いません?」「地面をガチンガチンに固めてしまって…」解剖学者・養老孟司が“環境問題”に思うこと 〉へ続く

(養老 孟司/Webオリジナル(外部転載))

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