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「このやり方なら私にもできるかもしれない」主演作公開相次ぐ女優・小川あん(26)が俳優復帰を決めた“名優の自伝”

文春オンライン / 2024年9月5日 17時0分

「このやり方なら私にもできるかもしれない」主演作公開相次ぐ女優・小川あん(26)が俳優復帰を決めた“名優の自伝”

撮影 橋本篤/文藝春秋

〈 ほとんど台詞はなく、ドラマティックな出来事も起きない。それでも…映画『石がある』が海外で激賞されている“ニッポン人が知らない理由” 〉から続く

『石がある』という素朴なタイトルのこの映画がもたらす驚きは、表現するのが難しい。川辺で出会った男女が水切り(石を投げて川面で跳ねさせる遊び)や石積みなどで遊びながら歩いていく。

 ほとんど台詞はなく、目立ってドラマティックな出来事は起こらない。といって退屈でも難解でもなく、思わずくすくす笑ってしまうユーモアと、時にはサスペンス映画のような緊張感もある。観終わった後に、「こんな映画は観たことがなかった」という思いが頭の中で反響した。

 この秋注目の『石がある』について、主演の小川あんさんに聞いた。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

俳優を続ける意味が分からなくなってしまった

――昨年から小川さんの主演・出演作の公開・配信が続いています。『PLASTIC』(宮崎大祐監督)、『彼方のうた』(杉田協士監督)、『4つの出鱈目と幽霊について』(山科圭太監督)、『犬』(中川奈月監督/『NN4444』所収)、11月公開予定の『STRANGERS』(池田健太監督)。いずれもとても評価されています。一時俳優の仕事を辞めていたというのは意外ですが、どういう思いからだったんでしょうか。学業に専念するため、でしょうか。

小川 いえ、そうではないです。大学の卒業が危うかったのも確かなんですけれど。コロナ禍の前くらいに、憧れていた俳優という職業の現実や、経済的な面で美しくないことを目の当たりにしていました。制作の過程でもいろいろ思うことがあって、俳優を続ける意味が分からなくなってしまったんです。他の俳優の方が活動しているようには、自分にはできない、と思ってしまった。求められているスピード感、どんどん仕事をこなしていかないといけないような雰囲気。私は次から次へと仕事を「こなす」ことはできないんです。ひとつひとつ時間もかかるし、心身も使うので、俳優業は辞めようと決意しました。

 もう疲れてしまっていたんです、東京に。新宿や渋谷の街、撮影や学校や。何もないところにいって、生活を衣食住から切り替えようと思って、当時のパートナーと2人で北海道に行きました。彼もその当時の暮らしに同じような思いを抱いていたので。

――北海道に移住して、何をされていたんでしょうか。

小川 紋別に行って、パートナーはホタテ漁の漁師になりました。私はその生活のサポートをしながら、近くのセブン-イレブンで働いていました。

紋別で手にした高峰秀子の自伝

――どのくらい北海道に?

小川 結局1年にも満たない期間でした。彼が過酷なホタテ漁で疲労骨折してしまって、働けなくなってしまったこともありましたが、ある時やっぱり書店に行きたくなって、2時間かけてブックオフに行って、そこで高峰秀子さんの自伝を見つけてしまった。高峰さんは割り切って銀幕女優として仕事をされていて、プライベートは切り離されていた。もしかしたら私も割り切って、できることだけを映画でやって、あとは別という生き方ができるだろうか。そんなやり方なら私にもできるかもしれないと考えていました。ちょうどそんなときに、『石がある』のお話をいただいたんです。

 コロナ禍での「ミニシアター・エイド」で寄付したリターンの「サンクス・シアター」で、佐藤真監督の『花子』と杉田協士監督の『ひかりの歌』を観たのもその頃でした。とても感動しました。こういう無理のない、自分に届く範囲で真摯に向き合っている、素晴らしい映画をつくっている、そういう映画づくりがあるということを知って、映画に対する希望を取り戻せたんです。

――復帰後は、以前の小川さんと何が変わったのでしょうか。

小川 無理をしない、自分にできることは限られているって、ある種あきらめました。でもそのあきらめた先に、自分の感覚としては、究極な美しい映画の世界があると思っています。復帰した後は、そういう自分と同じようなことを思って映画をつくっている方とだけ一緒に作品をつくることにしました。これからどう進んでいけばいいかが、かなり自分で理解できて楽になりました。

 最近、日本の新作映画が海外で評価されることが少しずつ増えてきたように思っています。いま海外で評価されている日本映画は、ハリウッドの真似をしないで、日本の日常ベースの繊細な生活を表現した作品だと思います。素朴な人間性が実直に描かれる、そんな作品づくりに関わっていきたいと思っています。

雑誌での映画評連載や未公開作配給が楽しくてしかたがない

――俳優として目指していることはありますか。

小川 そうですね……自分にとって目指すって難しくて。でも、俳優としてすごいと思って尊敬している一人は、ミシェル・ウィリアムズです。スピルバーグの『フェイブルマンズ』のような大作のスターとして輝いている一方で、ケリー・ライカート作品ではオーラまで消してしまっているような演技が素晴らしいと思います。スターはどんな作品に出てもその俳優にしか見えない、ということがしばしばありますけど、ミシェル・ウィリアムズは作品に溶け込んで、オーラも自在に変えられる。私もその作品ごとにまったく違う存在として居られる俳優になれればと思います。

――雑誌での映画評連載や映画配給など、俳優にとどまらない映画への関わり方をされています。

小川 とにかく映画が好きなんです(笑)。好きが高じて、未公開映画の上映会をやられているサム・フリークスの岡俊彦さんやGucchi's Free Schoolの降矢聡さんと知り合ったことから、コメントを書くようになり、映画評を書くようになりました。「DVD&動画配信でーた」の連載はとても難しくて、日本未公開の素晴らしい作品を自分で探してきて紹介しなければいけないので、毎回苦労しています。「キネマ旬報」でもレビューを書かせていただくようになったので、締切地獄なんですけど(笑)、最高の仕事です!

 上映会「現代未公開映画特集」では、海外との上映交渉など配給の仕事もしていますが、日本でまだ観られていない素晴らしい作品を紹介するのがほんとうに楽しくてしかたないんです。

――最後に、『石がある』をこれから観る観客にひとことお願いします。

小川 いろいろな見方のできる作品だと思います。上映時間104分の間だけは、どうぞ肩の力を抜いて、映画に身を委ねてほしいですね。

おがわ・あん 1998年生まれ、東京都出身。2014年に『パズル』(内藤瑛亮監督)で映画初出演。以降、『天国はまだ遠い』(濱口竜介監督)、『あいが、そいで、こい』(柴田啓佑監督)、『スウィートビターキャンディ』(中村祐太郎監督)などに出演。2023年は『PLASTIC』(宮崎大祐監督)、『4つの出鱈目と幽霊について』(山科圭太監督)、『犬』(中川奈月監督)、『彼方のうた』(杉田協士監督)と主演作が立て続けに公開。「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」にて連載、「週刊文春CINEMA」への寄稿など執筆活動も行なっている。

撮影 橋本篤/文藝春秋

(小川 あん/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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