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キャンディーズの解散宣言になぜ当時の若者は熱狂したのか…犬童一心監督が辿り着いた答え《映画『気分を変えて?』誕生秘話》

文春オンライン / 2024年9月1日 11時0分

キャンディーズの解散宣言になぜ当時の若者は熱狂したのか…犬童一心監督が辿り着いた答え《映画『気分を変えて?』誕生秘話》

犬童一心監督 撮影 藍河兼一

〈 「彼の作品だけムチャクチャカッコよかった。他の映画と違った」犬童一心監督が今も忘れられない、“あの名監督の大学時代” 〉から続く

 学生運動ははるかに潰え、すぐそこに『スター・ウォーズ』の時代が迫っていた。僕の中では解散を表明したキャンディーズと、萩尾望都や大島弓子ら少女漫画家がひとつのものになっていた――日本映画界の「青春時代」をたどるインタビューシリーズの第4弾。(全4回の2回目/ 前回を読む 、 続きを読む 、 #4を読む )

8ミリ第1作『気分を変えて?』

――『気分を変えて?』は高校何年生で撮ったんですか?

犬童 高校3年の文化祭で上映した。

――クラスで作ったんですか?

犬童 いやいや。僕が教室を借りてやったんですよ。誰も仲間がいないので。高校でそういう映画を一生懸命作って上映しても、ウケないんですよね。

――エンタメじゃないですからね。

犬童 実はこれ、1時間あったんですよ。それで、リールが2本に分かれていたんです。映写機が30分しかかからないから、上映する時は30分でリール交換しなきゃいけないじゃない。そうすると、全員出ちゃうんです。

――一回中断になるから。

犬童 電気つけてリールを入れ替えている間に、全員いなくなっちゃうから、誰も最後まで見ない問題というのが初日に起きたんです。それで、僕がたぶん長い人生でやった行為で一番偉かったことはこれだと思うんですけど、その日の夜に30分にした。

――短縮版を作った。

犬童 一晩で要らないシーンを抜いて、ジャンプカットとかして、30分のリールギリギリに収まるようにしたんです。結局のところ、それをやってもウケるわけじゃないんだけど、自分で見てムチャクチャ面白くなった。1時間の時よりも、30分に編集したほうがすごくいいんですよ。怒涛のような勢いがあって。そっちのほうが自分の頭の中にあったことが凝縮されているというか。

――そこで学んだんですね。

犬童 そう。編集ってすごい。編集でこんなに変わるんだって。その経験はいまだに影響してるんですよ。僕が編集し始めるとずっと切っちゃう。途中で止められないんですよ。

――撮ったものに思い入れがないほうなんですね?

犬童 どんどん切っちゃう。編集マンに止められるんです。

――せめぎ合いがあるんですね。

犬童 僕が「あそこのシーンは…」と言ったら編集マンが守りに入る。「また切るって言い出すぞ」みたいな。それは絶対この時の経験が影響しているんですよ。

ピークで降りたことでキャンディーズは若者の心情に火をつけた

――『気分を変えて?』はキャンディーズの解散のコンサートの模様と、映画を作っている主人公の映画の中の風景が交錯する構成ですよね。

犬童 原將人さんが高校生の時に撮った『おかしさに彩られた悲しみのバラード』という16ミリの自主映画の名作があるんですよ。これがものすごく好きで。原さんは僕より10歳上なので、1968年が舞台なんです。ベトナム反戦運動の時に、映画を作りたい高校生が何を撮っていいか分からないということをやっていたんですね。ベトナム反戦運動が68年を象徴しているから、僕は78年のティーンエイジャーを象徴できる出来事は何か考えた。連合赤軍事件以降、学生運動はまるっきり変わってしまった。あれは72年だから、78年はその影響がすごく大きくて、高校生が学生運動に近づくことはなかったですよね。ティーンエイジャーたちが集まってパッションがあふれるみたいな、そういう背景がないんです。その頃、「普通の女の子に戻りたい」とキャンディーズが解散を宣言したんです。そしたら、若い男の人たちが急に燃え出した。

 なんで若い人たちがそんなに熱くなったのか、僕は心情的に分かったんです。それは、既定路線に乗らないということですよ。キャンディーズはあの時ピークだから、会社からすれば、そのままできるだけ長くやってほしいじゃないですか。それなのに、自分で降りた。僕たちの世代は、その前の学生運動の反動なのか、できるだけいい大学に入っていい会社に入るとか、官僚になるとか、安定した路線に行くことを求められていた。若い人たちは心情的には既定路線のまま行きたくない思いを持っていて、その気持ちにキャンディーズが火をつけた。だから、これは使えるなと思ったんです。78年を象徴できるのはキャンディーズの解散しかないと。

 それで、78年4月4日にキャンディーズ解散コンサートに集まってくる周りの人たちを撮りに行った。テレビで放送するのは知っていたから、中はそっちを使って、周りに集まってくる人をとにかく撮る。それを原さんの映画のベトナム反戦運動のような背景にして、それと別に、その時の17歳の自分の心情を、その中に入れていくという構成を決めた。

ものすごく大きかった荒井由実、萩尾望都の存在

――主人公は映画を撮ることは決めていますが、何を撮るか迷っていますね。

犬童 そうです。『8 1/2』のマルチェロ・マストロヤンニとか、原さんの高校生と同じで、撮りたい欲望はあるけど何を撮っていいか分からない。17歳の時の自分はどうだったかを残そうとする話になったということですね。

 さっき少し話が出たけど、荒井由実の存在ってものすごく大きいんですよね。それまでにない、メロディとか、アレンジもそうだけど、歌詞がものすごく新鮮だった。荒井由実を深夜放送で初めて聴いた頃、僕は萩尾望都の『トーマの心臓』とも出会ったんです。たまたま弟が貸本屋で借りてきて、「明日までに読むならいいよ」って3冊置いていって。この萩尾望都という女性が本当にすごいなと思ったんです。少女漫画の世界ってもしかしたらすごくなっているんじゃないかと思って、大島弓子さんとか山岸凉子さんとかの少女漫画を探して読んでいったんです。そのことがこの映画にものすごく影響しているんです。

 少年漫画って大体目的があって、成長とか成功をするためにその日戦うとか努力するものが多い。だから、少年漫画は、未来のために頑張るみたいな構造になっている。でも少女漫画を読むと、重要なのはその日なんです。荒井由実の歌も、歌詞を聴いていると、描いているのは今日ですよね。今日の今をすくい取って歌詞にするみたいなことをやっていて。そういう視点で映画を作りたいなと思ったんです。

 だから、その青年が将来のために何かするとかじゃなくて、1978年4月4日の今日という日の17歳を残しておく。だから、『気分を変えて?』の中で『トーマの心臓』の冒頭が読まれるんです。

――そういう意味合いだったんですね。少年漫画って、あるテーマを分かりやすく訴えるものが多いけど、少女漫画は分かりやすいメッセージというよりも、その日の気分を描いたり、何かモヤモヤしたものをそのまま伝えているみたいな感じがしますね。

犬童 いや、ものすごい明確なメッセージがありますよね。

――そうですか。

犬童 人によりますけど、萩尾さんとか大島さんは明確なメッセージがあって。この2人は団塊の世代だと思うんですけど、言いたいことだけを言って消えた連中を許さないみたいな。学生運動が華やかなりし頃、先頭に立っていた連中が、敵対していた側に今は普通にいるけど、この人たちは「そっちには絶対行かないぞ」と決心しているというか。当時そう感じていました。

――そういう大人にはなるまい、みたいな?

犬童 その頃、少女漫画に強く感じてましたね。この世代の女性たちはそうなんだ、と。だから自分の中ではそういうふうに、キャンディーズと萩尾さんとか大島さんとかの少女漫画家が一つになっている。

伝わらなかった作品の真意

――あの時代には革命しようとした人たちの名残、影響がいろんな形であったんですね。

犬童 もうすぐ『スター・ウォーズ』が来るという頃ですよね。アメリカ映画は70年代、ニューシネマ全盛だったのが、『スター・ウォーズ』の時代に代わっていく。『スター・ウォーズ』はいい映画ですよ。でも、気がつけばチェンジしている。

――黒沢さんの自主映画でも革命を明確に意識していましたよね。学内での革命を描いていた。

犬童 でも、黒沢さんはそこに距離を置くという視点でした。

――それをパロディみたいに見せるというか。

犬童 大学の中で内ゲバとかが普通にあったから。あの頃もずっと。

――ありましたね。立教も少し前にあったみたいです。

犬童 早稲田だと川口大三郎さんが殺されたり。連合赤軍事件の後にそういう事件があった。僕はその頃は中学生で、その流れで高校になっていくので。黒沢さんは5つ上だから、もっと身近だったと思うんですよね。だから、早い時期に黒沢さんは距離を置くようになったんでしょうね。『SCHOOL DAYS』も『しがらみ学園』もそうだった。

――そういう解説を聞くと、『気分を変えて?』の意味がすごく明確に分かりました。でも、文化祭で上映した時は、あまりそれが伝わらなかったんですね?

犬童 まるっきり伝わった感じがしなかった。 

撮影 藍河兼一

INFORMATIONアイコン

◎犬童一心監督の8ミリ作品『気分を変えて?』の上映があります。

第46回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)2024〔9月7日(土)~21日(土)国立映画アーカイブにて開催(※月曜休館)〕の、8ミリフィルム映画制作熱のピーク時代につくられた傑作選を特集する【自由だぜ!80~90年代自主映画】にて。

9月7日(土)12:00~ 国立映画アーカイブ(小ホール)

詳しくは公式サイト  https://pff.jp/46th/

〈 「大学に入ったら、大島弓子を映画にすると決めていた」犬童一心監督にそう決意させた「少女漫画の力」 〉へ続く

(小中 和哉/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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