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「子供にこんな文章を書かせるなんて鬼ですよ」5歳の娘を「体重12キロ」になるまで虐待した“両親の非道”――目黒5歳女児虐待死事件(2018年)

文春オンライン / 2024年8月25日 17時0分

「子供にこんな文章を書かせるなんて鬼ですよ」5歳の娘を「体重12キロ」になるまで虐待した“両親の非道”――目黒5歳女児虐待死事件(2018年)

我が子を虐待死に追いやった両親(写真:筆者提供)

 16キロあった体重は死亡するまでの1ヶ月半で12キロに減少、勉強を少しでもサボろうとすると父親による容赦ない拳が…。2018年3月に起きた「目黒5歳女児虐待死事件」。いったいなぜ実の娘を両親は死に至るまで虐待したのか? ノンフィクションライターの高木瑞穂氏と、YouTubeを中心に活躍するドキュメンタリー班「 日影のこえ 」による新刊『 事件の涙 犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

「もうおねがい、ゆるして」

 2018年6月6日、東京・霞が関の警視庁本部で、記者たちは捜査一課長を囲むようにして集まっていた。東京都目黒区で衰弱した船戸結愛(当時5歳)を、放置し死亡させた疑いで逮捕された船戸雄大(同33歳)と母親の優里(同25歳)に関する、逮捕レクを聞くためだ。

 逮捕レクとは、容疑者逮捕後の報道説明のことである。保護責任者遺棄致死罪。罪状を聞いて記者たちは緊張を走らせていた。ほぼ間違いなく虐待事案である。となればマスコミによる激しい取材合戦が予想される。記者たちは、ペンを手に捜査一課長の言葉を漏らさないようメモを取る。メモは、これから始まる戦いの兵糧に、弾薬になる。

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〈ママ、もうパパとママにいわれなくても、しっかりじぶんから、きょうよりかあしたはもっともっと、できるようにするから。もうおねがい、ゆるして。ゆるしてください、おねがいします。ほんとうにもう、おなじことはしません。ゆるして。きのうまでぜんぜんできてなかったこと、これまでまいにちやってきたことを、なおします。これまでどんだけあほみたいにあそんだか。あそぶってあほみたいだからやめる。もうぜったいぜったい、やらないからね。ぜったい。やくそくします〉

==

 捜査一課長が唐突にメモを読み上げたことで、記者たちは驚きを隠せなかった。逮捕レクの時点で裁判の重要になりそうな証拠を明らかにするなど、異例のことだ。

「子供にこんな文章を書かせるなんて鬼ですよ、オニ」

 レクに出た顔馴染みの記者は怒気を込めて言った。悲痛な文面からはいびつな親子関係が透けて見える。

 起訴や公判維持が難しいことが知られている、虐待死事案。家庭内で行われるため、証拠が限られ、起訴してそれなりの罪を追わせるだけの材料集めに時間がかかり、数年経ってから逮捕に至るケースも珍しくない。

 だが、警察は怒り心頭に発していたようで、雄大と優里は、結愛の死からわずか3ヶ月でスピード逮捕される。ばかりか虐待死の多くは、いずれも上限は懲役20年の保護責任者遺棄致死罪か傷害致死罪が適用され、無期や死刑に至る殺人罪が適用されるのは稀であるため、あえて結愛のメモを公開、世間の怒りを虐待に向けさせ公判を維持して重罪を科す意図を、私は感じた。前出の記者によれば、メモを読み上げたとき、捜査一課長は「目に涙を溜めていた」という。

 日本は虐待死の刑が圧倒的に軽いと諸外国から指摘されていたことからして、確かに警察は思うところがあったようだ。これまでの判例では懲役4~7年が相場である。苦難の末に白日の下にさらした少女の死を決して無駄にしてはいけない。目指す虐待死の厳罰化は、この事件が引き金になったのである。

犯人夫婦が住んでいた「高級住宅街」へ足を運ぶと…

 警察のプロパガンダとでも言うべき発表を受け、マスコミによる取材合戦はレク直後から否応なしに始まった。特に各社は、事件現場となった3階建てのアパートがある、東京都目黒区東が丘の取材に力を入れる。

 私も事件発生当時、都内でも地価が高いエリアを走る有数の路線である東急東横線と東急田園都市線のちょうど真ん中あたりに位置する現場周辺をくまなく歩いた。どの駅から向かおうとも、徒歩では10分以上かかる場所だが、駒沢公園に隣接し瀟洒な住宅が立ち並ぶ高級住宅街だ。

 注文住宅らしい建物があちこちに林立し、住宅のガレージには高級車が並んでいる。一方、マスコミの人垣に加わり事件現場となったアパートを見上げると、息を呑まずにはいられなかった。築40年、間取り2K。にもかかわらず家賃は月8万円。他の地域ならもっと良い物件に暮らせるのでは。建物は周囲から明らかに浮いていた。

 雄大がなぜ見栄まで張り、東が丘にこだわったのか、事情を知らない当時の私には不思議だったが、雄大と優里がこの地にたどりつくまでの軌跡を追うと、その理由がぼんやり見えてきた。

(文中敬称略)

〈 5歳の娘を死ぬまで虐待、身内には逮捕者も…「犯人夫婦」の“浮世離れ”した生活事情――目黒5歳女児虐待死事件(2018年) 〉へ続く

(高木 瑞穂,YouTube「日影のこえ」取材班/Webオリジナル(外部転載))

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