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福井県の山中にひっそり佇む幻想的すぎる「地下空間」…“立入禁止の坑内”を探索して出会った“衝撃の光景”

文春オンライン / 2024年9月6日 11時0分

福井県の山中にひっそり佇む幻想的すぎる「地下空間」…“立入禁止の坑内”を探索して出会った“衝撃の光景”

大谷石の石切場跡「大谷資料館」は年間70万人以上が訪れる観光名所だ

 連休を利用して、私は福井県鯖江市にある三床山(みとこやま)を訪ねていた。目指すのは石切場跡だ。石切場とは、土木や建築に使う石材を切り出している場所のことで、かつては日本中にたくさんあった。

 現在は閉業してしまったところも多いが、石を切り出した後に残る巨大な地下空間は見る者を圧倒するスケール感があり、観光資源として活用している事例もある。栃木県にある大谷石の石切場跡は“大谷資料館”として、数々のドラマや映画のロケ地にもなった。今や年間70万人以上が訪れる一大観光地となっている。

知られざる石切場へと…

 大谷資料館のようにライトアップされた壮大な地下空間ももちろん素敵だが、人がいない山の中にひっそりと佇んでいる石切場跡も、また魅力的だ。私はこれまで、群馬県や石川県、静岡県などにある石切場跡を何箇所か見てきたが、福井県の三床山にも石切場跡があるのだという。

◆◆◆

 まだ夏には早い時期に訪れたが、晴天に恵まれ、少し歩くと汗が噴き出す。車を置いて山に入るが、まずは熊野神社の境内を通ることになる。

 鳥居の手前には獣害対策のためのフェンスがあり、ゲートを自分で開けて通過する。その先には黒色のフレコンバックが並んでおり、これを乗り越える。

 さらにその先には電気柵があったため、接触しないように気を付けて慎重にジャンプした。参拝難易度が非常に高い神社だ。

 何とか神社にたどり着きお参りしたら、裏手から山に入る。この先は道らしい道がなく、どのように進めばいいのか分からなかった。ちょうどそれっぽいピンクテープを見つけたので、テープを頼りに山を登ることにしよう。

 道なき山を10分ほど登っていると、本当にこの先に石切場があったのかと不安になってくる。すると突然、目の前にトラックの廃車が現れた。全体が赤茶色に錆び、荷台には大きな木が倒れかかっている。運転席は風化が進み、原形を留めていない。人工物が自然と一体化したかのような風景に、しばし見とれる。

 トラックがあるということは、石切場が近いはずだ。

息をのむ幻想的な光景が

 廃車の先には、息をのむ光景が広がっていた。

 いびつな形をした山から長方形の石を切り出すため、不思議な地下空間が山に残る。まるでこちらに迫ってくるかのような迫力がある。時間の経過とともに全体が緑に覆われつつあり、それがまた幻想的だ。

 近づいてみると、石を切り出した痕跡がはっきりと見て取れる。山の表面は植物に覆われているため見えないが、こうして断面を見ると、山の大部分が大きな岩で構成されていることがよく分かる。

 人が山を切り取ってできた地下空間には、さらに奥へ通じる坑道があった。しかし、入口は施錠され、立入禁止の看板も掲げられている。奥も見てみたかったが、この圧倒的な風景を見られただけでヨシとしよう。

 そう思い、しばし雰囲気に浸っていると、なんだか騒がしい声が聞こえた気がした。数人ではない、もっと大人数の声だ。

 いや、しかしここは道もない山の奥。空耳だろうと思ったが、声は徐々に近づいてくる。

 そして、ついに人の姿が見えた。本当に人が来た。しかも20人以上の大所帯だ。

 これには驚いたが、たった一人でここまで来ていた私を見て、向こうもさぞビックリしたことだろう。話をお聞きすると、この日“福井歩こう会”によるウォーキングイベントがあり、石切場跡がコースに入っていたのだという。ここを訪れるコースは年に一度しか設定がなく、偶然にもそれにかち合ったというわけだ。

地元ガイドの方の後に続き…

 地元ガイドの方が案内しており、せっかくだから後ろのほうで聞いていればいいよと、優しい言葉をかけていただいた。ガイドされていたのは、三床山を愛する会の事務局長などを務める舘庄司さん(現在76歳)。

 舘さんによると、約2000万年前の火山活動によって三床山は現在の姿になったと推測されている。山の中核部は凝灰石の岩盤で形成され、江戸時代から凝灰石の採掘がはじまり、地元の産業となったのだという。

 淡い緑色がかった石は和田石と呼ばれ、柔らかく加工しやすい反面、風化しやすい特徴があった。主に建築用の基礎石や玄関石、石垣などに使用され、地場で消費されることが多かったそう。

 昭和に入ると機械が導入され大量生産が始まったが、昭和30年頃をピークに採掘量は減少してゆく。コンクリート製品や輸入石にとって替わられ、建築工法の変更によって石そのものが使われなくなったためだ。需要は減少の一途をたどり、昭和42年、廃坑のやむなきに至った。

 また、戦時中には幻の地下軍需工場計画もあったという。“零戦”の次期戦闘機“烈風”のエンジンをこの石切場で量産しようと、部品を持ち込み人員も手配していたが、実際に稼働する直前に終戦を迎えた。

 なお、現在、福井県に空港はないが、戦時中に幻といわれた飛行場が、隣接する越前市に存在した。たった一機だけが降り立ち、終戦のため廃止された海軍の愛宕航空基地だ。舘さんは、この海軍航空基地とも関連があったのではないかという。石切場跡だけでも凄い場所なのに、このような計画があったとは、さらに驚きだ。

 山奥で偶然にも多くの人と出会い、そしてこのような貴重な話を聞くことができるとは、なんて幸運なんだろう。すると、舘さんが坑道を塞いでいる柵に近づいていく。

 いやまさか、そんなことがあるのか、でもひょっとして……。そう思っていると、いとも簡単に開錠され、柵が開いた。これには喜びというか、驚きを禁じ得なかった。舘さんの「ついてきて下さい」との言葉に、ウォーキングの一行に続いて、私も入坑させていただいた。

 先ほどまで憧れの眼差しで眺めていた柵の内部へ、ワクワクしながら突入する。

真っ暗な坑内を進んでいく

 一歩足を踏み入れると外の蒸し暑い空気とは一変し、ひんやりとした空気が身を包む。内部に照明などはなく真っ暗だ。

 こんな時のために常に懐中電灯とビデオライトを持ち歩いていてよかった。誰よりも明るいライトで坑内を照らす。

 そこには、想像を超える世界が広がっていた。

 天井まで数十メートルはあろうかという地下の大空間。そして、飛び交う大量のコウモリたち。私はこれまで色々な石切場跡や坑道を探索してきたのでコウモリの大群は見慣れているが、これほどまでの大群は見たことがなかった。ざっと1000羽以上は飛び交っているのではないだろうか。キーキーという甲高い鳴き声とバサバサという羽音が、BGMのように常に聞こえている。上から常にパラパラと何かが降ってきているのは、おそらくコウモリの糞尿だろう。ちょっと気になるところだが、私以外に気にしている人はいなかった。

 肝心の石切場は、作業の途中で放棄されたようで、切り出されながらも運び出されなかった石や、使われていた道具類までそのまま残されている。こうした生々しい痕跡が、当時の状況をリアルに物語っているようだ。ここは、地域の産業を記録する貴重な産業遺産であると同時に、見る者を魅了する空間でもある。

 壁面に残された石切の跡、削られた地面には水が溜まり地底湖が形成されるなど、何時間でも見ていたい光景だが、これはあくまでもウォーキングイベントの一部であり、私は偶然居合わせただけの部外者だ。10分ほどで見学はあっという間に終わり、集団から遅れないように急いで外に出た。

 蒸し暑い空気とともに現実に引き戻された私は、集合写真の撮影を買って出た。その後、一行は次のポイントへと歩いて行った。

 夢のような時間が忘れられなかった私は、後日、改めて舘さんにお話を聞いた。

意外な言葉が…

 産業遺産としても貴重で、それを差し置いても素敵な地下空間だが、普段は使われていないのか尋ねてみた。すると、坑内は危険なため普段は施錠・管理されており、公開や見学会も行われていないとのこと。稀に学習会やウォーキングイベント等で鯖江市の許可が得られれば、三床山や周辺地域の歴史に詳しい舘さんが、ボランティアでガイドを引き受けているそうだ。坑内は立ち入ることができないが、周辺の箇所や江戸時代に採掘されたエリアは見ることができる。ただし、それも自己責任であることはいうまでもない。

 石切場の前に放置されていた自然と一体化したトラックについて聞いてみた。

「あれは、戦後に払い下げられた軍用車です」

 これには正直、驚いた。そこまで歴史を刻んできたトラックだったとは。軍用車は強い構造をしているので、過酷な石切の現場に最適だったようだ。

 また、舘さんは、私がずっと石切場のことしか聞かないので「三床山には他にも素晴らしいところがいっぱいありますよ」と教えてくれた。三床山からのパノラマ眺望は素晴らしく、福井県内で人気の里山なのだという。『鯖江市 三床山』で検索してみて下さい、と舘さん。

 石切場の内部に入ることはできないが、外から眺めるだけでも一見の価値がある。参拝難易度の高い熊野神社やパノラマ眺望と併せて、三床山を訪ねてみるのもいいだろう。

 大切なことなので繰り返し書くが、石切場跡を外から眺める際は自己責任で、内部には立ち入らないようくれぐれもご注意願いたい。

(鹿取 茂雄)

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