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「防衛省は日本兵の遺骨を海に捨てようと…」終戦の日、遺骨収集40年の男性(70)は靖國神社で訴えた

文春オンライン / 2024年8月21日 17時0分

「防衛省は日本兵の遺骨を海に捨てようと…」終戦の日、遺骨収集40年の男性(70)は靖國神社で訴えた

マイクを持って訴える男性

「戦没者を助けて下さい! 防衛省は日本兵の遺骨を海に捨てようとしています」

 8月15日、終戦の日。台風が接近しているとは思えない真夏の日差しが照り付ける中、東京・九段の靖國神社は今年も“英霊”を弔おうと大勢の人が訪れていた。その手前の路上で配られたチラシの冒頭には、参拝者の目を引くこの言葉が掲げられていた。チラシを配る人たちとともに、マイクを持った男性が訴えた。

「沖縄戦の激戦地である南部から土砂を取るということは、戦没者の遺骨を海に捨てるということに他ならないんです」

 米軍普天間基地の移設のため、名護市辺野古の沖合を埋め立てて新基地を建設する工事を防衛省が進めている。その土砂はどこから運んでくるのか? 

3000人近い遺骨が収集されずに眠っている

 沖縄本島南部で採取された土砂を使うことが検討されている。だが、そこは大戦末期の激戦地だ。沖縄戦では住民と日本軍と米軍の合計およそ20万人が犠牲になり、今も南部を中心に3000人近い遺骨が収集されずに眠っていると見られる。そこで土砂を採取するということは、戦没者の遺骨混じりの土を埋め立てに使う、つまり海に捨てることを意味する。それでは永遠に遺骨は収集できなくなってしまう。

 靖國神社前で訴えていたのは、具志堅隆松さん(70)。自らを「ガマフヤー」と呼ぶ。ガマは沖縄の言葉で洞窟、フヤーは掘る人。沖縄戦では、米軍の圧倒的な砲火を逃れようとガマに逃げ込んだ住民や兵士が大勢犠牲になった。

 具志堅さんは若い頃、ボーイスカウトのリーダーとして遺骨収集に携わり、以来40年以上、ガマにもぐり遺骨をコツコツと掘り続けてきた。

「これは基地に反対とか賛成とか、そういう問題じゃないんです。人道上の問題ですよ。戦没者の遺骨を海に捨てていいと思う人なんていませんよね。本来、政府が率先して遺骨を収集すべきです。なのになぜ沖縄では遺骨が混じっていることを知りながら海に捨てるんですか。そこがおかしいと訴えているんです」

ーーそれを終戦の日に靖國神社の前で訴えるのはなぜか?

終戦の日に靖國神社の前で訴える理由

「この日、靖國神社に参拝する方は、戦没者に対して敬意を払う気持ちがあるでしょう。その方々にこんな事実があると訴えれば効果があると考えました」

ーー実際に行なってみた反応は?

「ありますよ。最初、神社に行く途中で私たちの前を通り過ぎる時に『これは何だ?』という表情で眺めています。参拝して帰り際にもう一度、今度は話に耳を傾けて『何が起きているんですか?』って尋ねてくれる。遺骨が海に捨てられるって言うと皆さん驚かれますね。『そんなことがあるんですか?』って。現にそういう計画を国が進めていて、それを止めるためにこうして訴えているんですと伝えています」

 具志堅さんたちが配っていたチラシには、次のような文章も記されている。

「防衛省にとって、戦没日本兵は先輩であり戦友です。その戦友の遺骨を、戦友を殺した米軍の基地を作ってあげるため、海に捨てようとしているのです。これは戦友と遺族に対する裏切りです」

 基地がいいかどうかではない。その埋め立てに遺骨混じりの土砂を使うことが問題なのだ。これは本来ならすべての日本人に理解されやすい訴えだろう。

「戦没者に対する冒涜ですよ」

 ちょうど同じ頃、すぐそばの日本武道館では全国戦没者追悼式が行われていた。前日14日に岸田首相が自民党総裁選不出馬を表明したばかりとあって、すっかり影に隠れてしまったが。

 岸田首相は式辞で、戦没者に敬意と感謝の念を捧げるとした上で、「未(いま)だ帰還を果たされていない多くのご遺骨のことも、決して忘れません。一日も早くふるさとにお迎えできるよう、国の責務として、ご遺骨の収集を集中的に実施してまいります」と述べた。

「それを言うなら、こんなことやっちゃダメですよね。戦没者に敬意と感謝を捧げるって言いながら遺骨を海に捨てる。そんなことが同時に行われるって、戦没者に対する冒涜ですよ」

 沖縄戦の戦没者はむろん日本軍兵士だけではない。20万人にのぼる犠牲者の中には多数の沖縄県民をはじめ、日本の植民地だった朝鮮や台湾の出身者、それに戦闘相手だった米軍の兵士も含まれる。埋め立てに使われる土砂にはこれらの人々の遺骨も含まれているが、実態を知らないのか、海外でこの問題に声を上げる動きはない。

「彼ら(アメリカや韓国の人)にも触発したいんですよ」

「だから彼らにも触発したいんですよ。アメリカや韓国の人たちも自国の戦没者の遺骨が捨てられると知れば声を上げるでしょう。国際的な人道問題になれば日本政府も動かざるを得なくなります」

 こうした声に国はどう向き合っているのか? 具志堅さんと沖縄の遺族たちはこれまで繰り返し防衛省との交渉を重ねてきた。例えば今年2月の交渉で防衛省の担当者は次のように述べた。

「今後新たに発注する工事の土砂の調達先は決まっておりませんけれども、このような歴史(=沖縄戦の犠牲者20万人の多くが本島南部に集中)のある沖縄において、ご遺骨の問題は真摯に受け止める必要があるというふうに認識してございます。こうしたことも踏まえながら事業を進めたいというふうに考えておるところでございます」

 これは普通の感覚なら「ご遺骨の問題を真摯に受け止める必要があるから、事業を進める上で南部の土砂は埋め立てに使わない」という趣旨だと受け止めるだろう。そこで具志堅さんは念押しした。

「その通りであれば、南部の土砂は使わないと理解してよろしいですか?」

 ところが防衛省の担当者は「繰り返しになりますけど」とことわった上で、先ほどとまったく同じ回答を繰り返す。具志堅さんが言葉を変えて何度確認を求めても、決して「使わない」とは言わない。最後はとうとうこう述べた。

「ご質問の趣旨については十分承知しておりますけども、本日私の方でご回答させていただく内容につきましては、先ほど述べさせていただいた通りでございます」

 それ以外の答えは一切許されていないということだろう。具志堅さんはため息をつく。

「何度交渉しても彼らの答えは同じですね。真摯に受け止めるけど『使わない』とは言わない。もう一言一句暗記しちゃいましたよ」

 それでも具志堅さんはあきらめないと言う。

「不条理のそばを黙って通り過ぎるわけにはいきませんから」

 首相は戦没者に敬意と感謝の念を捧げるという。国は遺骨を収集し慰霊追悼を行うという。一方で、沖縄では遺骨混じりの土砂を埋め立てに使うことを「やめる」とは決して言わない。これはダブルスタンダードだろう。

 そして、このダブルスタンダードは私たち本土の人間全体に蔓延していないか? 沖縄で戦死した兵士は日本全国から集まっていたのに、遺骨を海に捨てることから目を背ける。本来、“英霊”を尊ぶ右翼こそ、この事態に声を上げるべきだろう。具志堅さんたちの訴えは、本土の私たちに鋭い問いを突き付けている。

「あなたたちは沖縄戦で県民と兵士を捨て石にしました。今、再び祖国の戦没者を見捨てるのですか?」

写真=相澤冬樹

(相澤 冬樹)

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