東京のそば屋を席巻する製麵会社「むらめん」とは何者か 潜入取材でわかった異様なこだわりと“キャラ立ち”の理由
文春オンライン / 2024年8月27日 11時0分
創業当時の村井製麺所 写真提供=むらめん株式会社
日本は麺食文化のある国であり、製麺屋が多数存在している。乾麺やインスタント麺を作る製麺屋、そうめん専門、一般家庭向けに大規模に小売りする製麺屋、家族経営で細々と小売りする街の製麺屋......。そして、中には立ち食いそば屋に卸売りしている中堅の業務用製麺屋というのもある。
今回は立ち食いそば屋の業務用麺類製造卸として有名な「むらめん株式会社」を訪問し、その知られざる姿を少しだけ見てみようという企画である。個人的には長年取材したいと考えていた会社である。
創業76年の「むらめん」は東京一円の立ち食いそば屋を席巻している
「むらめん」は昭和23(1948)年、愛知県岡崎市で製粉製麺工場を創設することから始まった。昭和35(1960)年7月に東京都世田谷区にて「有限会社むらい麺店」を設立し、手打うどんを中心に製造販売。昭和50(1975)年7月に「株式会社むらい麺店」に社名変更。
さらに平成2(1990)年7月に世田谷区用賀に新工場を建築移転し「むらめん株式会社」(以下「むらめん」)に変更し現在に至っている。
長年の実績だけでなくその親しみのある名称から、近年、「むらめん」はたくさんの立ち食いそば屋でダントツで使用されるようになっている。東京23区内・多摩地区、神奈川県なら川崎・横浜・相模原地区まで配達範囲である。
「むらめん」を使用する立ち食いそば屋の人気店は数多くある。
たとえば、7月に虎ノ門から茅場町に移転した「峠そば」、文京区小石川にある厚肉そばが有名なチェ―ン店「豊しま」(他都内2店)、新橋駅前ビルの人気店「丹波屋」、中野駅前の「田舎そば かさい」、高円寺の人気店「江戸丸」、新宿西口の古参店「新和そば」、都内チェーン店として人気のある上目黒「吉そば」(他都内10店舗)、桜木町駅前で人気の「川村屋」など、列挙すれば限りがない。
「むらめん」はなぜこんなに人気なのだろうか。本社へお邪魔して話を聞いた。
立ち食いそば屋から大学の学食まで...幅広く愛される「むらめん」に潜入!
本社および工場は東急田園都市線用賀駅から歩いて15分程のところにある。瀬田貫井線を桜新町方向へ進み、坂を上って砧公園通りを左折ししばらく進んだ右手に現れてきた。
工場の隣のマンション1階がオフィスになっており、伺うと大勢の女性陣が忙しそうに電話対応をしている真っ只中であった。時間は午前11時。業販部長の逸見直樹さんと業務販売部の永峯壮馬さんからさっそく話を伺った。
「むらめん」はどんなところに納品しているのだろうか。「むらめん」は業務用麺類製造卸で、つまり小売りはしていない。現在の納入比率は、そば店(立ち食いそば屋、そば専門店など)が3割、らーめん店が3割、産業給食(企業社内食堂、公的機関の食堂、大学の学食など)が3割、その他食品問屋などが1割ほどだという(逸見さん)。
立ち食いそば屋だけでなく、らーめん店やそば専門店にも相当卸しているというのは驚きだった。後述するがこれが「むらめん」成長のキーポイントでもあったという。
群雄割拠の製麺業界で「むらめん」が生き残り続けている理由
立ち食いそば屋で多く使われている他の製麵会社といえば、「株式会社丸山製麺」(東京都大田区上池台5丁目)、「興和物産株式会社」(埼玉県川越市的場1575)、「株式会社紀州屋製麺」(東京都新宿区西新宿3丁目)、「小田急食品株式会社」(神奈川県座間市ひばりが丘4丁目)などである。「むらめん」がこの激戦区で、生き残り、しかも発展している理由を聞いてみた。
逸見さんは「そば粉の吟味の大切さ」をまず第一にあげた。そば粉は国産・外国産を問わず、また季節によっても様々なそば粉を仕入れることになる。それは常に変化しており、小麦粉も同様である。
一定な高品質な麺を維持するためには、熟練した職人が原料となる小麦粉・そば粉について産地や粉の特性をしっかり吟味し、製品ごとにあったちがう挽き方をした粉をブレンドし、水回し、練り、切り出し、太さにこだわる必要があるという。
また逸見さんは「日々技術UPできる環境があったことも大きい」という。例えばこんな事例があったという。
とあるそば専門店から、「今まで機械製麺したり手打ちで対応していたが、機械の老朽化や職人の高齢化で製麺ができなくなった」という依頼を受けた時のこと。
「むらめん」ではわざわざその店のそば粉・小麦粉と同じ品質の粉を揃え、何度もノウハウを共有しながら試行錯誤し遜色ないそばを納入できるようになったという。
そうした技術がどんどん積み上がって、現在ではさまざまな配合のそばを60種類以上も作ることができるようになった。時間重視の立ち食いそば屋には従来通り茹で麺を納品しているところが多いが、最近では生麺のニーズもアップしているとか。
石臼挽き、田舎そば、二八、四割...麺のラインナップは豊富だ
「むらめん」で作られている麺の割合は現在、日本そばが6割、うどんが2割、ラーメンが2割。それ以外にもパスタも製造している。そばについては大雑把にいえば、生麺6割、茹で麺3割、茹で冷凍麺が1割という納入比率だという(永峯さん)。
生麺でいえば「嘉味庵ブランド」だけでも十数種類あるし、通常の生麺でも「手打ちそば」、「更科・二八そば」、「石臼挽きそば」、「田舎そば」、「七割・五割・四割そば」、「季節そば」など種類は豊富だ。希望の麺があればサンプル製麺して吟味してもらうこともできる。
茹で麺も白、黒、粗挽き、田舎(太麺)、そして特注太麺の5種類がある。多くの立ち食いそば屋に納品しているが、「こうした製品ラインナップを使い分けていただければありがたい」とのことである。
「むらめん」は安心して食べることができる高品質の麺を目指している。そのため「国産そば粉の使用をなるべく心がけている」と逸見さんはいう。外国産のそば粉についてもその品質データはすべてトレースできる製品を使用しているという。
平成12(2000)年3月に出版された「旨い立ち食いそば・うどん: 東京駅別大調査」(小学館文庫)に現社長村井良行さんのインタビュー記事が掲載されている。その中で、「むらめん」では当時から国産そば粉を半分使用していると話されていた。その頃から一定した品質の安心で美味しい麺を提供することを心掛けていたことがよく分かる。
好調の「むらめん」も直面する、ある“社会問題”
最近、立ち食いそば屋チェーン店などでは万が一納入している製麺所がストップした場合、そのリスクヘッジで他の製麺会社から急遽仕入れる体制が取られ始めている。
「むらめん」でもそうした対応を依頼される事案が増えているという。これは製麺会社の互助的活動とでもいえばいいのだろう。今後こうした横の連携は増えていくという。
また、物流業界における2025年問題も見逃すわけにはいかない。「若年層人口の減少」「時間外労働の上限規制」により、ドライバー不足がさらに深刻化する。「きめの細かい配送を要求される製麺業でも取り組むべき問題だ」と逸見さんはいう。
また出汁やめんつゆの相談なども増えており注文も増加している。さらに天ぷら製造会社と連携し提供するシステムといった新しい動きも始まっている。
気迫ある吟味力・製麺力が「むらめん」の代名詞
インタビュー取材を終えて退出する時「製麺業は縁の下の力持ち、裏方的なイメージがあるが、それを打破するようなプランはありますか」と質問してみた。
すると逸見さんはすぐに「むしろその逆で、我々は納品する飲食店様にその名前を知られていればそれで充分」と言い放つ。潔い企業体質が滲み出ている瞬間であった。
「むらめん」は製麺業全体でいえば中堅の会社なのかもしれない。しかし、業務用麺類製造卸としては十分キャラが立った存在意義のある会社で、立ち食いそば業界では大きな存在となっていることが逸見さんの自信ある言葉の中に感じ取れた。
気迫ある吟味力・製麺力が「むらめん」の代名詞というわけである。「むらめん」のこれからの活躍を大いに期待している。
INFORMATIONアイコン
むらめん株式会社
住所:東京都世田谷区用賀3-5
営業時間:
月~土:9時~17時
祝日:9時~17時
定休日:日曜日
電話番号:03-3708-5151
https://www.muramen.jp/
(坂崎 仁紀)
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