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佐藤優氏が〈2泊4日電撃訪問〉で聞いた“イスラエル人の本音”「西側のエリートはユダヤ人の複雑な歴史を分かろうとしない」

文春オンライン / 2024年8月23日 6時0分

佐藤優氏が〈2泊4日電撃訪問〉で聞いた“イスラエル人の本音”「西側のエリートはユダヤ人の複雑な歴史を分かろうとしない」

キブツの人々と佐藤優氏(筆者提供)

ハマスとの軍事衝突が続いているイスラエルを、佐藤優氏が電撃訪問。イスラエル人へのインタビューで、和平の道につながる論理を探った。

◆◆◆

「反ユダヤ主義」のように映る

 今回、イスラエル人の友人たちからも欧米、特にヨーロッパにおける反ユダヤ主義の台頭を懸念する話を再三聞いた。ガザにおけるイスラエルの軍事行動に対する批判が欧米で高まっている現状がイスラエル人には「人権」を口実にした反ユダヤ主義のように映るのだ。

 7月5日午前10時に筆者はクラウンプラザホテル・テルアビブビーチのロビーでグリーン氏と会った。グリーン氏から、「テルアビブ美術館前の広場に、ハマスによる攻撃で人質として連れ去られた人の家族や関係者の話を聞くことが出来るブースが常設されているので、是非訪ねてみるといい。日本の事情に詳しいヤナイに案内してもらうように手配しておいた」と言われたので、早速、美術館に赴いた。

 ヤナイ・ゲバ氏は、1977年4月27日に生まれ、エルサレムのヘブライ大学を卒業した後、京都大学と同大学院に2005年〜11年の通算6年間留学し、表象文化論で修士学位を取得した。修士論文のテーマは、「大島渚監督の映画に見られる日本人の男らしさについての考察」というものだ。卒業後、一時期、テルアビブにある日本の総合商社に勤務していたが、退職し、友人とともに環境関連の会社を起業した。ゲバ氏の妻のライラック・マダール氏は、イスラエルとアメリカで活動する現代美術家だ。

 ゲバ氏が、ハマスによって人質にとられた人々の奪還と人質の家族の支援活動に積極的に関与するようになったのは、友人ルビー・チェン氏の息子で、徴兵により従軍していたイタイ・チェン氏が去年10月7日、ハマスによって殺害され、遺体が持ち去られたからだ。当初、両親は息子が人質にとられたと思っていたが、さまざまな画像や情報から死後、遺体が持ち去られたことが明らかになった。イタイ・チェン氏はアメリカとの二重国籍者であるので、両親はバイデン米大統領とも面会した。

 イタイ氏の両親は、悲しみに打ちひしがれるとともに悪夢に苦しめられている。「ハマスの人質になって未だ帰還していない人は120人であるが、そのうち、50人は現時点でも生存していると見られている。自分は仕事も順調で、時間も捻出できるので、人質の救援活動に従事している」とゲバ氏は述べていた。

広場に設置された“時計”

 広場の中心には、ハマスにより人質にとられてからどれくらいの時間が経ったかが秒単位で表示された時計が設置されている。筆者が訪れたときは、272日2時間17分47秒と表示されていた。あちこちに人質になった人の写真とプロフィール、家族や友人によるメッセージが記されたポスターが掲示されている。またハマスがガザ地区の地下に掘っているトンネルの模型が展示されており、中に入って人質が置かれている状況を模擬体験できるようになっている。数カ所で数十人の若者たちによる集会が行われていた。

 ゲバ氏はキブツ(集団農場)のメンバー3人を紹介してくれた。

 リーダー格の男性が「2023年10月7日、15人のハマス武装分子によって、私たちのキブツ『ナハル・オズ』が襲撃された。7人が人質として連れ去られた。第1回の人質返還で、5人は解放されたが、2人の男性は捕らえられたままで、安否を含め、一切情報が無い。だからキブツのメンバーが毎日、交替でここ(美術館前広場)に来て、『私たちの仲間を忘れないでほしい』『政府は一刻も早く、私たちの仲間を戻してほしい』と訴えている。私たち、力の無い、小さな人々が望むのは、早く私たちの同僚を家族の元に返してほしいということだけだ。難しい政治の問題ではなく、人道問題として解決してほしい」と述べていた。

 広場を視察した後、美術館のカフェで2時間ほどゲバ氏と意見交換をした。以下のやりとりが印象に残っている。

「ナラティブ」と「現実」

 ――西側ではイスラエルの評判がすこぶる悪い。イスラエルのハマスに対する軍事作戦は均衡を欠いているという見方が主流だ。

「その事実については承知している。アメリカのアイビーリーグなどの名門大学では、パレスチナ人を支援し、イスラエルを非難する活動が活発になっているが、エリート学生たちは、ユダヤ人の複雑な歴史をわかろうとしていない。ユダヤ人の歴史はTikTokやYouTubeショートで10秒間動画を見たからといって理解できるものではない。動画には、パレスチナ人の子供が泣き叫んでいる姿が映される。その背後にはイスラエル軍の攻撃による廃墟が映っている。人々の思考はこのような動画により感情を刺激されることで形成される。さらにソーシャルメディアは適切なアルゴリズムを組むことによって、かなりの程度まで人間の感情を支配し、別の世界を作り出すことができる。ここでは、事実よりも、発信者の考える真実が重要になる。アルジャジーラが作成した優れたビデオ1本で事実をひっくり返すことができる。標的とした人々の心を揺さぶるナラティブ(物語)を作る者が情報戦で勝利する」

 ――情報戦でイスラエルは明らかに劣勢だ。

「それは仕方がない。重要なのは、ハマス問題についてイスラエルの若者層が欧米の若者層と異なる認識を持っていることだ。これは、イスラエルのプロパガンダが成功しているからではない。イスラエル社会は狭いので、家族でなくとも親族や友人に10月7日にハマスによって殺害された人、暴行された人、人質として連れ去られた人が必ずいる。だから、ナラティブよりも社会の現実の方が力を持つのだ」

 多くの日本人にとっては違和感を覚えるかもしれないが、これが私が今回会ったイスラエル人全員に共通する認識だ。この点を理解せずには、この紛争を停戦や和平に導くことはできない。

本記事の全文は、「文藝春秋」2024年9月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(佐藤優「 2泊4日 イスラエル電撃訪問記 」)。

 

全文(9000字) では、佐藤優氏が詳細に現地の状況をレポートしている。

(佐藤 優/文藝春秋 2024年9月号)

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