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金利上昇と不動産の相性が悪いワケ

文春オンライン / 2024年8月27日 6時0分

金利上昇と不動産の相性が悪いワケ

写真はイメージ ©Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート

 日本銀行は7月31日に開かれた金融政策決定会合において、誘導目標を0.25%とした政策金利の追加引き上げを決定した。この影響は想定以上に大きく、東京株式市場が過敏に反応。8月5日の日経平均株価は前週末比4451円28銭下落、3万1458円となり、史上最大の下落額、下落率でも1987年のブラックマンデーに次ぐ記録となった。

 その後株価は持ち直し基調にあるが、これまで長くほぼ金利のない世界が続いてきた日本で金利変動のもたらす影響の強さをあらためて味わう出来事となった。

不動産マーケットへの影響は?

 金利は為替にも影響を及ぼす。欧米と日本との金利差の広がりは極端な円安を招聘し、食料など多くを輸入に頼る生活物資の値上げをもたらしたとされる。金利を引き上げることで金利差は縮小。円相場も一時の1ドル160円超から140円台後半まで円高に転じている。

 さてこうした金融マーケットの大きな変化は日本の不動産マーケットにどのような影響を及ぼすかについて触れたい。

 多くのメディアで取り上げられたのが住宅ローンだ。新規住宅ローンの約7割から8割が変動金利の商品を選択しているのが昨今の状況だ。変動金利は言葉どおり金利の変動に応じて返済額が増減する。したがって今回の金利引き上げが既存の住宅ローン利用者およびこれから住宅を購入しようとしている人たちにどのような影響をもたらすかにメディアが注目するのは当然だ。

住宅ローンを変動金利で利用している人は…

 まずすでに住宅ローンを変動金利で利用している人たちにとっての影響を考えよう。変動金利型の住宅ローンは基本的に短期プライムレートに連動する。短期プライムレートとは金融機関が優良企業向けに貸し出す最優遇金利で1年未満の貸付期間に対応するものだ。変動型住宅ローンは短期プライムレートを基準としてこれに各行がスプレッド(上乗せ金利)を乗せた金利にしている。短期プライムレートは政策金利と関係していて、今回の日本銀行の金利引き上げは当然、各行の短期プライムレートにも引き上げの圧力が加わる。

 実際に日本銀行の発表以来、各行は相次いで短期プライムレートの引き上げを発表している。引き上げ幅は0.1ポイントから0.25ポイント程度で引き上げ分を住宅ローン金利の引き上げに上乗せし始めている。10月頃までには各行の引き上げが出そろい、実際に既存ローン利用者の金利に適用されるのは来年1月くらいというのが流れだ。

 0.15ポイントの金利引き上げを決定したある金融機関のローンで考える。高騰を続ける東京都内のマンションでは夫婦で1億円程度のローンを借りている世帯は少なくない。現状の金利が1%だとすると、35年ローン(元利均等返済、ボーナス払いなし)で毎月の返済額は28万2285円だ。引き上げ後の金利は1.15%。毎月の返済額は7000円程度上昇する。年間で8万4000円の負担増だ。生活物価の高騰が続く中で月7000円とはいえ、少なくない出費増である。

 だが、これで収まればよいがそうはいかないのが金利だ。今後金利が上昇しないと願うのは自由だが、金融マーケットの恐ろしさを甘く見ないほうがよい。消費者物価指数は上昇が続き、GDPも4月から6月の速報値で対前期比0.8%増、年率換算で3.1%の増加。数値上では景気の回復が進む中で、更なる金利引き上げの可能性も見えてくる。これには更なる利上げの機会は現在の日本銀行にはないという見方が多いが、住宅ローン期間はもっとずっと長い期間のローンだ。これから同様のことが35年間全くないと考えるほうがお花畑だ。

金利変動リスクをもろにかぶる“長期ローン”

 短期プライムレートは1年未満の貸付期間に対応しているのに、住宅ローンは最長40年まで。どうみても期間の合わない債権に適用している金利なのだが、住宅ローンのような長期ローンを組んでいる債務者(一般消費者)はこれからの金利変動リスクをもろに被る立ち位置にいることを悲しいほど理解していない。35年ローンを組んでいる人はこの先日本が35年間にわたってずうっと経済が成長しない国であってほしいと考えているようにしか見えない。たとえ日本が現実にそういう状態になったとしても世界マーケットにつながる日本の金融マーケットだけが独歩を続けられないことは今回の金利引き上げという判断をせざるを得なかった日本銀行の選択にも表れているのだ。

 ローンを組んでいる人の中には、金融機関から当初5年間は借入総額が変わらないと言われたので影響はないと思う人がいるだろう。また6年目以降も年間返済額が借り入れ当初の返済額の最大1.25倍までに抑えられると説明を受けた記憶のある人もいるだろう。だがよく考えてほしい。返済額が変わらないということは返済額に占める元金返済額が減って金利分が増えるだけのことだ。つまり総返済額は残念ながら増額することに変わりはないのである。

 では今から固定金利に借り換えようと思うかもしれないが、すでに金融機関各行の設定する固定金利はかなり上昇している。選択に迷うところだが、これまでが金利の底だとみるならば借り換えてしまったほうが結果は吉かもしれない。

「変動」か?「固定」か? これから住宅を購入する場合

 さてこれから住宅を購入しようと思っている人はどうだろう。金利が上がるということをあらためて学んだわけだから、変動がよいか固定がよいかじっくり考えるときだろう。固定期間も数年からフラット35のように全期間固定のものまで選択肢は広い。

 今回の引き上げ幅はそれほど大きなものではない。ただ金利が恐ろしいのは上がるときはローン債務者の事情などお構いなしにするっと上昇することだ。先ほどの事例では0.15ポイントのアップで返済額は月7000円増だったが、さらに1ポイント上昇して2.15%になったらどうなるだろう。毎月返済額は33万9000円と借入当初より5万6700円のアップ。年間で68万円、総返済額は2400万円もの負担増となるのである。もはやたかが金利、の話ではなくなってくるのである。

 それでも生活物価も上昇、インフレ時代になれば不動産も値上がりする。ローン返済が厳しければ物件を売却して返済できると思うかもしれない。しかしこのシナリオも注意しておいたほうが良い。金利の引き上げは円高につながる。東京都心のタワマンなどを買いまくっていた外国人投資家にとっては、手じまいの鐘が鳴る可能性がある。早めに物件を売却して自国通貨に戻し、一旦利確をするチャンスになるからだ。都心の超高額マンションやオフィス、ホテルなどは今や外資マネーで成り立っている。買いの主役である彼らが売りに転じることは多くの不動産に逆風が吹きつける可能性がある。売りが売りを呼ぶのは株式マーケットと同様だ。担保価値が下がると、持っていたマンションを売却してもローンを返済できないリスクに直面することになる。

管理費や修繕積立金にも値上げの“圧力”が…

 もうひとつ耳の痛い話をしよう。マンション所有者にとっては毎月支払っているのはローン返済だけではない。管理費や修繕積立金にも値上げの圧力が加わり始めている。どこの業界でも人手不足が深刻な問題になっているが、現在はマンション管理人不足が業界の問題となっている。管理費の値上げをしないとマンション管理会社も商売を続けられない状況になっている。さらに加えて、大規模修繕に備えて積み立てている修繕積立金が足りない問題の勃発だ。築15年、30年などの節目に行われる大規模修繕工事。ただでさえ分譲会社は販売時には総支払額負担を低く見せるために当初の積立金を低めに見積もるのが横行していたが、そのツケが到来する。タワマンなどは戸数が多いので積立金は少なくて済むなどというウソを語る業者もいる中で、この数年の建設費の値上がりは重大な問題を招いている。修繕であって建物を建てるわけではない、と思った人は考え直したほうが良い。大規模修繕に伴う人手の不足、エレベーター、給水塔などマンション共用部の各種設備の値上がりは天井知らずだ。特に工事が特殊なタワマンなどはそもそも工事を請けない業者も多い。

 現在、タワマンの多くは修繕積立金が1㎡あたり250円から300円程度と国土交通省設定のガイドライン338円を下回っている物件が多い。またガイドラインも高騰を続ける建設費の値上がりをどこまで見込んでいるのかは疑問だ。

 多くのマンション所有者は今後管理費と修繕積立金を合わせて月額2万円程度の上昇を見込んでおいたほうがよさそうだ。それも今後10年程度の話。その先は建物の経年劣化の進行で更なる値上げが待ち伏せしているはずである。

金利引き上げの先に待つもの

 超高額マンションで宴の只中にあったマンションマーケットから外資マネーが逃避する、物件価格が下がる。金利の状況を見極めようとする人たちで新築マーケットが落ち込む。そしてそれらのマンションを供給してきたデベロッパーにとって金利の引き上げはかなりタチの悪い爆弾だ。

 大手不動産会社の有利子負債は各社3兆円から4兆円に膨らんでいる。もちろん多くを長期貸付にし、金利を固定化しているのだが、住宅ローンとは異なりいつまでも固定できるわけではない。コンマ数ポイントの上昇であっても金利上昇はこれまでのイケイケの状態からの戦略転換のきっかけとなる。実際に、最近は都内で大型の不動産を手放す動きが顕在化している。

 結論として金利の引き上げは不動産マーケットに何も良い影響はもたらさない。ただ上がりきったあとに下がりが来る。マーケットは株式でも債券でも金でもみんなそうだが、上がり下がりをするところに利益があるのも投資の鉄則である。ことマーケットに限って言えば、「海はナギよりも風が吹いて多少波立っている状態がよい」のである。

(牧野 知弘)

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