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兄は学費も仕送りも負担してもらっているのに、私は奨学金とアルバイトで賄って…「女子に学費はかけられない」と考える親たちの“致命的な勘違い”とは

文春オンライン / 2024年8月28日 6時10分

兄は学費も仕送りも負担してもらっているのに、私は奨学金とアルバイトで賄って…「女子に学費はかけられない」と考える親たちの“致命的な勘違い”とは

©AFLO

〈 「男の子は浪人をしても良いかもしれないけれど」「若いうちに子育てをしてほしい」…娘に浪人禁止を伝える母親の“生々しい心情” 〉から続く

 性別による無意識な思い込みから、若者の未来の可能性が狭められてしまうケースがある。保護者が「娘は結婚して退職・離職する」と考え、「女性が大学に行く必要はない」という結論に達するケースがその一例だ。

 そうした考えはなぜ蔓延ってしまうのか。また、そもそもそうした誤った発想はなぜなくらないのか。ここでは、地方女子学生の進学の選択肢を広げることを目指して活動する江森百花氏、川崎莉音氏の共著『 なぜ地方女子は東大を目指さないのか 』(光文社新書)の一部を抜粋し、ジェンダーステレオタイプの被害にあう学生の声を紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

 ◆◆◆

子どもへの教育投資のジェンダーギャップ

 ここまでは、保護者から偏差値の高い大学に行くことをどれだけ期待されるかに男女差があり、それが本人の進学意識に影響を与えていることを説明してきました。

 この、保護者の期待度のジェンダーギャップが、実際に子どもの教育にどれだけお金をかけるか、いわゆる教育投資の金額という形で如実に表れるケースもあります。学習塾などの学校外教育にかけるお金・大学の学費(私立に行かせるか行かせないか)・大学時代の生活費(一人暮らしをさせるかさせないか)など、大学進学に関してお金の問題は非常に大きく、「親からどれだけお金をかけてもらえるか」で本人の取れる選択肢の幅や志望校に行くために必要な努力量はかなり異なります。

 実際、文部科学省が実施した「令和3年度子供の学習費調査」によると、通塾費用や参考書の購入費などを含む「補助学習費」は、小学校・中学校・高校の各段階において、男子の方が金額が高くなっています。例えば、全日制公立高校の男性の補助学習費の平均が19万6900円なのに対して、女性の補助学習費の平均は14万5614円で、およそ5万円程度の違いがあるのです。

「女子に学費はかけられない」

 福岡県出身のCさんの家庭には、強いジェンダーステレオタイプがはびこっていて、保護者からの教育投資には男女で大きな違いがあったと言います。

 Cさんには2つ上の兄と、2つ下の弟がいます。兄と弟は、中学から進学塾に通っていましたが、Cさんが「塾に通いたい」と訴えても、「自分でなんとかしなさい」と聞き入れられませんでした。Cさんの兄は首都圏の私立大学薬学部に進学しましたが、Cさんは「女子に学費はかけられない」と言われて私立大学および地元外への進学や浪人を一切禁止されていたそうです。この時点で保護者からの教育投資に大きな男女差があることは明らかで、地方女子学生で同じような経験のある人も一定数いることでしょう。しかし、Cさんの話にはさらに続きがあります。

「福岡県内の大学に行かないのなら就職しなさい」とまで言われていたCさんですが、自らの強い意志で親に無断で広島大学総合科学部を受験し、合格することができました。しかし、県外での一人暮らしとなったCさんは、学費の一部は祖母から出してもらっているものの、その他の学費や生活費は全て奨学金とアルバイトで賄っているそうです。一方で、首都圏の私立大学薬学部に通うCさんの兄は、学費も仕送りも、保護者が負担しています。Cさんが頑張って貯めたアルバイト代から、兄への仕送りが引き出されることもあるそうです。また、わずかながら学費を出してくれているCさんの祖母は、門限を18時としたり、髪の毛を染めてはいけないといった厳しい規律をCさんのみに課しています。

 Cさんが、このような家庭の状況がおかしいということに気がついたのも最近のことだと言います。Cさんの家庭は親戚も含め先祖代々同じ地域に住んでおり、親戚で大学に進学した女性も、福岡を離れた女性も一人もいません。「女性が大学に行く必要はない」という価値観を小さい頃から刷り込まれて育ったCさんは、首都圏の大学のオープンキャンパスに行くことでさえ、「どうせダメだろうな」と思い、言い出せなかったそうです。

 この時代にこんな家庭があるなんて、私たちも聞いて驚きを隠せませんでした。Cさんはたまたま強い意志を持っていたため、広島大学に進学することができましたが、従順で疑問を持たない学生であれば大学に進学していなかった可能性もあります。ここまで極端な事例は多くはないかもしれませんが、女子に男兄弟ほど教育投資をしないという家庭は少なくないでしょう。家庭の事情でどちらかしか私立に進学できない/東京に進学できない、などとなった場合に男兄弟が優先されるケースは残念ながら、未だに少なくありません。

男子学生に投資した方が「得」なのか

 実は、この「教育投資のジェンダーギャップ」という問題には、「女性は結婚して離職する」という前提に立つと、女子学生よりも男子学生に投資した方が経済的という実状が潜んでいます。

 OECDの調査によると、日本の高等教育修了者の私的正味収益(大学卒業後の生涯年収から、大学の学費や高卒で働いていれば得られたであろう収益などを引いたもの、つまり大学進学によって個人が総合的に得られる経済的な利益のこと)は、女性が男性のおよそ9分の1で、この男女差はOECD諸国の中で最も大きいそうです(*1)。

*1 三宅えり子『 日本の高等教育政策とジェンダー:教育投資のあり方にみるジェンダー主流化の課題 』2018年

 これは女性が結婚や出産を機に離職したり、非正規雇用に切り替えたりするケースが多いことが要因として考えられ、これ自体が解決するべき問題です。これにより、保護者が「娘は結婚して退職・離職する」という前提に立っている場合、男女の子どもがいても、息子の方によりお金をかけることは、一見合理的な判断に思えます。

 しかし、「娘は結婚して退職・離職するだろう」という前提は、難関大学に進学した場合でも正しいのでしょうか?

「東大卒業生のキャリアに関する調査(*2)」によると、結婚・出産を経験しているであろう1981~1990年生まれの女性のなかで、パート・アルバイトや派遣社員・契約社員等の割合は10%にも満たず、ほとんどの女性は正社員や役員・経営者として働いています。つまり、先の前提が常に正しいとは限らないのです。

*2 本田由紀『 東大卒業生のキャリアに関する調査 』2023年

保護者にこそ変化を

 これまで述べてきた通り、私たちは保護者の差別的なジェンダーステレオタイプが女子学生の進路選択の幅を狭めていると考えており、そういった意識を変えたいと強く思っています。

 2022年に東京都によって行われた「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する実態調査」によると、児童・保護者・教員のうち、「性別で向いている仕事と向いていない仕事があると思う」「男の子/女の子だからと思うことがある」などについて、保護者が特に「そう思う」割合が高かったそうです(図表6—2)。保護者のジェンダーステレオタイプがいかに根強いものであるかがわかります。

 子どもは、親の教育期待の影響を受けるだけではなく、価値観や考えも継承します。親から子へとジェンダーステレオタイプは受け継がれていき、さらにその子どもへの教育期待の偏りとなって現れます。この負の連鎖は、強い覚悟を持って、ここで断ち切らねばなりません。

「性別に基づくアンコンシャスバイアス」(ジェンダーステレオタイプやバイアス)の解消の必要性については国も認識しており、「女性版骨太の方針2023」にはアンコンシャスバイアス解消のための取り組みがいくつも含まれています。しかし、残念ながらそのほとんどが企業の管理職や学校の教員等を対象にしたものであり、保護者へ働きかける必要性については全く触れられていません。「法は家庭に入らず」という格言があるように、行政が家庭に入っていくこと・保護者にアプローチすることは非常に難しいことだとは思いますが、事の重要性・喫緊性を鑑み、今後の取り組みを期待します。

(江森 百花,川崎 莉音/Webオリジナル(外部転載))

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