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日本経済の「弱点」を“為替介入の指揮官”神田眞人前財務官が徹底分析〈なぜ日本の対内直接投資残高(対GDP比)は「北朝鮮以下」なのか?〉

文春オンライン / 2024年8月30日 6時0分

日本経済の「弱点」を“為替介入の指揮官”神田眞人前財務官が徹底分析〈なぜ日本の対内直接投資残高(対GDP比)は「北朝鮮以下」なのか?〉

神田眞人前財務官 ©文藝春秋

前財務官の神田眞人氏は、今は日本経済が「強く復活」するチャンスであるとしながらも、同時に、デジタル赤字や対日投資において、日本の課題は多いという。その内実を語った。

◆◆◆

拡大が止まらない「デジタル赤字」

 最近の旅行収支の改善には目を見張るものがあり、まだまだ増える余地はあるのでしょうが、とはいえ、最近のオーバーツーリズム問題に如実に示されるように、外国人観光客の受け入れには、人手不足をはじめとする制約があるのも事実です。海外からの観光客は、日本経済の活性化や日本社会の国際化にプラスであるだけでなく、日本の文化や自然に親しみをもってもらえれば、日本の安全保障にも資するので、もっと増やしていきたいところですが、日本人が新幹線やホテルの予約を取りにくくなったり、物やサービスが高価になりすぎたという不満も聞こえるようになりました。したがって、旅行収支の黒字が、足元のペースで今後とも伸びていくとは限りません。

 また、デジタル分野では、最近では「デジタル赤字」の拡大が注目を集めています(上の図表②参照)。この赤字分で、インバウンドの黒字分を食いつぶしています。いかんせん現状では、クラウドや検索サイト、オンライン会議等のプラットフォームのほとんどをアマゾンやグーグルといった外国企業が提供しています。クラウド・サービス、オンライン会議システムを使えば使うほど、そのコンピュータサービス利用料が、動画や音楽の配信を受ければ受けるほど、そのライセンス・著作権等使用料が、そしてインターネット広告の売買取引をすればするほど、そのコンサルティングサービス料金が、自動的に海外に流れていきます。なので、皆さんのスマホ環境を振り返れば容易に想像できるように、日本の企業活動や日々の私生活においてデジタル化が進展すればするほど、「デジタル赤字」が拡大する構造となっています。懇談会では、「エネルギー分野の赤字は解決策が思いつくが、デジタル赤字の拡大は解決策が見えない不安がある」との声まであがった深刻な問題です。

国内に戻ってこない海外での儲け

 日本人や本邦企業が保有する海外資産からの収益である第一次所得収支の黒字は一貫して増加しており、2021年度以降、毎年過去最高を更新しています。日本人が海外で取得・設立した企業や、保有する海外株式・債券からのリターンが増えているということですので、このこと自体は良いことですし、経済構造の成熟を示しています。ただし、それが日本国内の賃上げや投資に貢献しているかというと、必ずしもそうとは言えません。また、株価など他の統計でも同じことが言えますが、円安のために、円換算で大きく伸びているように見えても、ドル換算ではそれほどではないことにも留意が必要です。

 さて、第一次所得収支は、直接投資収益(日本人が取得・設立した海外企業の収益)と証券投資収益(日本人が保有する海外の株式・債券から受け取る収益)とに大別されます。近年では、日本企業が積極的に海外事業を拡大して現地生産を増やしていますので、直接投資収益の増加が特に顕著となっており、2023年度は20兆円を超える見通しです。そして、この直接投資収益の約半分は、日本には戻らずに、海外での事業拡大に再投資されています。こうした日本企業の海外志向を反映して、対外直接投資残高は2000年から2022年にかけて約8.5倍に急拡大しました。

 これとはまさに対照的に、国内での設備投資は長らく停滞しています。上記期間において民間企業設備の残高は約18%、年平均では僅か0.8%しか伸びておらず、国内では最新設備の導入が遅れました。これでは、いくら海外事業が好調でも、国内において生産性や賃金が上昇しないのも無理はないでしょう。下に掲載した図表③の通り、対外直接投資残高が大幅に増加する中、国内投資の伸びはごくわずかです。

 対内直接投資、すなわち外国企業による日本進出が拡大すれば、資金が入るだけでなく、多様な経営ノウハウや技術を持った人材・企業が日本国内で一層活躍することになります。ともすればガラパゴス化し、閉じこもりがちな日本に世界の最先端の知恵と躍動するようなダイナミズムを取り込むことができれば、日本固有の能力と相まって、様々なイノベーションをもたらし、日本経済活性化の起爆剤にもなり得るでしょう。

日本への投資額は北朝鮮より低い

 しかし、日本への対内直接投資残高(対GDP比)は、国際的に見て、著しく低い水準にあります。OECD加盟38カ国のなかで最下位で、韓国の半分以下です。また、国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計では198カ国・地域中196位で、北朝鮮より下位というショッキングな結果になっています(下の図表④参照)。

 何故こんなに少ないかについては、やはり、成長性・収益性で見た日本の事業環境が見劣りすることや、グローバル人材の不足を含め、英語で事業を行える環境が十分に整備されていない、といった要因が大きいのだと思います。私は長らく、東京国際金融センター構想といった国内開放、海外企業誘致策にも携わってきましたが、外国の投資家などから、公的機関での手続きはもとより、学校や医療、ナニー(教育ベビーシッター)などで英語環境が整っていないので生活できない、そもそも、リターンの低い(低成長、低金利、低配当)ところに投資の魅力を感じないといわれてきたことに悔しい思いをしてきました。

 他方、足元では、特にアジアからの対内直接投資は増加傾向にあります。現下の円安や、地政学的リスクの高まりに伴うサプライチェーン見直しの中で日本への関心が高まっていることは、対内直接投資を更に増やす上でのチャンスです。戦争や紛争、ますます厳しくなる国際環境のみならず、自然災害や感染症によるサプライチェーン分断にも対応すべく、デリスキング(リスク回避)、フレンドショアリング(友好国への立地)、リショアリング(国内回帰)といった流れがあり、これを活かすべきでしょう。

本記事の全文は「 文藝春秋 電子版 」と「文藝春秋」9月号に掲載されています(「 日本はまだ闘える 」)。全文では、以下の項目について、神田前財務官が詳しく解説しています。

 

●円安が輸出拡大につながらないワケ
●インバウンド黒字をデジタル赤字が食いつぶす
●海外からの対日投資は北朝鮮以下
●新NISAの投資額は増えているが……

●労働移動で生産性を上げた米国
●補助金バラマキをやめて企業の新陳代謝を

(神田 眞人/文藝春秋 2024年9月号)

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