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《山口組分裂から丸9年》相次ぐ銃撃事件、死者多数…「6000人vs.2800人」で始まった抗争が"一気に傾いた"瞬間とは

文春オンライン / 2024年8月27日 6時0分

《山口組分裂から丸9年》相次ぐ銃撃事件、死者多数…「6000人vs.2800人」で始まった抗争が"一気に傾いた"瞬間とは

神戸山口組組長の井上邦雄 ©時事通信

 国内最大の暴力団「6代目山口組」が分裂した2015年8月27日から9年が経った。離脱した「神戸山口組」との対立抗争は、拳銃を使用しての殺人事件や繁華街での乱闘騒ぎ、敵対する暴力団事務所へ拳銃を発砲するほか車両を突入させるなどの事件が100件以上発生、十数人が死亡している。

 対立が続くなか、6代目山口組が勢力を維持する一方で、神戸山口組などは組織の再分裂により、縮小傾向にある。ただ、依然として射殺事件などが続発しており、警察当局は警戒を緩めてはいない。分裂から9年にあたり、これまでの経緯を振り返る。(全2回の1回目/ 後編を読む )

◆◆◆

最大派閥だった山健組離脱の衝撃

 2015年8月の分裂で旗揚げされた神戸山口組は、「6代目山口組」の傘下だった4代目山健組(神戸市)、2代目宅見組(大阪市)、池田組(岡山市)、正木組(福井県敦賀市)、侠友会(兵庫県淡路市)の5組織を中核として計13組織で結成された。

 組長には4代目山健組組長の井上邦雄が就任、副組長には2代目宅見組組長の入江禎(ただし)が就いた。

 中でも6代目山口組内の最大派閥だった山健組と、中核組織だった宅見組が離脱したことは、暴力団業界だけでなく、組織犯罪対策を担当していた警察の捜査幹部にも大きな衝撃として伝わった。

 山健組は、山口組を国内最大組織へ躍進させた3代目組長の田岡一雄の時代に、ナンバー2である若頭を務めた山本健一が結成した組織だった。後に5代目組長の渡辺芳則らを輩出するなど、山健組は保守本流の名門とされてきた。

 関西に拠点を構える暴力団幹部は山健組について、「山口組内に限らずヤクザ業界全体のブランド。圧倒的なネームバリューがあり威光は全国に及んでいた」と位置付ける。

「神戸山口組」のもう1つの中核組織である宅見組は、5代目時代の若頭・宅見勝が結成した組織。宅見は1980年代後半から1990年代前半のバブル景気時に地上げなどで巨額の資金を手にし「経済ヤクザ」とも評され、暴力性と資金力を兼ね備えていたことで全国的に名が知られていた。

 山健組の渡辺が5代目組長の時代は、組長の渡辺の出身組織の山健組が大きな地位を占めていたが、それに次ぐ勢力の弘道会会長だった司忍が2005年に6代目山口組組長に就任したことで、パワーバランスに変化が生じた。

組長の誕生日には1億円の上納金...「直参」が募らせた不満

 きっかけはやはりカネだった。暴力団組織はいずれも傘下組織からトップに対して、警察当局が上納金と呼ぶ会費を納めることとなっている。

 6代目山口組では、「直参」と呼ばれる直系組長による上納金は毎月、百数十万円とされている。このほかに、盆暮れや6代目山口組組長である司忍の誕生日の1月には、毎月の上納金とは別に5000万円や1億円を納めることとされた。

 組織犯罪対策を担当している捜査幹部は分裂の原因について、「上納金などのほかにも次々と要求されるカネの徴収に対して直参たちが不満を持っていたのは間違いない。6代目体制になってさらにカネのかかる組織になった。表経済の低迷などからシノギ(資金獲得活動)が厳しくなっても、上納しなければならない。その不満が蓄積していた」と指摘する。

 この捜査幹部は、「名古屋方式の組織運営も不満だったはずだ」とも強調する。名古屋方式とは、名古屋に拠点を置く弘道会による支配を意味する。

「5代目体制は良くも悪くも自由な面があった。しかし、6代目体制になると中央集権的な運営となり統制が厳しくなった。これも不満を持った一部の幹部たちの反発を買った」(同前)

弘道会出身者によるツートップ体制で

 統制の厳格化を象徴する人事が、若頭の人選だった。5代目時代までの山口組では、組長と若頭は別の傘下組織出身者が就くことが慣例だった。

 5代目組長の渡辺は山健組出身で、ナンバー2の若頭の宅見は宅見組出身だったが、これは組織内の権力の均衡を保つ知恵とされた。

 しかし、6代目組長の司は、自らの出身組織の弘道会から高山清司を6代目山口組の若頭に抜擢。ツートップを弘道会出身者で独占したのだ。以後、若頭の高山を中心として組織の規律を重視した運営がなされることとなる。

 実際に、一部で造反の動きがあった際に、高山は素早く処分を下して、不穏な動きを鎮圧したこともあった。組織の隅々にまで目を光らせた弘道会出身者によるツートップ体制は、盤石かに見えた。

「一般人が巻き込まれることだけは...」警察が恐れた“再び”の惨事

 ただ、高山には陥穽が待っていた。2010年11月、京都府警に恐喝容疑で逮捕され、懲役6年の実刑判決を受けて「社会不在」となった。

 この影響は大きく、6代目山口組分裂と神戸山口組の結成は高山の服役中に起きている。前出の警察当局の捜査幹部は、「高山不在をチャンスと見たのだろう」との見方を示す。

 カネが問題となっていた6代目山口組に対して、神戸山口組は「カネのかからない組織」を標榜して立ち上げを行った。その宣言通りに、毎月の上納金について幹部は30万円、中堅は20万円、一般は10万円とした。それだけでなく中元や歳暮なども廃止し、6代目山口組とは大きな違いをアピールした。

脳裏をよぎった「山一抗争」の凄惨な歴史

 2015年の分裂時点で、6代目山口組の構成員が約6000人だったのに対して、神戸山口組は約2800人。勢力差は2倍以上となっていたが、その後、神戸山口組に加入する組織が相次ぎ、当初は神戸山口組に勢いがあった。

 山口組の分裂当時、関東地方で活動する指定暴力団の古参幹部は、「親分の盃を突き返して組織を出て行くとなったら、その場からケンカが始まることを(神戸山口組は)覚悟していたはず」との考えを示していた。こうした事態に最も敏感に反応したのは警察だった。

 分裂発覚後の2015年9月3日、当時警察庁長官だった金高雅仁は記者会見で、厳しい表情でこう述べた。

「指定暴力団山口組の傘下組織の一部が、新たな団体を立ち上げたとの情報は承知している。現時点で、抗争に関する具体的な情報は把握していないが、過去、組織の分裂に端を発した大規模な抗争が発生し、一般人が巻き込まれるなど市民生活の脅威となった例もあることから、必要な警戒をしている」

 金高の発言にある、「過去の大規模な抗争」とは、史上最悪の暴力団抗争とされる「山一抗争」(1984~1989年)を指している。山一抗争では、4代目山口組長に竹中組組長の竹中正久が就任したことに反発した一部勢力が脱退して、1984年6月に一和会を結成。

 対立状態となり、1985年1月に竹中が射殺されたのを発端に、双方で300件以上の事件が発生し25人が死亡、70人以上が重軽傷を負った。過去の凄惨な歴史が、暴力団業界だけでなく多くの警察当局の幹部の脳裏をよぎった。警察にとって、一般市民が巻き込まれる事態を再び起こすことは絶対に阻止しなければならなかった。

分裂直後、山口組系幹部は「これから、大きな音がしますよ」と...

 分裂が明らかになった当時、6代目山口組系の幹部は、「これから、大きな音がしますよ」と不気味な発言をしていた。

 ここで言う大きな音とは「銃声」を意味する。拳銃を使用しての凶悪な事件が起きずに済むわけがないといった趣旨だった。

 分裂が起きた2015年内は、双方にらみ合いの状態が続き、不気味な平穏が保たれていたが、年が明けた2016年2月23日、福井県敦賀市の神戸山口組正木組の本部事務所への発砲事件が発生。

 この事件が抗争激化の「号砲」となったのか、全国各地で連日のように発砲、火炎瓶の投げつけ、集団乱闘、車両突入などが続発。歯止めが利かない状態となり、戦線は広がった。

 そして2016年5月、これまでとはまったく異質な事件が発生する。岡山市内で神戸山口組の池田組若頭だった高木昇が射殺されたのだ。実行犯は高木の行動パターンを下調べするなど入念な計画、準備を経て実行に及んでいた。逮捕されたのは6代目山口組の弘道会系の組員だった。

 さらに2016年7月には神戸山口組の山健組系幹部が射殺され、同年8月には6代目山口組系組織の元組員が刺殺された。その後も数年にわたり、対立抗争事件はことあるごとに発生し、止まることはなかった。

 しかし2019年10月、抗争の潮目を変える大きな「事件」が起きる。

 恐喝事件で懲役6年の判決を受け、東京の府中刑務所で服役していたあの男が出所してきたのだ。その男の名は、6代目山口組若頭・高山清司。6代目山口組傘下組織の組員たちは高山の出所に合わせて功を競うように走り出した。高山の出所によって、対立の構図は大きく6代目山口組に傾いていった。(敬称略、一部の肩書は当時)

〈 「あおむけに倒れた最高幹部に自動小銃を連射」山口組分裂抗争の“憎しみの応酬”が終わらないワケ《分裂から9年》 〉へ続く

(尾島 正洋)

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