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「あおむけに倒れた最高幹部に自動小銃を連射」山口組分裂抗争の“憎しみの応酬”が終わらないワケ《分裂から9年》

文春オンライン / 2024年8月27日 6時0分

「あおむけに倒れた最高幹部に自動小銃を連射」山口組分裂抗争の“憎しみの応酬”が終わらないワケ《分裂から9年》

射殺された古川

〈 《山口組分裂から丸9年》相次ぐ銃撃事件、死者多数…「6000人vs.2800人」で始まった抗争が"一気に傾いた"瞬間とは 〉から続く

 国内最大の暴力団「6代目山口組」が分裂したのは2015年8月のことだった。離脱した「神戸山口組」との対立抗争は10年目に突入した。分裂以降、多くの事件が発生してきたが、6代目山口組若頭、高山清司が刑期を終えて2019年10月に刑務所を出所すると、抗争の潮目は大きく変化していく。

 6代目山口組の傘下組織が、高山の前で功を競うように神戸山口組側へ攻勢に出ることが多くなったのだ。自動小銃を乱射するなど残忍な凶悪事件も増え、警察当局はさらに神経をとがらせることとなった。(全2回の2回目/ 前編を読む )

◆◆◆

商店街に響き渡った十数発の銃声

 多くの買い物客が行きかう兵庫県尼崎市の商店街の一角で2019年11月27日の夕刻、大型の自動小銃の発射音が連続して響き渡った。自動小銃の銃口の先にいたのは神戸山口組最高幹部の古川恵一。古川は全身に十数発の銃弾を浴びて死亡した。買い物時とあって、流れ弾による一般市民の被害が起きても全くおかしくなかった。

 事件で使われたのは米軍が公式採用している「M16」という自動小銃だ。連射が可能で、銃弾は殺傷能力が非常に高いことで知られる。

 銃撃直後に古川はすでに絶命したとみられていたが、あおむけに倒れていた古川に向かってさらに連射するほどの執拗で残忍さが際立った。殺人容疑で逮捕されたのは6代目山口組竹中組系の元組員である。

 この事件の前月の10月10日にも重大な事件が発生していた。神戸山口組の主力である山健組本部の近くで、同組系の組員2人が同時に射殺されたのだ。逮捕されたのは6代目山口組弘道会系の幹部。

 この日は山健組の定例の会合があり、幹部らが集まることは事前に分かっていた。事件を起こした弘道会系幹部は報道陣を装い紛れ込んでいた。

 他にも、神戸山口組系幹部が刃物で襲われて重傷を負うなど6代目山口組側の攻撃が頻発していた。

立て続けの凶悪事件に捜査幹部は...「すべては高山だ」

 6代目山口組側が引き起こす凶悪事件が立て続けに発生したことについて、警察当局の組織犯罪対策を担当している捜査幹部は、「高山の出所の影響が大きい。すべては高山だ」と断定的な口調で指摘する。

 この捜査幹部は高山を、「知力と武力を兼ね備えた男だ」と評する。

 まずは知力について、「信賞必罰を徹底して組織運営に反映させ、規律を保つことを最重要に考えていることが窺える。さらに、組織の維持のためのシノギ(資金獲得活動)をしっかりと握っているということだ」と強調する。

 名古屋を中心とした高山のシノギについて、6代目山口組の事情に詳しい指定暴力団幹部はこう解説する。

「中部国際空港の工事の利権が大きかった。1000億円以上を手にしたと言われている。砂利や生コン、建設資材その他の調達、ダンプカーでの運搬、諸々の手数料などでカネが落ちる仕組みを作っていったようだ」

「水は高い所から低い所へだが、カネは強い所に吸い込まれる」

 さらに次のように付け加えた。

「力のある組織にはカネが集まり、カネが集まれば若い衆も集まる。組織が大きくなれば、新たなシノギの話も舞い込んでくる。水は高い所から低い所に流れるが、カネは強い所に吸い込まれるのだ」

 前出の捜査幹部が続いて武力について見解を示す。

「高山が刑務所から出てくるというだけで、6代目山口組の傘下組織が次々と事件を引き起こす。そして神戸山口組側では何人も殺害されている。高山に対して(傘下組織は)自らの力を誇示し、功績を認めてもらおうとしていると考えられる」

 警察当局の捜査幹部は、6代目山口組が引き起こした数々の事件のうち特に重大なものについて次のように列挙した。

・神戸山口組池田組若頭、高木昇射殺事件(2016年5月)
・神戸山口組山健組若頭、與則和刺傷事件(2019年4月)
・神戸山口組山健組系組員2人射殺事件(2019年10月)
・神戸山口組最高幹部、古川恵一射殺事件(2019年11月)
・神戸山口組池田組若頭、前谷祐一郎銃撃事件(2020年5月)

 捜査幹部が事件を解説する。

「池田組は資金力が豊富。さらに、6代目山口組の傘下組織の一部を神戸(山口組)側に寝返らせようと工作を行っていた。そこで狙ったとみられる。最初に若頭の高木が殺害され、後任の前谷も2020年に銃撃されて重傷を負った。山健の若頭が刺された事件は、神戸(山口組)側の本丸を狙ったということ。古川殺害は自動小銃を使ったことで心理的な影響も大きかった。殺害方法が残酷だったため神戸(山口組)内部に動揺が広がった。実際にこの事件の後に神戸(山口組)から脱退者が増加した」

 そのうえで、その後の対応について、捜査幹部は、こう振り返る。

「こうした事態に対して、神戸(山口組)側からの返し(報復)がすぐさまなされると思っていたが、音なしの状態だった。これは、神戸山口組組長の井上邦雄が許さなかったようだ。理由は不明だが、これで内部に不協和音が生まれたのは間違いない」

「返しがないとなるとヤクザとしてどうなのか」

 6代目山口組分裂の推移を注視していた指定暴力団の古参幹部は、神戸山口組側の反応に首をひねる。

「返しがないとなるとヤクザとしてどうなのかと疑問視される。ヤクザの業界だけでなく、カタギの皆さんにも説明がつかない」

 報復が許されないことに神戸山口組内部で不満が募るなか、中核組織である池田組が2020年7月、脱退を表明。さらに、翌8月には神戸山口組組長の出身母体であり本丸といえる山健組が離脱した。

 神戸山口組組長の井上は山健組出身だが、山健組の5代目組長の座は中田浩司に譲っていた。このため、山健組はかつての自分たちの親分を神戸山口組に置き去りにしたことになる。

 さらに輪をかけて驚愕の出来事が起きる。その山健組が、2021年9月に6代目山口組に復帰したのだ。多くの警察当局の捜査幹部も「耳を疑う行動」と衝撃を隠さなかった。

 続いて神戸山口組からは侠友会が2022年8月に、宅見組も翌9月に脱退を表明した。侠友会会長の寺岡修は6代目山口組若頭の高山と面会して謝罪し、自らの引退と組織の解散を明らかにした。

 神戸山口組立ち上げ時の中核組織の1つ、正木組も2020年8月に解散していた。このため、神戸山口組からは山健組、宅見組、池田組、正木組、侠友会という5つの中核組織がすべて離脱し四分五裂の状態となった。

 2015年8月の分裂当時、6代目山口組の構成員は約6000人で、神戸山口組は約2800人だった。その後、暴力団対策法、暴力団排除条例の施行などで資金面の苦境に陥り、全国の暴力団はいずれも構成員が減少傾向にある。

 それは最大組織である6代目山口組も同様で、最新データとなる2023年時点での6代目山口組は約3500人まで減少している。

 しかし神戸山口組は自然減に加えて相次ぐ傘下組織の離脱などもあり2023年時点で約140人へと激減。25対1と大きな差が開いている。前出の捜査幹部は、「神戸側が形勢を逆転できることはないだろう」と述べる。

神戸山口組から相次ぎ離脱...ここでもきっかけはカネだった

 6代目山口組でカネの問題で不満が募り分裂となったのと同様に、神戸山口組でも火種になったのはイレギュラーなカネの徴収だった。

 山健組や宅見組などの神戸山口組の中核5組織が離脱する前の2017年4月、当時の山健組幹部だった織田絆誠がこうした点を批判して一部グループを率いて離脱し、任侠団体山口組を結成、反旗を翻した。

 任侠団体山口組は後に絆会と名称を変更して活動を続けている。

 神戸山口組が内部崩壊のように縮小するのにつれて、本格的な対立抗争事件が減少していった。しかし2022年に入ると、優勢なはずの6代目山口組系の幹部が射殺される事件が相次いで発生した。

 2022年1月、水戸市の6代目山口組一心会系の事務所で幹部が拳銃で撃ち殺され、2023年4月には神戸市内でラーメン店店長を兼ねていた6代目山口組の弘道会系組長が射殺された。

 いずれの事件でも逮捕されたのは、絆会若頭の金沢成樹。金沢は2020年9月に、6代目山口組弘道会に移籍しようとしていた絆会幹部も銃撃し重傷を負わせており、3件の事件の容疑で逮捕された。しかし、取り調べには黙秘を通しており詳しい動機は不明のままだ。

3000対60...終息の気配なく10年目に突入

 金沢の動向をウオッチしてきた警察当局のある捜査幹部は、「2件の殺人事件と1件の殺人未遂事件を実行したとなれば裁判では死刑の判断も十分にあり得る」と述べる。

 そのうえで、次のような見解を示した。

「これほどの重大事件を起こしたのは意地のようなものを示したかったのだろう。裁判所の判断はどうなるかは分からないが、厳しい判決が出ても受け入れる覚悟はあるはず。社会一般には忘れ去られるかもしれないが、ヒットマンとしてヤクザの歴史に名を残すことになるのは間違いない。本望だと思っているのかもしれない」

 現在、6代目山口組は、神戸山口組、池田組、絆会との間で対立抗争状態にあると認定されている。暴力団対策法に基づき、それぞれの組織が特定抗争指定暴力団に指定されている。6代目山口組は指定暴力団等に加えトリプル指定状態だ。

 警戒区域でおおむね5人以上で集合するなど違反行為があれば中止命令を経ずに即座に逮捕されるなど活動が厳しく制限されている。

 池田組と絆会の構成員は最新データによると、ともに60人。いまだ3000人以上を抱える6代目山口組との勢力差は大きいが白旗を上げる気配はなく、分裂10年目は乱世の様相で幕を開けた。(敬称略、一部の肩書は当時)

(尾島 正洋)

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