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大谷翔平の恩師も「坊主にしている方がおかしい」と…高校野球の「丸刈り強制」を激減させた日本人の“人権意識”の変化

文春オンライン / 2024年8月30日 11時10分

大谷翔平の恩師も「坊主にしている方がおかしい」と…高校野球の「丸刈り強制」を激減させた日本人の“人権意識”の変化

2023年の夏の甲子園で優勝した慶応高校。髪型が自由なことでも話題になった ©文藝春秋

 なぜ、高校野球の世界では、「丸刈り」の強制がなくならないのか。どうして夏の甲子園は、酷暑のなかで何試合も行われるのか――。近年、世界的に人権意識が高まるなかで、高校野球の常識や慣習が議論の的になっている。

 そんな高校野球界の常識・慣習について、「人権」をテーマに切り込んだのが、ノンフィクションライターの中村計氏だ。

 中村氏は、丸刈りの強制は人権侵害に抵触するのか否かを中心に、元高校球児の弁護士・松坂典洋氏と対談。その内容を著書 『高校野球と人権』 (KADOKAWA)にまとめた。ここでは、同書より一部を抜粋・編集し、高校野球界の丸刈りの“変化”について、中村氏と松坂氏が対談した内容を紹介する。(全2回の1回目/ 2回目に続く )

◆◆◆

「あと5年で坊主にしている方がおかしいという時代に…」

中村計(以下、中村) 全国の高校を対象に5年に1度、高校野球連盟が行っているアンケートで、2023年は「長髪やスポーツ刈を認めている」と答えた高校は約4分の3もあったんです。5年前は4分の1程度だったので、わずか5年でこんなに変わったのかと驚きました。

松坂典洋弁護士(以下、松坂) 驚きますよね。この前、地元の知り合いに聞いたら、現在、浜松市内に野球部のある高校は20校以上あるんですけど、そのうち今も丸刈りなのは数校程度しかないそうです。中には「ザ・高校野球」みたいなスタイルの高校もあったのですが、そういう高校までもが丸刈りではなくなったというのを聞いて、びっくりしました。時代の波はここまできているのか、と。

中村 大谷翔平の母校である花巻東の監督である佐々木洋さんは、2018年から丸刈りを廃止したんです。そのとき、まさに「あと5年で坊主にしている方がおかしいという時代になりますよ」と予言していたのですが、まさに今、そうなりつつあります。あともう5年したら、丸刈りに対する見方はどんな風になっているんでしょうね。

松坂 当然、変わっていると思います。極端な話、ひと昔前の入れ墨のようなイメージになっている可能性もあります。それこそ、ちょっと怖いなというか。世界の人権意識を反映して、それくらいのスピード感で日本人の人権意識も変化していますから。

 つい先日、札幌高等裁判所で同性婚を認めないのは違憲とする判決が出たんです。つまり今の民法は憲法に違反している、と。同性婚訴訟に関して言うと、これまで1審の地裁レベルでは何度か違憲判決は出ていたんです。

 ただ2審の高裁で出たのは今回が初めてだったんです。しかも、裁判所が原告側の主張をすべて認めて、現在の民法・戸籍法は、憲法14条1項と、24条1項及び2項に違反すると明確に判断したので、さらに驚きましたね。こんなに早く変わっていくのか、と。裁判所がここまではっきり違憲だと言い切るのはすごく珍しいんですよ。

裁判所で「違法」の判決が滅多に出ないワケ

中村 憲法に違反していますよという判決は年間、そうそう出るものではないのですか。

松坂 滅多にありません。地裁レベルでも年間、一度も出ないということもあると思います。最高裁に限って言うと、先日、不妊手術を強制した旧優生保護法に対して憲法違反とする判断が下されましたが、それを含めても違憲判決が出た例は13件しかないんです。

中村 日本の歴史上、ということですか。

松坂 より正確に言うと、日本国憲法ができてからということですね。私も最初、こんなに少ないんだと思いました。最高裁は何を遠慮しているのだ、と。ただ、裁判所は違憲であることが明白でない限り違憲だとは言わないものなんです。そういうのを「司法消極主義」と呼ぶことがあります。

 というのも最高裁が違憲と判断したら、翌日からその憲法に反する法律は使えなくなってしまうわけですよ。そうしたら、国が混乱するじゃないですか。たとえば自衛隊を違憲と判断したら、翌日から存在できないことになってしまいます。憲法は国の最高法規ですから。

中村 慎重にならざるを得ないわけですね。

世の中は同性婚を容認する方向で進んでいく

松坂 それと、国は争うとなったら、ものすごく強いんです。法務省に出向した裁判官、官僚、弁護士など優秀な人材を集めてチームを組み、膨大な量の証拠を準備します。国ですから、資料も山のように持っています。

中村 国と争うというのは、とてつもないことなんですね……。ちなみに同性婚訴訟は同時並行で、今、いくつも争われているんですよね。

松坂 札幌を含めると全国で6件起きています。札幌以外も現在は2審の審理中です。今後、各地の高等裁判所で判決を言い渡されることになっています。ここでそれぞれの高裁がどう判断するかですね。札幌の裁判は国も上告するでしょうから、最高裁までいくことになるでしょう。最高裁は他の2審の結果が出そろうのを待ってから、審理に入ることになると思います。議論が尽くされてからの方が正確なジャッジができますから。

中村 どういう判決が出ると思いますか。 

松坂 現時点では五分五分だとしか言えませんね。裁判官も違憲というのは相当、勇気がいると思います。変に目立ったり、万が一、間違った判断を下したら出世に響くんじゃないかなとかもチラつくでしょうし。

中村 裁判官も人間なんですね。

松坂 その人間が判断することだから難しいし、怖いんです。裁判というのは。ただ、丸刈り裁判も一度も勝ったことがないのに世の中が変わったように、たとえ最高裁が違憲判決を出さなかったとしても、世の中は同性婚を容認する方向で進んでいくと思いますよ。

中村 夫婦別姓さえ認められていないのに、同性愛者の権利を尊重する方向に大きく舵を切ったわけですね。

裁判所は、判断を国会に委ねてしまっている

松坂 夫婦別姓の裁判は、最高裁で二度判決が出ているのですがいずれも合憲という判断でした。この問題に関して裁判所は判断を国会に委ねてしまっている印象があるんです。国の立法機関である国会で決めてください、と。裁判所はいつも腰が引けていると批判する人がいるように、日本の裁判所の性質として国会が法律として定めていることに関しては深くまで踏み入らないものなんですよ。

中村 そこへ行くと今回の判決は、かなり思い切っているなと。 

松坂 札幌高裁が明確に違憲と述べた判決には驚きましたね。もともと日本は少数派の性的指向の人を尊重することに対してはものすごく消極的でしたよね。男女平等さえ快く思っていない人も少なくありませんから。

花巻東の佐々木監督が「丸刈りなんてやっている場合ではない」と感じた出来事

中村 花巻東の佐々木監督はアメリカの学校に研修にいった際、アメリカのトイレは性同一性障害の人にも対応してるんだと驚いて、日本の高校野球はもっとスピード感を持って変わらなければならないと痛感したと話していました。早く変わらなければ、他のスポーツに置いて行かれる、と。丸刈りなんてやっている場合ではないと思ったそうです。

松坂 そういう感性があるから野球部も強くなるんでしょうし、大谷のような選手が出てくるのだと思います。トランスジェンダー用のトイレを目の当たりにして、そこまで深く受け止められる人って、実際はそんなにいないと思います。人権感覚というのは、感受性の豊かさが問われるんですよね。

 最近、トランスジェンダーの公務員が職場のトイレ使用状況が制限されているのは不当だとして裁判を起こしたんです。それに対して最高裁は違法であると判断しました。これもLGBTQ問題においては歴史的な判決の1つだったんです。ですが、年配の日本人男性は「勝手なこと言いやがって」みたいな反応をしがちなんです。

中村 一部、強烈なアレルギー反応を示す人たちがいますよね。

松坂 あれは何なんでしょうね。おそらくわれわれの世代から上の日本人男性って、男性であるということだけでこれまでいろいろな恩恵を受けてきたと思うんです。だから、その中の一部の男性は女性の権利を認めようとしないし、ましてやトランスジェンダーの人たちまでもが平等を訴えることに、ものすごい拒否反応を示すのかもしれませんね。

〈 「こんなに暑い季節に何試合もするのは普通じゃない」酷暑で行う“夏の甲子園”のヤバさに高校野球界が疑問を抱かないワケ 〉へ続く

(中村 計,松坂 典洋/Webオリジナル(外部転載))

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