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「こんなに暑い季節に何試合もするのは普通じゃない」酷暑で行う“夏の甲子園”のヤバさに高校野球界が疑問を抱かないワケ

文春オンライン / 2024年8月30日 11時10分

「こんなに暑い季節に何試合もするのは普通じゃない」酷暑で行う“夏の甲子園”のヤバさに高校野球界が疑問を抱かないワケ

写真はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

〈 大谷翔平の恩師も「坊主にしている方がおかしい」と…高校野球の「丸刈り強制」を激減させた日本人の“人権意識”の変化 〉から続く

 なぜ、高校野球の世界では、「丸刈り」の強制がなくならないのか。どうして夏の甲子園は、酷暑のなかで何試合も行われるのか――。近年、世界的に人権意識が高まるなかで、高校野球の常識や慣習が議論の的になっている。

 そんな高校野球界の常識・慣習について、「人権」をテーマに切り込んだのが、ノンフィクションライターの中村計氏だ。

 中村氏は、丸刈りの強制は人権侵害に抵触するのか否かを中心に、元高校球児の弁護士・松坂典洋氏と対談。その内容を著書 『高校野球と人権』 (KADOKAWA)にまとめた。ここでは、同書より一部を抜粋・編集し、高校野球の“異常性”について、中村氏と松坂氏が対談した内容を紹介する。(全2回の2回目/ 1回目から続く )

◆◆◆

丸刈りはさらに丸刈りに

中村計(以下、中村) 確実に丸刈りの高校は減ってきました。ただ、一方で、不思議な現象も起きているんです。甲子園に出てくるような高校は相変わらず丸刈りの方が多いんですよ。

 アンケートが実施された2023年夏は、髪型は自由なんだろうなと思われる高校は49校中7校しかありませんでした。その夏、サラサラヘアで話題になった慶應が優勝したことで、これは甲子園組の髪型自由化も一気に進むかなと思ったのですが、2024年春、選抜大会において髪を普通に伸ばしているチームは32校中わずか4校しかなかったんです。

松坂典洋弁護士(以下、松坂) 割合的には夏よりも減っているんですね。

中村 しかも丸刈りのチームはさらに丸刈りになったと言いますか、大会前に五厘にして、大会中、また五厘にしたりしていたんです。だから、丸刈りがなくなる一方で、丸刈りのチームは極端な丸刈りになっているという印象を受けました。甲子園に出てくる選手たちって、こんなに青々としていたかな、と。

松坂 本当にみんながみんな五厘にしたいと思っているのでしょうか。チームのうちの何人かが過剰適応し、それが全体に広がったのかもしれませんね。

中村 過剰適応という言い方があるんですか。でも、まさにそんな表現がぴったりな感じなんですよ。

暑い時間帯に何試合もするって、どう考えたって普通じゃない

松坂 軍隊などもそうだったと思うんです。過剰に適応しなければ、やっていられないというか。語弊があるかもしれませんが、太平洋戦争中の最前線は頭のネジを何本か外さないと正気を保つことができないような非常に過酷な世界だったと思うんですよ。ある意味で、軍隊教育とは強制を強制と感じさせないようなプログラム、異常を異常と感じさせないようなプログラムだったと思うんです。

中村 なんか似ていますよね。高校野球もいちいち疑問を抱いていたら、やっていられない気がします。夏の甲子園は特にそうですが、こんなに暑い季節に、こんなに暑いエリアで、こんなに暑い時間帯に何試合もするって、どう考えたって普通じゃないですよ。

 しかも甲子園も地方大会もトーナメントなので一回負けたら終わりです。秋の大会が終わってから9ヶ月前後、選手たちは夏のために厳しい練習に耐えるわけです。それがたった1試合で終わる可能性もある。地方大会から甲子園まで奇跡的に勝ち続けて優勝を手にしたからといって、金一封が手に入るわけでもありません。いったん冷静になってしまったら二度と入っていけなくなってしまう世界なんじゃないかなという気がしてしまいます。

松坂 逆に言うと、その異常性が甲子園の魔力であり、魅力でもあるんでしょうね。 

中村 まさにそうなんです。過剰に適応しているからこそ、取材対象としては魅力的でもある。だから、そこは取材者として完全に矛盾しているんですよね。おかしいなと思いつつ、おかしいからいいんじゃないかと思っているところがあります。真っ当な世界の真っ当な人を書いたところで、おもしろくもなんともないだろう、と。

理不尽な練習や慣習を正当化させるための“言い分”とは?

松坂 そういう世界でトップに立てる人というのは、それを過剰とすら感じない才能の持ち主でもあると思うんです。だから、その人たちを模倣しようとすると、おそらく大多数の人間が適応できないのではないでしょうか。昔、理不尽な練習や慣習を正当化させるために「社会に出たら理不尽なことばかりだ。だから、今のうちに慣れておいた方がいいんだ」みたいな言い方をしましたよね。

中村 いや、その論理は今もありますよ。「社会に出たら理不尽なことばっかりだぞ。こんなことに耐えられなくてどうすんだ」みたいな。「そうですよね、中村さん」と振られたら、「本当にそうだよ」と言ってしまいそうです。

松坂 でも、あれもごく限られた適応者の言い分だと思いませんか。やはりおかしいことはその都度、正していかないと、ものすごく偏った世界になっていってしまうと思うんです。それを生存者バイアスという言い方をすることがありますよね。生存者や成功者だけのメソッドを指針としてしまうと、全体としては誤った方向に行きがちになる。

中村 先輩後輩の理不尽な上下関係を肯定するときにもありがちな思考回路ですよね。俺は高校時代、あれに耐えられたから、プロでもがんばれたみたいな。

松坂 でも、イコール正しいという論法には無理があります。そのがんばりを引き出すもっと合理的で、もっと多くの人に効果がある方法があるはずじゃないですか。

中村 1つの成功体験は、本人にとっては、それくらい深い刻印になってしまうものなのかもしれませんよね。

(中村 計,松坂 典洋/Webオリジナル(外部転載))

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