「そんな時だった。親父が病に倒れたのは」人気料理人・笠原将弘が今も忘れることのない“父の味”「まっ茶色の弁当がうまかった」
文春オンライン / 2024年8月31日 6時10分
撮影 榎本麻美/文藝春秋
東京・恵比寿の日本料理店「賛否両論」は2024年で開業20年目を迎える。その華やかな成功の陰には、母・父、妻を失った壮絶な苦しみがあった。ここでは『 賛否両論 -料理人と家族- 』(主婦の友社)より一部抜粋し、亡き父との思い出を振り返る。(全2回の前編/ 続き を読む)
◇◇◇
僕が料理人になったのは、親父の存在が大きい。
高校1年から2年になる直前の春、お袋が亡くなって、親父が毎朝弁当をつくってくれていた。
店の余りものをタッパーにぎゅうぎゅうに詰めて持たせてくれて、焼き鳥、つくねの照り焼き、鶏の唐揚げなんかがごはんの上にのっていて、まっ茶色で、食べるころにはいろんな味が染みているのがまたうまかった。
親父の弁当を食べていたのは、半年くらいだろうか。
そのころの僕は、お袋が亡くなった寂しさを紛らわせるために、勉強もせず友だちと遊んでばかり。とくにグレていたというわけではないけれど、学校を抜け出してラーメンを食べに行くのがかっこいい時代だったこともあり、親父に向かって「もう弁当はいらない」と言ってしまった。夜遅くまで働いている親父に、早起きをさせるのはわるいな、という気持ちも大きかった。
高校3年で進路を決めるとき、僕はパティシエになろうかな、と考えていた。お袋からは「これからの時代、大学には行きなさい」と言われていたけれど、大学に進学してとくにやりたいこともなかったし、学校の成績は散々なものだった。
当時、僕の部屋には高校生にしては珍しくオーブンレンジがあって(高校生でなくても珍しいと思うが)、ひまがあればチョコレートケーキなんかをせっせと焼いていた。
そんなとき、たまたまテレビで「パティシエ世界選手権」なるものがあると知り、衝撃を受けた。飲食の世界にもワールドカップがあるのか。「日本代表」という響きに痺れた。
父にパティシエを目指そうと思っていることを伝えると
親父にパティシエを目指そうと思っていることを伝えると、
「おう、いいじゃないか」
自分がやりたい仕事をやれ、というのが親父の考え方だ。だけど僕には、パティシエにはどうやってなればいいのか皆目わからず、再び親父に相談した。
「日本料理だったら紹介できるぞ。どうせやるなら、厳しいところに行ってこい」
僕も、どうせならすごいところに行きたい、と思った。
それが、新宿の日本料理店だった。
「板前は、10年修業しないとだめだ」
親父はそう言って、僕を送り出した。
18歳で板前の修業を始めた僕は、親父の教えのとおり、10年を目標に掲げた。
途中、えーりーと出会い、結婚して、長女が生まれたとき、僕は26歳になっていた。目標まで、あと2年。
えーりーと結婚する前、勤め先から誰かひとり、アメリカの日本大使館に行かないか、という話があった。僕のなかには若いうちに海外で仕事をしたいという希望があり、「めちゃくちゃ行きたいです」と立候補したが、残念ながら素行がわるかったせいで、同期の板前が行くことになった。
もしあのとき、アメリカに行っていたら、僕の人生はまた違うものになっていたのかな、とたまに思う。でも、僕は行かなかった。運命とは、一体なんなのだろう。
修業時代、僕の頭のなかのメインにあったのは、いずれは親父と一緒に「とり将」のカウンターに立ち、店を継ぐことだった。修業7年目や8年目くらいの僕にも、料理長をやらないか、という話が舞い込んだりして、話だけ聞きに行ったこともあったが、そのうち長女が生まれ、店でも上の立場になっていたこともあり、10年よりもう少しここにいようかなという気持ちが生まれていた。
そんなときだった。
親父が病に倒れたのは。
撮影 榎本麻美/文藝春秋
〈 「これ、がんじゃんかよ。お医者さんになんて言われてんだよ!」人気料理人・笠原将弘が思わず声を荒げた亡き妻が“がんと診断された瞬間” 〉へ続く
(笠原 将弘,中岡 愛子/Webオリジナル(外部転載))
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