大阪で52年続く“のれんがいい味の中華料理屋” 沖縄出身コンビが作る「200円の餃子」がプリうますぎた!
文春オンライン / 2024年9月9日 11時0分
地下鉄千日前線「谷町九丁目」駅から、上町筋に出て北へしばらく進む。大阪の友人によると、このあたりは寺町であるらしい。
「これをずっとこっちに行ったら、どんつきが大阪城ですよ。で、大阪城から南に沿って台地があって、そこにお寺がずらっと並んでるんですわ。だから道も広いし。でも、ここは台地だから坂を登らなあかんのですよ。だからチャリンコで来るのはちょっとめんどくさい」
どこかゆったりとした空気が流れているのは、もしかしたらそんなロケーションのせいなのかもしれない。考えようによっては飲食店に向いた環境とはいいにくいのかもしれないが、そんな場所で長らく地元の人から愛されているのが、「北京料理 ヨイヨイ亭」だ。
店名もかわいければ、日除け看板に書かれた店名のフォントも昭和っぽくてまたかわいい。
サッシの引き戸を開けて店内に足を踏み入れると、まず目につくのは左側。オレンジ色のスツールが並ぶL字型のカウンターだ。その向こう側が厨房だが、特徴的なのはテーブル席が見あたらないこと。
右側の3卓は、すべて小上がりになっているのである。これは珍しいスタイルかもしれないということで、迷うことなくこちらに上がってみることにする。
壁に背を預けて見渡せば、なかなか広がりのある空間だ。決して新しくはなくそこそこ年季が入っているとはいえ、厨房などはしっかり磨き込まれているので清潔な印象がある。こういうところにこそ、お店の人の誠実な姿勢が表れるものだ。
まずはビールを頼もう
ともあれ、まずはビールを頼もう。生ビールはアサヒスーパードライ、瓶ビールはスーパードライに加えてキリンラガー、サッポロ黒ラベルと、品揃えは豊富だ。
大瓶(だいびん)の多い大阪にあって中瓶は珍しいが、500円ならまったく問題はない。ってなわけで大阪の友人がスーパードライ、私がキリンラガーを頼むことにした(意見が分かれた)。
なお価格に関していえば、安いのはビールだけではない。料理も全体的にお手ごろで、ビールのお供に欠かせないギョーザに至っては5ヶで200円という破格値である。
品数も豊富なので迷ってしまうが、とりあえずギョーザを2人前と蒸し鶏、ブタ天ぷらとレバニラ炒め、そして鶏唐揚げソースをお願いする。「とりあえず」というわりには多い気もするが、それはまあいい。
店内には、赤いTシャツを着た男性がふたり。ひとりが厨房で調理を行い、もうひとりがフロアを担当しているようだ。B中華の店には高齢の店主も少なくないが、ふたりとも若く、どことなく似てもいる。
もしかしたら兄弟なのだろうか。
などと余計なことを考えていたら、まずは蒸し鶏が運ばれてきた。柔らかそうな鶏肉に、刻んだネギがたっぷりと乗せられており、見た目からして魅力的だ。
しかもいただいてみれば、ジューシーな鶏肉にはニンニクが効いていて、ビールとの相性は抜群。これはのっけから期待以上である。
続いてお目見えしたギョーザも、プリプリした皮の食感と肉の旨みが絶妙。これが200円だとは、なにかの間違いではないかとさえ思いたくなる。少なくとも個人的には、倍くらいの値段は躊躇なく出せるぞ。
レバニラ炒めの安定感、関西を訪れたら必ず食べたくなるブタ天ぷらも申し分なし。
鶏唐揚げソースの、油淋鶏を思わせるサッパリとした味わいも非常によい。小上がりから店内を眺め、ビールとともに味わえばもう最高の気分である。
ちなみに、このとき時刻は16時半。昼休憩なしで通し営業されていることにも驚かされるが、あと30分もすれば夜のお客さんがたくさん入ってきそうではある。そこで、そろそろお話を伺いたいところ。
ご主人は沖縄出身、せわしない大阪で感じたギャップ
趣旨をお伝えしたら、ずっと厨房にいらっしゃった店主の小波津(こはつ)良昌さんが出てきてくださった。54歳だとおっしゃるが、2代目なのだろうか。
「いや、(店自体は)もう何代も続いています。もともとは経営母体の会社があったんですけど、平成15年に会社が閉鎖になったとき、僕は店長をやってたんで、それで継ぐことになって」
ご出身は沖縄で、高校卒業後に就職のため大阪に出てきた。母体になっていた会社は中華料理チェーンを運営しており、高校の先輩が何人か働いていたこともあって就職を決めたのだという。高校時代にラーメン屋でアルバイトしていたことも、入社のきっかけのひとつになったようだ。
以来、昭和47年10月に創業したこの店で堅実に働いてきた。18歳で沖縄から大阪へ単身で移るとなると不安も多そうだが、高校生のころからアルバイト漬けで親とはすれ違いの生活だったため、ホームシックに悩まされるようなことはなかったようだ。ただし、ことばにはそれなりに苦労されたらしい。
「関西弁が、最初はなかなか。(生まれ故郷の沖縄には)方言があるんですけど、もともとは配属が沖縄の先輩と一緒だったんでなんとかなったんです。でも、そのあと転勤の話が出て、それで」
実家は首里城の近く。6人きょうだいの末っ子で、他界されたご両親は、最後は造園関係の仕事をしていたそうだ。
ところで、沖縄の人にはのんびりとしたイメージがある。という感じ方には多少なりとも偏見が混じっているかもしれないが、せわしい大阪に出てきて違和感はなかっただろうか。
「(のんびりとした空気は)ありますよ、いまでも。だから出てきたころはね、どうしてもついていくのが大変でした。でも、いまではもうこっちのほうが長いんで、馴染んでるんで、沖縄に3日もいたら退屈で仕方ないです(笑)」
奥様とのふたり暮らし。人の紹介で49歳のときに結婚したそうなので、まだまだ新婚さんといえるかもしれない。いずれにしてもまだ若く、お店に関しても後継者問題に悩まされるようなことは当分ないだろう。
同期のふたりで切り盛り
「そうですね。まだそこまでは。あと15、6年ぐらいはまだ大丈夫と思うんだけど。でも人を育てるのも大変で、やっぱり。なかなか根気のある人がいないんですね、いま」
最初に出てきてくださった方は、そんななかでは珍しい、根気のある若手だったということか。と思いきや……。
「いや、自分と同級生なんですけど。一緒に入社した子なんです。たまたま自分が引き継ぐときに、一緒にやっていこうということになって」
そんな同期の安藤元彦さんにも話を伺おう。ずっとふたりで働いているというのは、楽そうに見えて大変なのでは?
「まあまあ、自分ももう何年も一緒にやってるから、ある程度いろいろ知ってるんで」
気心の知れた関係だということだ。なお安藤さんは沖縄ではなく高知の出身で、大阪の会社で小波津さんと知り合って現在に至る。寺町では出前も多いため、長い年月を経て培ったコンビネーションを活かしながら店を切り盛りされているようだ。
さて、最後はラーメンで締めようか。でも、ヤキメシもいきたいよね、と話していたら、セットならお得だと声がかかる。よし、それでいきましょう。
ヤキメシのパラパラ具合が素晴らしい
先に出てきたヤキメシはパラパラ具合が素晴らしく、しかも具材が変わっている。まず特筆すべきは、ゴボウとタケノコが入っている点だ。
ゴボウの入ったヤキメシというのは、なかなか珍しいのではないだろうか。しかも、コンニャクも入っている?
「ああ、それはコンニャクじゃなく、シイタケです。あとからチャーシューも入れますから、五目炊きみたいな。タケノコが入ってるのは、もともとはロスをなくすためだったんです。下の部分を細かく切って利用するという」
そうした姿勢が味に奥行きを生み出しているのだから、お見事だとしかいいようがない。そしてラーメンも、期待どおりの懐かしい味わい。
丸鶏でとっているスープは、スッキリしていて麺との相性も抜群だ。当然ながら、ずっと変わらない味だという。
ちなみにメニューのなかには「ポテト」というものがあったのだが、聞けばこれは大学芋のようなものらしい。そのすぐ下に書かれている「ゴマ団子」同様、ビールには合わないかもしれないが、子ども連れのお客さんには喜ばれそうだ。
つまり、家族で楽しめるお店だということ。なるほど、いわれてみれば、小上がりで親子がワイワイ楽しんでいるさまが目に浮かぶ。
INFORMATIONアイコン
北京料理 ヨイヨイ亭
大阪市天王寺区上本町4-1-16
営業時間 11:30〜22:00
定休日 火曜日
蒸し鶏 660円
ギョーザ(5ヶ) 200円
ブタ天ぷら 660円
レバニラ炒め 720円
醤油ラーメン+ヤキメシ(セット) 850円
瓶ビール 500円
(印南 敦史)
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