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《普通なら絶対に知り合えないドバイの王族と会って話すには?》ビジネスの“抜け道”「サードドア」の開き方

文春オンライン / 2024年9月6日 6時0分

《普通なら絶対に知り合えないドバイの王族と会って話すには?》ビジネスの“抜け道”「サードドア」の開き方

小西利行氏(左)とけんすう氏(右) 撮影・細田忠(文藝春秋)

 新著『 すごい思考ツール 』が話題の広告クリエイター・小西利行さんと、『 物語思考 』がロングセラーとなるけんすう(古川健介)さんとの初対談が実現。正攻法では壁を突破できないときの方策を示す、白熱のスペシャルトーク!

◆◆◆◆

「メタ認知」と世阿弥の「離見の見」

小西 今回は新著『すごい思考ツール』に熱い推薦コメントを頂いたうえ、対談イベントにもご登壇いただきありがとうございます!

けんすう 本書は、「誰でも使えるアイデアの本」として完成度が高くて、非常に面白かったです。僕自身、文字通り100以上の気づきを得られましたし、必ずしも特別な才能やセンスがなくても成功できるノウハウは、ツール化して人に伝えることができるんだと実感した本でもありました。

小西 すごく嬉しい感想です。以前から僕は、けんすうさんを連続起業家として注目していたのですが、インターネットの最前線でAIやNFTを使った事業開発をしてこられて、とにかくアイデアの発想法が面白そうだな、と。ご著書の『物語思考』はもう3回読んでいて付箋だらけですが、人生の物語化のメソッド――「こういう考え方をすればうまくいく」という方法論がすごく面白かったです。

 僕も物語を重視していますが、普段どちらかというと、モノを売ったり、ブランディングするストーリーとして使っているので、「自分のキャラクターを設定」して行動を変えようという視点が新鮮でした。

けんすう ありがとうございます。僕がけっこう重視しているのは「メタ認知」で、外から自分を見た時にどう思うか、相手目線で考えることを大切にしています。自分のことは、ここ恥ずかしいなとか格好悪いかな? とか様々なバイアスがかかりがちですが、他人から見たらスッと本質がわかることも多い。

 だから自分を一冊の小説の主人公だと見立てて、どうやったらいいかと考えると、最適な道が選びやすいんじゃないか、というのが物語思考の核心にあります。

小西 その考え方は、本でも触れましたが、能楽の世阿弥のいう「離見の見」(りけんのけん)に通じる考え方ですね。舞台には「我見」という役者が観客を見る視点と、「離見」という観客が舞台を見る視点がある。「離見の見」とは、役者が観客の立場から自分をみる視点、つまり、相手側にたって俯瞰的に全体を理解する感覚で、これはまさしくメタ認知です。

 これが体得できると、自分がどう行動したらいいのか、相手の立場に立って物事を考えられるようになるから、仕事がガラリと変わりますよね。

けんすう そうなんです。例えば『ONE PIECE』の1巻で「海出ようかな?」って迷っているのが10話続いたら、読むのをやめるじゃないですか、つまらないから。ところが、自分の人生だと、結構みんなそういうことをやってしまっていて、「いつ会社辞めようかな?」みたいなことで1年とか無駄に過ごしてしまう。

 他人の視点から見たら「すぐ辞めたら?」と簡単にわかることが、人は自分のことだと膠着状態に陥りがちなわけで。

プレゼンで大失敗したら“キャラ変”が起きた

小西 自分を俯瞰して、物語の主人公としてキャラを作っていくことが仕事でうまく行く秘訣、というメッセージは本当にその通りだと思うんですね。僕自身、人生で何回か“キャラ変”しましたから。

 最初新人の頃、僕は全く「できない君」で、1日に2回、違う先輩に同じ喫茶店に呼び出されて「コニタン(注:小西さんのこと)は、物凄くクリエイティブ向いてないから、辞めた方がいい」と言われたことがあるんです。一瞬ドッキリかと思ったほど。

けんすう それはショックですね!

小西 そんなダメダメなある日、広告業界の中でも花形のクライアントさんとの会合で、俺が一番端っこでぼけっと座っていたら、「あとのプレゼンテーションは小西からやります」って突然先輩に振られて、もうプレゼンはボロボロで大失敗。まわりからも、すごい叱責されて。

 でもそこで、もうこれ以上ないというくらい恥ずかしい思いをしたら、逆に開き直れて“キャラ変”が起きたんですね。「自分をよく見せたい」みたいな殻が全部吹き飛び、「恥ずかしいこと言っていいんですよね?」とズケズケものを言うキャラを目指すようになった。見た目も金髪にして、髭生やして、メガネをかけて(笑)。

 それですごく生きやすくなったんですよ。これまで敬遠していた大物クリエイターや厳しい先輩たちとも、いろいろなことを率直に話せて、普通に仕事ができるようになった。

 もともと僕はクリエイティブ志向でもなんでもなく、キャラの設定や考え方の方法論で道を切り開いていったところがけんすうさんとも共通する気がします。

けんすう 劇的なキャラ変ですね(笑)。僕はもともと在学中に、当時ひろゆきさんが運営していた2chに対抗したライバルサイトを作りたいっていう人がいて、そこに参加していたんです。そしたらある日、ひろゆきさんから冗談半分に電話がかかって来て、そこから仲良くなっていって。

 その頃ひろゆきさんがやっているレンタル掲示板の会社があって、「社長に向いてなさそうな奴」にやらせようというノリで社長にされたところから経営者人生が始まっているので、めちゃくちゃ流され流されで辿り着いた感じですね。

ビジネスで「抜け道はある」という気付き

小西 最初から経営者志望でなかったところが、事業のオリジナリティにもつながっている気がします。

けんすう 当時の気づきで面白かったのが、ビジネスで「抜け道はあるんだな」ということ。インターネット黎明期で、普通の大企業は、誹謗中傷もあるような雑多な掲示板の運営なんてできないし、そこには訴訟リスクもあるけれど、だからこそ普通の大学生が斬り込んでいってもうまくいく可能性がある。

 内容証明が何百通もきたり、警察から捜査協力依頼がきたりもしましたが、テクノロジーが伸張するさいに起きる社会との摩擦を、学生だからこそあまりリスクを背負わずに経験できたのは大きかったですね。

誰も教えてくれない「サードドア」

小西 いま抜け道のお話が出ましたが、ご著書に出てくる「サードドア」という考え方は僕がとくに好きな部分です。ファーストドアは一番最初に誰でも開けるドアで、99%の人がそこに並ぶ。つまり何か課題を解決しようとしたら、まぁそこから行くよねという正攻法です。二つ目のセカンドドアは、VIP専用の入口で、お金持ちやセレブなど特権階級的な立場ならアクセスできるドア。

 で、サードドアというのが、普通は人が並ばないし、誰も教えてくれない「抜け道」のルートです。お金もコネもない人が成功するには、他の人がとらない裏道を探す必要がある、と。

けんすう そうなんですよね。元ネタをご存じない方のために説明すると、ごく普通の大学生が有名になりたくて何をやったかが書いてある『サードドア』という翻訳書があって、著者はクイズ番組に出て賞金をもらって、 ビル・ゲイツ、レディー・ガガといった著名人に次々とインタビューしまくって有名になるんですね。僕はそれを読んだときに、「なるほど、自分がやってきたこともサードドアだな」と感動して、自分の方法論としても発展させました。

ドバイで王族とのコネをつくる驚きの手

小西 それってすごく汎用性の高い考え方で、僕の友人のある起業家が、次は「ドバイでビジネスを成功させたいって思っています」って言うから「どうやってやるの?」って訊いたら、寿司屋になるという。ドバイでビジネスをやりたかったら王族とのコネクションが鍵になるわけですが、普通に正攻法で知り合うのは絶対に無理。唯一、直接話せる機会があるとすれば寿司屋のカウンターだろうって。

 彼はもうすでに銀座で半年、西麻布で半年寿司を握って修行して、寿司屋のカウンターで王族と話す準備を整えているそうですが、これを聞いたときに「そんなサードドアがあったか!」と驚きました。

けんすう まさにサードドア! しかも寿司職人ってビザが下りやすいらしくて。数ヶ月、日本で修行すればビザがもらえる場合もあったらしいです。今ではみんなやり過ぎて、そこまで容易でもないとも聞きますが……。 

小西 そのハックの仕方はすごいですね。僕はよくチームに、「上から下から横から、全部見て、新しい売り方を考えよう」と伝えています。正攻法だけじゃなく、違うルートから行くクリエイティブで開く扉があるのではないかと。

けんすう 小西さんのお仕事でサードドアが開いたのは、どんなときでしたか?

小西 たとえば2017年に経産省と組んでプレミアムフライデーというのを作ったとき、本来あれは経済活性化策なので、本当はお金を国民にバラ撒くのが一番早いんです。ストレートに子ども応援券とか地域で使える商品券とか。でも、それだと結局は長続きしないし、予算もあまりなく、働き方改革の推進も求められていました。

 そこで裏ルート的な打ち手として、月末の金曜日に「第3の時間」をつくって、飲みに行ったりショッピングに行ったりして「それぞれのプレミアムな金曜日の過ごし方をしよう」という行動開発を仕掛けました。まあ、いろいろとご批判も頂いたプロジェクトではありましたが…。

けんすう そんなことないですよ、僕のまわりではみんな「プレ金」好きでした! あと、ご著書に書いてあった、ランチビュッフェに1万円つけるアイデアもいいですよね。

小西 あれは大阪のある老舗のホテルに提案したもので、諸事情で実現はしなかったのですが、5000円のランチビュッフェを売るのに、1万円プレゼントするというアイデアです。一見、常軌を逸してると思われそうですが、100万円予算で100食1万円付にできるなら、食べたら儲かるのだからSNSは絶対バズるし、メディア取材だってくる。ウェブ広告やちょっとしたPRキャンペーンをやってもすぐ数百万円はいきますから、その広告効果を考えたら安いものです。

けんすう PR施策として考えると、すごく安いですよね!

イノベーションを生むアイデアの狙い目とは?

小西 けんすうさんがサードドアをひらくアイデアのコツとして、普段から意識していることはありますか。

けんすう 「都合の良いものを考える」ですかね。イノベーションって相反する要素――普通はトレードオフ状態のニーズが同時に満たされたときに生まれるものです。例えば、ユニクロのヒートテックは、寒さを解決したいのと、オシャレしたいという2つがぶつかり合っていた問題を、ヒートテックがあれば寒い日でも薄着で自分のオシャレができる、と解決したわけです。

小西 確かにかけ合わせからアイデアは生まれますもんね。ところでけんすうさんが思っているアイデアの狙い目ってありますか?

けんすう ある分野でイノベーションが今まで起こせなかった理由が「技術」か「法律」のどちらかなら、狙い目だと思っています。ライドシェアが分かりやすいですが、現行の日本の法律ではダメですが、もし解禁されたら絶対に多くの新しいサービスが出てきます。法律の改正や、生成AI などの新しい技術にもチャンスが潜んでいるイメージです。

小西 本当にその通りで、先日、最近まちなかでいっぱい走っているLUUPの創業チームのひとりと話したんですが、あれは法律上絶対に無理だと思われていたものを突破して生まれたビジネスです。「どうやってやったの?」と聞いたら、「地道に潰しました」と。国交省とか警察を説き伏せられるんだと心から感心しました(笑)。

けんすう すごいですよね。でも20代の起業家がそれをできたってことは、他の人でもきっとできるはず。

小西 なにがしかの突破口は必ずあるものなんですよね。壁が立ちはだかっていても、諦めなければ別のルートが見えてくる。最近僕は「なんで小西さんは、ずっとそうやってクリエイティブをやり続けられてるんですか?」って聞かれたんですが、ある意味「サードドアがどこかにある」と強く信じてるからなのかもしれません。

 正攻法でやるとすごくお金がかかるし想定内の結果だというものを前に、クリエイティブの力で風穴をあけられて、「これで一挙に解決できるじゃん」というアイデアを一生懸命探し続けてきたように思います。今日は自分の仕事を総括して見つめ直す機会にもなり、すごく刺激的でした。ありがとうございました!

けんすう こちらこそありがとうございました!

(六本木蔦屋書店にて)

小西利行(こにし・としゆき) 
POOLinc.Founder、コピーライター、クリエイティブ・ディレクター。博報堂を経て、2006年POOLinc.設立。言葉とデザインでビジョンを生み、斬新なストーリーで世の中にムーブメントをつくり出している。主な仕事に「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」「PlayStation」「モノより思い出。」などの1000を超えるCM・広告作品、「伊右衛門」「こくまろカレー」などの商品開発、ハウス「母の日にカレーをつくろう」、スターバックス「47JIMOTOフラペチーノ」など多数のプロモーション企画も担当。著書に『伝わっているか?』『すごいメモ。』『プレゼン思考』『売れ型』などがある。

けんすう(古川健介) 
1981年生まれ。起業家、エンジェル投資家、アル株式会社代表取締役。浪人時代に受験情報掲示板「ミルクカフェ」を開設。在学中に、レンタル掲示板「したらばJBBS」を運用するメディアクリップの社長に就任。同システムは後にライブドア社に売却。新卒でリクルートに入社後、起業してハウツーサイトの「nanapi」をリリースし、2014年にnana     piはKDDIへM&Aされる。翌2015年にKDDI傘下に設立されたSupership社の取締役に就任。2018年にアル株式会社を創業、マンガ情報共有サービス「アル」を手がける。現在、きせかえできるNFT「sloth」、成長するNFT「marimo」などを手がけている。著書に『物語思考』がある。

(小西 利行,けんすう(古川 健介)/ライフスタイル出版)

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