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「支払い能力もなし、地方の吹けば飛ぶような家に…」40人のSNS誹謗中傷犯と戦った弁護士が語る、彼らの“残念過ぎる正体”とは

文春オンライン / 2024年9月13日 11時0分

「支払い能力もなし、地方の吹けば飛ぶような家に…」40人のSNS誹謗中傷犯と戦った弁護士が語る、彼らの“残念過ぎる正体”とは

※写真はイメージ ©NOBU/イメージマート

 近年、芸能人やスポーツ選手などがSNS上で心無い言葉に胸を痛め、自らの命を絶つケースもあるなど、社会問題化している「ネット上の匿名での誹謗中傷」。

 2022年6月には法改正で侮辱罪に新たに「懲役」「禁錮」「罰金」刑が加えられたが、それでもネット上で誹謗中傷をやめない、やめられない人が存在する。匿名で悪口を書き続け、開示請求されるのは一体どのような人物なのか。実際に自身の誹謗中傷に対して、開示請求を行った弁護士に話を聞いた。(取材・文/清談社)

 3年ほど前に悪質な誹謗中傷の被害にあい、情報開示請求をしたという中川充さん(仮名・45歳)。開示請求にいたった経緯を中川さんが説明する。

「私は弁護士の仕事と並行してSNSの発信にも力を入れており、YouTubeやXを積極的に更新しています。仕事柄、メディアに出演することや、著名人との交際もあり、そういった日々の出来事を淡々とSNSに綴っていただけなのですが、いつからか『アンチ』と呼ばれる人たちに執拗に絡まれるようになりました」

 弁護士であると同時にインフルエンサーでもあった中川さん。そのキラキラした生活や活躍が妬みを買ったのか、SNS上で特定の人物に誹謗中傷行為をおこなう「アンチ」は、中川さんのSNSが更新されるたびに、悪意のあるコメントを残すようになった。

「無差別犯行通り魔弁護士」など意味不明な書き込みが…

 中川さんが言葉を続ける。

「突然、名前も顔も見えない、どこの誰かもわからない相手から、見た目のことを揶揄されたり、『無差別犯行通り魔弁護士』など意味不明な書き込みをされるようになって驚きました。なかには『頭おかしい弁護士はころしちゃった方がいい』など脅迫のような中傷もありました。反論しても火に油を注ぐだけで、自分の些細な言動がアンチの中では10倍に拡大解釈され、まるで事実かのように展開されていく。戸惑いましたね」

 こうしたアンチによる悪質な書き込みは日に日に増え、中川さんの個人情報もアンチによって書き込まれるようになった。アンチからの連日にわたる誹謗中傷に耐えかねた中川さんは、自身の誹謗中傷に対して開示請求を行い、身元を突き止めることにした。

「当時はまだ著名人が法的措置を取ることは少なく、私が受けた相談でも『法的措置を取ったら余計に叩かれないか』と不安がる依頼者も複数人いました。だからまずは私が率先して、誹謗中傷に関する裁判を起こすことにしました。自分が被害者になったことで、卑劣な誹謗中傷に苦しむ人を救いたいと改めて思ったんです」(同前)

 弁護士である自分が裁判をすれば、情報開示請求の認知度は上がり、裁判へのハードルも下がる。そうすれば、誹謗中傷に悩む人を少しでも減らせるはず……。

 そう考えた中川さんは、執拗な誹謗中傷行為をおこなう数名のアカウントをピックアップして開示請求を行うことにした。

「もちろん、第一の目的はあくまでも僕自身の被害回復です。僕自身、非常に傷つきましたから。ただの弁護士である自分に粘着し、あらゆることに文句をつけてくる匿名アカウントの中身が、どんな人物なのか興味もありました」(同前)

「依頼の相場は50~100万円。取り返せる金額は…」

 アンチのほとんどは裁判所から書類が届いた瞬間に平謝りしたが、中には「何が悪いんだ」と開き直る人もいたという。

 それでも中川さんは、粘り強くアンチの身元をひとりひとり突き止めていった。次第に、中川さんのもとには情報開示請求に関する裁判の依頼も増えた。

 しかし侮辱罪が法改正で厳罰化されたとはいえ、まだまだ匿名の相手を特定して法的措置を取るにはハードルがあり、コストの問題が足を引っ張ることもあるという。

「たとえばXで特定アカウントから誹謗中傷を受け、そのアカウントの利用者を特定するために弁護士に依頼すると、費用の相場は、50~100万円程度になります。しかし、実際に相手を特定して損害賠償請求をしたところで、20万円程度しか取り返せないことがほとんどです。書き込みの内容が酷い場合には賠償金が100万円を超えることもありますし、僕が扱った案件で150万円を回収したケースもあります。とはいえ赤字となることが多いとなると、開示請求に関する裁判はある程度経済力がある人でないと難しいのが現状でしょう」(前出・中川さん)

 また開示請求には最短で1カ月、長くて1年半と膨大な時間も要する。時間も金もかかる、となれば多くの人が二の足を踏むのも当然だ。

 これでは本来救うべき人が救えないと感じた中川さんは、誹謗中傷で悩む人の実態を探るために「無料で誹謗中傷の法的措置をします」とXに投稿。すると、ものすごい反響があったという。

「無料で誹謗中傷に法的措置」に1300人以上から依頼が殺到し…

「2週間弱でなんと1300人以上から相談のDMが届きました。費用面で躊躇しているだけで、やはり誹謗中傷に悩む人というのは多くいるんだと再認識しました」(前出・中川さん)

 殺到したメッセージの中から、中川さんは40人の依頼を無料で引き受けたという。40人の依頼はそれぞれ異なる結末を迎えたと中川さんは話す。

「掲示板に通知をして投稿を削除させたものや、相手を特定して損害賠償請求したもの、刑事告訴をして有罪判決まで持ち込んだものまで、いろいろな案件がありました」

 中川さんは自身や著名人の開示請求、またX経由での相談など、多くの開示請求に関する裁判を通して、中川さんは「誹謗中傷をしていた相手」と対峙してきた。中川さんが実際に目撃した、開示請求されるほどの悪質な書き込みを行う人は、一体どのような人物なのか。

 「正しいことを言っただけ」と開き直って非を認めない人も

「開示請求で特定した相手に共通するのは、『本人が悪いことをしたと理解できない』、罪の意識の薄さです。『自分は正義のためにやっているのに何が悪いんだ』とすら思っている。こういう相手は開示請求で特定されて、ようやく焦って謝罪に努める場合と、『正しいことを言っただけ』と開き直って非を認めないパターンに分かれます。また損害賠償の請求をしても支払い能力がなかったり、本人が逃げ隠れして家族に謝罪させるケースもありました」(同前)

 なかには開示請求で特定した相手の悲惨な生活を見て、依頼者自身が絶句してしまうこともあったという。

「酷い中傷を受けていた依頼者がいたのですが、開示請求で相手を特定したら、地方で本当に貧しい生活をしていることがわかったんです。それを見て依頼者が同情して、『お相手があまりに可哀想なので依頼は取り下げます』と案件が中断したことがありました」(同前)

開示請求を宣言すると、続々と謝罪連絡が…

 とはいえ相手に同情する必要はなく、誹謗中傷には毅然と対応することが大事だと中川さんは言う。

「実はSNSで大々的に開示請求をしていくと宣言したら、向こうから名乗り出て謝罪してくれることが増えたんです。法的措置を取った件数以上の人から謝罪連絡があり、和解交渉で賠償金もかなり回収できました。家族にバレる、裁判に巻き込まれるとなれば、途端に勢いもなくなります。いま誹謗中傷に悩んでいる人は、開示請求を宣言して、実際に何件か裁判してみると効果がありますよ」(同前)

 誹謗中傷をやめられない人たちの正体は、自身が糾弾されることに耐えられない人たちだったのだ。

(清談社)

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