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慶應→トヨタ陸上部マネージャー 異色の経歴を持つ学連ランナー・貝川裕亮「僕たちの箱根にも、こんな未来があったんじゃないか」

文春オンライン / 2024年8月30日 6時0分

慶應→トヨタ陸上部マネージャー 異色の経歴を持つ学連ランナー・貝川裕亮「僕たちの箱根にも、こんな未来があったんじゃないか」

 2024年のニューイヤー駅伝優勝、駒沢大OB・鈴木芽吹や中央大OB・吉居大和ら今年の箱根駅伝でのスター選手も擁する強豪「トヨタ自動車」陸上長距離部。慶應大学4年生、第99回大会で学生連合に選ばれ、10区を走った貝川裕亮さんは、2023年に同社に入社し、マネージャーを務めている。

 学生連合を経験し、現在はスター集団に身を置く彼は、『 俺たちの箱根駅伝 』に何を見、箱根駅伝をどう総括するのか――。

◆ ◆ ◆

――貝川さんは『俺たちの箱根駅伝』著者の池井戸潤さんと同じ、岐阜県八百津町のご出身。発売当初から本書を手に取り、SNSでアツいメッセージを送ってくださいました。

貝川 同郷、しかも同じ慶應大学の出身ということもあり、池井戸さんのことは以前から地元のスターということで尊敬の対象でした。そんな池井戸さんが、箱根駅伝のことを書かれたと知り、調べるとなんと僕も経験した「学生連合」のことが書いてあるらしい! なんて嬉しいことだ、とすぐに手に取りました。

 大学生の頃ならいざ知らず、2023年から社会人になってなかなか読書をする時間を取れていなかったのですが、今作は上下巻をすぐに読み切りました。

――貝川さんは岐阜県・美濃加茂高校のご出身ですね。高校の頃から陸上競技に打ち込んでいらっしゃったそうですが、進路はどのように決めたのですか?

貝川 陸上を始めたのは小学生のときでした。以来ずっと陸上を続けてきて、「いつかは箱根駅伝に出たい」という気持ちはずっとありました。でもいざ進学を決めるとき、強豪校に入って、太刀打ちできるのかなっていう少し怖い気持ちもありました。そんなとき、慶應の「箱根駅伝プロジェクト」を知ったんです。競走部コーチにお会いして、「慶應は20年以上本選に出場できていない。でもいま、本気で箱根を目指している」という話を聞いて、ビビッと来たんです。

 実は高校のチームも、かつては強豪ではなかったところを「全国駅伝に出る」ことを目標に強くなっていったチームでした。高校の恩師の熱い気持ちに共鳴して3年間走り切ったので、そういう「これから上がっていくチーム」に対する共感もありました。

 ちょっとカッコつけた言い方になってしまいますが、常勝チームにいたら、「自分自身の力でここにいる」感覚が持てないのかな、ということも頭に過りました。チームの流れの中で出場するのではなく、自分自身の力で、チームを箱根に連れていくことに憧れて。

 ただ、慶應にはスポーツ推薦の制度がないので、自力で入学しないといけない。難関校を目指す特進クラスにいたこともあり、一般入試かAOか迷いましたが、AO入試で入学しました。

――今年も慶應は「慶應箱根駅伝プロジェクト」を行っており、クラウドファンディングでは900万円以上を集めるなど、駅伝強化への本気度が窺えます。ただ残念ながら貝川さんの選手としてのラストイヤー、99回大会では予選敗退、貝川さんは学生連合への招集がかかりました。

貝川 はい。1年生の頃から本気で箱根本選を目指してたので、4年生の予選会――ショックすぎて正確な順位も分からないのですが――で、ダメだったときは本当にへこみました。メンバーも良かったし、自分の走りも100%の実力を出せたのに、「このチームで箱根いけないんだ」と思うと本当に悔しくて……これまでで一番悔しかった瞬間でした。

 その後、学生連合で選ばれることに。僕のタイムはメンバーの中で、11番目。僕のときはコロナ禍で学校を越えた練習ができず、上から10人が走ると言われました。合同練習が出来ないので、予選会以後の練習は各自大学駅伝部で、その後の伸びや調子なども見られない。希望区間は伝えましたが、そこからどれだけ練習をしたとしても僕は11番目で、走れないんだろうな、という気持ちのまま、12月を迎えることになりました。

 大学のコーチは「怪我も出るかもしれないし、本選を走る気持ちで練習を続けなさい」と言ってくれましたが、それも慰めにしか聞こえず、どうやって一人でモチベーションを保てばいいのか、走る意義を見失ってしまったときもありました。そろそろオーダーが決まるという時期になっても連絡がなかったので、やっぱりダメかと思うとメンタルも落ちてしまい、練習でも大幅にタイムが下がったり……。でもコーチが、一度ちゃんと話してくれて、そこから立ち直ってまたモチベーションが湧いてきたころに、怪我をした人が出て、希望の10区で走れることになったんです。

――学生連合は「オープン参加」という立ち位置で、正式なタイムは記録に残らず、順位もつきません。『俺たちの箱根駅伝』では、そうした境遇の中で「なぜ走るのか」「なぜ努力するのか」が問われますが、実際に走ってみた貝川さんの体感はどうでしたか?

貝川 僕も本選前、走ることへのモチベーションを失ってしまった時期もあるので、すごく共感できました。

 1回だけ顔合わせをして、2度目に会うのが本選当日、というくらいの距離感だったのですが、1区で飛び出して独走状態になったチームメイト(育英大・新田颯)がいたり、思っていた以上にチームとしての結束感を感じることが出来たのも印象的でした。学生連合は「寄せ集め」と言われますが、そうではなく、選手一人ひとりにチームがあって、その思いを背負っているんだなと。

 しかも学生連合は、選手一人ひとりの思いを背負ったチームであると同時に、予選会で負けていったすべての敗者たちの代表でもあるんです。そのことを、『俺たちの箱根駅伝』を読んで改めて感じましたし、学生連合は最下位の常連のような見方をされていますが、ここにあったようなやり方をすれば、もっと上へ行けたんじゃないか――どうせオープン参加だからという気持ちではなく、一人の箱根駅伝を走る選手として戦い、勝ちにいく戦い方もできたんじゃないか、自分がもしそのチームにいたらついていけたか――とか、ありえたかもしれない学生連合のことを考えたりもしました。

――貝川さんが走った10区は慶應大学のキャンパスの近くを通るルート。チームメイトやOBの皆さんも喜ばれたんじゃないでしょうか?

貝川 はい。高校のときの恩師や両親、大学のチームメイトも応援に来てくださいました。箱根駅伝っていただく応援の量が桁違いで、すごく熱気があるんですけど、そんな中でも不思議と、知っている顔は走りながらぱっと目に入るし、声も聞こえるんです。

 僕自身、慶應から学生連合に選ばれた先輩のレースを見に行ってやる気をもらったように、後輩たちがまた本気で箱根駅伝を目指すモチベーションになれたらいいなと思いながら走りました。

――2023年、トヨタ自動車に入社し、陸上長距離部のマネージャーに。2024年のニューイヤー駅伝では優勝されましたね。

貝川 マネージャーとしてはまだまだ新米で、今年の優勝には何も貢献できていない……という気持ちです。選手時代、主務の方々にはお世話になったと思っている反面、実際にどういった活動をされていたのか、よく知らなかったんです。いまは一から勉強して、「気遣い」が出来る人間になろうと奮闘中です(笑)。

――これまでのご経歴とは違う、いわゆる「常勝集団」「スター軍団」の中に入られて、中から見ると景色に違いはありましたか?

貝川 最初、僕はすごく浮いちゃうんじゃないかと思ったんです。「勝つのが当たり前」という期待をかけられるチームってどんなんだろう、という興味もありました。

 実際に入って気づいたのは、彼らもまた、同じように挑戦し続けている人たちなんだということです。勝ち続けるって簡単じゃなくて、驕らず、満足せず、常に挑戦して、次へ次へと動き続けている。

 それを見ていると、チームのレベルというのは関係ないんだなと思います。同じ人間というか、同じ一人の選手なんだな、と。チームの意識とかは変えられる要素だと思うし、だとしたら、慶應や常連じゃない大学にも、やっぱりチャンスは等しくあるんだなって。

 大学時代と違って、実業団では選手たちの目標も多様になります。世界を目指す人、マラソンを頑張りたい人……その中で、ニューイヤー駅伝は一つの区切りとして、チームの目標になっています。

 僕自身、駅伝が大好きなんですよね。トラックレースと違って、当日の道や天候に何が起こるか分からなかったり、走るのは一人なのに、チームの雰囲気やレースの「流れ」もすごい影響力を持ちます。そういう不確定な要素がある中でタスキをつないでいくのは、やっぱり見ているのも面白いですし、チームスポーツとしてのドラマも感じます。

 だから大学まででやめようと思っていた、陸上競技にいまも関わることが出来てとても嬉しいですし、これまでの縁にも感謝しています。母校の慶應大学、今年のチームはすごくいいんですよ! 2025年の箱根駅伝、ぜひ見ていてもらいたいです。

――10月の予選会が楽しみです。

(貝川 裕亮)

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