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「たった1日で自然なヒゲ脱毛」「眉毛は1/4」「爪に年輪」「髪は…」抗がん剤治療の〈外見の変化〉を医療ジャーナリストが赤裸々告白

文春オンライン / 2024年9月1日 6時0分

「たった1日で自然なヒゲ脱毛」「眉毛は1/4」「爪に年輪」「髪は…」抗がん剤治療の〈外見の変化〉を医療ジャーナリストが赤裸々告白

抗がん剤治療を受ける前の長田昭二氏 ©文藝春秋

ステージ4のがん患者となったベテラン医療ジャーナリストが読者に伝えたいこととは――。前立腺がんの治療を続けながら執筆を続ける長田昭二氏(59)は、がん治療の過程でさまざまな身体上の変化を覚えてきた。たとえば、爪や毛などはどのように変化したのか。その内実を解説する。

◆◆◆

爪に“年輪”のような縞模様が

 長く続いたわががん治療も、いよいよ最終盤に差し掛かったことになるわけで、込み上げてくる感慨のようなものがあるかな……とも思うのだが、特にない。というのも、置かれた状況が深刻なわりに体は元気で、こうして普通に仕事もしているし、誘われればホイホイ飲みにも出かける。以前に比べれば酒の量も食べる量も格段に落ちてしまったが、事情を知らない人が僕の飲み食いするところを見て

「あなた、がん患者ですね!」

 と言い当てることはないだろう。

 早い話が「元気」なのだ。

 ただ、体にはいろいろな変化が生じている。特にドセタキセルの投与が始まってからは、身体上の変化は著しい。

 これまでも書いてきた通り、幸いにも「吐き気」や「嘔吐」などの消化器症状を伴う副作用は最小限で済んでいる。2度ほど「激烈なめまい」を経験したが、これも最近は起きていない。

 目立たないところでは、「爪」に異変が生じている。手の指の爪に“年輪”のような縞模様ができているのだ。これは抗がん剤の影響で、爪母(爪の根元にある爪を作り出す組織)がダメージを受けることで起きる現象。抗がん剤を投与した時にダメージを受け、その時だけ爪が白くなる。その後また正常な爪を作っていくので、結果として爪に「白い縞模様」ができていくのだ。

 僕の場合は見た目に縞模様ができただけで、剥がれたり割れたりという症状はないので助かっているが、長期間の抗がん剤治療で爪がボロボロになったり、根元から剥がれ落ちてしまう人もいるという。

「元カツラ」と思われるのも……

 頭髪については、脱毛に備えて短くしてしまったので分かりにくいが、髪の毛の量は大幅に減っている。スキンヘッドにこそならなかったものの、このまま髪を伸ばしていたら「落ち武者」になるのは明らかなので、いましばらく短髪にしておこうと思う。

 困るのは、久しぶりに会う人で、しかも僕ががん治療を受けていることを知らない人だ。「医療ジャーナリスト」として取材活動をしている僕は、毎日のように医師に会って話を聞いているのだが、その窓口となるのは病院や大学の広報担当者。久しぶりに会う以上「少し老けたわね」と思われるくらいならいいのだが、僕の見た目の激変ぶりは確実に先方を驚かせる。頭髪のことはもちろん、ホルモン治療の影響もあって顔と体が浮腫んで(太って)しまっている。どう見ても

「お元気そうで」

 と声をかけることが憚られる変化なのだ。

 中でも頭髪については、「薄くなった」と思わずに、

「あら、この人カツラだったのかしら。何かの事情があって外したのね。まあ、どうしましょう……」

 といった表情で困惑している人もいる(僕が勝手にそう思っているだけなのだが)。こうなると、どう声をかけていいやら困るのだ。冗談が言い合える間柄の人ならまだしも、単に取材の段取りをしてもらうだけの人に、

「いやあ、じつは僕、前立腺がんでしてね。抗がん剤で髪が抜けちゃったんですよ、エヘヘ……」

 と釈明するのも面倒だし、ミジメだ。だからと言って「元カツラ」と思われるのも、それが真実ではないだけに心外だし、やはりミジメだ。化学療法とホルモン治療による容姿の変化は、患者に何かとミジメな思いを強いるのだ(個人の見解です)。

たった1日で「自然なひげ脱毛」

 ただ、それでも頭髪が薄くなることは、僕が覚悟さえ決めれば「年齢的に仕方ないこと」と開き直ることができる。

 ところが最近困ったことに、顔からどんどん毛が抜け始めているのだ。

 まず、「ひげ」が抜け落ちた。

 化学療法開始に備えて頭髪を短くした際、「髪を短くする代わりに、少しだけひげを伸ばしてバランスを取ろう」とトンチンカンなことを考えた僕は、「無精ひげ」を蓄えていたのだ。元々ひげが濃いほうではなかったので、この無精ひげについては気付く人もいれば気付かない人もいた。僕としてもこれをもってワイルドさを演出しようなどと考えたわけではなかったのだが、3月上旬のある日、何気なく頬のあたりを触ったら、それまでの「チクチク感」がまるで無く、「ツルン」と滑ってしまったのだ。不思議に思って鏡を見たら、口の両端の上の一部にわずか数本ずつのひげが残っている以外、口回りも頬もあごも、ひげというひげが抜け落ちていたのだ。

 前日には確かに生えていたはずなので、たった1日で「自然なひげ脱毛」が実現したわけだ。生き残った口の両端の上のひげも、伸ばしておいたところでインチキ中国手品師のようになるだけなので、躊躇なく剃り落とした。剃る前に引っ張ってみたら、痛くて簡単には抜けそうもなかった。どうやらこの狭い範囲の毛根だけは、奇跡的にドセタキセルの副作用から逃れられたようだ。せっかく逃れられたのに剃ってしまって、ちょっと可哀そうなことしたかな……。

 それより驚くことが起きた。その時しげしげと鏡を見ていて気付いたのだが、僕の自慢の眉毛が、本来の量の4分の1程度に減っていたのだ。このままではいずれ不毛地帯になるのは明らかだ。

 恥ずかしい話だが、僕は生まれてから58年と8カ月、自分の眉毛について思考を巡らせたことが、ただの一度もなかった。僕の眉毛は、僕という人間の顔に生えてしまったばかりに、58年と8カ月にわたって何の養生もされることなく、放置され続けてきたのだ。

「先にひげが抜けて、あとから眉毛とまつ毛が」

 気の毒な眉毛たち……。同じ毛髪なのに、髪の毛は毎月床屋さんによって長さを整えてもらうばかりか、以前は白髪染めなどを用いたカラーリングをされるなど、深い寵愛を受けてきたのだ。洗浄に当たっても専用のシャンプーやトリートメントなどを巧みに使い分け、洗髪後はドライヤーなる、これまた専用の家電用品で乾燥してもらったりしていた。

 対して眉毛はどうか。顔と一緒に洗顔せっけんでごしごし洗われるだけで、トリートメントやドライヤーの儀は割愛され、顔と一緒にタオルでごしごし拭かれておしまい。最近は年のせいで1本だけ「ぴょーん」と伸びる眉毛も散見されるようになり、「ああ面倒くせえ」などと悪態をつかれたうえで、ハサミでちょん切られる程度の存在。眉毛の不憫を思うと涙が出る。

 今回眉毛が無くなりかけて初めて、自分の容貌がこうもメリハリのない茫洋としたものであったか……と、眉毛の有難味に気付き、これまでの不義理を深く詫びるのだった。

長田昭二氏の本記事全文は、「 文藝春秋 電子版 」に掲載されています。

 

■連載「 僕の前立腺がんレポート 」
第1回「 医療ジャーナリストのがん闘病記 」
第2回「 がん転移を告知されて一番大変なのは『誰に伝え、誰に隠すか』だった 」
第3回「 抗がん剤を『休薬』したら筆者の身体に何が起きたか? 」
第4回「 “がん抑制遺伝子”が欠損したレアケースと判明…『転院』『治験』を受け入れるべきなのか 」
第5回「 抗がん剤は『演奏会が終るまで待ってほしい』 全身の骨に多発転移しても担当医に懇願した理由 」
第6回「 ホルモン治療の副作用で変化した「腋毛・乳房・陰部」のリアル 」
第7回「 恐い。吐き気は嫌だ……いよいよ始まった抗がん剤の『想定外の驚き』 」
第8回「 痛くも熱くもない〈放射線治療〉のリアル 照射台には僕の体の形に合わせて… 」

第9回「 手術、抗がん剤、放射線治療で年間医療費114万2725円! その結果、腫瘍マーカーは好転した 」

第10回「 『薬が効かなくなってきたようです』その結果は香港帰りの僕を想像以上に落胆させた 」

第11回「 『ひげが抜け、あとから眉毛とまつ毛が…』抗がん剤で失っていく“顔の毛”をどう補うか 」

第12回「 『僕にとって最後の薬』抗がん剤カバジタキセルが品不足! 製造元を直撃すると…… 」

第13回「 『体が鉛のように重くなる』がん患者の“だるさ”は、なぜ他人に伝わらないか? 」

第14回「 がん細胞を“敵”として駆逐するか、“共存”を目指すべきか?〈化学療法、放射線治療、仕事…日常のリアル〉 」

第15回「 ステージ4の医療ジャーナリストが『在宅緩和ケア』取材で“深く安堵”した理由 」

(長田 昭二/文藝春秋 電子版オリジナル)

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