1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

15歳で施設に入れられ、18歳で少年院行き…少年時代からヤンチャすぎた“伝説のヤクザ”安藤昇が、特攻隊員として迎えた“終戦の瞬間”

文春オンライン / 2024年9月7日 17時0分

15歳で施設に入れられ、18歳で少年院行き…少年時代からヤンチャすぎた“伝説のヤクザ”安藤昇が、特攻隊員として迎えた“終戦の瞬間”

昭和のヤクザ史に名を刻んだ“カリスマヤクザ”安藤昇 ©文藝春秋

〈 「この野郎、やりやがったな!」決闘中にナイフで顔面を切られ大量出血…“伝説のヤクザ”安藤昇がカタギに戻れなくなった日 〉から続く

 昭和のヤクザ史に名を刻んだ“カリスマヤクザ”安藤昇。「安藤組」を立ち上げて昭和の裏社会と表社会を自由に行き来し、数々の伝説を残した。安藤組解散後は俳優に転身し、映画スターとして活躍。そんな安藤昇の一生を記した作家・大下英治氏の著書『 安藤昇 侠気と弾丸の全生涯 』(宝島SUGOI文庫)より一部を抜粋し、安藤が特攻隊に所属していたときのエピソードを紹介する。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)

◆◆◆

特攻に志願した安藤

 昭和20年6月、安藤昇は、その期の第1回特攻に志願した。

 15歳で感化院(編注:非行少年や非行少女の保護・教化の目的で設けられた施設)に入れられ、18歳で少年院に収監されるなど荒れた少年時代を送っていたが、予科練の試験に合格し、恩赦で退院。三重海軍航空隊に入隊後、海軍飛行予科練習生へ配属。特攻志願に合格し、いよいよ実戦部隊として横須賀久里浜(よこすかくりはま)の秘109部隊に配属された。別名『伏龍(ふくりゅう)隊』とも言った。

 安藤ら隊員にも、この部隊がどのような性質のものか、どのような兵器をもって敵に当たるのか、まったく知らされなかった。

 ただはっきりしているのは、確実に死が近づいてきていることであった。安藤は、しかし、信じきっていた。

〈日本は、かならず勝つ〉

 自分は、その前に散華(さんげ)し、勝利の日をこの眼で見ることはできない。が、靖国神社に奉られ、靖国の森で、生き残った母や父たちから、勝利の日の報(しら)せを受けることがかならずできる。

『伏龍隊』の意味

 やがて訓練に入り、『伏龍隊』の意味が理解できた。

 安藤は、潜水服に潜水帽をかむり、波打ち際に潜った。竹竿の先に爆雷をつけ、上陸してくる敵の船艇を待った。

 船艇が近づいてくると、下から竹竿を突き上げ、爆破させる。もちろん、自分も死ぬが、船艇に乗っている敵兵100人も死ぬ。1人で、武装した敵兵100人が殺せる。

 もっとも、すでに特攻機すらほとんどなくなっているこの時期、このような原始的な特攻法しか残されていなかった。

 つまり、安藤たち隊員が海に伏せた龍というわけである。

命がけの訓練

 安藤たちは、特別訓練に入った。横須賀久里浜の砂浜の松原に建てられたバラック建ての兵舎に閉じ込められての訓練であった。

 秘密漏洩(ひみつろうえい)を恐れ、一歩の外出も許されなかった。

 潜水帽に潜水服というまるでロボットのような姿をした安藤らの群れは、いっせいに海の底に身を沈めた。命がけの訓練であった。

 訓練が終わっても、海から上がって来ない仲間もいた。

 潜水帽内の酸素を、鼻から吸い、息を管に吹きつけるように吐く。炭酸ガスとなった吐いた息は、管を伝わって、背中の清浄函に入る。そこで、炭酸ガスは酸素に還元され、ふたたび潜水帽の中に送りこまれる。それを繰り返すことにより、1時間でも潜っていられる。しかし、ひとたびその呼吸法を間違えると、ガス中毒を起こしていい気持ちになり、死んでしまう。

 呼吸法は正確にできても、清浄函を、岩角にぶつけたり、大きな魚に突つかれると、爆発を起こす。清浄函のなかには、苛性(かせい)ソーダが入っている。呼吸をすると熱を持つから、常に海水で冷却していなければ爆発してしまう。そのため、きわめて薄いスズ板でできている。破れて浸水すれば、苛性ソーダが爆発を起こし、顔面火傷(やけど)する。即死である。

 全身焼けただれた無残な姿になって引き上げられる者がいる。

 なかには、海底から、ついに上がって来ない戦友もいた。安藤たちは、そのようなとき、いつまでもいつまでも、静かに凪(な)いでいる海を眺めつづけた。そうしていると、いまにもその戦友が、ポッカリと海坊主のように、丸い潜水帽の頭を浮かせる気がしたのである。

伏龍として働くときがきた

 8月8日の真夜中、安藤らは、バラック建ての兵舎で叩き起こされた。

「敵部隊が、相模湾に現われた!」

 安藤は、窓の外に眼を放った。真っ赤な盆のような月が出ていた。いいようもなく不気味であった。

〈いよいよ、来たか……〉

 熱い興奮をおぼえた。この日のために、特別訓練をつづけてきたのだ。伏龍として働くときがきたのだ。

 特攻命令が出ると、上官が言った。

「おまえたち、いよいよ御国のために生命を捧げるときがきた。両親や兄弟に遺言を書いておけ。みごとに散華したのちには、かならず遺言は届けてやる」

悲愴な顔をして遺言を書き始めた

 まわりでは、悲愴な顔をして遺言を書き始めた。

 安藤も、筆をとった。しかし、くどくどと心境を書く気にはなれなかった。辞世の句を一首だけ書いた。

《国のため捧ぐる命惜しからず空に散らすも海に散らすも》

 人間、一度は死ぬのだ。同じ死ぬなら、そのあたりで野垂れ死にするより、御国のために命を捧げるべきだ、と信じていた。覚悟はできている。

 安藤は、その辞世の句を手箱に入れた。

 浜辺に出て、異様に赤い月明かりの下で、水盃(みずさかずき)を交わした。

 安藤は、ぐいと呑み込みながら思った。

〈19年の短い命だったが、好き放題暴れてきた。それなりに、おもしろい人生だった……〉

 ところが、30分くらいあと、敵が相模湾に上陸してきた、という情報が誤報であったことがわかった。

 安藤は、肩すかしを食った気持ちになり、気抜けした。

 しかし、すぐに思い直した。

〈今回はたまたま誤報だったが、明日にもアメリカ軍は本土に上陸してくるかもしれない〉

部隊の者たちが、下を向き、泣きながらテントに

 8月15日、安藤は、午前中の訓練中、足の異様に長い、大きな蛸(たこ)を捕った。浜辺に上がると、テントの陰に紐を張り、そこに蛸の足をくくりつけ頭を下にしてぶら下げてきた。

 安藤は、テントの下の日陰で、ついうとうととした。いつの間にか寝入ってしまった。

 どのくらい時間が経ったであろうか。顔が焼けつくように暑いので眼を覚ました。あたりが、異様に静かである。聞こえるのは、浜辺に押し寄せる波の音だけであった。

〈おかしいな。みんな訓練しているはずなのに、そろって何処へ行ったんだろう〉

 安藤は、一瞬、夢を見ているのかと思った。が、眼を凝らしてテントのなかを見た。朝の訓練中に捕った大蛸が、紐にぶら下がっている。干されてちょうど食べごろになっていた。夢ではない。

 と、部隊の者たちが、下を向き、泣きながらテントに帰ってくる。安藤は思った。

〈誰か、死んだのかな……〉

「ラジオで陛下直々の放送があり、日本が……」

 安藤は、帰ってきた1人を掴まえて訊いた。

「何があったんだ」

「日本が、負けた」

「負けた?」

 安藤には、日本が敗れたということが、どうしても信じられなかった。いま一度念を押した。

「本当か」

「ああ、先ほどラジオで陛下直々の放送があり、日本が敗れたことを……」

 そういいながら、ふたたびしゃくりあげて泣き始めた。

「アメリカ兵にひと泡吹かせてやろうぜ!」

 そのうち、青年将校が安藤らに呼びかけた。

「おい、われわれは、まだ負けてはいない。天城山(あまぎさん)にこもって、米軍を迎え撃とうではないか!」

 安藤も、このままおめおめと負けを認めるのは癪(しゃく)であった。

「よし、武器を集めよう!」

 隊内にある武器をすべて集めた。手榴弾(しゅりゅうだん)が300発、陸戦隊の突撃用自動小銃200連発5丁、小銃十数丁、それに拳銃が集まった。日本刀は、各自が所有していた。

 安藤ははずんでいた。

「天城山なら、鹿も猪もいる。最後の一兵まで徹底して戦い、アメリカ兵にひと泡吹かせてやろうぜ!」

 ところが、青年将校の決起計画を知った隊長が、止めた。

「おまえらは、畏(おそ)れ多くも、天皇陛下の御心(みこころ)に逆らうのか!」

 陛下を出されては、それ以上逆らえない。天城山作戦は、取り止めになった。

狂ったように飲み、軍歌を歌いつづけた。

 安藤たちは自棄(やけ)になり、持っていた手榴弾の安全ピンを外し、海に投げた。すさまじい音がして、水柱が立った。

 そのあとに、魚がプクプクッと浮いてきた。安藤たちは、その魚を捕り、浜辺で刺身にした。あるだけの酒を持ってきて、酒盛りをした。

 狂ったように飲み、軍歌を歌いつづけた。

 明日から自分たちがどう生きていけばよいのか、安藤にはわからなかった。ただ、日本が敗れてしまったのだという実感が飲むほどに伝わってきた。

着々と進められていた、アメリカの進駐政策

 安藤は、横須賀から藤沢(ふじさわ)近くの新長後(しんちょうご)に帰った。満州から引き揚げていた両親たちは、東京から疎開し、そこに移り住んでいた。

 安藤は、2カ月間、大家から借りた小さな畑でジャガイモを植えたりしてぼんやりと過ごした。

 この間、アメリカの進駐政策は、着々と進められていた。

 8月30日には、連合国軍最高司令官マッカーサーが、厚木飛行場に到着した。マッカーサーは、上着無しのカーキ色の服に、黒眼鏡、大きなコーンパイプを手にし、第一声を発した。

「メルボルンから東京まで、長い道のりだった……」

〈 「あの女いいな」「ホテルで太腿を広げさせておけ!」“最強のヤクザ”が女性を強制ナンパ…安藤組大幹部・花形敬の恐ろしすぎる素顔 〉へ続く

(大下 英治/Webオリジナル(外部転載))

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください