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ガソリンスタンドで撮影した恐怖の写真、手足を縛られて宙吊りに…トランプ元大統領を連想させる“アメリカ映画”は、現実になるのか

文春オンライン / 2024年9月28日 6時0分

ガソリンスタンドで撮影した恐怖の写真、手足を縛られて宙吊りに…トランプ元大統領を連想させる“アメリカ映画”は、現実になるのか

「歴戦の戦場カメラマンであるリー・スミス(キルステン・ダンスト)」 ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY.All Rights Reserved.

 近未来のディストピアを描いたロードムービーである『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、アメリカ大統領選挙の投票日を1カ月後に控えた今、必見の映画である。

 アメリカ国内に渦巻く分断と憎悪を描いたこの映画は、現実とフィクションの皮膜の間に位置する。果たして、監督のアレックス・ガーランドが映画で描くようなアメリカの内戦は、現実の世界で起こり得るのか。

舞台は内戦が勃発したアメリカ

 映画は、大統領(ニック・オファーマン)がホワイトハウスから「われわれは歴史的な勝利に近づいている」という演説を練習する場面から始まる。戦う相手は、反旗を翻すカリフォルニア州とテキサス州を中軸とした西部連合軍。大統領の強気の演説とは裏腹に、連合軍の包囲網は徐々に狭まり、大統領はホワイトハウスに立てこもっている状態だ。

 ニューヨークでは、人々が飲料水の配給を待って長い列を作る。そこで自爆テロが起き、ベテランの戦争カメラマンのリー・スミス(キルステン・ダンスト)は、若手カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)を助ける。

 自爆テロによる派手な爆破シーンは、映画が多くの弾薬を使って、交戦を繰り広げる序曲となっている。この映画は、アメリカの内戦を縦軸として、横軸にはリーとジェシーの師弟関係を据える。

記者とカメラマンの一行は陸路でワシントンDCへ

 自爆テロが起きた夜、リーはホテルのテレビに映る大統領の顔にカメラを向ける。これまでアメリカ国外の戦争や内戦の写真を撮ってきた。何年にもわたって、戦場の写真をアメリカに送ってきたのは、そうした悲惨な現実からアメリカ自身が学び取り、国内を戦場にしてほしくない、という思いからだった。

 しかし、アメリカの内戦を目の前にした今、そうした思いはアメリカには届いていなかったのではないか、と疑問を抱き始める。今までの仕事の意味を自問自答するようになる。

 そんな中、リーと記者仲間のジョエル(ワグネル・モウラ)は、1年以上も取材を受けていない大統領の単独取材を取るため1000キロ以上離れた首都ワシントンDCに陸路で向かうことを決意する。

トランプを連想させながらも断定させないエンタメ作品

 大統領は憲法を変え3選を果たし(アメリカの大統領の任期は2期8年までと憲法で決まっている)、FBI(米連邦捜査局)を解体し、国民に空爆を仕掛ける独裁者として描かれる。その独裁ぶりは、カダフィーやムソリーニ、チャウシェスクにたとえられる。

 アメリカで独裁色が強い大統領といえば、真っ先にドナルド・トランプを連想するだろう。実際、トランプは自らが独裁者となることや、3期目の大統領職に言及したこともある。大統領は憲法に縛られない特権を持つべきだ、というのもトランプの持論である。

 しかし、映画はその物語と現実の世界の間に余白を残し、観る者の断定を拒む。余白の中軸となるのは、カリフォルニア州とテキサス州の西部連合という構図。カリフォルニアはリベラルな気風が強く民主党の牙城であり、一方で、テキサスは保守的な風土で知られ共和党の地盤。実際には手を組むことのない2州に西部連合を作らせるのは、観ている側に想像の余地を与え、映画をエンターテイメントとして楽しめるようにするためだ。

ガソリンスタンドで撮影した恐怖の写真

 ワシントンDCに向かうフォードの大型の四輪駆動に乗り込んだのは、先の3人に加え、リーの師匠であるベテラン記者のサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)の4人。

 戦場と化した道中では、民兵が守るガソリンスタンドや、真夏にもかかわらずクリスマス装飾があふれる郊外の街での銃撃戦、内戦から忘れ去られたようなダウンタウンなどシュールで独特の世界が次々と現れる。

 印象的だったのが、民兵3人に守られたガソリンスタンドで、ガソリンを入れようとすると、断られる場面。「300ドル払うのでどうか」と問えば、「それじゃぁ、サンドウィッチがせいぜいだな」と返される。「じゃあ、カナダドルで300ドルでは」と交渉すると、ようやくガソリンを手に入れることができる。 

 世界一強い通貨である米ドルが、カナダドルに負けるというのは長引く内戦の影響で、国が疲弊し、経済が混乱し、通貨も暴落していることが端的に表れている。

 スタンド近くの納屋では、2人の男性が手足を縛られて宙吊りにされている。半殺しの男達を目の前にしたジェシーは、恐怖のあまり凍りつき足がすくむ。しかし、リーは、ライフルを持った男を宙吊りになった2人の間に立たせ、その姿を写真に収める。緊張が解けたジェシーは、次こそは自分が写真を撮る、と決意する。

「お前たちは、どの種類のアメリカ人なんだ?」

 内戦が始まった契機や理由について、映画は多くを語らない。ただ、白人至上主義が関わっているのかと連想させる場面がある。

 白人のジェシー・プレモンスが演じるライフルを抱えた無慈悲な民兵を前に、ジャーナリストの一団が命乞いをする。

「俺達は、みんな同じアメリカ人じゃないか」という言葉に、

「お前たちは、どの種類のアメリカ人なんだ?」と冷笑を浮かべて民兵が問う。

 1人ずつ出身地を答えていく。「フロリダ」、「ミズーリ」、「コロラド」まではよかったが、次の答えでライフルが火を吹く。移民労働者を毛嫌いするトランプ支持者が、二重写しとなる。

 この民兵と出会った場所が、バージニア州のシャーロッツビルであることも暗示的だ。アメリカで、シャーロッツビルといえば、数年前に起こったKKK(クー・クラックス・クラン)などからなる白人至上主義者による威嚇行動の場所として記憶に残る。

 それに抗議するデモ隊に向けて、白人至上主義者が、車で突っ込み、死者を出す事件を起こしている。事件直後、トランプが白人至上主義者たちを非難しなかったことは、アメリカの人の記憶に生々しく残っている。

ジャーナリストのルーキーが成長するロードムービー

 激しい内戦を目の前にして写真を撮ることに疑問を感じ始めたリーに代わって、果敢にシャッターを切るのはジェシーだ。先輩に導かれるように、徐々に戦場カメラマンとして成長していく姿は頼もしい限りだ。旅を続ける間に、登場人物の関係性が変容し、ルーキーが独り立ちしていくのは、ロードムービーの定番の見所だ。

 事実を伝え、権力を監視するジャーナリズムが正しく機能することは、独裁者や暴君が権力をふるうことの抑止力になる。よって、新しいジャーナリストが生まれてくるこの映画は、希望を未来につないでいるとも言えよう。

 戦場で、落穂拾いのように事実を掬い集めるジャーナリストを主役として描いた映画には、カンボジアを舞台とした『キリング・フィールド』や、中米を舞台とした『サルバドル/遥かなる日々』などがある。

 この映画は、絵空事だろうか。

 まったくのフィクションにすぎないのだろうか。

 監督のアレックス・ガーランドが映画の脚本を書き始めたのは、新型コロナが猛威を振るった2020年のこと。

 ガーランドはこう語る。

「私は怒りと不安が入り混じった状態で脚本を書きました。そのフラストレーションは収まるどころか、次第に大きくなっていきました」

筆者自身が出会った「戦場を思わせる場面」

 私自身、同じ2020年から、アメリカ大統領選挙を取材するため、1年間、アメリカに居を移し、車で移動しながら、トランプやトランプ支持者を取材して回った。

 その間、文字通り戦場を思わせる場面に2度、立ち会った。

 最初は、黒人のジョージ・フロイドが、白人警官に絞殺された後にミネソタ州のミネアポリスで起こった暴動。抗議運動が暴徒に変わり、街を焼き尽くした。それに対し、州兵などが動員され、暴動を武力で抑え込もうとした。街の至る所に焼け跡独特の臭気が漂い、夜になると、戦車が街を制圧した。銃声が私の耳元をかすめ飛んでいったこともあった。非日常の瞬間を濃厚に味わった。

 2度目は、5人の死者を出した2021年1月6日の〈連邦議会議事堂襲撃事件〉のこと。あの事件の時、連邦議会議事堂の最も近くで取材していた日本人ジャーナリストは私だった。

 ジョー・バイデンが勝利した選挙結果を確定しようとしていた連邦議会議事堂に暴徒が押し入り、議会を混乱に陥れようと、何千人のトランプ支持者が集まった。

 最初は、不意打ちが功を奏し、暴徒が優位に立ったが、時間とともに、警察や軍隊が態勢を立て直し、暴徒を押し返した。最後は、何発もの催涙弾を暴徒に放ち、蹴散らした。その暴徒の中で、催涙弾を浴びながら取材していたのが私だった。

 アメリカの黒歴史として、記録される連邦議会議事堂襲撃事件はどうして起こったのか。それは、選挙で負けた後でも、不正選挙があったと言い募り、敗北宣言をしなかったトランプのせいだ。

現実のアメリカ政治の世界で

 2024年11月5日、トランプは、3度目の大統領選挙に挑む。相手は、副大統領のカマラ・ハリスだ。

 そのトランプが、演説中に狙撃され、弾丸が右耳を貫通したのは7月のこと。凶弾がほんの数センチずれたことで、トランプは命拾いをした。ボディーガードに抱えられながら、星条旗を背景に右手を高く上げた写真は、早くもピューリッツァー賞の呼び声が高い。

 狙撃直後の世論調査では、アメリカ国民の10%が、トランプが大統領になるのを阻止するために武力行使はやむを得ない、と答えている。また、7%は、トランプを大統領に再選させるためには武力行使は容認される、とする。

 現実のアメリカ政治の世界でも、暴力容認論が幅を利かせている。

 ここで重要なのは、トランプが負けた場合の身の処し方。現状では、カマラ・ハリスが一歩リードで、このまま選挙戦が進めば、トランプが負ける可能性は高い。しかし、いかなる時にも負けを認めてこなかったトランプが、今回だけ、敗北を宣言するとは考えづらい。

 前回同様に、不正選挙を言い募るなら、11月以降のアメリカが、果たして、この映画が描いたような内戦に陥らないと言い切れるだろうか。この映画が描く暗黒の近未来は、もう目の前にまで来ているのかもしれない。

INFORMATIONアイコン

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

10月4日(金)
TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/

(横田 増生)

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