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「挿入されないというだけの理由で…」『南くんの恋人』の作者が「プラトニックな恋?」と聞かれることに“うんざりしていた”理由〈5回目のドラマ化〉

文春オンライン / 2024年9月3日 11時0分

「挿入されないというだけの理由で…」『南くんの恋人』の作者が「プラトニックな恋?」と聞かれることに“うんざりしていた”理由〈5回目のドラマ化〉

テレビ朝日系『南くんが恋人!?』ドラマ公式Xより

 バスケ部のエースだった大学生の南浩之がある日突然、身長15センチのサイズに小さくなってしまい、幼なじみで恋人の高校生・堀切ちよみのもとに駆け込むと、家族にも明かさないまま彼女とこっそり同棲生活を始める――。そんな突飛な設定の青春ドラマ『南くんが恋人!?』がテレビ朝日系で絶賛放送中だ。

 南くんを演じるのはダンス&ボーカルグループのFANTASTICS from EXILE TRIBEの八木勇征(27歳)、ちよみを演じるのはTBSスター育成プロジェクト「私が女優になる日_」で初代グランプリに選ばれた飯沼愛(21歳)である。

内田春菊の『南くんの恋人』が5回目のドラマ化

 今回のドラマは、内田春菊のマンガ 『南くんの恋人』 および『南くんは恋人』を原案にしている。このうち先に発表された『南くんの恋人』はじつに9年ぶり5回目のドラマ化となる。回数でいえば筒井康隆の小説『時をかける少女』と並んだ。いずれもSF的な設定による青春劇で、各時代を代表する若手俳優を起用してドラマ化(『時かけ』の場合は映画化も)されてきた点で共通する。

『南くんの恋人』では、小さくなるのはちよみのほうで、南くんが面倒を見ている。原作者の内田春菊はこのアイデアを、同じくマンガ家の久住昌之(代表作に原作を担当した『孤独のグルメ』など)から「内田さんの描く女の子はプヨプヨしていて柔らかそうだから、女の子が小さくなる話とかもいいかもね」と言われて思いついたという(『ガロ』1994年2月号)。

 内田はこのアイデアによる最初の作品「言いなりになりたい」を1985年、月刊誌『写真時代Jr.』(白夜書房)に発表した。これを短編集『春菊』(青林堂、1985年)に収録すると、読んだ人から「あれ、かわいいですね」と言われ、続きを描こうと思い立つ。こうして翌1986年から「南くんの恋人」と題してマンガ専門誌『ガロ』(青林堂)で8号にわたり連載、好評のうちに1987年には単行本を同じ版元より刊行した。

 ちなみにヒロインの名前「堀切ちよみ」および「ポチャポチャとした感じ」は、80年代のアイドル・堀ちえみから着想したと、『ガロ』前掲号のインタビューで内田自ら明かしている。

 原作の南くんもまたぽっちゃり体型で、メガネをかけたおっとりしたキャラクターとして描かれた。彼は小さくなったちよみのため、ドールハウスらしき家を与え、服を手縫いでつくってやったり、ときには勉強嫌いな彼女に「たまには勉強しろよ」と親みたいに発破をかけたりもする。

「プラトニックな恋?」という質問にうんざりしていた

 そんなふうに彼の献身的なところが目立つせいか、連載中には読者から「これってプラトニックな恋ですよね?」といった質問も受けたらしい。しかし、作者の内田春菊からすれば《連載中私はこの作品を「小美人ポルノ」と呼んでたくらいなのに、ペニスが挿入されないというだけの理由でぬけぬけと「プラトニックな恋」などと言う人たちにもうんざりだった》という(「あとがき '93」、『南くんの恋人』新装改訂版、青林堂、1994年所収)。実際、作中では、南くんがちよみに小さくなる以前からしていたという全身へのキスをするなど、ペッティングを思わせる行為におよぶシーンも出てくる。

 連載から数年後、あるテレビ局からハイビジョンを全編に使った映画化の話を受けたものの、内田がけっきょく断ったのも、局側の担当者が「ちよみは処女じゃないといやだ」と言い出したのが一因だった。

 このとき、TBSとのあいだでも最初のドラマ化の話が進行していたが、その局からは「うちだけに使わせろ」みたいな話になってきて、しかしそこまで言ってきておきながら作品に対する話はまったく出なかった。内田としては、《TBSのほうはその辺はすごく愛情を持ってくれていたんだけれど、でも好きでやってくれるんだったら両方受ければいいか、と思ってた》が、一方の局にはどうしても作品への手応えが感じられず、最終的に断ったという(『ガロ』前掲号)。

逆に男のほうが小さくなったら?

 小さくなった女の子を男の子が面倒を見るという設定のまま、過去に4度ドラマ化されてきた『南くんの恋人』だが、今回の『南くんが恋人!?』では先述のとおり男女の立場を逆転して、旧作を知る世代を驚かせた。ただし、この設定は、このドラマのもうひとつの原案である『南くんは恋人』で、内田春菊自ら『南くんの恋人』をリメイクする際に導入したものである。同作は集英社の少女マンガ誌『Cocohana』で2012年に連載され、翌年に単行本が同社より刊行された(現在はぶんか社より電子書籍版が出ている)。

 じつは、「もし小さくなるのが女ではなく男のほうだったら?」とは、それ以前より『南くんの恋人』がドラマ化されるたび関係者が想像してきたことだ。『南くんの恋人』を1994年と2004年の2度、連続ドラマ化したテレビ朝日のプロデューサーの高橋浩太郎は、《もし男の南くんが小さくなったのなら何とかして元の大きさに戻ろうと、もっとずっとじたばたしてしまう気もする。ちよみの場合、南くんと一緒にいられるのなら、小さいままでも構わないって思っている節があるが、これって女ならではの順応性? あるいは願望? なのかも知れない》と書いている(「解説」、『南くんの恋人』文春文庫、1998年所収)。

「もし自分が小さくなったら?」女性は前向きだが…

 2004年のドラマ化で脚本を担当した中園ミホも、「もし、自分が10分の1サイズになってしまったら、どうするか?」と、ドラマを書き始める前に周囲の人たちに訊いてみたという。すると女性からは「彼の部屋にこっそり潜伏して、ひとりでいるときに何をしているか見たい」「ペットのように世話を焼かれたい」「わがままをいっぱい言って彼を困らせたい」「旦那が自分をどれだけ真剣に探してくれるか見てみたい」など、ハッピーで前向きな意見が圧倒的だった。これに対し男性の答えは「すぐ死にたい」「精神安定剤を山盛り飲むと思う」「そのまま放置して自然死させてほしい」「引きこもりになる」など、どれも悲壮感が漂っていたという。

 中園はさらに男友達のひとりに話を訊くうち、男性が小さくなりたくない理由の核心は「愛し合っている相手とセックスができないこと」にあるのだと気づく。そこで改めて取材し、《愛する人と365日、24時間、いつも一緒にいられて、相手の行動をすべて監視できて、衣食住の世話を焼いてもらえて、お風呂にも入れてもらえる。ただし、セックスはできない。その状況を受け入れられるかどうか?》との質問を人々に投げかけたところ、《女は前向きに「YES♡」/男は死んでも「NO!」》というわかりやすい結果が出た。

 ここから中園は、《つまり、このドラマは女の子が小さくなる話だから成立しているが、男をポッケに入れる『南ちゃんの恋人』だったら、悲惨なコメディにしかならないということ。私はそっちもちょっと見てみたいんだけどな》と、この一件を紹介したエッセイを結んでいる(『25ans』2004年10月号)。

南くんを小さくしてみたら…

 原作者の内田もまた、《昔は自分の家を捨てて嫁いだ先の嫁にならないといけなかったし、女は順応性が高い》のに対し、《男の子はそうではない。身一つで海外に行って働いて来た男がやたら褒められるのは、一般的に男は順応性に欠け、海外が苦手だからではないでしょうか》と書く(「あとがき」、『南くんは恋人』ぶんか社・電子書籍版、2015年所収。この文章自体は2013年に執筆)。それだけに、いざ自らの手で南くんを小さくしてみたら、旧作のちよみが《たまに悩むけど、だいたい能天気に小さい自分を楽しんでいた》ようには行かず、とても困ったという(同上)。たしかに作中の彼は、小さくなった自分をちっとも受け入れようとせず、しょっちゅうわがままを言い、ちよみが自分以外の男とちょっと仲良さそうに見えただけで嫉妬するし、挙げ句の果てに「ちよみはオレのこと小さいからってバカにしてる」とふてくされるのが常であった。

 それとくらべると、今回のドラマで八木勇征が演じる南くんは順応性が高いのか、ちよみに対してかなり従順で、やや物足りなさを覚えないでもない。今後、彼が自分の境遇に不満を爆発させ、ちよみを困らせるという展開もあるのだろうか?

〈 嵐・二宮&深キョンは現場でたわむれ、高橋由美子はノイローゼ気味に…『南くんの恋人』歴代カップルの“違い”は…〈『南くんが恋人!?』が放送中〉 〉へ続く

(近藤 正高)

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