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「ひどすぎる!」と抗議も…『南くんの恋人』“衝撃のラスト”はこれまでどう描かれてきたのか?〈5度目のドラマ化〉

文春オンライン / 2024年9月3日 11時0分

「ひどすぎる!」と抗議も…『南くんの恋人』“衝撃のラスト”はこれまでどう描かれてきたのか?〈5度目のドラマ化〉

2015年放送のドラマ『南くんの恋人~my little lover~』で“4代目ちえみ”となった山本舞香 ©時事通信社

〈 嵐・二宮&深キョンは現場でたわむれ、高橋由美子はノイローゼ気味に…『南くんの恋人』歴代カップルの“違い”は…〈『南くんが恋人!?』が放送中〉 〉から続く

 5度目の実写ドラマ化となる、内田春菊氏原作の『南くんの恋人』。現在放送中の『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)は“男女逆転”版で、主人公のちよみを飯沼愛が、突然小さくなってしまう南くんを八木勇征が演じている。原作で読者に大きな衝撃を与えたラストは、これまでのドラマではどのように扱われてきたのか?(全3回の3回目/ #1 、 #2 を読む)

◇ ◇ ◇

 4回目のドラマ化は2015年、フジテレビの関東ローカルの深夜枠で『南くんの恋人~my little lover~』と題し、南くん(南瞬一)を中川大志(当時17歳)、ちよみを山本舞香(同18歳)が演じた。

 これまでの3作では、ちよみは事故の衝撃で身体が小さくなってしまうが(ただし最初のドラマでは彼女の祖母もかつて小さくなったことがあるという設定だった)、本作では舞台となる地方に伝わる「一寸法師」ならぬ「一寸姫」伝説が、彼女の身に降りかかるという伝奇的な展開を見せる。監督の小中和哉は、『転校生』『時をかける少女』などで知られる映画作家の大林宣彦から大きな影響を受けるとともに、円谷プロの作品を多数手がけてきたせいか、本作にも全編を通してファンタスティックな雰囲気が漂う。

それまでのドラマ版にはなかった設定も

 南くんは原作ともそれまでのドラマ版とも違うクールなキャラクターで、幼なじみでありながらちよみを拒み続ける。だが、じつはそこには彼の複雑な生い立ちが絡んでいた。ちよみもまたほかの作品とは一味違い、ダンス部に所属してダンサーを目指す一方で、ネットの投稿サイトで小説を発表したりと多才ぶりを示す。その小説を読み、彼女に好意を寄せるのが、二人のクラスメイトでフィギュアマニアの高木陸(鈴木身来)だ。陸は南くんを恋敵と見なしながらも、物語後半ではあることをきっかけに彼を応援するようになる。

 そもそもこのときのドラマの原作は『南くんの恋人』とはなっているものの、放送の2年前に単行本が出ていた『南くんは恋人』(詳細は #1 参照)の要素も一部使われている。高木陸のキャラクターも、『南くんは恋人』に登場する居原理久(いるはらりく)という人物が原型だ。

 このときのドラマでも小さくなったちよみのシーンは別撮りとなったが、南くん役の中川の撮影では、ちよみ役の山本も袖から一緒にセリフのやりとりをしたという。中川としては姿も表情も見えない相手との芝居は不安の連続だったようだが、必死で役と向き合っていたせいか《ある日、ちよみの声だけで表情や動きが見えるようになった》という(『POTATO』2015年12月号)。山本もまた《私も、グリーンバックの撮影で、最後のほうで南くんの姿が見えてきたんです》と語り(「クランクイン!」2015年11月7日配信)、そろって俳優としての成長をうかがわせた。

 本作は深夜枠、しかも関東ローカルという制約のなかで、キャスティングなどに工夫が凝らされ、にぎやかな印象を抱かせる。脚本の新井友香も居酒屋の女将役で出演しているほか、終盤で南くんとちよみが旅行で泊まる旅館の女将の親子を、原作者の内田春菊とその次女の紅甘(ぐあま)が演じている。なお、内田は『南くんの恋人』の1990年の最初のドラマ版にも教師役で出演していた。

物議を醸していた原作のラスト

『南くんの恋人』がドラマ化されるたびに毎回、作品の核心としてスタッフが頭をひねってきたのが、そのラストである。何しろ、原作のマンガ 『南くんの恋人』 では、ちよみが南くんと旅行先で車にはねられ、彼女のほうだけ死んでしまい、物議を醸していた。

 この結末は1987年に単行本を出すにあたり、内田がそれまで雑誌に連載してきたエピソードに加え、最終章として描き下ろしたものである。これについて彼女は担当編集者の勧めにより、巻末に釈明の文章も手書きでびっしりしたためている。それによれば、彼女が子供のころによく見たマンガのキャラクターは、年をとったり、死んだりはしなかった。しかし現実には、人も動物も年をとるし、死ぬし、限りあるはかない存在である。それを強調したうえで彼女はこう問いかけた。

《よく考えてみてください。あんな小さい人間が、ながいきするって、へんではありませんか。そう考えていけばさいしょっから「そんなのいるわけないんだから」ということになってしまいますが、私は、かいているとちゅうで、「こういうのがもしいても、長生きできるわけがないから、死ぬのが自然なのでは」という考えになってしまったのでした》

 ちよみは小さくなっても、トイレに行くし、生理もある。内田は、そもそもありえない設定だからこそ、物語に説得力を持たせるべく細部ではリアリズムを貫いたといえる。

 その結末は読者に衝撃を与えた。ノンフィクション作家の関川夏央は、《わたしはこの物語を何度も読んだ。そしてそのたびに最終章に至って泣いた。なぜ死なせなければならないのか、と大の男が泣きながら「女の子の感性」を恨むのであった》と本作の書評で告白している(『知識的大衆諸君、これもマンガだ』文藝春秋、1991年)。内田のもとには「ひどすぎる!」という怒りの手紙がいくつも届き、なかには「もうあの頁はノリで貼り付けてやりたい」というものもあったという。

ちよみを死なせるのはつらく、何度もやめようと思ったが…

 しかし、内田自身も、ちよみを死なせるのはつらく、それを思いついたときから何度もやめようと思ったが、《ちよみがずっと生きつづけてしあわせだけがあるというのは、今の私にとっては噓なの》として、描ききったのだった(「読んでくれたみなさんへ」、『南くんの恋人』青林堂、1987年所収)。その後は悲しみのあまり、単行本のカバーイラストを装幀を担当したイラストレーターの南伸坊から頼まれながら、どうしてもうまく描けず、自身の思いをつづってFAXで送ったところ、南はその意を汲んで代筆してくれたという(「あとがき '93」、『南くんの恋人』新装改訂版、青林堂、1994年所収)。南は掲載誌の『ガロ』の元編集者であり、何かにつけて内田を助けてくれる存在であった。後年、内田は《やっぱりこの南くんは、伸坊さんなんです、私にとって》とも明かしている(「文庫あとがき」、『南くんの恋人』文春文庫、1998年所収)。

ドラマではどう扱われてきたのか

 原作者が苦しみ抜いて描いたラストだけに、ドラマでも扱うのは難問であった。最初の1990年版では、南くんと旅行に出かけたちよみが風船に乗ったところ不意に飛んでいってしまい、それを追いかけた南くんも崖から落ちて大けがを負う。そのあと一瞬、ちよみの死を匂わせる場面があるものの、ラストでは彼女が無事に帰ってきてハッピーエンドとなっていた。

 続く1994年版では原作にほぼ沿って、ちよみが南くんと修学旅行で行った長崎のハウステンボスを二人きりで再訪し、存分に楽しんだあとで急に死んでしまう。本作のちよみは第1話で交通事故に遭ったはずみで小さくなったが、実際にはすでに死んでいたという設定で、最終話で思いを遂げたことから姿を消したのである。

「何で殺したんだ!」という抗議の手紙も

 脚本の岡田惠和もさすがに書く段になって悩んだという。放送後も《「何で殺したんだ!」という抗議の手紙なんかもらったりして、そういうのもらうと、なんか本当に自分が殺人者になったみたいな気分で、つらいもんなんです。で、のちにスペシャルで、生き返らせたりして、ちょっと強引だったけど》と著書で述懐している(『ドラマを書く』ダイヤモンド社、1999年)。

 これが2004年版では、二人が旅先で交通事故に遭い、ちよみではなく南くんが危うく死にかけるも、ある登場人物が身代わりになる形で生還する。2015年版でも南くんは事故で死にかけるが、ちよみとの愛の力で生還、それと同時に彼女も元の姿に戻るという、原作ともそれまでのドラマとも大きく違う結末となった。

30年前の『南くんの恋人』と同じ設定がほのめかされていた

 ひるがえって今回の『南くんが恋人!?』では、南くんが自分と同様に身体の小さくなった女性(国仲涼子)と偶然出会い、彼女のセリフのなかで30年前の『南くんの恋人』と同じく「事故に遭ったときすでに死んでいた」という設定がほのめかされていた。

 一方で、南くんは小さくなる以前から、湘南の海岸に面した丘にそびえる「お城」ことラブホテルにいつかちよみと一緒に行こうと約束していた。セックスを暗に示しているのはあきらかで、先週8月27日放送の第6話ではついにその約束が果たされる。が、それは時間が巻き戻り、南くんが小さくならなかった仮想(?)の世界でのことであった。無情にも世界はまた元に戻ってしまうのだが、実際に二人の約束が叶う日は来るのだろうか。

 なお、今回のドラマの原案のひとつ『南くんは恋人』では、小さくなった南くんが、事故でけがを負って死を覚悟し、ある行為におよぶ。それは、当記事の #1 で紹介した中園ミホのエッセイでの「男性が小さくなりたくないのは愛し合っている相手とセックスができないから」との指摘に対する一つの答えとも受け取れた。

 今回のドラマではまた、小さい南くんに気づいてしまったちよみの父(30年前に南くんを演じた武田真治が演じている)が今後どう出るかを含め、まだたくさんの謎が残る。ゆずの歌う主題歌のタイトルどおり果たして「伏線回収」は成るのか、後半の展開にますます目が離せない。

(近藤 正高)

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