《マッカラン・ラフロイグ・ジョニーウォーカー…》いまや輸出金額は1兆円超! “スコッチウイスキー”が世界で人気を博し続ける“知られざる理由”
文春オンライン / 2024年9月10日 6時0分
写真はイメージ ©AFLO
幾度かのブームを経て、いまや全年代から愛されるお酒として確固たる地位を築いているといっても過言ではない「ウイスキー」。しかし、その種類や味わいに精通している人は、そこまで多くないのではないだろうか。
ここでは、若鶴酒造株式会社代表取締役社長であり、三郎丸蒸留所のマスターブレンダーとしてウイスキー造りに取り組む稲垣貴彦氏の著書『 ジャパニーズウイスキー入門 現場から見た熱狂の舞台裏 』(角川新書)の一部を抜粋。スコッチウイスキーが世界中で人気を博し続ける理由に迫っていく。(全2回の1回目/ 続き を読む)
◆◆◆
世界のウイスキーとその歴史
みなさんは「世界五大ウイスキー」という言葉を知っていますか?
これらは世界的なウイスキーの産地とされていて、一般的に、「スコッチウイスキー」「アイリッシュウイスキー」「アメリカンウイスキー」「カナディアンウイスキー」「ジャパニーズウイスキー」と言われています。この言葉がいつから使われるようになったかは定かではないのですが、ここに「ジャパニーズ」が入っていることを意外に思われる人も多いでしょう。
世界における日本のウイスキーの存在感が増したのは、2001年のベスト・オブ・ザ・ベスト(現在のワールド・ウイスキー・アワード)でシングルカスク余市10年が世界一になってからと言っていいと思います。そこから、ジャパニーズウイスキーの入賞が相次ぐようになり、現在では自信をもって世界五大ウイスキーの一つと言えるまでになっているのです。逆に言えば、少し前まで日本のウイスキーは他の生産地に比べれば歴史も浅く、基準が緩く、また品質も及ばないとみなされていたともいえます。
ここからは、ジャパニーズウイスキー以外の五大ウイスキーの特徴を紹介していきます。
圧倒的な生産量と歴史をもつスコッチウイスキー
まずは、なんといっても「スコッチウイスキー」です。皆さんにも一番なじみがあるウイスキーではないでしょうか。その名の通りスコットランドで製造されたウイスキーです。
その規模は圧倒的で、2023年度のスコッチウイスキーの輸出金額は1兆円以上であり、ジャパニーズウイスキーの輸出額501億円の17倍以上が世界に輸出されているのです。世界のウイスキーの生産量に占める割合は約7割とも言われる、圧倒的な存在です。
なお、スコッチウイスキーの定義は、英国の法律で以下のように定められています。
スコッチウイスキーの定義
(1)水、酵母、大麦麦芽(モルト)およびその他の穀物を原料とする
(2)スコットランドの蒸留所で糖化と発酵、蒸留を行う
(3)アルコール度数94.8%以下で蒸留
(4)容量700リットル以下のオーク樽に詰める
(5)スコットランド国内の保税倉庫で3年以上熟成させる
(6)水と(色調整のための)スピリットカラメル以外の添加は不可
(7)アルコール度数40%以上で瓶詰めする
スコッチウイスキーの歴史
1494年のスコットランド王室会計(財務)記録に、次のような一節が残っています。
〈 修道士ジョン・コーに麦芽8ボルを与え、アクア・ヴィテ(アクアビテ/生命の水の意味)を造らしむ……〉
ウイスキー好きなら一度は聞いたことがあるかもしれません。これがウイスキーについて書かれた、文献上最古の記録だとされています。当然、スコットランドでは少なくともこれ以前からウイスキーの生産がされていたということです。生産が始まった当時の詳しいことはわかっていませんが、アイルランドから蒸留技術が伝わったとされています。ただし、その時代のウイスキーは現在のウイスキーのイメージからはかけ離れたものでした。樽熟成がされておらず、“一地域の荒々しい蒸留酒”にすぎなかったのです。
それが時代を経て“世界の酒”になるに至ったのは、ウイスキーの世界における三大発明(発見)がスコットランドで花開いたからだと考えられています。
その三大発明とは、「樽熟成」「連続式蒸留機」「ブレンド」です。
樽熟成――三大発明(1)
イギリス(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの四つの地域と国で構成されています。その歴史的な経緯は割愛しますが、イングランドがこの500年の間に民族や文化が違う国を併合してきたことによって生まれた対立は根深いものがあります。事あるごとにスコットランドの独立が叫ばれるのも、もともとは一つの国ではなかったからです。
スコットランドがイングランドに併合されたのは1707年。イングランド政府はスコットランドの完全な統合を狙い文化を弾圧、ウイスキーにも重税を課しました。課税から逃れるため、酒造者は密造を行い、樽詰めしたウイスキーを山里深くに隠すようになります。ある日、その樽を開けてみると琥珀色でまろやかで豊かな香味をもつ酒に変化していた――これがウイスキーの樽熟成の始まりと言われています。
ドラマチックかつ、スコットランドの反骨精神が表れたよくできた話と言えますが、実際はどうだったのでしょうか。
そもそも酒を保管するための樽自体は古くから用いられており、ヨーロッパで樽が文献上に登場したのは紀元1世紀と言われています。そこからオーク樽(現在も使われているナラの木などを使った樽)が用いられるようになったのが16世紀とされていますので、樽熟成発見の逸話とは200年ぐらいの開きがあります。1700年頃はそもそも大容量の液体を保管または輸送する手段は基本的に樽しかなかったはずなので、「ウイスキーを隠して重税を逃れるために樽貯蔵が始まった」という話は、やや腑に落ちない部分があります。
私は、隠すためではなく、製造規模が大きくなったことが樽貯蔵につながったのではないかと考えています。それまでの無色透明のウイスキーは、小さな農家などで余剰作物を利用して極めて小規模に製造され、ガラスや陶器の瓶でごく短期間保管され、消費されていました。ところが、ウイスキーの製造に重税が課されるようになると、小規模な製造では密造のリスクに対して割に合わなくなります。そこで同じリスクを冒すならばと製造規模が大規模化していき、その結果、比較的長期間での保管が樽で行われるようになり、熟成がされるようになっていったと考えられます。このあたりの経緯については文献がないため、はっきりとしたことはわからないのですが、いずれにしても18世紀頃から樽貯蔵が始まったと言われています。
連続式蒸留機――三大発明(2)
18世紀に入ってから、ジャコバイト(1688年の名誉革命で王座を追われたジェームズ2世を支持した人々の呼称)の度重なる反乱の鎮圧や対仏戦争の影響により、イングランド政府はウイスキーに重税を課し、密造に対しては密告者と収税吏に報奨金を出すなど、抑圧的な政策を推し進めていました。その状況が一変したのが1823年の酒税法改正です。
わずか年間10ポンドでウイスキーの製造免許を与えるという形での減税が行われたのです。それまでは重税を課すことでかえってウイスキーの税金逃れが盛んになっており、摘発するために多大なコストをかけるなど、大きな摩擦を起こしながら収税をしていました。そのようないたちごっこをやめ、税金のハードルを下げて政府が蒸留所を公認し、産業を振興することで多くの蒸留所から税を集める方向に転換したわけです。
そうした経緯でできた最初の政府公認の蒸留所が、ザ・グレンリベット蒸留所です。蒸留所にとっても政府の目を逃れて密造を行うよりも、公認のもと税を払いながら大規模化し、販路を拡大するほうが合理的だったのでしょう。グレンリベットの創始者ジョージ・スミスは大きな成功を収めました。それまでの密造から足を洗い政府から公認を受けたスミスは一方で、他の密造業者からは裏切り者とされ、命を狙われるほどの恨みと妬みを買ったそうです。そのため、護身用に二丁のピストルを常に携行するほどでした。
グレンリベットの成功を見て、他の蒸留所も続々と免許を申請するようになり、スコットランドの密造時代は終わりを告げます。これにより、ウイスキーが産業として育つ素地ができあがったのです。
その頃、ウイスキーの製造に関わるその他の「発明」も次々となされています。
まず、1826年、スコットランド人のロバート・スタインがウイスキー史上最高の発明と呼ばれる「連続式蒸留機」の開発に成功しました。さらに、1831年にアイルランド人のイーニアス・コフィーが、この連続式蒸留機を改良して特許を取得し、「カフェスチル」が誕生しました。
税を逃れにくいローランド地方で普及
カフェスチルはアイルランドでは全く受け入れられませんでしたが、スコットランド中部にあるローランド地方で普及しました。その理由はハイランド地方と呼ばれる高地は、収税人の目が届きにくく密造が盛んに行われたのに対して、ローランド地方はイングランドからも近く、なだらかな地形であったことから税を逃れにくい場所だったからです。どういうことかと言うと、ローランドでは「麦芽税」と「釡容量税」という重税を背負いながら生産を行わなければならず、そのため、麦芽の使用量を減らしたり、様々な穀物を使ったりしてコストを下げながら、小さな容量の釡で大量生産を行う必要がありました。連続式蒸留機は一つひとつの釡の容量が小さく、効率的にアルコール度数を高めることができ、様々な穀物を使ってもすっきりとした香味のウイスキーを得られるうってつけの技術だったのです。
この発明はウイスキーの味そのものにも大きな影響を与えました。それまでの単式蒸留器では原料の個性が強く出るため、原料ごとにばらつきが生まれ、安定した品質のウイスキーを造ることができませんでした。連続式蒸留機は高濃度のアルコールを取り出せるため、原料に依存せずにクリーンな酒質を得ることができます。そのため安いコストで、安定した品質のグレーンウイスキーを大量に生み出すことができるようになったのです。逆にハイランド地方では、伝統的なポットスチルで蒸留したモルトウイスキーが残り続けました。
ブレンド――三大発明(3)
グレーンウイスキーが造られるようになったことで、ウイスキーに大きな変化が訪れます。モルトウイスキーとグレーンウイスキーの混合による「ブレンデッドウイスキー」の誕生です。
ブレンド創始者のアンドリュー・アッシャーは、1840年にザ・グレンリベットの独占販売権を得ました。このグレンリベットは言わずと知れた名高いウイスキーで、非常に売れ行きがよかったのですが、問題もありました。頻繁に欠品したり、味のばらつきがあったりしたのです。当時のウイスキーは樽から量り売りがされていたので、樽によって味も違えば、安定した出荷も望めませんでした。
その解決策としてアッシャーが考えたのが、異なる年代のグレンリベットを混合すること。そうすることで、より味を安定化させ、一定の品質を担保できるようになったのです。このようにモルトウイスキー同士を混合することを「ヴァッティング」と呼びます。1853年に最初のヴァッテッドモルトウイスキー「アッシャーズオールドヴァッテッドモルトグレンリベット」が発売され、大好評を得たそうです。
その後、前述のように異なる蒸留所同士のブレンドが認められて、1860年にモルトとグレーンのブレンドによるウイスキー「ブレンデッドウイスキー」が誕生し、世界を席巻していきます。コストが安く、品質が安定したグレーンウイスキーと、多種多様な個性を持つモルトウイスキーをブレンドすることで、味に奥行きがあって多層な香味をもち、安定した品質のウイスキーをリーズナブルな価格で大量に供給できるようになりました。ここからスコッチウイスキー産業は王者としての道を歩み始めるのです。
〈 キャッシュフローが悪く、膨大な初期投資が必要で、大規模資本しか参入できない……それでも「クラフトウイスキー」蒸留所が“10年で10倍”に増えた理由 〉へ続く
(稲垣 貴彦/Webオリジナル(外部転載))
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