女性用水着を着用し下半身はパンスト…13年前の殺人から逃げ切り寸前だった男(48)が我慢できなかった変態行為の大きすぎる代償「近所の人が嫌がると思うと…」
文春オンライン / 2024年9月13日 17時0分
改装が始まる前の阪急うめだ本店 wikipediaより
〈 女性用下着バラまき犯のDNAが26歳女性を殺害した凶悪犯と一致…13年間進展がなかった「元・未解決事件」が動き出した奇妙なきっかけ《庭先に女児用のパンツが…》 〉から続く
1994年に大阪マルビル内の大阪第一ホテルで発生したデート嬢の女性(当時26歳)が殺害された事件は、有力な手がかりが得られないまま13年が経過し、公訴時効の15年が近づいていた。
だが、大阪府茨木市周辺で発生した女性用の下着バラまき事件で採取されたDNA鑑定から、捜査は急展開を迎える。
だが、この下着バラまき犯が13年前の女性殺害犯と同一人物であるならば、相手はホテルの部屋に1つの指紋も残さず、13年もの間まったく尻尾を掴ませなかった用意周到な男ということになる。ここで逃がすわけにはいかない。
大阪府警茨木署は慎重に捜査を進め、2007年12月2日、民家に女性用下着を投げ捨てるなどの迷惑行為を起こしたとして、茨木市内に住む会社員・押谷和夫(当時48歳)に任意同行を求め、廃棄物処理法違反の容疑で逮捕した。まずは「下着バラまき犯」として身柄を確保したのである。
職場の同僚や近隣住民が押谷を疑わなかった意外な理由
そうして押谷の頬の皮膚から採取したDNAを鑑定した結果、民家にバラまかれた女性用下着に付着した垢と一致。そして、1994年に大阪第一ホテルの殺害現場から採取した体液とも一致したことを受けて、12月24日に強盗殺人容疑で再逮捕となった。公訴時効まで、すでに2年を切っていた。
押谷は、下着の投げ捨てについては「近所の人が嫌がると思うと楽しかった」と認めたが、殺人については「はっきりと覚えていない」と供述している。
それにしても1994年の殺人事件当時、容疑者である押谷の映像は大々的に公開されていた。にも拘わらず、押谷と日常的に接していた職場の同僚や近隣住民は、彼に疑いの目を向けることはなかった。その理由は押谷が「善良な市民」という完璧な仮面をつけていたからだ。
薄化粧に口紅、ワンピース型の女性用水着を着用した姿で…
阪急百貨店の経理としてマジメに働き、1995年に妻が病死後はシングルファザーとして3人の子供を育てるマイホームパパ。日頃からきちんとした身なりで、自宅前の道路を毎朝掃除し、言葉遣いも丁寧で近隣からの評判も良かった。
職場の同僚も「勤務態度は非常に真面目」と彼の印象を証言している。押谷が見せる“表の顔”があまりに品行方正であったから、犯罪とは結びつかなったのだろう。
だが押谷の本性は、“表の顔”とはかけ離れていた。
殺人事件から6年後の2000年夏、押谷は民家に忍び込もうとして取り押さえられたことがある。薄化粧に口紅をし、さらにワンピース型の女性用水着を着用し、下半身はパンティストッキング姿であった。
しかし押谷と顔見知りで、日頃の真面目な姿を知っていた警察官は「死んだ妻の下着の処理に困った」という言い訳にほだされ、厳重注意だけで済ませていた。
出向先の阪急の子会社で4年間にわたって合計2億円を横領
さらに2001年末にも、出向先の阪急の子会社で4年間にわたって合計2億円を横領していたことが発覚している。経理という立場を利用して、長年かけてコツコツと少額を騙し取り続け、その総額が約2億円にまで膨れ上がっていたのだ。社内調査には「株式投資に使おうと思った」と釈明し、全額を弁済したため刑事告訴は免れたものの懲戒解雇されている。
押谷は丹念に練り上げた“表の顔”でみずからを粉飾し、日常的に犯罪行為を繰り返していたのである。そしてついに、自らの性癖が仇となり御用となったわけだ。
犯人逮捕によって余罪を含めて犯行の全容が追求されていくと思われたが、その翌年、事件はさらに思いもよらぬ結末を迎えることになる。
大阪拘置所で首つり自殺を図り、そのまま死亡
押谷が逮捕され、9カ月あまりが経過した2008年9月20日、押谷は収監されていた大阪拘置所の単独室でシャツとタオルを窓枠にくくりつけて首吊り自殺を図り、9月27日に死亡が確認されたのだ。
押谷は、何故みずから命を絶ったのだろうか。
自責の念にかられて……といった殊勝な理由は考えられない。というのも、逮捕直後の2007年12月27日、押谷の勤務先である金属部品製造会社(大阪府豊中市)が「押谷被告に会社の資金約7億円を着服された」として府警に相談し、業務上横領容疑で刑事告訴する方針を打ち出していたからだ。
2001年に約2億円を着服して押谷が阪急の子会社を懲戒解雇されたのは先述したとおり。その後、押谷は金属部品製造会社に経理として再就職したのだが、そこでも懲りることがなく、着服を繰り返していたのである。しかも、前回の3.5倍の7億円という大金を。
結局彼は、みずからの行いを反省することなどなく、自身の歪んだ欲望を充足させることにしか興味がなかったのだ。殺人だけでなくこれまでのすべての犯罪行為が露見したことで、「人生が詰んだ」と悲観しての自殺だったと考えられる。
犯人が適切な裁きを受けて罪を償うことは、被害者の名誉を守るために、また残された家族の心を平安を取り戻すためにも必要なことだ。だからこそ犯人の供述によって事件の全容を明らかにする必要があるはずだが、押谷はその責務を果たすことはなかった。
思い返してほしい。表沙汰になっていないだけで、彼の犯罪行為はたびたび露見していた。水も漏らさぬ完璧主義者を装って“表の顔”を取り繕っていても、欲望の抑制ができずに犯罪行為がエスカレートしていき、やがて足がつく。
もし彼が、“表の顔”のような用意周到さで、横領や変態行為に手を染めずに息を殺すような生活をしていたら、本件は“未解決事件”として迷宮入りしていたのかもしれない。だが、天網恢恢疎にして漏らさず。
どれほど完全犯罪を計画しようとも、自業自得によって“未解決事件”が解決に至ることも、あるのだ。
(加山 竜司)
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