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「日本や韓国でアニメが人気になっているのは…」韓流の原点『シュリ』の監督が語る、日本と韓国の“共通点”と“まったく違うところ”とは

文春オンライン / 2024年9月13日 11時0分

「日本や韓国でアニメが人気になっているのは…」韓流の原点『シュリ』の監督が語る、日本と韓国の“共通点”と“まったく違うところ”とは

カン・ジェギュ監督

 韓流ブームの原点と言われる映画「シュリ」。1999年に公開され日本でも興行収入18億円を超える大ヒットを記録した。

 長らく配信などでは見られない時期が続いていた「シュリ」だが、ついにデジタルリマスター版での再上映が決定。カン・ジェギュ監督に製作秘話や、日韓の映画文化の違い、そしてアニメ人気について語ってもらった

▼▼▼

――韓国で社会現象を巻き起こし、日本での韓流ブームのスタートにもなった『シュリ』(1999年)が、25年を経てデジタル・リマスター版で復活した経緯をお聞かせください。

カン・ジェギュ監督(以下 カン監督) 実は私は以前から『シュリ』をリマスター版で復活させたいと思っていました。3年前に韓国映像資料院から連絡があり「韓国を代表する作品のリマスタリング作業を進めている中で、シュリもぜひ加えたい」と言われました。それで喜んでお受けすることにしたんです。

――リマスターにあたって監督からはどんな要望を出されたのですか。

カン監督 一緒に作業してくれたエンジニアの方に私からお伝えしたのは「基本的に原盤に忠実に、フィルムの質感・雰囲気をそのまま生かしたい」ということです。エンジニアの方も、『シュリ』の原盤のライティングが非常に完成度が高いと言ってくれて、色など細かく手を加えずに映画の質感を生かしましょう、と。

「韓国は政治的な色合いを持つ作品に対する観客の関心が高い」

――当時はできなかったけれど、最新技術によって可能になった点もあるのでしょうか。

カン監督 むしろ、できるだけ当時の雰囲気を再現することが大事だと思っていました。最新技術でどこかを変えようとすると、一部ではなく全体的にアップグレードすることになるのですが、『シュリ』についてはその必要を感じなかったんです。

――『シュリ』はアクションあり、サスペンスあり、恋愛ありで、北朝鮮との南北問題をストレートに描く政治的色合いが強い作品でもあります。それが当時韓国で621万人動員という記録的ヒットになったわけですが、朝鮮戦争を扱った『ブラザーフッド』やソン・ガンホさん主演で光州事件を舞台にした『タクシー運転手』など、韓国ではなぜ実写の政治モノ映画がこんなに人気なんでしょうか。

カン監督 おっしゃる通り、韓国は政治的な色合いを持つ作品に対する観客の関心が高い傾向はありますね。最近ですと実際に起きた韓国大統領暗殺がテーマの『ソウルの春』(2023年)も大ヒットしています。

 日本と違うのは、韓国は戦後に軍事独裁政権の時代があり、民主化が実現してからまだ40年も経っていません。政治が複雑に移り変わる中で、政治が自分自身を支配したり自分に影響を与える身近なものだという感覚が韓国では強いですね。

――日本では政治の話をすると煙たがられる雰囲気も強いですが、韓国ではもっと身近にあるものなんですね。

カン監督 そうですね。なので政治的なモチーフに抵抗があるというより、自分ごととして捉える人が多いと思います。私は今61歳で、韓国が民主化した時は24歳でした。私の両親の世代は民主化闘争の中心にいた世代ですし、そういうテーマの作品にはどうしても関心を持ちますね。

 日本は民主化をしてから約80年ですから、政治との距離が違うとすればその影響はありそうですよね。

「アニメ映画の興行収入は体感で倍くらいになっている」

――韓国でも、若い世代になると政治との距離が遠かったりするのですか?

カン監督 やっぱり違いはありますね。特にMZ世代(1980年~2010年頃生まれ)と呼ばれる今の若者は、韓国でも関心の対象も多様化していて、政治や歴史に対する関心は低めだと思います。30代あたりに境目がある感じがします。

――日本でも世代によって政治への関心度が違いますが、その一方、映画の人気傾向を見ると、日本では大人世代も含めてアニメ作品が圧倒的に強く、ランキングの上位ほとんどを占めています。そういった状況を監督はどう思いますか。

カン監督 実は、世界中で人気になる映画の傾向が気になって、パターンを調べてみたことがあるんです。それでわかったのは韓国を含めて世界中の映画を見る観客が好む傾向が変わってきていることで。中でも顕著なのがアニメーションの躍進です。

 韓国は実写映画が強い国ですが、それでも10年前と比べればアニメ映画の興行収入は体感で倍くらいになっていると思います。10年前なら200万人が見そうなアニメ作品をいま出したら500万人くらい動員しそうです。

――それはどういうことでしょう。

カン監督 日本の『スラムダンク』や『すずめの戸締まり』といったアニメ作品が韓国でも大成功をおさめていて、以前では考えられなかった動員数になっています(『スラムダンク』が487万人、『すずめの戸締まり』は557万人)。この動きを分析すると、韓国と日本で同じ「映画観客の変化」が起きていることに気が付いたんです。

「韓国でもアニメが人気になっているのは、リアルな世界への関心が…」

――何が起きているんでしょう?

カン監督 日本の皆さんがどうしてこんなにアニメ作品に熱狂するんだろうと考えたことがあるんです。

 おそらくですが、現実のリアルな世界への関心が薄れているんじゃないかという気がしたんですね。政治とか自分の人生に希望や刺激を見出せず、リアルではないアニメーションに興味を持つようになっているのではないか、と。

 アニメーションのファンタジーの世界に、現実では得られない癒しや希望を見出して、依存するようになっているんじゃないかと思うんです。

――日本で先に起きたことが、いま韓国でも起きている。

カン監督 そうですね。韓国でもアニメが人気になっているのは、リアルな世界への関心が薄れている現れだと思います。

――日本や韓国でアニメに癒しや希望を求める人が増える傾向を、監督はどんな風に受け止めているのでしょう?

カン監督 私は、文化や芸術で一番大切なことは多様性だと思っているんですね。映画にはアニメも実写も必要だし、ファンタジーも政治物も必要。さらには、それを観て下さる観客の皆さんの関心や感想も多様な方がいいですよね。人間は流行に流されやすい生き物ですが、流され過ぎるのは危険だと思っています。

――アニメだけに人気が偏るのは危険ということでしょうか。

カン監督 もちろんアニメが果たしている役割はたくさんあり、大事な存在です。でも、アニメ映画しか見ない人が増えすぎる状況はやっぱり健全ではないと思うんですね。実写もアニメも両方観るほうがいい。そのためにも、映画を作る人はもっと頑張らないといけないんですよね。

「シュリ デジタルリマスター」
監督・脚本:カン・ジェギュ

出演:ハン・ソッキュ『八月のクリスマス』、キム・ユンジン『告白、あるいは完璧な弁護』、チェ・ミンシク、『オールド・ボーイ』、ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』

1999年/韓国/カラー/125分/ドルビー・デジタル/PG12/

字幕翻訳:根本 理恵

配給:ギャガ

©Samsung Entertainment 

公式HP: gaga.ne.jp/shuri4K
公式X: @shuri_4k

(田幸 和歌子)

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