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大井川鐵道「応援鉄ツアー」はなぜ“静岡駅に朝10時”スタートなのか 2泊3日で6つのローカル線を巡るためにフル活用した「意外な乗り物」も

文春オンライン / 2024年9月6日 7時0分

大井川鐵道「応援鉄ツアー」はなぜ“静岡駅に朝10時”スタートなのか 2泊3日で6つのローカル線を巡るためにフル活用した「意外な乗り物」も

南阿蘇鉄道立野駅を訪れた山本氏(大井川鐵道提供)

  SL運行や「きかんしゃトーマス号」で人気の大井川鐵道には、もうひとつ人気のコンテンツがある。大井川鐵道の名物広報・山本豊福氏と行く「応援鉄ツアー」だ。山本氏はテレビや雑誌がSL列車やアプト式鉄道を取材するときの窓口として業界では有名人。ひょうきんなキャラクターで鉄道ファンや静岡県民の人気者だ。

  そんな山本氏が企画した「応援鉄ツアー」は過去に3回、被災した南阿蘇鉄道やくま川鉄道、共にSLを運行する真岡鐵道、運転終了が迫っていた九州のSL人吉などを訪問してきた。その第4弾は9月に開催予定で、静岡の大井川鐵道に始まり、「えちごトキめき鉄道(新潟)、明知鉄道(岐阜)、長良川鉄道(岐阜)、富山地方鉄道(富山)、万葉線(富山)、JR氷見線(富山)」などを回る。

  大井川鐵道のSLだけでは無く、東海・北陸地方の6つのローカル線を2泊3日で訪問する。それぞれ単独ツアーも成り立つ鉄道を詰め合わせたお得なツアーといえる。

  しかし、行程をよくみるとツッコミどころもある。

2泊3日のツアーで9回もバスに乗る異例のルートだが…

9月27日(金)

1日目:静岡駅10:00集合→貸切バス→大井川鐵道新金谷駅→SL列車「かわね路1号」→川根温泉笹間渡駅→貸切バス→明知鉄道明智駅でのSL車掌車体験→列車→極楽駅→貸切バス→恵那市内に宿泊

 

9月28日(土)

2日目:恵那市内→貸切バス→長良川鉄道美濃市駅→列車→郡上八幡駅→貸切バス→氷見市内を散策→JR氷見駅→列車→高岡駅→貸切バス観光→高岡駅→ドラえもんトラム乗車→越ノ潟駅→貸切バス→富山市内に宿泊

 

9月29日(日)

3日目:富山市内から徒歩で電鉄富山駅へ→列車→富山地方鉄道上市駅→貸切バス→えちごトキめき鉄道・日本海ひすいライン 糸魚川駅→列車→直江津駅の直江津D51レールパーク→列車→直江津駅→えちごトキめき鉄道・妙高はねうまライン→妙高高原駅→貸切バス→静岡駅南口

  鉄道をめぐるツアーだが、バス移動がとても多くなんと2泊3日で9回もバスに乗る。とくに1日目の川根温泉笹間渡駅から明智駅までの所要時間は約4時間、3日目の妙高高原駅から静岡駅までの所要時間は約5時間と長い。

 地理院地図を加工して行程を書き込んでみた。赤線が鉄道、青線が貸切バス。青線は筆者がルート検索で調べた結果で、実際とは異なるかもしれない。

  ひたすらバスに乗って鉄道を見物する、「応援鉄」という名のバスツアーだ。どうしてこんな行程になったのか。

鉄道のプロがリストアップし、バスのプロがルートを作った

「今年の頭に能登が地震で大変なことになり、応援鉄というテーマならば能登とか石川県をなんとか訪問先にできないかなっていうところから始まってるんです」(大井川鐵道・山本氏)

  2023年に開催した第1回は、前年に被災したくま川鉄道と肥薩線と南阿蘇鉄道を巡る九州の旅だった。

「でも石川県の能登の方って、まだ復旧が進んでいない。我々が応援したいと行くのは勝手なんですけど、迷惑になる可能性がある。そこで隣の富山県にしようと。富山県も被災しているし、そこへ行くのも被災地応援になるんじゃないか。加えて、6月に大井川鐵道の社長が変わった縁で、社長の前任地のえちごトキめき鉄道さんを加えました。

  それで富山へ行く途中には岐阜を通りますよね。岐阜の明知鉄道と長良川鉄道に知り合いがいたので、繋げていったら太平洋側から日本海側までになっちゃった」

  言われてみると、時計回りで各鉄道がきれいにつながっている。鉄道で乗り継いだら2泊3日では回れなそうだ。今回のルートは、時刻が決まっていて運行本数も少ないローカル鉄道と、自由にルートや時刻を決められるバスのいいとこ取りなのだ。

「訪問先は僕の意向も入ってますが、ルートはグループ会社の大鉄アドバンスが作ってくれました。ドライバーの距離規制なども考慮する必要があるので、本職に任せる必要があったんです。僕は『こことここ、あとここも行きたい』っていうだけなんです(笑)」

「バスをいつも走らせてる人間だからこそ思いつくルート」

  行程表のバスの移動時間は、少し余裕を持って長めに設定している。たとえば冒頭で長いと指摘した静岡県の川根温泉笹間渡駅から岐阜県の明知鉄道明智駅までの所要時間は、行程表では4時間。しかしドライブナビサイトで調べると2時間ほどだ。最高時速120kmで走れる新東名高速のおかげで、途中の休憩や集合解散の時間を入れても意外に短い。

  5時間と見積もられている新潟県の妙高高原駅から静岡駅までの所要時間も、同様に調べると3時間台となる。このコースは長野自動車道、中央高速道路、中部横断自動車道を経由する。途中で日没になるとはいえ、15時台の出発だから信州の山並みの景色を楽しめる。交通状況によっては眺望と温泉で知られる諏訪湖サービスエリアにも立ち寄れそうだ。

「静岡から岐阜までは、意外と近いんです。僕も初めて知りました。長良川鉄道の美濃市駅から氷見駅までは東海北陸自動車道で、合掌造りで有名な白川村を通っていくルートで、バスをいつも走らせてる人間だからこそ思いつくルートなんだと思います。これは大井川鐵道グループが旅行業部門やバス事業を持ってる強さなんです」

  第三セクター鉄道は鉄道単体で勝負しなくてはいけないところ、大井川鐵道は完全な民間資本なので、グループ全体で旅の仕掛けを作ることができるのだ。

「今回は全行程を大鉄の観光バスで回るので、お客様が鉄道移動する区間も実はバスが伴走しています。今後は現地のバス会社にお願いすることもあるかもしれませんが、どこも運転手不足が深刻でお願いしにくい事情もあります」

  山本氏は名物広報だけあって、静岡県では鉄道ファン以外にも知名度が高い。テレビ番組にも多く出演し、現在もNHK「ラジオ深夜便」で東海地域のリポーターを務めている。2017年には、ユニクロの静岡編のCMにもSLと並んで出演したことがある。

  ツアー参加者も鉄道好きだけではなく、山本さん目当てのお客さんもいるという。そうなると、バス移動時間に山本さんのトークが聞きたいが……。

「そこは、あんまりやらないです(笑)。過去3回の経験で、やっぱり鉄道がお好きな方が参加するんです。鉄道に乗ってる瞬間が1番幸せで、逆に言うとバスのところは休憩時間という方が多い。睡眠にあてたり、ぼーっとしたり。それにソフトな鉄道ファンも多いので、僕が一方的に鉄道の話を喋るのは良くないなって。

  でも係員としてバスの前の席には乗っているので、詳しい話を希望される方は隣の席でお話ししたりもしますよ」

「もちろん大井川鐡道を応援してほしい気持ちもありますが…」

  大井川鐵道の本線は2022年9月の台風で被災し、現在も川根温泉笹間渡駅~千頭駅間は不通のままだ。これまでも土砂災害になっては修復の繰り返しだった。つまり大井川鐵道は本当は「応援されたい側」である。しかし応援鉄ツアーは「他社の鉄道」にも乗って応援する。

「ウチも含めて各社さん大変だと思うんです。そもそも乗る人が減っているという要因が1番大きいでしょうし。災害のリスクがある土地の路線も多いです。それをなんとか維持してほしいっていう気持ちが応援鉄ツアーのスタートです。もちろん大井川鐡道を応援してほしい気持ちもありますが、行った先の路線を応援したいのも本心ですね」

  そんな山本氏には、ちょっとだけ期待がある。

「これは理想なんですけども、行った先の鉄道事業者にも旅行部門を持ってるところがあるんです。そういうところがツアーを組んで大井川鐡道に来てくれるとか、そういう可能性だってあると思うんです。相互送客っていうんでしょうか、応援鉄で関係を深めて、こういう可能性も探っていきたいなって」

「応援鉄ツアー」のスタートが朝10時とゆっくりな理由

「応援鉄ツアー」は一人客も多いので、食事は自由食が基本。宿泊はビジネスホテルだ。2泊目は、富山地方鉄道が運営する富山地鉄ホテルだ。部屋は選べないが、運が良ければ有名なトレインビューも見られるかもしれない。

「交通事業者が運営している施設があれば、ルートに組めるようにしています。第1回で九州に行ったときも福岡のバスを借りたので、バス事業者の応援になるのではないかと。九州の中をあちこち回ったので、バスと鉄道を組み合わせることでうまくいったんですよ」

「くま川鉄道さんには『復旧したらまた来ます』と約束しましたし、熊本電鉄は静岡鉄道が使っていた電車の車体が走っているので、熊本で静鉄に再会ツアーというシナリオもできます。えちぜん鉄道にも元・静鉄の電車がありますから、『のと鉄道』や石川県の鉄道のツアーも実施したい。静岡県内も静岡鉄道のほか、天竜浜名湖鉄道さんの転車台(電車を載せて回転し、車両の方向を変える設備。鉄道ファンにはたまらない)とか遠州鉄道さんとか、日帰りでまとめてもいいなと」

「応援鉄ツアー」は、朝10時に静岡駅に集合してスタートする。もうすこし早い時間にすれば行程にもゆとりが出そうだが、ここにも理由があった。静岡県民だけではなく、関東や中部からの集客も見込んでいる。東京駅からも名古屋駅からも、8時台の「ひかり」で静岡駅に集合できる。帰路ももちろん、東京や名古屋へ向かう新幹線に間に合う時間だ。

  大井川鐡道のSLに井川線の秘境、そして旅行業を組み合わせ、鉄道オンリーにこだわらず合理的にバスで回り、ソフトな鉄道ファンにも参加しやすいツアーをめざす。大鉄グループの総合力を結集している。静岡空港を拠点とする航空会社フジドリームエアラインズもチャーター便に力を入れており、遠征の心強い味方だ。

「大井川鐵道を復旧させるには、バスの部門まで含めて『大鉄』っていうブランドの力をより高める必要があると思うんです。ブランド力が高いところじゃないと、行政も積極的に支援してくれないでしょう」

「山本豊福の応援鉄ツアー」は「静岡発鉄道ツアー」のブランドとして成長していきそうだ。

(杉山 淳一)

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