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「女児の背後から脇腹に両手を触れて…」熊本の児童養護施設で明らかになった“不適切な身体接触”への行政指導は妥当か?

文春オンライン / 2024年9月29日 6時0分

「女児の背後から脇腹に両手を触れて…」熊本の児童養護施設で明らかになった“不適切な身体接触”への行政指導は妥当か?

熊本市こども局(筆者提供)

〈 《児童養護施設での性虐待を再調査したい》熊本市子ども福祉部部長の方針は3週間後なぜかトーンダウン 〉から続く

2023年12月、「文藝春秋 電子版」では熊本市の児童養護施設における「性虐待」を取材した 4本の記事 を公開した。その後、施設や熊本市の市政に大きな変化が見られたという。

◆◆◆

ひっそり退職していた理事長の息子 

 熊本市の児童養護施設における性虐待の問題を取材したのは昨年のことだ。1年をかけた取材では、特定の職員による「撫で回し」をはじめとした性暴力が長期間にわたって行われていた疑いが浮かび上がった。被害を訴えるこどもが続出したにもかかわらず、放置されてきた最大の原因、それは職員が当施設の理事長の息子だったことだ。2023年12月21日朝、「文藝春秋 電子版」で 4本の記事 を同時公開すると、その日のうちに父親である理事長は熊本市に出向き、対応を協議。理事長は施設職員たちに対し、「年明けに懲罰委員会を設置する」と説明した。

 ところが年が明けた1月第1週、理事長の息子は、ひっそりと退職した。懲戒免職なのか、自己都合による退職なのか、理由は施設職員にも明らかにされていない。

 私たちは昨年の取材で被害を受けた4人に直接会って話を聞いていた。すでに2015年には、被害児童の一人が児童相談所(以下、児相)の担当職員に被害を訴えていた。彼女は担当職員が替わるたびに訴え続けたという。別の被害児は、2018年に児相の担当職員に相談を始めている。だが、2023年6月、熊本市こども局の担当部長は私たちの取材に対し、「性虐待を行ったという証拠がない」として、当該の男性職員が女子棟に勤務し続けることについて、「施設内の人事に口出しする権限がない」と見解を示した。性暴力被害の食い止めを放棄したと受け取れる、人権リテラシーに欠けた発言だった。

 話を、記事が公開された時期に戻そう。

 記事は、熊本県内の社会的養護関係者たちの間で瞬く間に共有され、今年1月には熊本県ファミリーホーム協議会(ファミリーホームとは家庭的養育のための小規模施設。県内8ホームが加盟)が、当該施設に対する強い指導と判断を求める意見書を熊本市に提出した。2月の市議会では村上博市議がこの一件に関して質問した。大西一史市長は「こどもの権利と尊厳が侵害されることは絶対にあってはならない。強い憤りを感じる」と応じたが、一方、こども局長は「一般論として適切に対応している」と、問題を長年にわたって放置してきた事実を認めなかった。その発言に児童福祉関係者は「局長の対応はひどい」と憤った。

 熊本市は私たちの取材に対し、2020年までに当該施設に複数回の行政指導(文書、口頭)を行ったことを認めている。前述の定例市議会後の今年4月、私たちは指導内容を確認するために同市へ3回目の情報公開請求を行ったが、過去2回と同様に「施設の利益を損ねる」との理由で不開示だった。

記事の公開直後にわかった新事実

 同じ頃、新しい事実がわかった。

 私たちが記事を公開した2023年12月21日、熊本市はまさにその日に、急遽、当該施設に対し、新たに行政指導を行っていたのだ。入手した音声によると、熊本市は「児童の福祉に関して不適当な行為が認められた」として、以下の行為を事実認定していた(順番は本稿の主旨に沿って編集部で編集)。

①女児の背後から両脇腹付近に両手を触れたまま密着した距離で女児といっしょに前方に歩いた
②女児が自発的に職員の膝に座るなどした場合、接触を止めるというルールを守らず足を職員のふとももに乗せて爪を切った。そのあと、2分程度接触したままテレビを観ていた
③寝転んだ女児の頭をふとももに乗せたままテレビを観ていた
④女児の洗濯物を触った
⑤特定の女児の居室に承諾を得ずに入った
⑥女児に対して「おまえ」という言葉を発した
⑦特定の複数の女児に対し、「ぶす」「でぶ」「ばか」などの暴言を吐いた
⑧腕組みをした状態で女児に対し指さしをし、女児が威圧的と感じる態度をとった
⑨特定の女児に対して差別的な扱いをした

 そして、行った指導内容は以下の通りだ。

・当該職員を女子棟に入れない
・男性職員は女子の身体に触れない
・男性職員は女子の衣服に触らない  
・児童に対する言葉遣いを改めさせる
・腕組み、足組み、児童への指さしなどをやめさせる
・常に自らの養育を振り返り自尊心を高めてやるように指導する


 さらに、2023年に別の第三者からも虐待通告が行われていたことが判明した。私たちが取材した被害情報は、2013年〜2020年のものだったので、当該職員の女児への不適切な身体接触が2023年まで継続していたことを意味する。私たちが取材で得た被害に関する情報を熊本市に示した際、こども局の担当部長は「それらの情報は一定程度把握していて、指導も行っている。そこで止まったという認識だった」と答えている。熊本市が加害の疑いを把握した段階で徹底調査と対策をしなかったために、加害は止められることなく、被害は増え続けていたのだ。

 上記の行政指導は処分内容として妥当なのだろうか。ある行政関係者は「熊本市はするべきことをしていない」と指摘した。行政指導では甘い、という意味だ。

三宅玲子氏の本記事全文は、「 文藝春秋 電子版 」に掲載されています。( 「熊本市児童養護施設の性加害職員は8年間も見逃された こども家庭庁『国が指導できない』のはなぜか」 )

 

■連載「 熊本市で繰り返された性虐待の実態 」
第1回「 《女児の胸を触る、浴室を覗く…》熊本市児童養護施設『30代性虐待職員』は今も働いている 」
第2回「 熊本市児童施設の性虐待『行政の処分は受けていない』理事長は問題の30代息子をかばった 」
第3回「 《告発相次ぐ》熊本市児童施設の性虐待 こども福祉部部長を直撃すると『白ではないと…』 」
第4回「 「私を触ったのは『せんせい』でした」被害女性が理事長の息子を告発 熊本市児童施設の性虐待 」
第5回「 熊本市児童養護施設の性加害職員は8年間も見逃された こども家庭庁『国が指導できない』のはなぜか 」

(三宅 玲子/文藝春秋 電子版オリジナル)

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