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第五次中東戦争は起こるか? イスラエルのネタニヤフ首相の狙いとは?

文春オンライン / 2024年9月12日 6時0分

第五次中東戦争は起こるか? イスラエルのネタニヤフ首相の狙いとは?

『宗教を学べば経営がわかる』

〈 「知れば知るほど複雑になる」中東情勢をビジネスで読み解く 〉から続く

「面白い」「すごく共感する」。経営者をはじめ、さまざまな人が絶賛している『 宗教を学べば経営がわかる 』。中東情勢やアメリカ大統領選について、共著者の池上彰さんと入山章栄さんが本の刊行を記念して特別対談を行った。*この対談は、文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」(9月2日放送分)を再構成したものです。

◆◆◆

入山 「これから第五次中東戦争が起きるかもしれない」と言われますが、池上さんはどういうふうにご覧になっていますか?

池上 イスラエルにしてもイランにしても「さすがに第五次中東戦争が起きてはおしまいだ」という共通の認識があるんですね。そして今アメリカが必死に止めているので、第五次中東戦争にはならないギリギリのところで、相手の出方を見ながら、これからも争いは続いていくと見た方がいいだろうと思うんですね。実はイスラエルのネタニヤフ首相は、贈収賄事件の刑事被告人なんですよ。

入山 へぇー、首相なのに刑事被告人!

池上 ハマスの奇襲攻撃がなければ、ネタニヤフ首相は間違いなく裁判で有罪判決を受けて刑務所に入るだろうと見られていました。ところが、ハマスが攻撃してきたので、ネタニヤフは戦争だと宣言したんです。戦争だと、緊急事態条項によってさまざまなことがストップするので、彼の裁判は止まったままになっているんですね。彼にとって見ればチャンスで、争いが続いている限りは首相の座に留まれる。だから、ハマスを攻撃してハマスがだいぶ弱ってきたら、今度はレバノンのヒズボラと事を構えたり、ハマスのリーダーを殺したりしています。明らかにネタニヤフはもっと戦闘を続けたいんですよ。

入山 つまり、自分が捕まらないための延命戦略でもあるわけですね。

池上 そうなんですよ。その延命戦略って、どれだけの人が死んでるんだよっていう話になるわけですけど。

トランプが大統領になったらアメリカが全面支援

入山 そうすると延命の先にあるのが11月のアメリカ大統領選挙だと思うんですね。トランプは親イスラエルですから、ネタニヤフはトランプが大統領になるのを待っているみたいな側面もあるんですかね。

池上 ネタニヤフにしてみれば、少なくとも11月まではこのまま頑張ろうと。11月の選挙でトランプが勝てば、来年1月からトランプ大統領がネタニヤフを全面的に支援してくれるし、ガザ地区をすべてイスラエルのものにしたって構わないと思っている。また、トランプは大統領だったときに、パレスチナの人たちを助けるための国連の組織「UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)」への支援を止めたんです。支援したお金がパレスチナのハマスの武器に変わってしまうからと言って全部止めて、パレスチナの人たちを守ることができなくなって。あのとき、日本とEUが、アメリカが出さなかった分のお金を出したんですよ。だから、トランプがふたたび大統領になれば、パレステナを徹底的にイスラエルがやっつける、それをアメリカが全面的に応援するという構図になりますね。

 さらに言うと、実はトランプの孫が全員ユダヤ人なんですよ。

入山 娘のイバンカの旦那さんが確かユダヤ人ですよね。

池上 ユダヤ人の定義がありまして、ユダヤ教徒がユダヤ人なんです。ユダヤ人というのは、ユダヤ人の母親から生まれた子供、あるいはユダヤ教に改宗した者。この2つなんですね。イバンカの夫のジャレド・クシュナーはユダヤ人ですが、イバンカは結婚する前はキリスト教徒だったわけです。クシュナーは自分の子供をユダヤ人にしたかったから、結婚前にイバンカに「ユダヤ教に改宗してくれ」と頼んで、イバンカが改宗して結婚して、子供が生まれたから、子供はユダヤ人なんですね。

入山 私、最近勉強して知ったんですけど、アメリカの人って結構ころころ改宗するみたいですね。

池上 結構ありますよ。さらに言うと、トランプには、前の奥さんとの間に男の子が2人いるわけですよね。あの2人がいずれもユダヤ教徒の女性と結婚したんですよ。だから、トランプ自身はなんちゃってキリスト教徒ですけど、孫たちが全部ユダヤ人、ユダヤ教徒ですから、ユダヤのために頑張るぞってなるわけです。

入山 可愛い孫たちが全員ユダヤ人ならそうなりますよね。そうか、実はそういう身内の関係もあるってことですね。

そもそも「中東」「アラブ」の違いとは何か?

入山 そういったなかで改めてお伺いしたいのは、まずその中東ってなんだ、どこからどこまでが中東かという話がありますね。西はエジプトからなのかもしれないし、東はパキスタンは入るのか、トルコは入るのかとかあると思うんですよね。また、先程から「アラブ」という言葉を普通に使っていますが、「アラブ人」「アラブ民族」はおそらくアラビア語を使う人たちを指すことがメインだと思うんですが、そうすると、ペルシャ語を喋るイラン人とか、トルコ語を喋るトルコ人は入らないわけですよね。そして、さらに宗教の話もある。

 池上さんは、テレビや大学で中東のことを講義されると思うんですけど、めちゃめちゃ複雑でわかりにくいときにどういう説明をされるんですか?

池上 これは、地図を使って図解をしながら、要するに「中東」と「イスラム教」と「アラブ」という3つの概念があるけど、みんなイコールではないよ、という形で説明します。中東というのはあくまでイギリスから見た世界戦略のなかでの地域名でしかないわけですよね。だから、中東というのは、あくまで地域名でありますと言います。

入山 そうなんですよね。自分たちが中東なんて思ってないんですもんね。

池上 だってイギリスは日本のことを勝手に「極東」なんて言ってるわけでしょ。それから、イスラム教というのは、サウジアラビアからどんどん東に広がり、インドネシア、あるいはフィリピンやマレーシアにもイスラム教徒は大勢いるわけですよね。だから「中東」イコール「イスラム教」というわけではないんだ。一方、アラブというのはアラビア語を話す人たちの民族だというので、アラブ民族というのはいる。アラブ民族の多くはイスラム教徒であることは確かだけど、アラブ民族でもエジプトにはキリスト教徒もいるわけだし、あるいはトルコの人たち、あるいはイランのペルシャの人たちはアラブ民族ではなくアラビア語を話していないけど、イスラム教徒だという。こういう3つのカテゴリーが重なっているから、一見ややこしく見えると思うんです。

なぜ中東では民主化するとイスラムが力を持つのか

入山 ややこしいですよね。そして、さらにもう1つ、ややこしくしている原因だと私が思っているのが政治体制でして。たとえばイランは1979年のイラン革命が起きるまではパフラヴィー朝ですよね。イラン革命が起きて王は亡命して一見民主主義の体制になったようなんですけど、大統領の上にはイスラム教の最高指導者、ハメネイがいるわけですよね。僕みたいな人間が見ると、ものすごい複雑な仕組みになっていて。酒井啓子さんの『〈中東〉の考え方』を読んで面白かったのは、中東では民主主義になるとイスラムが一気に力を持つというところ。これは、私のような日本にいる人間にはなかなかつかめない感覚なんですが、なるほどなと思いまして。確かにイラクも民主化と同時にイスラム化が強まったり、パレスチナも選挙でハマスが勝ったり。民主化していないときのほうが、イスラムの過激な部分というのは抑えることができて、逆説的なんですけど、民主化するとイスラムが支持されるがゆえに、イスラム色の強い政党がでてきてしまうことが、世の中を混乱させているところがあるのかなと思うんです。

池上 まったくそうですよ。たとえばエジプトは、アラブの春で民主化される前は、ムバラク政権という独裁体制だったわけですよね。そうすると、国際関係においては穏健で、アメリカといろいろと一緒にやっていこうというところだった。ところがアラブの春という民主化運動が起きてムバラク政権が倒れるわけですよね。そして民主的な選挙が行われた結果、ムスリム同胞団というイスラム原理主義勢力が政権を取り、急激にイスラム化が進んだ。それを見た軍部が大慌てでクーデターを起こして、シシ政権をつくり、エジプトのイスラム化がギリギリ止められているということなんですよね。

入山 エジプトもそういう状況なんですね。

池上 あるいはイラクだって、昔はフセイン大統領の独裁だったわけですから、イスラム教が極めて原理主義的な力を持ってなかったんですよ。それがアメリカのブッシュ(息子のブッシュ)大統領が「イラクを民主化しなければいけない」と言ってフセイン政権を倒して、選挙をやればいいだろうとなった。そのときにシーア派が6割、スンニ派が4割ですから、選挙をすればシーア派が勝つわけですね。こうしてシーア派の政権になったら、極端なイスラムの政権になっていってしまった。今、その後さらに混乱があって、ちょっと変わってはいますけど、本当に民主的な選挙をするとイスラムが勝つ。皮肉なことですけど、これが現実ですよね。

独裁国家と宗教の関係は?

入山 そう考えると、民主主義とイスラム教というのは、立場によると思うんですけど、私から見ると相性悪いんじゃないか。つまり、民主主義になればなるほど、非常にイスラム色が極端に強い政党が力を持ってしまって、それが国内外にいろんな波紋を広げる。日本は仏教や神道の国ですけど、仏教や神道とかキリスト教というのはたまたま民主主義と相性が良くて、イスラム教というのは意外と民主主義と根本的に相性が悪いみたいな可能性はあるんでしょうか。

池上 たとえば、仏教の国でもミャンマーは軍事独裁政権です。あるいは南米にしても、アフリカにしてもキリスト教の独裁国家っていくらでもあるので、そこはなかなか宗教と軍事政権というのはくっつけることは難しいなと思うんですよ。簡単に一般化できないということですね。

 イスラム教というのは、最初の段階では民主主義と親和性が結構高いんですよね。イスラム教は神の下で全員平等ですよね。全員平等ってことはある種、民主主義じゃないですか。だから1人1票持つんだよって、みんなで決めればいいんだよっていうことになると、結果的にイスラムの考え方って、民主主義と実は親和性が結構あったりするんです。ただしそこで政権を取った人間によって、すべてをイスラムにしようということになると、本当の民主主義とはずれていくことになる。

入山 面白いですね。だからこそ、民主主義で選挙で勝っちゃうんでしょうね。問題は勝った後で、逆に混乱が起きるっていう。話を伺えば伺うほど、中東は本当に複雑ですし、でも今日その一端がわかったような気がします。ありがとうございました。


文化放送「浜松町 Innovation Culture Cafe」の音声はこちらからお聴きいただけます。
https://podcastqr.joqr.co.jp/programs/hamacafe

(池上 彰,入山 章栄/文春新書)

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